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リアクション
2章
生徒達はいくつかのグループを組み、いよいよ洞窟への探索が始まった。
しんがりを務めるのは、薔薇学の清泉 北都(いずみ・ほくと)、クナイ・アヤシ(くない・あやし)、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)、白銀 昶(しろがね・あきら)。協力者として、蒼空学園の瀬島 壮太(せじま・そうた)が、彼らに同行している。
洞窟内に、ぼんやりと灯りがともる。北都の手に握られた懐中電灯と、壮太の手に光る指輪が、その光源だ。うねうねと続く洞窟を、壮太は念のためマッピングやマーキングをしつつ進んでいる。いざというとき、帰り道に迷っては洒落にならない。
誰もが感覚を研ぎ澄ませ、警戒を続けている。モンスターと違い、罠は殺気がない。そのため、頼るは己の感覚のみだ。
「カモフラージュはしてあるけど、……人工物だねぇ」
彼らを取り囲むむき出しの岩肌に触れ、北都が呟いた。自然物に見えるよう巧妙に作られているものの、こうして触れ、歩いていると、そうではないことはすぐにわかる。足場もしっかりと作られ、罠以外に崩れ落ちるような場所もない。
しかもその内部は、外から見るよりもずっと複雑な迷宮だった。文献にも、さすがに地図までは載っておらず、生徒たちは手分けして探し回る他にない。
必ず三人以上で行動するようにしたものの、ここは携帯電話も圏外であり、横に連絡を取り合うのは困難だった。
「いずれ、この道も整備するのかね。装置が見つかったって、いちいちこの騒ぎじゃ困るだろ」
壮太はそう口にし、それから、元来た道を躊躇うように振り返った。
「どうかしたか?」
足を止めた壮太へ、ソーマが振り返る。
「いや。……妙な奴らが、来なきゃいいなと思ってな」
「入り口で警戒をしてくれていますから、おそらくは大丈夫でしょう」
クナイはそう言うが、一抹の不安は拭いきれないのは、彼自身も同じだった。
壮太の言う、『妙な奴ら』が、先日ここを襲ったイコン……そしておそらくは、ウゲンの関係者ということは、わかっている。そしてその名が、同時に、あのイエニチェリの名をも彼らに思い起こさせた。
「黒崎、どうしてんだろな」
ぽつりと、壮太が呟いた。彼にとっても友人であり、なにかと顔が広い生徒だ。彼の裏切りにショックを受けているのは、壮太も同じだった。
「なにか考えがあるんだろうって思うけどさ」
「……そうだねぇ」
北都が同意し、小首を傾げた。
「昨日、このあたりで見かけたって話だけど。彼には理由があっての行動だろうし、今は責任追及よりも、やらなきゃいけないことがあるでしょ?」
「まぁ、そうだな」
壮太が頷いた時だった。ぴく、と昶の尖った耳が動く。
「誰か、来るぜ」
ひくひくと鼻をきかせ、昶はじっと気配を探っている。彼らの前では、道が二つに分かれていた。どうやら、その左側から、誰かが近づいてくるようだ。咄嗟にクナイは北都の身を庇うように前に立ち、ソーマと壮太もまた、身構えた。
「……嫌な匂いは、しないな」
ならば、少なくともモンスターではないだろう。
「誰だ?」
ソーマが尋ねると、返事はすぐにあった。
「僕らだよ。……この先は、ダメだ。崩れて、行き止まり」
戻ってきたのは、上月 凛(こうづき・りん)と、ハールイン・ジュナ(はーるいん・じゅな)。それと、壮太と同じく協力者である天御柱学院の桜葉 忍(さくらば・しのぶ)と織田 信長(おだ・のぶなが)だった。天井が崩落したようで、誰もが埃まみれだ。
「怪我はない?」
北都が尋ねると、「大丈夫だ、ありがとう」と忍が答えた。
「案ずるでない。あれしきのこと、問題にもならぬわ」
信長が腕を組み胸を張ると、豊満なバストがより強調されるのだが、あいにく本人はあまり気にかけていないようだ。
「と、……こっちは、バツと」
壮太はそう呟きながら、地図を書き込んでいる。
「それでは、この先はご一緒に行きましょう。また分かれ道になったときに、手分けすればよいですし」
ハールインが穏やかな口調でそう提案し、彼らは連れだって洞窟を歩き出した。
この先は、緩やかな下り坂だ。天井は低く、小柄な凜や北都はまだ良いが、長身の面々はやや屈んで進まねばならなかった。
「ナラカの力をエネルギーに変換する装置か……どんな装置だろうな?」
道すがら、ふと忍がそう疑問を口にする。
「どんな装置かは、この目で直接見てみればよい。そのために進んでいるのじゃろう」
「まあ、たしかに見てみないとどんな物か分からないよな」
信長の端的な答えに、忍は頭をかきつつ同意した。
「けど……それって、本当に安全なものなのか?」
凜がぽつりと呟く。
凜には、最初からそのことが不安だった。果たしてナラカの力が、正しく地球やパラミタのためになるのだろうか?
必要なことはわかっている。ジェイダスがずっとそれを探していたことも。だが、強い力は同時になにかを歪ませるものだ。
凜のそんな気持ちを感じてか、ハールインが気遣わしげな眼差しを向ける。
「それは、僕も思うなぁ」
同意したのは、北都だった。手にした懐中電灯は、迷いなく正面を向いたままだったが。
「どうしてこの装置を、タシガンの民は隠すに留めていたのかもわからないしねぇ。それに、どんなに凄いエネルギーでも、危険を伴うようなら、手放すことを考えることも必要なんじゃないかなぁ。……ジェイダス校長のことは尊敬しているけど、全てを肯定するわけじゃないしねぇ。間違っていたら、指摘することも、薔薇学生の役目じゃないかなぁ、って。……ちょっと図々しいかな」
「いや」
凜は首を振り、やや自嘲げに付け加えられた北都の最後の一言を否定する。
「……僕も、北都の言うとおりだと思う。だから、それを確認するためにも……見つけないとな」
「そうだねぇ」
北都は振り返り、凜に微笑みかけた。
やはり、同じ気持ちの生徒がいるというのは、嬉しいことだったからだ。
「うむ。その通りじゃ。……」
(しかし……)
信長は生徒達の決意に力強く頷いたものの、ふとその表情を曇らせた。
「どうかした?」
「いや、たいしたことではないわ」
忍の問いかけに首を振り、信長は胸に抱いていた予想を口にすることはしなかった。忍と二人きりならばともかく、薔薇の学舎の生徒の前で言うことではないと思ったからだ。
装置の起動のために必要なもの。散らされる、13の星。それはイエニチェリの命ではないのか? と。
選ばれた捧げもの。未来のためへの美しい犠牲だ。
少なくともそうだとすれば、タシガンの民が装置を『護る他にできなかった』理由にはなる。
(しかし、そうやすやすと命を投げ出すとも思えぬがのぅ)
信長は、内心でそう呟いた。
すると。
「……嫌な匂いがするぜ。甘いけど、すごく、妙な匂いだ」
戦闘を歩いていた昶が、出し抜けに彼らにそう警告した。
「甘いってのは、どういうことだ?」
ソーマが昶に尋ねたが、答えたのはクナイだった。
「おそらくは、例の植物ではないかと思います。……惑わされぬよう、注意して参りましょう」
「幻覚ってやつか?」
「おそらくは、そうです」
「はっ。幻など恐るるに足らぬわ」
信長が不敵に微笑み、忍を見やる。忍もまた、決意を秘めた瞳で頷いた。
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