リアクション
卍卍卍 葦原明倫館分校では、鬼鎧の調査・開発チームが組まれていた。 葦原明倫館生卍 悠也(まんじ・ゆうや)は葦原の代表として参加していた。 彼は調査を進める中で、複雑な心境だった。 「米軍や天御柱学院の協力があるとはいえ、鬼鎧の調査はこっちで進めたいけどなあ……」 最終的に誰が鬼鎧の所有者となるか、彼には気がかりであった。 「天学生としては、鬼鎧がイコンに使えそうなら、喜んで協力させてもらうがな」 天御柱学院御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が、葦原明倫館奉行{SNM9998935#ハイナ・ウィルソン}と共にやってくる。 「鬼の血を代用にするのは分かった。問題は、血をどうやって手に入れるかだ。今、マホロバでも鬼はレアな存在なんだろう?」 紫音は天学生として単純にイコンとしての鬼鎧に興味があった。 もし、鬼鎧を調査することによって、新たなイコンの可能性が引き出せるとしたら……彼女は居ても立ってもいられなくなった。 「紫音、あんまり根を詰めないほがいいどすぇ。科学は一日して成りはしまへん」 同じく、天御柱学院の強化人間綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)は、鬼鎧に使えそうなイコンデータを入手を考えていた。 逆にイコンに使えそうなデータを鬼鎧に流用し、共有化できれば、互いに性能を高められることができよう。 「主様や風花の手伝いをするのじゃ。何でも言ってくれ。失われた技術にも興味があるしのう」 魔道書アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)は鬼鎧の歴史的背景が気になるようだ。 天御柱学院の所有するイコンと鬼鎧は明らかに発生ルートが異なる。 鬼鎧はマホロバの地で独自に作られ、使われてきたものだ。 「主、風花も。体を壊さぬようにするのじゃぞ」 魔鎧のアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は、紫音達を気遣いつつ、データ収集を手伝っていた。 「どうぞ、皆さん。お茶が入りましたぞ−」 悠也の妹である機晶姫卍 神楽(まんじ・かぐら)は、お茶汲みをしながら他の研究員に気を配っていた。 彼女の煎れるお茶は御抹茶のように濃く、熱いものだったが、それが研究員の疲れた脳みそと心には丁度良かった。 「あれ、魔夜。鬼鎧に乗るの?」 マホロバ人黒妖 魔夜(こくよう・まや)が、とてとてとやって来た。 研究員たちと話し込み、鬼鎧に乗り込んで動かしてみるという。 「うん、マヤもお手伝い。あのおもちゃ、動かしてみてって」 「ま、魔夜。気をつけてね。我が家の大事なロリっ子が帰って来ないなんて事になったら、おにいさん悲しいですよ……なんだい、神楽。そんな目で見て……」 悠也は冷ややかな視線を送る神楽に気がついた。 「兄様……品性を疑われるような言動は慎んでいただきたい」 「や、やだなあ、ボクは真面目だよ。小さい子がこんな鬼鎧に乗り込むんだからね。よし、おにいさんも付いていってあげよう。ボクの膝の上に座ると良いよ」 悠也はいそいそと乗り込もうとしたが、神楽に袖を掴まれ、引きずり下ろされた。 「それじゃあ、マホロバ人と鬼鎧の正確なデータがとれないでしょーが!」 「あ……動いた」 鬼鎧の中で魔夜が叫ぶ。 悠也たちは少し離れてそれらを見守っていた。 「う、動くのか……?」 卍卍卍 鬼鎧の中は、魔夜にとって不思議な空間だった。 まるで体内の中にいるようか感覚だ。 腹の操縦席には鏡のような光る円盤があり、彼女は手を伸ばす。 ――と、魔夜は一瞬気を失った。 夢のような景色が頭の中に広がる。 そのとき彼女が見たものは、戦場――鬼鎧がずらりと並び立ち、その先頭に立って指揮を執る武将の姿だった。 初代将軍鬼城 貞康(きじょう・さだやす)――見たことがないのに、魔夜にはわかった。 これが、鬼鎧が……鬼が持っていた記憶だ。 「……魔夜、わかったよ。鬼鎧はね、もう一度マホロバ人と一緒に戦いたがってる。でも、もうあの時の人たちはいないんだ……だから繋がるものが欲しいって……」 鬼鎧の中で目覚めたとき、開口一番魔夜はそう言った。 「鬼の血があれば、それを通じて何をしたらいいか分かるって。命令が伝わる、みたい……」 魔夜はそう言い様、操縦席で倒れ込んだ。 悠也が慌てて駆け寄ってくる。 「それがマホロバ人と同じ……鬼の血なのか?」 「鬼の血ならここにありますよ」 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が灯姫を伴ってやってきた。 鬼城家の、鬼の血を付け継ぐ姫だ。 「鬼ということで役に立つなら、それがマホロバや将軍家の為になるのなら……この血をいくらでも使え」 しかし、鬼としての彼女はかなり不安定である。 それでも灯姫は腕を差し出した。 将軍家に恨みはないのかと尋ねると、彼女は不思議そうな顔をしていた。 「なぜだ。生まれつきの器を、今更否定してどうなる。私は城の地下で何もかも失いかけたが。でも血の繋がってる弟が生きているだけで嬉しい。その希望を与えてくれてくれたのは、地下で出会った者達だ」 卍卍卍 それからは不眠不休だった。 佑也たちが調査した古の旗本と鬼鎧の関係から、現代人が鬼鎧を乗ろうとすれば、それに近い形を再現する必要があることが分かった。 このコンセプトをもとに、改造が積み重ねられていく。 試作機として完成したそれは、これまでとは少し変わった新しい鬼鎧であった。 「今までの鬼鎧はマホロバ人一人で操作してたみたいだけど、イコンの技術をちょっと入れたせいか、二人乗りでやっと安定した」 と、研究員は語っていた。 「ただし、あくまでも試作段階だ。実戦で使ってみて、データを取りたい……」 開発チームの声にハイナも実戦投入を検討していると言った。 |
||