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リアクション
第3章 完全に観光する気まんまんのモノ・その1
そして、舞台は再びナラカエクスプレスに戻る。
桐生 ひな(きりゅう・ひな)はボックス席に腰掛け、わくわくしながら鞄を開けていた。
鞄の中はほとんどおにぎり状態、ツナマヨ、明太子マヨ、鮭マヨ、マヨマヨ……全部マヨ系で染まっている。
ふと、トリニティがじっと凝視してるのに気付き、ひなはペコリとお辞儀をした。
「今回はどうか宜しくお願いしますのですよー、えへへ。」
「ええ、こちらこそお願いいたします……」
「ところで、トリニティさん。説明がありませんでしたけど、列車利用の諸注意とかあるのですか〜?」
「他のお客様の迷惑にならないよう過ごして頂ければ、あとは特にございません。ナラカに向かうのに武器の持ち込みを制限するわけにもいきませんし、しいて言えば、大きな荷物は後方の貨物車両に乗せて欲しいぐらいでしょうか」
「ふむふむ、寛容な列車なのですね〜。おしえてくれて、ありがとうございますっ」
ニッコリ笑って、お礼のおにぎり、渾身のからし鶏マヨを贈呈した。
「口に合うか分かりませんけどっ」
20秒ほど不思議そうにおにぎりを見つめ、やがて、トリニティはどこかに去っていった。
それから、ひなは窓の外を眺めた。
「ナラカ行きですから、潜っていくのですかねー。ジェットコースター顔負けの路線組みに期待しちゃうのですよ〜」
すると、向かいに座る橘 カナ(たちばな・かな)が微笑んだ。
「うん、列車の旅ってあまり経験ないからワクワクする!」
「ですよねー、色んな意味で今から楽し……」
『ぱらみたヘハ新幹線ダッタシネ、タマニハ急行列車モイイモノダワ』
唐突に言葉を遮って、カナの右手に鎮座まします市松人形『福ちゃん』が喋り出した。
カクカクと動くそれの不気味さに、ひなは思わずポロンとおにぎりを落っことした。
「席はやっぱり窓側がいいわよね」
『みみニ譲ラセレバイイワ!』
「え? じ、自分ッスか!?」
カナのパートナーにして保護者、兎野 ミミ(うさぎの・みみ)はあわあわ戸惑った。
うさぎ型ゆる族だが、普段は更にその上からクマの着ぐるみを着ていると言うややこしいゆる族だ。
未練がましく席を見つめながら、通路側の席に彼女は移動する。
「あと、お昼は車内販売の駅弁が食べたいわ」
『ソレニあいすくりーむモ!』
「うーん、あたし子どもだからお小遣いあまりないけど……」
『みみノぷりかデドウニカシテクレルワネ!』
二人で、いや、一人で話し込んでいる少女に、ひなは言い知れぬ不安を感じた。
「怖い人が前にいるのですよー……」
「申し訳ないッス! 害はないんで勘弁してやって欲しいッス!」
ばつが悪そうにミミは謝った。
ひなのほうもまともにお喋り出来る人がいてくれて、ほっと胸を撫で下ろした。
「しかしすごいッスねー、地球だけでなく、列車でナラカにだって行けちゃうんスから」
「技術は日々進歩してるのですよっ」
まあ、5000年前の技術なのだけども。
「たしかパラミタの下にザナドゥがあって、更にその下にナラカがあるんスよねぇ。噂で聞いたッスけど、ザナドゥでナントカ理論を習得してナラカへ行った人もいるらしいッス! 自分もザナドゥに行けば習得出来るッスかね!」
「んー、でもこの列車、ナラカまで直通なんでザナドゥは止まらないらしいですよー」
「え……、そうなんスか。自分の大それた野望、いきなりブレイクしちまったッス……!」
◇◇◇
同車両に青島 兎(あおしま・うさぎ)はバックにトレンチコートを詰めながら入ってきた。
バイクを貨物車両に預けてきた彼女は、トリニティの姿を見つけると、すすすとさりげなく近くに移動した。
「冷たい感じがするけどー、すごく奇麗で可愛いなぁ〜。なんだかお人形さんみたい〜」
「……あの、なにか御用でしょうか?」
「ううんー、なんでもないの〜」
必要以上に子どもっぽく振る舞って、トリニティの警戒を解こうとする兎。
ほぼ無表情のトリニティからは、その心情を推し量ることはできないが、しばらくするとまた業務に戻った。
その背中を見つめ……、色ボケ兎はさてどうやってペロリしようかと考える。
「奈落人とかが襲ってきてくれたらー、ドサクサに紛れるんだけどなぁ〜」
その時、奈落人ではないが、ある意味彼らより質の悪い同業者が襲撃を仕掛けた。
G級ハンター(カップ数的な意味で)朝野 未沙(あさの・みさ)である。
カンナ様やルミーナさんはあたしの趣味じゃないから……、と言う失礼極まりない理由で作戦には乗り気ではないのだが、メイド(冥土)だけにナラカには行ってみたいなー……、なんてふざけた理由でここにいる美少女なのだった。
暗殺者のように音もなく背後を取ると、神速抜刀の左右の手で目標のおっぱいを鷲掴みにした。
「……すいません、なんでしょうか、これは?」
「こんにちは、トリニティさん。ずっと働き詰めで疲れてるよね、あたしがマッサージしてあげるっ」
完全なる嘘八百、そして、完全にセクハラプロデューサーのやりくち。
だがしばらくすると、未沙の表情に翳りが見え始めた。
「なんだろう……、この不毛の荒野に立たされてるような感覚……」
そう、トリニティはあんまりおっぱいがない、これではG級ハンターも襲いがいがないというものだ。
お尻も撫でてみたが、お世辞にも肉付きが良いとは言えなかった。
どちらかと言うと、彼女はグラビアアイドルよりもモデル寄りの体型なのだ。
「申し訳ありませんが、業務に支障がでますのでそろそろ放してもらえませんか?」
「それに……、反応も悪いよぅ……」
この程度のセクハラでは、トリニティの鉄仮面を崩すことはできないようだ。
「こうなったら、腹いせに桐生ひなさんを……」
何故だか名指しで指名されたので、近くの座席で騒動を見ていたひなは慌てて身を屈めた。
「こら〜! トリニティさんになんてことしてるのよ〜!」
するとそこに、ぐるぐる両手を振り回しながら、兎が未沙の胸に突撃してきた。
どーんとぶつかってきた彼女を条件反射でハグするも、残念ながら兎は幼児体型、食べるところがない。
「うう……、またぺたんこぺったんだよー」
「何言ってるのよー、ぺたんこぺったんはステータスなんだよ〜」
無邪気に笑う兎だったが、その目にハンターの光が宿った。
気付いた時には時既に遅く、新たなハンターは腰に手を絡ませ密着、未沙のおっぱいをフニフニと揉む。
「え……!?」
「えへへー、今日の獲物はとっても美味しそうだよ〜」
人生万事塞翁が馬、狩るものが狩られる側になることも時として起こりうる。
「……あれ、もしかしてあたし搾取される側!?」
◇◇◇
騒々しい二人のすぐ傍の座席に、妙に物静かな二人組が座っていた。
ルーク・クレイン(るーく・くれいん)とその支配者シリウス・サザーラント(しりうす・さざーらんと)だ。
ルークはこれまでの情報を反芻し、自分達が置かれている状況を組み立てている。
環菜救出やルミーナ捜索に表立って加わりたいのだが、シリウスが望まないため動けずにいるのだ。
「考えことかい、ルーク?」
優雅にワインを傾けながら、シリウスが問う。
「うん……、どうしても気になって……、メールにあった『その時』と言うのは何のことなんだろうって」
「その時と言うのは、御神楽環菜の死を指してると思うけど。でも、そうなると不思議な点が出てくるよね?」
「不思議な点って?」
シリウスはため息を吐く。
「すこしは頭を使ったらどうだい。何故トリニティが彼女の死を事前に知ってたのかってことだよ。もしかしたら、未来を見通す力を持ってるのかもしれないけど、でも暗殺者と何か関わりがあるとも考えられるなぁ……」
「暗殺者と……、そんな風には見えないけど?」
「キミに彼女の何がわかるのさ。ここにいる誰も彼女の正体を掴んでいないじゃないか」
「そうだけど、じゃあ敵だって言うのか?」
「敵とか味方とかどうでもいいよ、事態を面白く掻き回してくれるならね」
ただ状況を楽しむことだけを考えるシリウスに、ルークは暗澹たる思いを抱えていた。
冥界急行ナラカエクスプレスか……、ルークは心の中で呟いた。
僕の家族もナラカに居るんだろうか、この列車に乗っていけばもしかしたら会えるのだろうか……。
「……ねぇ、シリウス。僕らは何もしないで見ているだけなの?」
「何を言ってるんだい、ちゃんと傍観してるじゃないか。俺は御神楽環菜にもルミーナ・レバレッジにも興味なんてないんだ。人の生き死になんてどうでもいい。それよりこの事態がどこに向かうのか、傍観してる方が楽しいだろう?」
「……そう」
目を伏せるルークの姿に満足そうに笑う。
「まあでも、ルークじゃないけど気になる点はある……。ナラカからパラミタにたどり着くまで数百年かかる、奈落人はどうやってこちら側に来ているんだろうね……、特殊能力か、それとも独自のルートでもあるのかな」
ワインをあおった瞬間、組んず解れつの兎と未沙が座席にぶつかって、ワインがズボンにこぼれた。
「……ルーク、ティッシュ」
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