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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第1回

リアクション


第六曲 〜Round and Round〜


(・それぞれの結末)


「……あ、れ? 悠美香ちゃん……? っはは。死にかてて、幻覚でも見てるの、かな……。あー……」
 霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)はボロボロの要の姿を見て、泣いていた。
 出撃前に要にヒプノシスをかけられて眠ってしまい、なんとか起きて追ってきたものの、時既に遅しだった。
「何、やってるのよ……」
「はは。ちょっと無茶し過ぎたらしい。せっかく義腕、新しくしたのに……」
 だが、腕以上に深刻なのは彼の両足だ。
 青いイコンの衝撃波をガードした際に、義腕は吹き飛んだが頭と胴体は守れた。が、両足は守れずに腕と一緒に失ってしまった。
 生きているのが不思議な状態だ。
「……帰るわよ、要」

* * *


 シャンバラの寺院の基地で、指揮官を捕縛したことにより、組織の現状が明らかとなった。
 2021年に入ってから、地球各地の寺院や反シャンバラ勢力、テロリストに対し、安価でシュメッターリンクとシュバルツ・フリーゲがばら撒かれた。
 地球の闇市場にサロゲート・エイコーンが流れているというのは、忌々しき事態である。
 だが、現状の組織の大部分は、イコンを手に入れたばかりで、操縦技術を持ち合わせている者達はいない。
 ならば、かつて錬度の高かった者達はどこへ行ったのか。それについては何も分からない。
 強いて言えば、シャンバラとの戦いでそのほとんどが潰されてしまったのではないかという推測だけであった。

* * *


 ウクライナ。
『寺院の制圧は完了した。だが……』
 共同戦線によって、基地を制圧したものの、F.R.A.Gには煮え切らないものがあった。
 天御柱学院のレイヴンの暴走。
 今回は、対立を避けるために、学院の生徒は必死になってそれを止めようとした。
(シャンバラにとって我々は不都合な存在。それに、あれは事故であると主張すれば、十分逃げ切れるもの。あのままにしておけば、いくら第一特務が救援に駆けつけたとはいえ、こちらが全滅していた可能性は高い)
 無論、シャンバラは相容れない存在。
(でも、少しは……少なくとも、『現場』に来る学生達には協調を望んでいる者が多い。そう考えておくのが妥当かしらね)
 今回の件は、不可解な点が多い。
 上の思惑は分からないが、少なくとも自分がシャンバラの学生に助けられたのは事実だ。

『戦いは終わったが、先程の件で事情説明をしてもらいたい。もっとも、本部で暴走されたら困るから、あの黒い機体にはご遠慮願うが』
 ダリアがオープン回線で通信をしてきた。
『断れば、そちらに対立の意思があるとみなす。何名か我々と共に、来てほしい』
 それに対し、レオが自発的に申し出た。一応、ダリアを助けたうちの一機である。
(予定とは違ったけど、一応F.R.A.G側には行けそうだね)
 幸い、パイロット科長からの許可は下りた。それを知ったのは、実際は戦闘が始まるくらいのことだったが。
 そして、オープン回線とは別にダリアは連絡を送っていた。
「智宏さん、暗号通信です」
「……あちらさんから、ご指名ってわけか」
 一緒に来て欲しいという旨であったため、智宏達もまた、F.R.A.Gへと赴くことになる。

 そうしている間に、ローザマリアが基地に降り立ち、機体を一度降りた。
 被弾して、一度損傷箇所を確かめたいという名目でだ。
「ローザ、どうですか?」
「ここは、元から寺院の隠れ家として使われていた場所ね。ただ、イコンを送って来た者は分かったわ。そう、あのベトナムの基地が見えたということは……」
 やはり、最近になってイコンをばら撒いた者がいる。
 そして、地球にいることを利用し、マヌエル枢機卿とテレパシーを図る。
(ごきげんよう。お久しぶりね、マヌエル卿。五ヶ月越しの私は、貴方のお眼鏡に適う『生粋の軍人』のままでいられたかしら?)
(残念ながら、そちらの戦闘の様子を直にみていた分けではないんだ。後ほど、エルナージ第一部隊長から聞くことにするよ)
 傍観していたわけではないらしい。
(貴方の理念には興味がある、とだけは今のうちに言っておくわね。私は兵士――故にF.R.A.Gと共に在ることはやぶさかではないわ。私達はお互いに望むものを持っている筈よ。それを等価交換する為の契約を、結びましょう……近々、会いに行くわ。契約内容を話すことが出来る日を心待ちにしているわね)
(楽しみにしているよ)
 
* * *


「カミロ様、大丈夫でしょうか?」
 水無月 睡蓮はカミロ達と共に、シャンバラを後にしていた。
「ああ、問題はない」
 半壊したヴィクター・ウェストの研究所に着陸し、そこで青いイコンの詳細を聞く。
「手痛い目に遭った様だナ、カミロ・ベックマン」
「どうした、その姿は?」
「何、08号のせいでオリジナルの身体が粉々になってしまったものでナ。再生が終わるまデ、代用品を使っているだけダ。
 それよリ、そこの女はなんダ?」
 睡蓮はカミロの知り合い、とだけ答えた。
「まあいイ。それにしてモ、今回は想定外すぎタ」
「どういうことだ?」
 ヴィクターは笑っていた。このアクシデントすら楽しんでいるかのように。
「本来ならバ、エヴァン・ロッテンマイヤーの意識を08号に読み取らせることデ、『同一の自我』を持たせるはずだっタ。そうすれバ『二つの肉体を持つ』個人となリ、一つの意思で二つの身体を同時に操れるようになル」
 この科学者は身体の概念さえも覆そうとしていたらしい。
「ところがダ。08号の方二、確かにエヴァンの人格は上書きされタ。だガ、完全ではなかったのダ。08号の中に押し込められていた負の感情――そんなものはないと思っていたガ、あったらしイ。それが人格を得ることで爆発シ、エヴァンの意識をも乗っ取ってしまったのダ」
 08号は人間のあらゆる負の感情を集約したような存在らしい。
「それを生み出したのは、お前だろう?」
「そうダ。くク……さア、面白くなるゾ。あの『暴君』はもう止まらなイ。止められるとしたラ、それはエヴァンの意識が戻ったときダ。そんなことはあり得ないだろうガ」
 狂っている。
 実際に会って、睡蓮はそう感じた。
 しかし、ここまで来た以上、学院には戻れない。

* * *


 天御柱学院。
 レイヴンの暴走の一件は、すぐに役員会の知るところとなった。
「風間君、どういうことだね?」
 責任者として、風間は呼び出されていた。
「私にとっても予想外の出来事です。まさか、イコンが人間を支配するとは」
 ブレイン・マシン・インターフェイスによって、機械と脳の間で情報のやり取りが行われる。イコンが人間の脳の思考パターンを認識し、人工知能として覚醒した可能性がある、と風間は指摘する。
(ドクトルの危惧も、的外れではなかったということですか……)
「それだけでは説明がつかないのだが。それで、パイロットの容態は?」
「メインパイロット、烏丸 勇輝は脳に深刻なダメージを負い、再起不能。そのパートナーの桐山 早紀は不安定な状態になっており、衰弱し切っています。回復には時間がかかるかと」
 だが、あくまで今回のは誰も予想出来なかった事態だ。
「風間君。次はない。覚悟しておきたまえ」
「……はい」

* * *


 レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)は、暴走した烏丸機も含め、レイヴンのデータ解析を行っていた。
(これは……)
 それは、リミッターがかかっていたはずのレイヴンのBMIシンクロ率が、烏丸機の暴走後、時折20%を超えているというものだった。
(複数の機体が集まると、最も数値の高い機体に上限が合わさってしまうというのか……)
 また、彼はイコンから降りてきた茉莉の様子を見た。
「二人とも、どうしたの?」
 レイヴンに乗る前より、どこか様子が違う。
 むしろ、レオナルド以上に一緒に搭乗していたダミアンの方が戸惑っているようだった。 茉莉が去った後、ダミアンから、イコンに乗っているときの茉莉がまるで別人のようになっていたと知る。
(ドクトルに報告しなくては)

 だが、ドクトルの元には、既に先客がいた。
「レイヴンに乗る? やめておきなさい。ウクライナで何があったのかは聞いているだろう!?」
 榊 孝明は青いイコンの戦いを通して現行イコンの限界を知った。
「分かっている。でも、俺もあなたと同じ考えだ。負の感情ではなく、正の感情――強い意思を持つことでシステムに抗い、乗りこなせるということを証明した……いや、してみせる」
 烏丸 勇輝は失敗したが、自分はやってみせる。そう決意してのことだ。
「そして今度こそあいつと堂々と向かい合い、超えてみせる」
「下手をすれば、君も同じ目に遭うかもしれない。それでも、乗りたいというのか?」
 孝明は黙って頷く。
 こうしてまた一人、危険な領域に足を踏み込んでいった。