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パラ実占領計画 第1回/全4回

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パラ実占領計画 第1回/全4回

リアクション

 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)はキマクならどこにでもありそうなバーで、酔って管を巻いているパラ実生の話し相手になっていた。
 遊んでいるわけではない。
 悠司の隣のパラ実生は、ガイアを慕う舎弟である。
 だが、彼は言われたのだ。
「お前達との関係はこれまでだ」
 と。
「ガイアさんは、もっと役立つ舎弟を手に入れたって言って、俺達にはもう用はないって……グスッ」
 ガイアが旧生徒会役員で権勢をふるっていた頃は、彼もさぞ偉そうにしていただろうが、今はこの有様だ。
 さらに酒を注文しようとする彼を止め、からになったグラスに水を注ぎながら悠司は尋ねた。
「ガイアがハスターについた理由に心当たりは?」
「そんなもん、知らねぇよ……」
「じゃあ、大事にしていたものは?」
 男はグラスの水を一気に飲み干すと、ぽつりと言った。
「……家族」
 そして、ポロポロと涙をこぼしながら続ける。
「下の兄弟がいるんだって。難しい病気を持ってるらしくて、ガイアさんが看病してたんだ。家族はその下の奴らだけだって言ってたし、話してる時、すごくやさしそうな顔してたから、大事にしてるんだと思う」
 なるほど、と悠司は頷き、ガイアがハスター側にいる理由に見当がついた。
(おおかた、そいつらを人質にとられたか充分な治療を受けさせてやるとか言われたんだろうねぇ)
 面倒くさいことになったな、と内心でため息をつく。
 いつから渋谷連中はガイアに接触していたのか?
 甲子園の時ではないだろう。
 その前、【瞑須暴瑠】をやった時ではないか?
 悠司は慰めるように男の肩を叩くと、携帯を取り出しメールを打った。
「……さて、助け出せるようなら助けてやるかね。あーめんどくせ。トロールの奴、ぜってーメシおごらせてやる……!」
 送信を終えて携帯をポケットに突っ込んだ悠司は、今にも椅子から転げ落ちて眠りそうな男に一声かけると、バーを後にした。
「ねぇねぇ、ガイアさんのとこに行くんだよね?」
 悠司が話しをしている間、おとなしくジュースを飲んでいたレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が前に回り込んで問いかける。
 悠司はやる気なさそうに返した。
「まぁね」
「もぅ、もっとシャッキリしてよ! あの人の話だと、脅されてるかもしれないんでしょ?」
「おー、よくわかったな」
 わざとらしく頭を撫でる悠司の手を、ペシッと払ったレティシアは頬をふくらませて彼に詰め寄る。
「ガイアさん、みんなを裏切ったこときっと気にしてるよ! 早く助けて伝言伝えなきゃ」
 悠司がメールを送った相手は吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)だった。
 返信があったのだ。
『ワンフォアオール、オールフォアワン』
 ガイアに伝えてほしいらしい。
「まあ、そうなんだけどねー。はたしてそう簡単に行くかどうか」
 バーで途切れ途切れにハスターの強さが聞こえてきていた。
 それに、それほど大切にしている家族を放ってガイアが戻ってくるかどうかもわからない。
 とりあえず様子だけでも見ておこう、とガイア目撃証言のあった場所へ向かうのだった。

卍卍卍



 落ちていく四天王達を嘲笑いながら見送った蓮田レン達は、ちょっとした混乱状況に陥っていた。
 キマク各地で四天王狩りに向かわせていた仲間に、用は済んだから戻ってくるように言ったところ、捕まえた四天王を連れて行く、と返事をしてきたのだ。
 意味がわからず、お互いの情報をやり取りした結果、彼らはようやく四天王と言いながら何人もいることを知ったのだった。
「ふざけやがって……! そいつら全員連れて来い!」
 携帯に苛立ちをぶつけると、舎弟の返事を聞く前に通話を切った。
 と、そこに苛立ちのもとになった四天王の一人が舎弟を引き連れて乗り込んできた。
「お前が蓮田レンか!」
 怒鳴り声と同時にレン達の足元をショットガンの銃弾が襲う。
 小型飛空艇とバイクが砂煙を巻き上げて停まった。
 紅い大爪をレンに突きつけ、ロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)が勝負を申し込む。
「怖い、なんてこたァねぇよな?」
 しかし、レンを隠すように黒スーツの一団が立ちふさがった。
「坊ちゃんが相手にするまでもありません。我々で始末しましょう」
「それはダメです〜。勝負の邪魔をしたら〜メッしちゃいますよ〜」
 先ほどショットガンを撃ち込んだレオパル ドン子(れおぱる・どんこ)が、彼らに銃口を向ける。のんびりした口調だが、動きに無駄はなかった。
 それからドン子は舎弟達に黒スーツの排除を命じたが、何故か返事がない。
 不審に思い、前に気をつけながら目だけで窺うと、舎弟はずいぶんと後退して一塊になって青ざめていた。
「あなた達〜?」
「そ、その人達、ヤクザじゃねぇの!? 学生同士でちまちま喧嘩してる俺らとは次元が違うぜ……っ」
「暴力のプロにかなうかよっ」
 ヤクザと聞いて目を戻したドン子は、改めて黒スーツらを観察した。
 確かに、カタギとは思えない危険な雰囲気がある。
 だが、それでパートナーが退くとは思えず……。
「用があるのは、蓮田レンだ。……どけよ」
 想像通りだった。
 ここにいるヤクザ達のリーダーと思われる男がレンを振り返る。
「いいぜ、相手してやるよ。お前らどいてな」
「そうこなくっちゃな……!」
「そこのメガネの女もどいてろ。心配しなくても、こいつらに手出しはさせねぇよ」
 どこか小馬鹿にするような声音に、ドン子はムッとしながらも彼らから距離をとる。けれど、警戒は緩めなかった。
 レンはニヤニヤしながら愛用の金属バットを手にするなり、いきなりロアに襲い掛かった。
 後ろでドン子が息を飲む気配がしたが、小型飛空艇を降りた時から超感覚で警戒していたロアは、素早くバットをかわし余裕の笑みを見せる。
 レンもおもしろそうに目を細めた。
 それからレンの猛攻が始まったが、ロアは後の先で動きを見極めようとし、そのすべてをかわしていく。
 やがて、レンの攻撃のリズムを掴んだロアは、ほんのわずかな隙を見逃さず光条兵器の紅い大爪を振るった。
 レンの懐に伸びた鋭い爪が胸を抉るか──しかし、突然レンの姿が消えた。
 と、思った直後にロアは足首を強く叩かれて転ばされる。
「俺の勝ち、かな?」
 いつの間にそこにいたのか、レンはしゃがんでロアに冷たく笑っていた。
 何が勝ちだ、とロアは立ち上がろうとしたが、とたんに足首に激痛が走りうずくまってしまう。
「俺とやり合うにはちょっと足りなかったな」
「手を抜いてやがったのか……!」
「人聞きの悪い……様子を見ていたと言えよ」
「──クソッ」
 レンは立ち上がると、ヤクザ達とミゲルに目配せをした。
 すると、ロアはあっという間にロープで拘束されてしまった。
「何をするんですか〜!」
 ドン子が助けようとショットガンを向けるが、ミゲルのショットランスがロアの後頭部に突きつけられたのを見ると、小さく唸って睨みつけた。
「ドン子、逃げろ!」
「そうはいきません。さあ、彼を殺されたくなかったら大人しく捕まってください」
 卑怯なことを要求するミゲルに、ロアは必死にドン子に逃げるように言ったが、結局、彼女にそれはできなかった。


 ハスターにヤクザとガイアがついている、という話はすぐに朱黎明らの知るところとなった。
 各自、連絡を取り合っている仲間や知り合いを巡って得たのだ。
 そして、捕まった四天王を落とすのをやめさせるため、あるいはガイア説得のために駆けつけた時、彼らの目の前で、ガイアはミゲルのショットランサーによって、ロアとドン子はヤクザ達にパラミタの大地から突き落とされた。