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リアクション
第七曲 〜正しいものは何?〜
(・紅)
イコン製造プラント内部。
「ここは、どの辺だろう……?」
夕条 媛花(せきじょう・ひめか)は、敵を倒すために駆け出し、そのまま超能力部隊の他の面々とは離れ離れになったままだった。
(お姉ちゃん……)
闇に潜む、媛花の姿を、夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)は見つけた。
だが、同時に彼女達は敵の気配も感じ取る。しかし、媛花はその敵を狙っているが――
(もう一人、います)
アイオンは超感覚で捉えたわずかな物音で、見えなくなっている敵の気配を感じ取る。
そして、マキナ イドメネオ(まきな・いどめねお)はメモリープロジェクターを光源にして進んでいたために、敵に察知されている。
「くるぞ!」
敵は壁を跳躍しながら、マキナに向かってくる。
そして、アイオンは転送と一緒に連れてきていた狼達をけしかける。闇であろうと、狼達にはあまり関係がない。
敵は躊躇いもなく切り裂いていく。だが、確実に足止めをされており、
「――っ!!」
その背後から、媛花が狂血の黒影爪で敵の頚動脈をかっ裂こうとする。
キン、とナイフの音がする。
敵は彼女の気配に気付き反転し、爪を受け止めたのだ。
弾かれた媛花は軽身功で壁を蹴る。敵もまた、壁、天井を蹴って媛花を追う。敵は彼女の攻撃をほぼ全てナイフ一本で受け流している。
一旦、一歩下がる。
(そこからは先の先で踏み出し、神速を持って距離を詰める。
「く――!」
それでも受け止められることくらい、予想の範囲だ。当たった瞬間に軽身功で跳躍、天井を蹴って勢いをつけ、敵の首筋を掻っ切る。
だが、その背後には迷彩で姿を消した敵が迫っており、咄嗟に爪でナイフをガードする。今さっき自分が殺めた敵がやったように。
「援護するぞ」
マキナがナイフが止まった瞬間に、黒い装甲服に対し、六連ミサイルポッドのミサイルを放つ。
さらに、アイオンも弓を引く。
必然的に回避行動を取らなくてはいけなくなった敵は、間合いを取る。既に、ミサイルを数発受けたのか、迷彩の効果は消えている。
だが、わずかでも媛花から目を離したのが敵の命取りとなった。
再び影に潜んでいた媛花は、背後から黒い装甲服の兵士を斬り裂く。当然、急所を狙って。
無意識に彼女がやったことだが、即死させなければこの敵は自爆する。そうはならず、ヘルメットの装甲服の間にわずかに見える服から鮮血を撒き散らし、倒れ伏している様子から完全に事切れていることが分かる。
「やったよ、私……殺したよ」
その手、その身体を血で染め上げ、彼女はその場に膝をついた。
「お姉ちゃん!」
アイオンが寄ってくる。
「うう、ごめんなさい。痛かったよね、怖かったでしょう……」
何かから解放されたように崩れる。
今、自分は確実に二人の人間を殺した。その事実は、一人の少女に重くのしかかる。
自分の手で殺した紅く染まる手がそれを証明している。人を殺すのがこんなに恐ろしいことだと思っていなかった少女の心は崩壊する一歩手前にあった。
イコン越しとは違う、生暖かく滴るもの。それが、人の身体に流れているものだ。
なぜ、ただの少女が人殺しにならなくてはいけなかったのか。これが、戦争の現実なのか。
せめて、相手の顔を、とヘルメットに手をかけようとしたとき――
その首が消えた。
否、突然現れた別の影に、刈り取られたのだ。
「なに、あなたは……」
それは、紅い装甲服の人物だった。おそらくは敵。だが、なぜか死体の首を狩ったのだ。
「…………」
紅の兵士は何も言わず、彼女に背を向ける。この場で相手にするまでもない、ということだろうか。
「あぁぁぁぁあああああ!!!」
何が彼女の心に触れたのかは分からない。だが、背を向けた紅い兵士に、媛花は泣き面のまま切りかかっていった。
キン、と。敵は彼女の顔を見ることもなく、それを右手のナイフで受ける。
そして左手に光る同じ銀色の切っ先が、彼女に迫る。
(いや、死にたくない!)
アイオン、マキナともに間に合う距離ではなかった。
だが、それを受け止めた人物がいる。
「――!!」
制御室を押さえ、敵の駆逐のためにプラント内を回っていた樹月 刀真だ。
「他とは色が違う?」
次の瞬間、暗闇だったプラントに明かりが灯った。
制御室を完全に掌握したのである。
紅い装甲服は、姿を消した。殺気も残っていない。
「ああ……」
その場にへたり込む媛花。彼女は他人を殺すこと、そして自分が殺されるかもしれないということを同時に知ったのだ。
「……俺達の仲間が制御室を押さえました。行きましょう」