リアクション
「はははははは、未来のヴァイシャリーはもうすぐなんだもん!」 猫車を押したネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、凄まじいスピードで美術館中の通路を走り回っていた。ネコのお面を被り、パワフルな走りをずっと維持している。 押している猫車の上には、ちょっと年を食った未来のネージュ・フロゥが乗せられていた。こちらの方は、なぜか黒焦げで気絶している。心なしか、頭にはでっかいコブもできているようだ。 「待って、あたしー! 止まってー!!」 暴走するネージュ・フロゥの後ろからは、本物のネージュ・フロゥが必死に追いかけてきていた。 すでに、リカイン・フェルマータやジガン・シールダーズを始めとして、何人もが轢かれている。このまま放置しておいては、まだまだ犠牲者が増えるかもしれない。 「どうして、あたしが飾った絵から、あたしたちが出てくるのよね。もう、何がなんだか分からないんだもん」 まるで未来に行って自分自身と出会ったときのような混乱に襲われて、ネージュ・フロゥが叫んだ。 あの時は、金のカンガンガニを狩りに行ったのに、仲間の流れ弾に当たって未来のネージュ・フロゥがバタンキューしてしまったのだ。それを記念して描いてもらった絵を飾っただけなのに、この不条理さはとても困る。 「あ、危ないんだよ。どいてどいてどいてー」 「あはははははははは!!」 暴走する猫車の前方に人影を見つけて、ネージュ・フロゥが叫んだ。 「わあ、おもしろーい」 「どこがなんだもん。まるで、暴れ猫車だよね」 アルマ・オルソンと、クローディア・アッシュワースが、面白がるやら呆れるやらする。 「そんなことより、逃げないと!」 「危ないよ!」 シャーリー・アーミテージの叫びと共に、危機一髪で天王寺沙耶が二人を押し飛ばして助けた。 「ごめんなさいねー。こらー、待てー」 取り急ぎ謝ると、ネージュ・フロゥは猫車の後を追いかけていった。 「なんなんだもん、あれ。あれも絵が実物になったのかな?」 「こちらに、展示室がありますよ」 騒いだわりには結構面白がっている天王寺沙耶に、シャーリー・アーミテージが言った。 ネージュ・フロゥの猫車はグルグルと周回しているらしく、目の前にある部屋が元々の展示室らしい。 中には、コミカルな絵がオンパレードで展示されていた。ネージュ・フロゥの他の絵も何枚か飾られている。 「まさか、これも出てきたりしないよね」 天王寺沙耶がちょっと心配する。 「わーい、出てきたら面白いよね」 「冗談じゃないわよ。こんな二頭身ばっか溢れ出したらうっとうしいよね」 「面白ければいいのよ」 「面白すぎたらダメだよね」 アルマ・オルソンとクローディア・アッシュワースが、好き勝手なことを言う。 「二人共……。とにかく、もう出てこないでください。お願いします」 軽く二人をたしなめると、シャーリー・アーミテージが絵にむかってお願いした。 さてさて、元絵を無視して暴走する猫車であったが、いっこうに止まる気配がない。追いかけるネージュ・フロゥもそろそろ限界だった。 「うお、危ない。あれっ、ネージュ殿って双子だったん?」 危機一髪で猫車を躱したアキラ・セイルーンが、壁にべったりと張りつきながら首をかしげた。その目の前を、本物のネージュ・フロゥが駆け抜けていく。 「どうやら現在と未来と……ええっと、とにかくネージュみたいネ」 三人のネージュ・フロゥに戸惑いながら、アリス・ドロワーズが言った。 「……あんなちっこくて細い体のどこに、あれだけの力があるんだ?」 「大きさと力は比例しないワヨ」 見た目で判断してはいけないと、アリス・ドロワーズが言った。 二人をすり抜けていった猫車であるが、まったく止まるような気配を見せなかった。 「なんてパワフルなの、あたし……。でも、なんとかして止めないと……。ああ、あの時は流れ弾に当たっておとなしくなったのに……。いいえ、流れ弾に当たったのは、もう一人のあたしで、それをあたしが助けて……。ああ、もうややこしい。誰か助けて!」 「困ったときのお助け、迷走系魔法少女ストレイ☆ソア参上! ダブル・シューティングスター☆彡ですっ!」 そんなネージュ・フロゥの強い思いに反応してか、魔法少女姿のソア・ウェンボリスが二人も現れた。唐突である。さらに、唐突にシューティングスター☆彡が猫車に降り注ぐ。 「あはは……ちゅどーん」 猫車が吹っ飛んで霧となって消えた。 「あ、あたしは本物よー。関係ない……」 とばっちり気味に飛んでくる星の塊に、ネージュ・フロゥはあわてて逃げだした。 |
||