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リアクション
第2章 留まるモノと求めるモノ・その1
空京大学病院。
風祭 隼人(かざまつり・はやと)はルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の行方を追っていた。
しかしながら、調査は思うように成果が上がらない。
「ああ、ルミーナって特別病室の美人さんのことか。でも、怪しい奴は病室には近付かなかったと思うぜ」
「失踪した患者さんねぇ……、悪いけど病室からその患者さんが出るところは見てないわ」
「各学校のお偉方とか、生徒とかが見舞いに来るのは見かけたけどなぁ……、それ以外は別に……」
返ってくるのは、判で押したような答えばかりだ。
コツコツと靴音にいら立ちを募らせ、隼人は考えを巡らせながら廊下を歩いている。
「彼女は意識不明の重体、何者かに連れ去られた可能性が高い。タイミングを鑑みると、犯人はナラカエクスプレスを危険視する奈落人かもしれない。彼女を学園との取引材料に使うつもりなら、それなりに辻褄は合う……」
それには奈落人の動向を探る必要がある、向こうに行った兄優斗に電話しようと携帯を取り出す。
「ちょっと隼人!」
突然、相棒のアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)が叫んだ。
「な、なんだよ……?」
「なんだよじゃなくて、ひとりでブツブツ呟くのはやめて!」
自覚はなかったが、自分の殻に閉じこもっていたらしい。
「悪い……、どうにも心配で落ち着かなくて……」
まあ、ルミーナラブの彼だ。彼女が意識不明のまま行方不明ともなれば取り乱すのも無理はない。
「気持ちはわかるけど、焦っていても解決しないわ。落ち着いて行動しなきゃ見落としちゃうものもあるんだよ」
そんなことを話していると、次の調査対象である主治医の待つルミーナの病室に到着した。
ちょうど捜索隊のメンバー、シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)が話をしている最中である。
相手は紳士的でインテリジェンスを感じさせる……、【スーパードクター梅】と言う医者だった。
「聞くところによると、スーパードクターは精神科の権威って聞いたんだが、何故ここに……?」
「パートナー損失による人体への影響は医学会でも未知の分野だ。正直、どの部署が担当すべき患者なのかよくわからない。そのため、今回は私も含め各部署のエキスパートを総動員して、レバレッジさんの治療にあたっているのだ」
「なるほど……」
「別にアレだぞ、他の医者を考えるのが面倒臭かったとか、そーゆー筆者の都合じゃないぞ」
「いや、聞いてねぇし……。それより、失踪直前のルミーナ嬢の容態はどんな具合だったんだ?」
「意識不明の重体だった。原因は不明だが、全身の生体機能が衰え、随分と衰弱していた」
「意識が戻る兆候や何か変化は?」
「これと言ってカルテには書かれていないな。と言うか、意識が戻ったとしても歩けるような状態じゃない」
「そうなると、彼女に意識が戻って自分で出ていったって線はありえないか……」
うむむ、とシルヴィオは唸った。
その横で、パートナーのアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が表情を曇らせている。
「……そんな顔するなよ。信じなきゃ、上手くいくモンもいかなくなるだけだぜ?」
「ええ、でもルミーナ様は私達守護天使にとっても大切な方だから……」
「まぁな……、おデコちゃんに続いて、ルミーナ嬢までいなくなるなんて、思ってもみなかったからな……」
アイシスを励ましつつ、次はどこを調査するべきか考えていると、部屋の入口に立つ隼人に気付いた。
「ああ、捜索隊のやつか……、どうだ、何か情報は掴めたか?」
「隣室の患者や売店のおばちゃんにあたってみたが、手がかりになるようなものは何も……」
二人は顔を見合わせ、ため息を吐いた。
◇◇◇
「おや皆さん、ここにお揃いでしたか」
そこに隼人の二人目の相棒、ホウ統 士元がやってきた。
どうやらカラスの使い魔や小人の鞄を使って、院内に残った痕跡を調査をしていたらしい。
「……残念ながら、有益な情報は得られませんでしたが」
肩をすくめたあと、ただ……、と気にかかる部分について話し始めた。
「逆に情報が出てこないのが奇妙ですね。病室の周辺もくまなく調べさせましたが、不審な点は見つかりません。自分の意志にせよ、拉致されたにせよ、部屋から出たならどこかに痕跡は残るはず、それがないのがどうも……」
「それじゃルミーナさんは部屋から煙のように消えちまったってことか?」
隼人は尋ねた。
「私の調査の結果から言えばそうなります。ですが……」
「ですが……?」
「結論を出すのはあれを調べてからでも、遅くはないでしょう」
ホウ統は廊下の天井に設置された防犯カメラを指差した。
「その件なら、既に俺達が手を打っておいたぜ」
そう言って現れたのは、別のアプローチで調査を進めていた葛葉 翔(くずのは・しょう)である。
「手を打ったって……映像を手に入れたのか? たかがイチ学生に貸してくれるようなもんじゃないだろ?」
シルヴィオの言葉に、翔は気まずそうにポリポリと鼻先を掻いた。
「秩序の腕章を見せて、捜査の協力を警備室に頼んだんだが、なかなかどうして気骨のある警備員たちで……、しょうがないからロイヤルガードの権限で拝借してきたんだ。この名前を出すのは正直控えたかったんだが……」
この場合事件が事件だし、まあ、不可抗力というやつだろう。そう思うことで、無理矢理自分を納得させた。
それから病室のカーテンを閉め、設置されたテレビでテープの再生を始めた。
「さて……、ルミーナさんが消えたのは何時ぐらいだった、アリア?」
「ええと、さっき聞いた話じゃ、お昼に看護婦さんが様子を見に行ったらいなくなってたみたいだよ」
パートナーのアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が答えた。
「なるほど、じゃあ面会の始まる10時ぐらいから倍速で流そう」
画面に白黒の映像が映し出される。
浮かび上がった病室の前を、様々な人が通り過ぎていく。部屋を訪ねる人間が倍速で忙しなく出入りを繰り返す。
とその時、時間にして1秒ほどだったが、映像がぐにゃりと歪んでノイズが走った。
「ちょっと止めて! おかしい、時間が今ので1分進んだよ!?」
アリアの指摘通り、画面右下に表示された時間が一瞬で進んだように見えた。
「……確かに映像が飛んでる。いや、飛んでると言うより、こいつは消されてるって言ったほうが正しいか」
「でも、なんで……、これ警備室にあった映像でしょ?」
「……どうやって警備室の映像を改竄したのかは知らないが、よほど見られちゃ困るもんが映ってたんだろうな」
◇◇◇
これまでに集まった情報を整理してみよう。
まず隼人たちの得た情報、病室に出入りしたのは各学校の人間、ルミーナが部屋から出た痕跡はない。
シルヴィオたちの得た情報、ルミーナは重傷でとても部屋から出られるような状態ではなかった。
そして、カメラの映像、事件の瞬間の映像だけがバッサリと消去されている。
手がかりと呼べるものは一見するとない、しかしながら、ないからこそ見えてくるものがそこにはあるのだ。
「……つまり、ルミーナさんは誰かに連れ出されたってことになるのか」
拳を固く握りしめ、隼人は言った。
ただならぬ様子に気を使いながらも、翔は頷いてその考察を肯定する。
「彼女が自力で動けない以上、誰かが連れ出したはずだ。映像を改竄したのも、おそらくは映っている自分の姿を消去するためだろう。ただ、連れ出した方法は謎だな、窓を開けた痕跡もないから、飛んで逃げたって線も消える」
「うーん、犯人が瞬間移動でも使ったと考えるなら辻褄は合うんだが……」
二人が首を傾げていると、シルヴィオが別の疑問を口にした。
「……でも、どうしてルミーナ嬢が誘拐されたんだ?」
「身代金目的……の線はなさそうだな。資産家である環菜校長がいない今、リスクを背負ってまでやる意味がない」
「ルミーナさんへの恨み……も違うような気がする。それが目的なら、この場で殺害しているはずだ」
「となると、ルミーナ嬢がいると何か不都合なことがある……ということなのかもしれないな」
「不都合なこと……?」
「Xルートサーバじゃないですか……?」
ポツリと口にしたアイシスの言葉に、一同ははっと顔色を変えた。
「ルミーナ様はXルートサーバの管理者です。あの方の不在で最も影響を受けるのはサーバ……、既に状態維持に支障をきたしていることでしょう。犯人がそうした混乱を望んでるなら、誘拐の理由は見えてくると思うんですけど……」
「おい、待てよ……」
どうにも嫌な符合をシルヴィオは感じずにはいられなかった。
「おデコちゃんの死にルミーナ嬢の失踪、全てが蒼空学園の力を削ぐように動いてやしないか……?」
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