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仮初めの日常

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仮初めの日常

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〇     〇     〇


 未憂リンは、それぞれ小型飛空艇と空飛ぶ箒に乗って、携帯電話が使える場所に来ていた。
「あ、メール着てます。スパム、かもしれませんが」
 木陰に下りて、未憂はメールを確認する。
「誰から? 誰から〜?」
 リンは未憂の側へと歩み寄る。
「桜谷団長からです」
 1件目のメールは白百合団の団長、桜谷鈴子からだった。
 未憂は鈴子と優子に手紙を送ってあった。
 優子への手紙はまだ本人には届いていないだろう。
 鈴子へは、キマクに存在した組織拠点の制圧時の報告と感謝を書き記して送ってあった。
 ハーフフェアリーの誘拐犯と思われる少年を発見したこと。
 その際、ジィグラ研究所所長及び組織幹部捕縛に協力的であったこと。
 捕縛を試みたが逃げられたこと、金の腕輪をしていたこと。
 感情は交えずに、ありのまま手紙に書き記したのだった。
 そして、最後に、会議の席での発言を汲んでくれた事への感謝を書いて、送ったのだった。
 鈴子からの返信も感謝の言葉ばかりだった。
「何だってー!?」
 リンの問いに、未憂はちょっと複雑な表情をして、それから微笑みを浮かべていく。
「組織の人がしていた金の腕輪には爆弾や盗聴器が仕込まれているそうです。先輩がしていた腕輪も同じかどうかは……わかりませんけれど。あと、私の発言で、敵ではない人を不用意に傷つけずにすんだことに、感謝していると仰られています。ちょっと複雑な気持ちです」
 未憂は会議の席で、個人的で軽率な発言をしてしまったと反省していた。
 結果的に味方に被害を出すことはなかったけれど……『相手に怪我はさせても、命を奪うことにないように』というお願いにしても、時と場合によると、感じていた。
「桜谷団長は優しい方ですね。白百合団の心も」
 そして、厳しい心をも持つ、優子が団を率いることでバランスが取れていたのだろう。
 今は事件が多くて、白百合団員だけでは対処できないことばかりのようだけれど。
「あ、また着信♪ 誰から誰から?」
 リンは興味津々で覗き込もうとする。
「スパムかもしれませんよー」
 くすりと笑いながら、未憂はメールを確認する。
 ……相手は、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)だった。
 未憂は長く長く本当に長く考えた後、彼に『また、会えますか』と一言だけメールを送ってあった。
 急いで内容を見る。
 今、彼はヴァイシャリーにいるそうだ。
 これから友人達と一緒にささやかな宴会をするらしい。
 あの日。
 未憂の手を振りほどいて逃げた理由は、特に百合園に敵対したつもりも、手を貸していたつもりもなかったので、弁解とかがメンドーだったと。
 それから、最後に。
『秋には焼き芋するっつったろ? まだまだ暑いから、もう少し先かもしれねーけど』
 当たり前のように綴られていた言葉に、未憂の目頭が熱くなる。
「みゆう、どうしたの? 辛いこと言われた?」
 リンが心配そうに首を傾げる。
「ううん。早く涼しくならないかな、と思って……」
 泣き笑いのような笑みを見せて、未憂は携帯電話を両手で包み込んだ。

〇     〇     〇


 ホールに戻った優子は、役員達を集めて飲食をしながら簡単に話し合いを行った。
 先に連絡は入れてあったが、分校長という役職を廃止すること、今後は魅世瑠に生徒会長、竜司に番長を務めてもらい、分校生を纏めていって欲しいとお願いをする。
 だが、魅世瑠は最初からそうであったように、ガラじゃないからそろそろ退きたいと辞意を示しており、優子としても大きな役割を終えた今、彼女に無理に続けて欲しいとは言わなかった。
「これからは、パラ実の分校としてのんびり楽しめる場所になればいいと思っている。学びたい者は学ぶことが出来、そして私を助けてくれる者がいるのなら、声をかけた時には協力してくれると嬉しい」
 連れてきた体育教師――ゼスタ・レイランは、戦闘術にも長けているらしい。喧嘩しか知らない彼らに、リーアと共に、仲間を守る術や、仲間と共に戦う術を教えていってもらう予定のようだ。勿論、強制ではない。
 自分が百合園生であることから、タシガン家と深い繋がりがあり薔薇学の生徒でもあるゼスタ、イルミンスールに住んでいるリーアなどの百合園、ヴァイシャリーの民ではない者の協力を得ていく方針のようだ。
「難しく考えることはなにもない。集まった人々と楽しく過ごすことを考えていってくれればいい。その為には、場所を貸してくれている農家の人を大切にすることは忘れないようにな」
 優子の言葉に、役員達が頷いていく。
「生徒会役員だけど、南 鮪(みなみ・まぐろ)、書記に立候補します」
 話し合いの場に顔を出していたニニ・トゥーン(にに・とぅーん)が立ち上がってそう言った。
「立候補? 本人は?」
「本人はヤボ用でヴァイシャリーに向っています。やる気満々ですので、よろしくお願いします」
 ニニは鬼気迫る顔で言い、頭を下げるのだった。
「まあ、やる気があるのなら……作戦にも色々協力してくれた人のようだし。ただ、役員を任せるとなると直接会って話しをしておきたいところだが」
「大丈夫です。優子様には恐れおののいていますので、命令には忠実に従うかと」
 優子は軽く苦笑するが、他の役員からも反対の声は上がらなかったので、鮪を書記として任命することにする。
「後は、ブラヌ・ラスダーは正式に庶務とし、意欲を見せてくれているシアルさんには副会長をやってもらおうか。会計は任せられる人がちょっと思いつかないんで、キャラにサポートしてもらってくれ。彼女は生徒会嘱託としてアドバイスしてくれるそうだ」
「よろしくお願いしますねぇ」
 キャラ(伽羅)が、さらさらと優子の言葉を紙に書き記して、出来上がった新たな役職を記した表を魅世瑠に渡した。
 会計だけではなく書記もこうして担当しているし、今後も担当することになるだろう。それは……。
「それじゃ、ワタシはこれで!」
 出来上がった役職表をみて、にやりと笑みを浮かべた後、ニニは鮪達を追うため分校を後にする。
(アリスに姉の様に面倒見させるとかアイデンティティー的に許されざる事なんだよ? 面倒を見る立場に立たされかねない恐怖を味わうといいんだよっ)
 嫌がりそうな役職に鮪を就かせてしまうことがニニの狙いだった。
 ハーフフェアリーの子供であるイリィ・パディストン(いりぃ・ぱでぃすとん)の面倒をやたらと見せられ続けていることへの反抗であり、復讐だった。
 とはいえ、イリィの面倒はちゃんと見ているし、面倒を見るために今もすぐに駆けつけようとしているわけだけど。