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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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第五章 鬼鎧の復活

 蒼空学園如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)はこの間鬼鎧が見つかった鬼の祠にいた。
 彼はどこかに鬼鎧の製造場所があるのではないかと考えたのだ。
 剣の花嫁アルマ・アレフ(あるま・あれふ)も佑也に同行している。
「奪われた鬼鎧も冷気を放ったりしたそうだし、ロボットというより生物みたいだ。もしかしたら鬼鎧は自分の意思を持っていて、どこかに行こうとしたかも知れないな」
 佑也は目撃情報を頼りに、赤い鬼鎧が飛んでいったという方角へ向かっていた。
 険しい山々と森、マホロバののどかな農村の風景しか見当たらない中で、ふと気になるものを見つけた。
 地元の人は『鬼の首塚』と呼んでおりそれを奉っていた。
 通りすがりの村の老人が答える。
「昔、ここで合戦があり、この地を守って討ち死にした旗本様の首を奉っているそうじゃ」
「旗本様……? 鬼城家に付いた旗本か!」
「旗本様は鬼と自由に心を通わせ、共に戦ったと伝わっている」
「その鬼って、こういうじゃなかった?」
 アルマが持っていた画像を見せるが、老人は首をかしげていた。
「儂とてその時代に生きていたわけじゃない。見たことないものはわからんわい。しかしな、大きな鬼はまるで生きた大鎧のようじゃったと。忠誠心あつい武者じゃったそうじゃ」
 佑也は『鬼の首塚』を見つめていた。
「もしかしたら、鬼鎧は主(あるじ)を求めていたのかもな……そうなんだ。鬼鎧は鬼そのものだったんだよ……!」
 彼は深く頭を下げ、首塚に向かって黙祷を捧げた。
「今から俺達は、あなた方の残した鬼を現代に蘇らせようと思う。それは死者への冒涜かもしれない。だけど、きっとこの国のために必要なものなんだ。どうか、許して欲しい……そして見守って欲しい」
 アルマも佑也に習って隣に並び、手を合わせた。

卍卍卍


 葦原明倫館分校では、鬼鎧の調査・開発チームが組まれていた。
 葦原明倫館生卍 悠也(まんじ・ゆうや)は葦原の代表として参加していた。
 彼は調査を進める中で、複雑な心境だった。
「米軍や天御柱学院の協力があるとはいえ、鬼鎧の調査はこっちで進めたいけどなあ……」
 最終的に誰が鬼鎧の所有者となるか、彼には気がかりであった。
「天学生としては、鬼鎧がイコンに使えそうなら、喜んで協力させてもらうがな」
 天御柱学院御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が、葦原明倫館奉行{SNM9998935#ハイナ・ウィルソン}と共にやってくる。
「鬼の血を代用にするのは分かった。問題は、血をどうやって手に入れるかだ。今、マホロバでも鬼はレアな存在なんだろう?」
 紫音は天学生として単純にイコンとしての鬼鎧に興味があった。
 もし、鬼鎧を調査することによって、新たなイコンの可能性が引き出せるとしたら……彼女は居ても立ってもいられなくなった。
「紫音、あんまり根を詰めないほがいいどすぇ。科学は一日して成りはしまへん」
 同じく、天御柱学院の強化人間綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)は、鬼鎧に使えそうなイコンデータを入手を考えていた。
 逆にイコンに使えそうなデータを鬼鎧に流用し、共有化できれば、互いに性能を高められることができよう。
「主様や風花の手伝いをするのじゃ。何でも言ってくれ。失われた技術にも興味があるしのう」
 魔道書アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)は鬼鎧の歴史的背景が気になるようだ。
 天御柱学院の所有するイコンと鬼鎧は明らかに発生ルートが異なる。
 鬼鎧はマホロバの地で独自に作られ、使われてきたものだ。
「主、風花も。体を壊さぬようにするのじゃぞ」
 魔鎧のアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は、紫音達を気遣いつつ、データ収集を手伝っていた。
「どうぞ、皆さん。お茶が入りましたぞ−」
 悠也の妹である機晶姫卍 神楽(まんじ・かぐら)は、お茶汲みをしながら他の研究員に気を配っていた。
 彼女の煎れるお茶は御抹茶のように濃く、熱いものだったが、それが研究員の疲れた脳みそと心には丁度良かった。
「あれ、魔夜。鬼鎧に乗るの?」
 マホロバ人黒妖 魔夜(こくよう・まや)が、とてとてとやって来た。
 研究員たちと話し込み、鬼鎧に乗り込んで動かしてみるという。
「うん、マヤもお手伝い。あのおもちゃ、動かしてみてって」
「ま、魔夜。気をつけてね。我が家の大事なロリっ子が帰って来ないなんて事になったら、おにいさん悲しいですよ……なんだい、神楽。そんな目で見て……」
 悠也は冷ややかな視線を送る神楽に気がついた。
「兄様……品性を疑われるような言動は慎んでいただきたい」
「や、やだなあ、ボクは真面目だよ。小さい子がこんな鬼鎧に乗り込むんだからね。よし、おにいさんも付いていってあげよう。ボクの膝の上に座ると良いよ」
 悠也はいそいそと乗り込もうとしたが、神楽に袖を掴まれ、引きずり下ろされた。
「それじゃあ、マホロバ人と鬼鎧の正確なデータがとれないでしょーが!」
「あ……動いた」
 鬼鎧の中で魔夜が叫ぶ。
 悠也たちは少し離れてそれらを見守っていた。
「う、動くのか……?」

卍卍卍


 鬼鎧の中は、魔夜にとって不思議な空間だった。
 まるで体内の中にいるようか感覚だ。
 腹の操縦席には鏡のような光る円盤があり、彼女は手を伸ばす。
 ――と、魔夜は一瞬気を失った。
 夢のような景色が頭の中に広がる。
 そのとき彼女が見たものは、戦場――鬼鎧がずらりと並び立ち、その先頭に立って指揮を執る武将の姿だった。
 初代将軍鬼城 貞康(きじょう・さだやす)――見たことがないのに、魔夜にはわかった。
 これが、鬼鎧が……鬼が持っていた記憶だ。
「……魔夜、わかったよ。鬼鎧はね、もう一度マホロバ人と一緒に戦いたがってる。でも、もうあの時の人たちはいないんだ……だから繋がるものが欲しいって……」
 鬼鎧の中で目覚めたとき、開口一番魔夜はそう言った。
「鬼の血があれば、それを通じて何をしたらいいか分かるって。命令が伝わる、みたい……」
 魔夜はそう言い様、操縦席で倒れ込んだ。
 悠也が慌てて駆け寄ってくる。
「それがマホロバ人と同じ……鬼の血なのか?」
「鬼の血ならここにありますよ」
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が灯姫を伴ってやってきた。
 鬼城家の、鬼の血を付け継ぐ姫だ。
「鬼ということで役に立つなら、それがマホロバや将軍家の為になるのなら……この血をいくらでも使え」
 しかし、鬼としての彼女はかなり不安定である。
 それでも灯姫は腕を差し出した。
 将軍家に恨みはないのかと尋ねると、彼女は不思議そうな顔をしていた。
「なぜだ。生まれつきの器を、今更否定してどうなる。私は城の地下で何もかも失いかけたが。でも血の繋がってる弟が生きているだけで嬉しい。その希望を与えてくれてくれたのは、地下で出会った者達だ」

卍卍卍


 それからは不眠不休だった。
 佑也たちが調査した古の旗本と鬼鎧の関係から、現代人が鬼鎧を乗ろうとすれば、それに近い形を再現する必要があることが分かった。
 このコンセプトをもとに、改造が積み重ねられていく。
 試作機として完成したそれは、これまでとは少し変わった新しい鬼鎧であった。
「今までの鬼鎧はマホロバ人一人で操作してたみたいだけど、イコンの技術をちょっと入れたせいか、二人乗りでやっと安定した」
 と、研究員は語っていた。
「ただし、あくまでも試作段階だ。実戦で使ってみて、データを取りたい……」
 開発チームの声にハイナも実戦投入を検討していると言った。