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リアクション
(・増援部隊)
上空でイコン同士が激戦を繰り広げている頃、PASDの要請を受けた者達はプラントの入口に到達していた。
それは、プラントを包囲しているイコンが、この入口より後方――西シャンバラ側のルート上を避けるように小隊を展開させているからだ。
敵随伴歩兵は遠回りしてここまで来なければならず、しかもイコンの流れ弾を避けなければならないために、無傷で辿り着ける者の方が少ないのだ。
元々敵が入ってきたであろう入口の方は、何らかの衝撃で塞がってしまったらしい。
「イコン同士の戦い……こんなに激しいものだとは」
鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は、プラント上空で展開されているイコンを眺める。
彼の予想では、天学も随伴歩兵を外に展開すると考えていたが、そうではなかったようだ。
超能力部隊はイコンに随伴するのではなく、あくまでもプラント内部を押さえることにある。
同じようにPASDの要請を受けたであろう、契約者の姿も周囲にちらほらある。
(この状況でも、攻撃を逃れた者はやはりいますか)
黒い装甲服にヘルメットの兵士を確認する。見たところ、武器はナイフだけのようだ。
(……おかしい。あれでは歩兵として戦場では役に立つはずがない)
教導団に属する者としては、違和感を覚えるばかりだった。
だが、不気味な敵の実力はすぐに知るところとなる。
(速い!)
バーストダッシュ、というよりは神速に近い速さだ。しかし、それだけならば彼にとっては大した問題ではない。
ディフェンスシフトで敵のナイフを受け止め、そこからチェインスマイトを繰り出す。
敵はその軌道を読むかのようにして、かわす。
その直後、真一郎は衝撃波のようなものを食らった。
(サイコキネシス……!)
超能力者がいる、というのは知っている。敵は天御柱学院の生徒と同じ力を持っているのだ。
その力と身体能力の組み合わせは脅威だ。とはいえ、その力は屋外では十全ではない。
敵の懐に入り、ライトブレードで一閃。
しかし、そのとき敵の異変に気付き、すぐに距離を取った。
「――――!」
自爆。
エンデュアで耐え抜くが、どうやら敵は死んででも敵を倒そうとするらしい。まるで自爆テロだ。
黒い装甲服を倒して入口を死守するが、真一郎は異様な雰囲気を纏った姿を発見する。
それを見た時点で、もう遅かった。
「馬鹿な……ッ!」
その赤い装甲服は、黒とは違う。両手で持った二本のナイフを操り、真一郎の刃を弾く。
そしてその隙に入口の中に侵入していった。始めから、プラント内部に入ることが目的で、彼の相手をする気はなかったようだ。
何者なのか? その答えはまだ分からない。
* * *
「現状はどんな感じ?」
プラントの入口からほどなくした場所で、
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が確認を取る。
要請を受けてから自分達が来るまでの間に、何らかの進展はあったはずだ。
「現在、下の階層――格納庫と工場があるところまでは確認されています。ただ、まだ依然として交戦中です」
小次郎から話を聞く。
「敵の特徴は?」
「黒い装甲服の超能力者です」
ここに向かう間に見かけた連中か、とクリストファーは思う。
同時に、それらをメモとして記録しておく。
「PASDとして情報のやり取りは行っているかもしれないけど、一応こういう目に見える形でも残しておいた方がいいと思ってね。もちろん、機密に関わることはあとで消しておくよ。この戦いを叙事詩の元にする分にはそこまで知らなくてもいいからね。あくまで吟遊詩人として、だよ」
あくまでも自分の作品のモデルにしようという魂胆のようだ。
現在、最も深いところにいる者達が超能力部隊と合流し、制御室目前だという情報が入る。
「今のところは、こちらが優勢みたいだね」
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が話の内容から判断する。自分達は今ようやく来たところだが、先遣隊と超能力部隊の力だけで十分内部の制圧は可能なようだ。
(それにしても、地球側の寺院はどうなっているんだ? あんな集団のことは聞いてない)
クリストファーはある程度、鏖殺寺院という組織に対する知識がある。現在の地球鏖殺が、元々はシャンバラ系を支援するために存在していたということも。
地球系寺院と接する機会がこれまでにあったが、そのときに感じたものとは何かが違う。
それを確かめるためにも、もう少しよく調べた方が良さそうだった。