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リアクション
「また使えそうなものも、汚れをとってからしまいましょう」
「血がついてたりしたら、怖がるヤツもいるだろうしな!」
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とベアは、倉庫の前に、回収してきたものを運んで、ゴミをゴミ倉庫に入れ、まだ使えるものを入れてきた箱の中身も、一つ一つ大切にチェックをして、汚れている物は丁寧に拭き取ってから、再び箱にしまっていく。
「ありがとうございます」
ソアは道具にもお礼を言った。
大切な仲間を、現場で守ってくれた物達だから……。
「ともあれ、全員戻ってこれて、よかったぜ」
「ええ」
ベアの言葉に、手を休めることなくソアは微笑んだ。
2人は裏方として、ここでそっと皆を手伝っていた。
「今回は怪我人はほとんどいなそうだな。……半年前のことは、今思い出しても胸が痛いが」
「同じ過ちを繰り返すでないぞ」
地上で、ファビオのパートナーの護衛や、ファビオの救出に尽力した緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と共に、届いた荷物の運搬を手伝っていた。
大きな仕事を終え、優子とアレナの再会を見た契約者達の姿は、おおむね穏やかであったが……。
亡くなった人々を運ぶ者達の顔は、決して明るくはない。
特に、回収班の指揮をとっていた風見瑠奈は、具合が悪そうだった。ティリアが付き添い、救護用の部屋に向かっていた。
代わりに、ラズィーヤへの報告は、ロザリンドが行っている。
「……これは」
次に、ケイが手に取ったのは、遺品が入れられた箱だった。
「ガラクタに見えるけど、全部大事なものだ」
そう言ったのは、現場でリーダー的立場であった武尊だ。
「うん、大事に運ぶよ」
ケイはそう答えて、慎重に箱を別邸の北側の部屋へと運んでいく。
その箱は、ずっしりと重かった。
いや、もしかしたら、重さはさほどなかったかもしれないけれど、ケイには非常に重く感じられた。
(俺は……ミクルとファビオの為に、全力を尽くしていたつもりだったけど……)
それだけで、頭が一杯で、自分の周りが良く見えていなかったのかもしれないと、ケイは思う。
安穏と地上にいた間に、離宮に向かった仲間達は多くの犠牲を払っていた。
戻らなかった仲間もいた……。
戻って来た仲間も、皆何かしらの傷を負っていた。
(俺にも、もっと何かできたことがあったのかもしれない)
自分が、不甲斐なかった。
せめて最後である今、少しでも皆の力になりたいと、ケイは思っていた。
「人間は万能ではない。一つを選べば、他の選択肢は選べぬのだ」
ケイの心情を察したかのように、カナタが言う。
「おぬしが助けた者が、残してきた仲間を救い出す助けとなった。現場にゆかずとも、繋がっておるのだぞ」
カナタも離宮に興味があったが、ケイと共に、地上で手助けをする道を選んできた。
「皆が持ち帰った資料、後程見せてもらおうか」
「……ああ、そうだな。知っておきたいことが沢山ある。同じ過ちを繰り返さないため。次はもっと、皆の力になれるように」
ケイは箱を、北の部屋に運んだあと、急いで北の塔の場所へと戻る。
「重い物も任せてくれ。休憩室も設けてあるんだ。皆、少し休んでくれよな。……お疲れ様」
仲間達にそう声をかけて、怪力の籠手で腕力を上げて、束ねてある重い荷物を持ち上げるのだった。
「お……」
荷物をどかした先に、ケイはファビオの姿を見た。
彼と一緒にいる人物も知っている。
騎士の柱に姿が掘られている人物だ。
パートナー達も交え、親しげに会話をしている。
無事を喜びたいところだが、今は声かけずに「お疲れ。……良かったな」そう小さく呟いて、別邸に向かって歩いていく。
「手伝うよ」
ケイの持つ荷物に手をかけてきたのは、クリストファーだった。
「いや、こっちは大丈夫だ。まだ荷物残ってるし、そっちを頼む」
「そうなんだけどさ。ちょっとあそこには近づき難くて」
くすりと笑みを浮かべると、クリストファーはケイから荷物を半分奪って、別邸の方へと歩いていく。
見たくないものでも、あるのだろうか。
そう思ったが、ケイは尋ねたりはしなかった。
途中で――。
クリストファーは、荷物が置いてある場所に目を向ける。その傍にいる、ジュリオに。
クリストファーの顔には、離宮の戦いでついた傷跡がある。ジュリオ・ルリマーレンの攻撃による、傷だ。
噂で聞いた程度の情報だが、どうもジュリオはあの時のことを、かなり気にしているらしい。
(敵になるも味方になるも、その時々の成り行きな面がある。負傷したのは実力の問題、戦闘に参加しながらいつも無傷なんてありえない、だから気にする事はないと思う)
そう思いながら、クリストファーは荷物置き場で分別をしているクリスティーを視線を移した。
(彼も勲章だと言ってくれたし、ね)
だが、当人がまだそう思えないというのなら、今回は顔を合わせない方が彼の為かなと考え、極力クリストファーはジュリオを避けていた。
いつか、語り合える日も来るだろうと、軽く笑みを浮かべながら荷物を運んでいく。
「ブリジット、皆さん、こちらですよ。担架を運び入れるのでしたら、窓からが良いかもしれません」
橘 舞(たちばな・まい)は、戻ったブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)、カルラ・パウエル(かるら・ぱうえる)を遺体の収容場所へ案内していく。
自らも、手を貸して担架を運びながら。
「酷い状態だったわ。やっぱり舞は来なくて正解」
ブリジットが大きく息をつく。
「そうですか……」
舞も、話を聞いた当初は、一緒に離宮に向かうつもりでいた。
だけれど、いるだけ邪魔、面倒見きれない、とブリジットに同行を拒否されてしまったのだ。
自分を気遣っての言葉だということは、解っていたけれど、やっぱりいらないって言われたようで、ちょっと寂しかった。
舞は舞なりに、地上でパートナー達を待ち、自分にできることで、皆の役に立っている。
遺体はすべて毛布でくるんであることもあり、血の跡なども目に付くことはなく、舞は冷静に皆の役に立てていた。
「もうすぐ家に帰れますからね」
部屋に運びこんで、毛布の中の人に舞がそう声をかける。
皆の魂が安らかでありますように。と、祈りながら。
「あとは、ご家族に確認していただくだけですね……」
迎え入れの準備を担当していた、菅野 葉月(すがの・はづき)は、戦死者のリストと遺体と遺品を照らし合わせて、確認をしていた。
遺品については、誰の所有物なのか、誰が使っていたものなのかわからないものが多数存在する。
それらは、テーブルの上に、遺族たちが見やすいように並べておいた。
「綺麗にしておこうね」
ミーナは濡らしたタオルで、遺品の汚れを落としていく。
感謝の念を込めて、丁寧に丁寧に。
「この方々は英雄として遇されるべき存在ですわ」
イルマ・レスト(いるま・れすと)は、ヴァイシャリー軍の正装を用意してもらっていた。
濡らした布で遺体の体を拭いて、汚れを落としてから、着替えさせていく。
「半年か……早いものだな」
共に、作業を行いながら、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は思いを巡らせていく。
半年前。元々本部を手伝っていた2人だが、後に暗所恐怖症のイルマを地上に残し、千歳は調査の為に離宮に下りた。
しかしその後、ソフィアの裏切りが発覚し、帰る手段も通信を行う手段も失い、調査隊は離宮に閉じ込められてしまったのだ。
「あの時……正直これはもう駄目かもしれないとも思ったものだ……」
自らの命を犠牲にした、ヴァイシャリー軍の人達の勇気がなければ、今、自分もここにはいなかったかもしれない。
だから彼らのために、千歳も何かがしたかった。
相変わらずイルマは暗所恐怖症なため、離宮に連れて行くことは難しい。
その為、2人は運ばれた遺体の安置を引き受けることにした。
「看護師じゃないから、エンゼルケアとまではいかないだろうが……」
丁寧に体を拭いて、イルマと一緒に軍服を着せていく。
「略式ですが、出来る限りのことはしたいですわ」
イルマは軍人達に死に化粧を施していく。
遺族もすぐに会うことを望むだろうから、時間もないけれど、限られた時間で、精一杯の彼らを立派な姿に戻していく。
「ありがとう。あなた方の勇気に敬意を表します」
「ご家族も誇りに思うでしょう」
千歳とイルマは、大切に体を拭きながら、感謝の言葉と敬意を示していく。
「もうすぐ、迎えが来ますよ……」
手伝いながら、葉月も目を開くことのない英雄達に、声をかけるのだった。
連れて戻った遺体のうち、ソフィア・フリークスの遺体だけは、ここにはなかった。
円に守られながら、別室に安置されている。
円はソフィアの遺体をいずれは彼女の故郷に埋めてあげたいと思っており、ラズィーヤにそうお願いをしていた。
そして。
検分が必要になるためすぐには円の元に戻っては来ないだろうけれど、多分その願いは認められるだろうと、ラズィーヤから返答を受けていた。
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