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仮初めの日常

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仮初めの日常

リアクション

「でさ、ソイツ四天王の座、金で買ったらしいんだよな。舎弟達も金で雇われてたんだってよ。パラ実生の風上にもおけねぇぜ。自分で稼いだ金ならまだしも、親の金だぜ?」
 吸血鬼の男が不良達に混じって楽しげに会話している。
「あの……」
 少し訝しみながら、フィルはその男性に近づいた。
「新しい教師の方ですよね?」
「ん? ああ、そうだった。俺の名はゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)。可愛らしいお嬢さん、キミは?」
 途端、彼はテーブルの上に飾られた花から、薔薇の花を一輪とって、キザったらしくフィルに向けてきた。
「フィル・アルジェントです。分校に時々顔を出させていただいています。白百合団員として優子さんのサポートもさせていただいています」
「なるほど、神楽崎の子分なら俺の女同然。末永くよろしくな」
「は、はあ……」
 フィルは目を瞬かせながらも、薔薇を受け取り、代わりに用意してきた菓子をゼスタに差し出した。
「性別や年齢など解りませんでしたので、食べ物にいたしました。優子さん達と一緒に食べていただければと思います」
「サンキュー。でも俺はキミの血の方が好みだぜ?」
 ぱこん。
 竹刀の一撃がゼスタの肩に飛んだ。
「新任教師の教育もしなきゃならないのか? 忙しくなりそうだ」
 竹刀を持って苦笑しているのは、圭一だ。ついてきている千佳は圭一の後ろからこわごわとゼスタを見ている。
「そう言うなよ、先輩。これからよろしくな〜」
 ゼスタはなれなれしく、圭一の肩に腕を回す。
「まあ、一緒に分校を盛り上げていけたらと思うが……。僕は主に、現国を担当している。キミの担当は体育だったよな?」
「そう、保健体育だ」
 バンとゼスタはテーブルを叩いた。
「実習を中心に行っていく、ヨロシク!」
 おおーと、パラ実生から歓声が上がる。
 圭一は頭を抱えたくなった……。
「頼もしい方ですねぇ。よろしくお願いしますねぇ」
 キャラがささっと近づいて、名刺を差し出していく。
「分校長の顧問をやらせていただいている、キャラ・宋ですぅ。今後は生徒会のお手伝いをさせていただきますぅ」
「おお、よろしくな。女は大歓迎だ」
「授業も楽しみに見守らせていただきますぅ」
「加わってもいいんだぜ?」
 言って笑うゼスタのグラスにキャラはジュースを注いでいく。
 明るく人懐っこい人物だが、裏もありそうだと……互いに感じ取っていた。

「ジュリエットさん、どうぞ〜」
「いや、こっちの方が美味いぜ!」
「なあなあ、ちと抜け出して河原の方で遊ばねぇ?」
 ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)は下心のある分校生達に囲まれて、飲食物を勧められたり、外へと誘われたりしていた。
「そうですわね。皆様の働きによっては検討させていただきますわ」
 壁際の席で、ジュリエットは分校生達が持ってきた肉を上品に小さく切り分けて、口に運び、優雅に紅茶を飲む。
「んっ」
 しかし、突如ドンと背が押されて、ジュリエットは紅茶をこぼしてしまう。
 はしゃいでいたパラ実生がぶつかっていったのだ。彼らは謝りもしない。
「仕方ありませんわね、今日は特別ですから」
「さすが懐がでかい!」
「服に数滴ついちまったな! 着替えようぜ、手伝うぜ〜」
「おおっと、それじゃ俺の服を貸してやるから一緒に更衣室にー」
 値踏みもする必要なく、彼らはジュリエットの色恋の対象にはならない。
「結構ですわ。布巾でもいただけるといいのですが」
「どうぞです〜。これで拭いて下さいです〜」
 給仕を担当していたファイリアが近づき、ジュリエットに濡れ布巾を差し出す。
「紅茶淹れますね」
 ファイリアをサポートしているウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)が、新たなティーカップに紅茶を注いでいく。
「ありがとうございます」
 ジュリエットは布巾で汚れた箇所を拭いた後、ファイリアに返そうとするが……。
「はわわーっ!」
 布巾に手を伸ばしたファイリアは何かもじゃもじゃで太いもの……パラ実生が悪戯で伸ばした毛深い足に躓いてしまう。
「どいてどいてくださいですー! はわー!?」
 ジュリエットが避ける間もなく、ファイリアは彼女に抱きついて一緒に転倒。
 机の上のカップや皿が散らばっていく。
「ファイ、大丈夫!?」
「うーん、大丈夫です。はわわっ、大丈夫ですか、しっかり、しっかりしてくださいですー」
 押しつぶしてしまったジュリエットをファイリアはゆさゆさゆさゆさゆすっていく。
「大丈夫ですわ」
 パラ実生からおおーと声が上がっている。
 ジュリエットのめくれたスカートに視線が集まっているようだ。
「ごめんなさいです。すみませんですーっ」
 謝りながら、ファイリアは布巾でジュリエットのスカートを拭こうとする。
「ファイ、落ち着いて。スカートは汚れてないし。こぼしたものを集めて片付けて!」
「はわわ、わかりましたですー」
 ファイリアはウィノナに言われたとおり、落ちたものを拾い集め始める。
「こちらはよろしくお願いいたしますわね。お気を落とさず」
 ファイリアに声をかけると、ジュリエットは衣服を整えて颯爽と立ち上がり、場所を移すことにする。勿論、足を出してファイリアをつまずかせた分校生の足はぎりぎりと踏み潰していく。
「あうぅ……またやってしまいましたです〜……今日は上手くいくと思ったですのに〜」
 ファイリアはしゅんとしながら、片付けをしていく。
「元気だして! ごちゃごちゃした会場だから仕方ないよ」
 言いながら皿を重ねていくウィノナだが、積み上げた皿が1枚すべり落ちて、床へと落ちる。
 ガチャーン
「うわっ、ごめーん! ボクが失敗してたら世話無いや」
 慌てて割れた皿を片付け出すパートナーの姿に、ファイリアはちょっとだけ笑みを見せる。
「それじゃ、早く片付けてお世話に戻るですー」
「おーいてっ。手伝うぜ、さっきは悪かったなァ。まさかここまで派手に転ぶとはなァ」
 ファイリアを転ばせたパラ実生が2人を手伝い、落ちたものを拾っていく。
 ファイリアは転ばされたことに気付いていなかったので、何を謝られているのかわからなかったけれど、手伝ってくれることが嬉しくて勢いよく顔を上げて「ありがとですー!」と微笑んだ。
 ゴン
 途端、テーブルに頭をぶっつけてしまう。
「痛いですー」
 涙目になるファイリアを見て、ウィノナは苦笑し、パラ実生は笑い声を上げた。