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リアクション
3.
「その館……確か所有者はエルジェーベト伯爵夫人、だったか。他人の所有する土地よりその固有財産を無許可で持ち出す事。これを窃盗と言う、知らん訳ではあるまい?」
レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)が、一同を見渡し、そう告げた。
夏の館では、薔薇の学舎の生徒たちと、教導団の一派が、半ば睨み合いで対峙していた。
レオンハルトがタイミング良く現れたのは、橘 カオル(たちばな・かおる)がこの館を監視し、薔薇の学舎の生徒が魔道書を手に入れた後、夏の館の敷地を出る瞬間を教えていたからだ。
しかし、そのようなことは、レオンハルト自身はおくびにも出さない。
「オレたちは校長の命を受けて、捜索に来ただけだ!」
デイビッド・カンター(でいびっど・かんたー)がそう言い返すが、レオンハルトは冷徹な一瞥をくれる。
「窃盗の首謀者が校長だということなだけであろう。悪いが犯罪者を見逃すべし、との教示を
国軍では受けていない。現行犯として御同行願おうか」
「…………!」
いきなりの犯罪者扱いに、デイビットの頬が怒りに紅潮した。しかし、その腕をハルディア・弥津波(はるでぃあ・やつなみ)がそっと留める。
「デイビット、落ち着いて」
「けど……っ」
レオンハルトの背後で、シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)とルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)が目を光らせている。カオルも、今は彼らに合流を果たしていた。
「あは、すみませんねー。貴方達はここでゲームオーバーです」
「えっへへー、逃がさないんだよっ」
そう、にこやかに二人は告げた。
「それに、なんだか他にも、気になる人がいますしね」
シルヴァの視線は、ナンダ・アーナンダ(なんだ・あーなんだ)に注がれている。七曜の一人である彼は、それだけで分が悪い。
「……俺たちは何もしていない。胸をはって、ひとまずは彼らに従おう」
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)がそう口にし、確認をとるようにクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)を見やる。クリスティーは、黙ったまま頷いた。
「懸命な判断だ」
レオンハルトが、満足げに笑う。
「魔道書を渡したまえ」
「それは、拒否する。駐留所に到着の後、しかるべき手続きを踏んでいただきたい。それと、同行するのは俺だけで良いだろう? 持ち出したのは俺だ」
そう、呼雪はきっぱりと拒絶した。
「あはっ、ぐだぐだうるさいですよ☆」
シルヴァがそう言い、「拒否するならば力づくで」とばかりに呼雪に近寄ろうとする。その前に、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)とヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が、敵意も露わに立ちふさがった。
「…………」
ぴく、とシルヴァの眉が動く。しかし。
「お願い。到着すれば、調査はご自由に。ただ、安全に運びたいというだけだから」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、重ねてそう頼む。同時に、レオンハルトがシルヴァを視線で制した。……あくまで正当防衛という名目がなければ、後々困るのは、レオンハルトたちにしても同じことだ。
「どうやって?」
「私が非物質化した上で、私自身を容器としてガードするわ」
「…………」
呼雪は暫し迷った。けれども。
「大丈夫だよ。預けよう」
決断をしたのは、クリスティーだった。
「かわりに、逮捕するのは、ボクと、呼雪さんたちだけにしてほしい。イエニチェリ二名が含まれるなら、充分じゃないか?」
「そうだな……それと、そこの七曜。彼には同行を願おう」
レオンハルトがそう指示をする。ナンダは渋面ではあったが、静かに前に歩み出た。
教導団に魔道書を手渡すことに抵抗はあったが、なにか考えがあってのことなのだろう。呼雪はそれを信じることにし、ため息をつくと、ルカルカへと魔道書を手渡した。
「これなんだね」
「偽物ではないからな」
呼雪がそう釘を刺すと、ルカルカは「もちろん」と答え、慎重にそれを己の中に取り込んだ。
「では、ご同行願う。車を用意したので、そちらに乗り込んでくれ」
カオルの呼び掛けに、一同は静かに歩き出した。勿論、内心にはそれぞれの思いはあったが。
「…………」
その中の一人、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、ちらりとレオンハルトを一瞥する。
「祥子?」
「……薔薇の学舎に急ぎましょう。ジェイダス校長に伝えないと」
湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)の呼び掛けに、祥子はそう答え、移送車に乗り込む彼らに背を向けた。
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