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リアクション
★ ★ ★
「ちょっといいかな?」
ジャワ・ディンブラの背に立とうとするココ・カンパーニュを、樹月刀真が呼び止めた。
「蒼空学園で、メイドロボを扱っていた奴らのことなんだが……」
樹月刀真は、イルミンスール魔法学校でのスライム事件からずっと関わってきているオプシディアンたちのことをココ・カンパーニュたちに説明した。
「あの人たちですか。光条砲や飛空艇を直したのも彼らですが……」
唯一、海賊時代に関わったことのあるアルディミアク・ミトゥナが言った。とはいえ、対応はほとんどゾブラク・ザーディアが行っていたので、直接会話したことは一度もないのだが。
「とにかく油断はしない方がいい。奴らは、契約者の排除をもくろんでいるようだからな。君たちだって、例外じゃない」
樹月刀真は、二人に注意をうながした。
「ふーん、イルミンスールも結構大変なんだね。こっちも、この間パンダで苦労したし。まさか、これから行く浮遊島にも、似たようなのがあるなんてことはないよね?」
明倫館所属の水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が、ちょっと心配になってアルディミアク・ミトゥナに訊ねた。
「客寄せパンダのことですか。とんでもない呪いのアイテムでしたね。アンデッドをも招く魅了の魔術なんて見たことも聞いたこともありませんよ。触らぬパンダに祟りなしといったところかな。もし同じような物が封印されていたら、今度はそっとしておきましょう」
客寄せパンダの件を聞いて、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)がこりごりだという感じで口をはさんだ。
「まあまあ、面白そうですのにい。ホワイトさんも一人で行かないでえ、呼んでくれればよかったのにい」
軽く髪をかきあげて、チャイ・セイロンが少し悔しそうに言った。いや、もし彼女がパンダ騒動に参加していたら、パンダ像を解析する気満々だったので混乱にさらに拍車をかけていたことだろう。
「あそこまで強力な女王器紛いのアイテムはないと思いますが、なにしろパラミタ大陸を今まで何周もしているはずの伝説の島ですから、何があるかは分かりませんね。充分に注意しないと」
あらためて、アルディミアク・ミトゥナが注意をうながす。
「お宝、お宝♪」
マサラ・アッサムとリン・ダージが、楽しそうに唱和した。
★ ★ ★
「みなさん、いよいよ出発ですね」
『どんとこい、未知の島』、『お土産待ってます』、『入団はこちら』などという意味不明の垂れ幕や幟を押し立てたいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)が、万歳三唱でココ・カンパーニュを見送りに来ていた。
「なんなんだ、これは!」
あまりに意味不明なので、さすがにココ・カンパーニュが問いただしに行く。
「今のうちに先行しましょう」
「うむ、それがよいであろう」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)をうながして、さっさと露払いに出発する。ときおり六分儀を使って太陽の位置を確認する天測航法を使えば、通常空間に突出している西シャンバラの雲海であればある程度ちゃんとした方角が分かるはずだ。少しぐらい先行しても、再合流は容易だろう。
「刀真さん、今のうちにこれをお渡ししておきます」
そう言って、封印の巫女白花が、樹月刀真に禁猟区をかけた銀の飾り鎖を手渡した。
「ああ、ありがとう」
それを右手に巻きつけると、樹月刀真は小型飛空艇に乗り込んでいった。
「あなたは先行してください」
「ううっ、仕方ねえな」
しっかりとペコ・フラワリーにチェックされて、しぶしぶ国頭武尊が他の者たちと一緒に先行して離陸する。
「だいたい、このカメラはなんだ、このカメラは」
「御安心ください。ただの記録用です。真に注意すべきはパンツ番長。僕のカメラは人畜無害です」
ココ・カンパーニュの突っ込みに、いんすますぽに夫がのらりくらりと受け流す。
「リーダー、そろそろ出発するぞ」
ジャワ・ディンブラが、ココ・カンパーニュをうながした。
「しかたない。変なことしたら、分かっているわよね」
ヒュンと右手を振っていんすますぽに夫を脅すと、ココ・カンパーニュは踵を返してジャワ・ディンブラの方へと走っていった。ジャンプ一番、ひらりとジャワ・ディンブラの背に飛び乗る。
「行ってらっしゃいませー」
ビデオカメラのファインダーから目を離さずに、いんすますぽに夫が手を振って叫んだ。チャンスは、離陸したときである。
ジャワ・ディンブラが大きく翼を広げた。翼の一振りで大影が巻き起こり、ふわりとその巨体が宙に浮かびあがる。二振りめで、ぐんと一気に上昇した。
「よし……、あやややややや……!?」
バッチリカメラに収めたと思ったいんすますぽに夫は、自分の目にした光景に落胆した。ジャワ・ディンブラの上昇があまりに早かったため、彼女のお腹しかビデオに映っていない。
「なんの、まだアルディミアクが……」
素早くカメラをむけると、ウィングシールドに片膝ついて乗ったアルディミアク・ミトゥナがふわりと飛翔していった。せっかくスカートが短くなったのに、シールドが邪魔で、しっかりといんすますぽに夫の視線はブロックされていた。
「ま、まだです……」
すかさず、今度は小型飛空艇に相乗りするマサラ・アッサムとペコ・フラワリーをフレームに捉えるが、マサラ・アッサムは小型飛空艇のカウルに被われた前に座っているし、その後ろに立つペコ・フラワリーはロングスカートだ。
「ま、負けません。だごーん様、僕に力を……」(V)
いんすますぽに夫が叫ぶ。
だが、魔法の箒に横座りに乗ったチャイ・セイロンは、スーッと地上すれすれを滑るように飛んでいきながら雲海へと出ていった。
「こうなったら、誰でもいいです!」
「あーん、待ってよー」
そう叫ぶいんすますぽに夫の頭上を、空飛ぶ箒にまたがったリン・ダージが飛び越えていった。
「おお、ついに!」
のけぞるようにして、いんすますぽに夫が待望のショットを下から撮影する。その頭上を、次々に他の学生たちも飛び越えて雲海へと飛翔していく。
いろいろな意味で壮観な眺めだった。
「超えました。僕は、ついにあの国頭書院をも超え……」
がちゃん!!
「あっ!」
「にゅ。リンちゃんのパンツ撮ったりしたら、許さない……の」
ペチッといんすますぽに夫の持っていたビデオカメラを叩き落として、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が言った。
「な、何をするのですかぁ!」
あわてて、いんすますぽに夫が、落ちたカメラを拾おうとする。その眼前で、いきなりビデオカメラが粉々に分解してデータカードがひしゃげて砕けた。エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァのサイコキネシスだ。
「のおぉぉぉぉ!!」
血涙を流したいんすますぽに夫が、がくりと両手を地面に突く。
覆水盆に返らず。
「ふうっ、悪は滅びる……の。エリー悪くないもん。さあ、ジョー、エリーたちもそろそろ出発する……の」
「ええ。そうですね」
全身を真紅のパワードインナーにつつんだエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が、いんすますぽに夫のカメラの破片を踏みしめてエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァの後を追った。
泣き濡れるいんすますぽに夫のそばを、まだ残っていたミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)らが通りすぎて、自分たちの乗り物にそれぞれ乗って出発していった。
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