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パラ実占領計画 第1回/全4回

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パラ実占領計画 第1回/全4回

リアクション



蓮田レンとの面会


 残りの四天王狩りをハスターに任せ、蓮田レンとミゲル・デ・セルバンテスは首領・鬼鳳帝へ戻った。
 四天王およびパラ実生の思った以上の抵抗に、店が荒らされていないかと心配になったのだ。

 その頃、首領・鬼鳳帝では七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が見張りのハスターにレンへの面会の取次ぎを頼もうとしていた。
 見張りというのは、武装万引き団への見張りである。
 できれば女の子に聞きたかったのだが、ここには男しかいなかった。
「あのー、すみません。蓮田レンくんとお話ししてみたいんですけど、どこにいるか教えてもらえますか?」
 怖いもの知らずな行動力に、七瀬 巡(ななせ・めぐる)はやや後ろから心配そうに見守っている。
 見張りは面倒くさそうに歩に目を向けた。
「あ? リーダーなら四天王狩りに行ってるぜ。どこにいるかは知らねー」
「連絡、取ることはできませんか? 居場所がわかれば出向きますので」
「そんなこと言われてもなぁ」
 その時、店から一人出てきて彼に耳打ちする。
 話しが終わると、彼は歩に「よかったな」と笑いかけた。
「リーダー、もうすぐ戻るってよ。この辺で待ってな」
「はい、ありがとうございます」
 甲子園で試合をメチャクチャにされたことから、巡は渋谷連中に良い感情は持っていなかったが、彼の気さくな態度にややそれも薄らいだ。
 歩が壁に寄りかかって待っている間、巡はこの見張りの男に話しかけていた。
「ねーねー、ハスターの人達って仲間で遊んだりしないのー?」
「いつもおもしろおかしくやってるけど……?」
「それって、四天王狩り?」
 歩も四天王の称号を持っているので、巡の警戒心が再びむくむくとふくらんでいく。
「今はそうだな。けど、この首領・鬼鳳帝で働くのも楽しいし……ちょっと前じゃ番長連中を潰していくのが気分良かったなー」
「そういうんじゃなくってさ、野球とか」
「野球ねぇ。ガキの頃はやったけど、そういや今はやんねぇな。リーダーがやりてぇって言ったらやるんじゃね?」
 彼にとってレンは自分の行動を決めるくらい大きな存在のようだ。

 キマクの不良の心を一発で鷲掴みにしたという噂の首領・鬼鳳帝をひと目見てみようと、メニエス・レイン(めにえす・れいん)ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は足を運んでいた。
 この店に特に強い興味があったわけではない。
 関心があるのは店長のミゲルのほうだ。
 そもそも不良に人気の品はメニエスの好むところではない。
 一階の半分も回らないうちに彼女は飽きていた。
「しょせん、下賎な輩がやることか」
 聞こえよがしに言うと、商品棚の反対側にいたのか聞こえたのだろう、パタパタとペンギンのゆる族が駆けつけてきた。
 首領・鬼鳳帝はパラ実のコンビニ分校のゆる族を店員にしていたのだ。そのコンビニは、この店のせいで潰れたのだが。
「そ、そのようなことを大声で言われては困ります……! あいつらに聞かれたら……」
「聞こえるように言っているのよ。下品な品揃え、客に不親切なレイアウト。馬鹿みたいに商品を積み上げればいいってもんじゃないでしょうに。それにこの趣味の悪いBGM」
 メニエスが言う通り、商品は全体的に『死』や『破壊』を連想させるものが多く、それらが壁のように陳列されているせいで店内は迷路のようになっている。この無茶な陳列はミゲルのヒロイックアサルト『爆縮陳列』による。
 そしてずっと流れている、

♪怒怒怒 首領鬼ー 首領・鬼鳳帝〜♪

 という意味不明なBGM。
 不良達にはこれらが人気だったのだが、メニエスにはさっぱりだった。
「まあいいわ。それより、店長に会わせなさい」
「い、今はおりません……もうすぐ帰ってくるそうです」
「そう。じゃあ待たせてもらうわね。応接室くらいあるんでしょ。案内しなさい」
 すっかりメニエスの迫力に押されてしまった店員は、ビクビクしながら奥の従業員用のドアを潜り、応接室にメニエスとミストラルを連れていった。


 それから待つこと十数分。
 次に応接室のドアが開いた時、入ってきたのはレンとミゲル、そして歩と巡だった。
 二人はメニエスとミストラルの姿に驚いて目を丸くする。
「同席がいるって、あなた達だったの……」
「あたしはそんな話聞いてないけど」
「連絡が行き届いてなかったか。まあ、そういうわけだ」
 特に悪いと思っていないようなレンの態度に、メニエスは軽蔑するような笑みを見せる。
「あの、あたし後でもいいよ」
「別にかまわないわ。聞かれて困る話でもないから。この店の店長とパートナーがどんな奴か会いに来ただけだもの」
 メニエスの許可が出たところで、歩と巡は少し間を開けてソファに腰掛けた。
 レンとミゲルも向かい側に腰を下ろすと、さっそく歩が話しを切り出す。
「ハスターが大きなグループなのはここに来るまでにわかったけど……パラミタまで来て、何か目的があるのかな?」
 この質問は、メニエスも聞きたいところだった。レンではなくミゲルに。
 答えたのはレンだった。
「簡単なことだ。日本で俺達に逆らう奴はもういない。となれば、次は不良の本場と言われるパラミタだろう」
「うーん、大きくなって強くなって……でも、それって足元見えなくなっちゃわないかな?」
「……何が言いたい?」
 歩は少しだけ寂しそうな笑みで聞いた。
「昔のお友達とも、ちゃんと遊んでる?」
「よくわからんが、最初の仲間もここに来てるぜ」
「えへへ。それならいいや。忘れないでねー」
「……変な女」
 ほにゃっとした歩の笑顔に、レンは毒気を抜かれたような顔になる。
 二人のやり取りを見ているメニエスは、レンを見ているようでミゲルを見ていた。
 彼は表情一つ動かさず、冷静にレンや歩を見ている。口を挟む様子はない。
 それならば、とメニエスはパラ実制覇を狙う彼らにアドバイスをしてみようと思った。
「四天王なんてどうでもいいものを標的にするより、先に手をかけたほうがいい奴らがいるんじゃない? 生徒会の連中とか」
「メニエスさん!」
 歩が軽く睨むと、ミストラルが反応する。
 メニエスはそれをそっと制した。今日は戦いに来たわけではないのだから。
 それを察したミストラルは歩から視線を外すと、静かに控えた。
 レンもミゲルも何かしてくる気配はまったく窺えないが、それでもミストラルは気を引き締めている。
 レンは低く笑う。
「もちろん潰してやるさ。だがその前に手足をもいだほうが効率的だろ」
「なるほどね。けど、あんまり悠長にしてるとあいつらあっという間に仲間を集めるわよ」
「へぇ。それでもきっと、勝つのは俺達だ」
 根拠はわからないが、自信たっぷりにレンが答えた時、ミゲルが薄く笑った。

卍卍卍


 メニエスと歩達が帰った後、もう一組、面会の申し込みがあった。
 申し込み者の名はベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)。連れを一人伴ってレンに話したいことがあると言う。
 彼らは指定した時間の通りにやって来た。

「余計な前置きは省くぜ。キミ達がパラ実を支配したいってなら、手を貸そうと思ってね」
「へェ。そんなことしていいんだ?」
「オレは別にパラ実に思い入れがあるわけじゃないし」
「お前らにどんな利益があるってんだ?」
 もっともなレンの疑問に、支倉 遥(はせくら・はるか)はニヤリとした。
 ベアトリクスは静かに聞いている。
「暇潰しだよ」
 一瞬後、レンは大きく笑った。
 こんな身勝手な理由があるか、と。
 充分笑い終わると、それで、と話しを続ける。
「手を貸すというからには、お土産くらいあるんだろ?」
「当然」
 向かい合って座る両者の間にあるテーブルに、ベアトリクスがスッと紙束を置く。
「パラ実生の主だった者達のデータだ。誰を潰せばいいのか、これで絞れるだろ」
 紙束を手にしたレンは、ニヤニヤしながらそれをパラパラとめくる。
「それと、あの従業員だが……考えなしのパラ実生が殴りこんできた時のために盾にしたらどうだ? 四人ほど横一列に並べて固定して、その隙間からこっちが攻撃するのさ。キマクの住人を盾にされちゃ、下手に手出しできないだろ。名付けて『人肉ファランクス』だ」
 レンはちらりとミゲルを見やる。店長は彼だ。
「最終的に必要となれば有効な手段ですな。ですが、無闇に店員を犠牲にする必要はないでしょう。……ここは、キマク経済の発展のために経営する平和な店ですから」
「はは、平和か」
 皮肉っぽく笑う遥に、ミゲルも同じような笑みを返す。
「でも、その平和なディスカウントショップに野蛮な武装万引き団なんてものが出るんだろ? 店員は大丈夫か?」
 『人肉ファランクス』とは別件のように話題を変える遥。
 そして、ベアトリクスが店員確保に協力できる旨を伝える。
 もともとは『人肉ファランクス』用に集める予定だったのだが。
 ミゲルは顎に手を沿え、憂い顔をしてみせた。
「彼らには困ったものです。彼らが来た後は営業どころではないのですよ。店内の片付けやら何やら……。それ以上に、武装万引き団を恐れて逃げ出す店員が後を絶ちません。あなた方で私達のために人材を支援してくださるというなら、願ってもないことです」
 実態はどうあれ、ミゲルとレンはこの首領・鬼鳳帝を誰でも買い物ができる一般向けの店にしたいようだ。店員にゆる族を置いているのも、そんな狙いがあってのことだろう。
 それなら、と遥は新たな提案をする。
「オレの仲間を二人、店の警備に置いても?」
「かまいませんよ。対抗勢力ができつつあるそうですから、それに備えておくのは当然です。お二人のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
 遥は名前を教えると席を立った。