リアクション
○ ○ ○ 「このあたりには、まだ沢山いるんですね。沢山沢山いるんですね。いっそのこと、宮殿ごと壊してしまった方が良さそうですよね」 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、宮殿の中を神速で駆けまわっていた。 光条兵器使いの姿を発見した途端、接近して凄まじい速度と威力で、急所を突いて一撃で倒していく。 携帯電話には、インカムをつけてあり、パートナーとフリーハンドで会話をしながら、必要な場所に、即駆け付けて、敵を打倒していく。 「私はね復讐に来たんですよ、私の友達に重い負担をかけたヤツに」 それは、共に訪れた仲間達の前では、口にしない言葉だった。 ちらりと見えた人影数体に瞬時に迫る。そして鳳凰の拳で、一打で1体を仕留めた。 「きゃはははっ、ラズンはここだよ! 遊んでよぅ」 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)も、アルコリアと共に、神速で走り回り、光条兵器使いに拳を叩き込んでいく。 「……きゃふっ」 後方から飛んできた、光の矢がラズンの足を掠めた。 それは、ラズンにとって快感だった。 ラズンは敵を倒しに来たわけではない。戦いに来た。自分を傷つけるために、傷つけに来たのだ。 「皆こっち、走り抜けるわよ」 下の階から、明子や共に離宮に訪れた者達の声が響いてくる。 「アルコリアさん、まだ残っている人がいるの。1階に敵が下りてこないように、お願いね!」 アルコリアに向けられた、明子の声が届く。 「了解〜!」 アルコリアな黒い笑みを浮かべる。 「皆、皆、ここで終わりよ」 前方に現れた3体の光条兵器使いにつっこんで、等活地獄でまとめて打ち倒した。 それから一通り、宮殿内を走り回って、目に映る敵、全てを打倒した後、アルコリアとラズンは外へと飛び出す。 「復讐完了、ざまぁ見ろ……私っ」 アルコリアは振り向かずに、集合場所へと走る。 アラームの音が鳴り響いていた。 ○ ○ ○ 「お掃除にいったひと達、全てそろったです」 ヴァーナーが、大きな袋を抱えて、セツカや、南側に掃除に向かっていた者達と共に、北の塔の前に到着した。 ほぼ同時に、各方面からも契約者達が集まっていく。 「……騎士の他に、2人足りませんわ」 セツカが素早く人数を数え、ヴァーナーに伝える。 「まだ戻ってきてない人も、急ぐですよ!」 ヴァーナーは息を切らしながら、通信機で呼びかけた。 救助されたアレナは、皆が帰還の準備を急ぐ中、荷物で作った椅子に座らされていた。 皆が護ってくれたから、一切負傷はしていない。 隣には、一緒に離宮に残ってくれていた康之の姿があった。 二人だけで話したいこともあろうだろうと、皆は少し離れて護衛についてくれている。 「アレナは帰ったらどうするんだ? なんか俺達にとってはあっという間だったよな」 康之は微笑んで、隣に座るアレナに目を向けた。 「アムリアナ女王様や、優子さんのように、自分が護りたいと思うものを、護れるように頑張っていきたいです。でも何をすればいいのか、わからないんですけれど……。ただ、また皆のいる時代に目覚めることができたから……起こしてもらえたから、皆と一緒に、頑張りたい、です」 ゆっくりとそう言った後、アレナは不思議そうな目を康之に向けた。 「あの……」 「ん?」 「ありがとう、ございます。今、私がこんな気持ちでいられるのも、ちゃんと封印を行えたのも、康之さんのお蔭だと思います。……一緒に、いてくれたから。どんなにお礼の言葉を言っても、足りなくて、何と言えばいいのかわからないんですけれど、本当に、ありがとうございました」 アレナは康之に頭を下げた。 「いやいや、俺は自分が残りたくて、勝手に残ったんだぜ」 そう言う、康之の言葉はとても暖かくて、アレナを安心させていく。 「地上でやること沢山たまってると思います。大事な時間を、ありがとうございました」 「ここで過ごした時間は、無駄なんかじゃないんだぜ。地上にいるより大事な時間だと思った」 康之は、人質交換が行われた際に、アレナを護れなかったことを気に病んでいた。 そんな自分が、誰かを護ろうとする人を護ることが出来るのか。 邪魔をするだけなのではないかと、思うようになった。 そう悩んでいる時に、アレナが人柱になることが不可避なことだと知って、なんとか彼女の為に動きたいと思った。 アレナを護れないかもしれない。 頭脳も力も、特別秀でているわけではない自分は、邪魔になるかもしれない。 ……護れないかもしれないけれど、誰かを護るために離宮に封印されるアレナが、独りぼっちにならないように、助ける。 それが、あの時アレナにかけた言葉『護るのをやめて助ける』の真意だった。 「地上に戻っても俺は、初めて会った時や封印前に言った通りアレナを助けるために頑張るぜ」 にっこり笑みを浮かべた後、康之は少し不安気な顔になる。 「……けど嘘つきで弱い今の自分じゃ約束を果たせない」 人質交換の前に、何があっても護ると言い切ったけれえど、果たせなかったから。 嘘をついてしまったと、康之は思っていた。 「だから強くなり、絶対に約束を護れるようになる」 康之の真剣な言葉に、アレナは戸惑いの目を見せた。 「なんで……ですか? 私は、康之さんに何もしてあげてないのに」 それは、と。 康之は再びアレナに笑顔を向けた。 「今一番大切な人であるアレナと、心の底から笑いあいたいから」 康之の笑みと、言葉に、アレナは瞳を揺らした後、軽く俯いた。 少しの間沈黙して、それからゆっくりと言葉を出していく。 「昔は私、アムリアナ女王様が一番だったんです。今は、優子さんが一番……というか、全てなんです。でも、女王様も、優子さんも、私が一番じゃないんです。それでいいし、それがいいけど……。初めて、一番って言ってもらって、なんだか、怖いような、そんな気持ちもするんですけれど」 でも、と言って、アレナは顔を上げた。 康之を見つめて、ほんのり顔を赤らめて少し恥ずかしげな笑みを浮かべる。 「嬉しい、です……」 「うん」 康之は笑顔のまま、アレナの頭に手をぽんと乗せた。 「行こうぜアレナ。本当の笑顔を見せたい人の所へよ!」 そして、彼女の手を取って立ち上がる。 今度は一緒に戻るために。 「お、来た来た」 空からライトで照らし、ゼスタが仲間達に場所を知らせている。 「ただいまもどりましたよー」 ギリギリに、アルコリアはラズンと共に北の塔に戻って来た。 「お疲れさまです」 ロザリンドと、仲間達がほっと胸をなで下す。 その直後に。 封印の為に宮殿に残った、ジュリオとファビオがマリザの手を引いて飛んできた。 皆の元に到着すると、マリザはコウの元に舞い降りて、抱きついた。 「私、2人ほど早く飛べないから、お荷物になっちゃった」 くすりと笑みを見せたマリザに、コウは小さく頷いて見せて。 北の塔から、一緒に封印された離宮という空間に目を向けた。 照明はもう消してある。 ライトと、呼び出された人工精霊の淡い光だけが、離宮を淡く照らしていた。 離宮という空間を、肌で、目で、感じ取り、記憶して。 最後にコウは携帯電話を取り出して、一枚写真を撮った。 「さて、もう忘れ物はないな?」 ゼスタが降りたって、アレナの隣に立った。 「はい、私はないです」 「そっか」 ゼスタは彼女ににこにこ笑みを向けているが、この場ではそれ以上何も言わない。 「では、帰還します。アレナさんお願いします」 「はい」 ティリアは全員揃ったことを確認すると、アレナを呼んだ。 アレナが持つ女王器の力で、転送術者の回復と術の増幅が行われる。 「今は『おやすみなさい』そして『またね』」 鳳明は、セラフィーナと手を繋ぎながら、離宮にそう言葉を残した。 「やっておきたいことがあるの」 テレポート直前、リカインは突如、サクリファイスを放った。 「おい、何してんだよ!?」 倒れるリカインをアストライトが抱き止めた。 そして……。 |
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