リアクション
卍卍卍 大奥が急に慌ただしくなっていた。 御花実様の出産準備に追われていたのだ。 大奥の女官七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、御花実に真実を教えたい、生まれてくる子供はみんなで協力して守ると呼びかけていた。 「将軍様からの托卵には犠牲を必要とするの……失うものがあるってことを知って欲しい。御花実や大奥は、ただ跡継ぎのためだとか華やかなだけじゃないってことを……」 托卵の真実は、最初は若い女官達には受け入れられなかったようだ。 しかし、歩の真剣な説得や白姫の様子、また大奥取締役御糸(おいと)の肯定とも否定しない態度に、只ならめ雰囲気を感じ取っていた。 このようなときになると女官達は妙な結束を持つ。 徐々に彼女の言葉を聞き、仕事を手伝うようになっていった。 「歩、お前のお陰だ。私も、一時は安じていたのだが……」 御糸は安堵したかの表情をみせたが、すぐに厳しい顔に戻った。 「私は将軍に仕える大奥取締役として、将軍家の不利になるようなことは言えぬ。しかし、誰かが真実を言わなくてはならない日が来ると思っていた」 「御糸様、できれば貞継様の『天鬼神』の血のことも、触れたいのです。あの血のせいで、人が傷つくのを恐れていたこと。それが、托卵をいつまでも拒まれておられた理由だと。それでもなお、托卵をされたいと望む女性がいれば、将軍様も受け止めてくれる人だから……ってそう選んだはずです」 「それは、私だけの判断では決めかねるな。大奥や貞継様が望まれても、果たして将軍家や、家臣達が許すかはわからぬ」 御糸がそういったとき、大奥にどかどかと表の家臣と役人達がやってきた。 皆、それなりに身分が高い者だ。 御糸はことの事態に驚き、男達を一喝した。 「無礼な、ここをどこと心得ておられるか。将軍様の大奥ぞ!」 「その将軍様は東光大慈院でご療養中であられる。そしてこれは、大老楠山様のご命令だ」 高級役人が書面を目の前にかざした。 『御大奥取締役 贈収賄の罪にて取り調べ候』とあった。 大奥取締役の顔が青ざめる。 すぐに役人たちが彼女を取り囲もうとしていた。 「歩、きけ……」 「は、はい」 「私はこのままお役ご免となるかもしれん。お前が、大奥を引っ張っていくのだ」 「そんな! 私にそんな大役が務まるわけ……」 「いい訳はきかぬ。大奥は将軍様のお世継ぎを生み、育て、お守りする大事な役目がある。必ず、成し遂げるのだ」 御糸は早口にそれだけ言うと、家臣達に連れて行かれた。 歩は追い駆けようとしたが、役人達に追い返された。 彼女にはそれを止める術がなかった。 |
||