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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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雲の行方
 
 時間は遡る。
 マリーたち教導団世界樹班がユーレミカに到着し、永谷たち輸送部隊がユーレミカを目前にした頃まで。
 
 雲流れ平野を抜け、雪原を行く旅人の姿があった。
 それは少し前まで教導団輸送部隊の旅の道連れとなっていた秦野 菫(はだの・すみれ)たち葦原の一行だ。
 ユーレミカへと向いていたその足は今はエルジェタ密林へと向けられている。
 理由は――空を往く龍の姿を見たからである。だが、上空にその影はなかった。
 ふと足を止めると菫は空を仰ぐ。
 広がるのは灰色の曇天。日の昇ることのないコンロンの空は今日も暗い。 
 歩み止めたパートナーに梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)李 広(り・こう)は何事かと顔を見合わせる。
「菫さん?」
「どうかしましたか?」
「今日の天気はいまいちでござるなぁ」
 ほら、と菫は遠く霞んで見える巨大な木を指差す。
 つられるように二人も視線を動かす。 
「見てみるでござるよ。世界樹にかかる雲の色が昨日より少ぉし濃いでござる」
「そうですか? わたしくには昨日とそう変わりがないように思えますが……」
 目を凝らしても仁美にはその違いはよくわからなかった。
 だが、李 広は違った。
「菫さんの言うように影が差しましたね。……惜しいですが、この旅もそろそろ潮時かもしれません」」
「え? どういうことですか? 李 広様」
 菫が見、李 広が指差す空の色が濃くなった。
 黒い雲が驚異的な速さで近付いて来る。
 やがて、唸りと翼が空を切り、三人の前に龍騎士の一団が降り立った。
 
 * * * 
 
「貴様たち、何者だ?」
 龍騎士の一団は三人を取り囲むと詰問した。
 不躾で高圧的なその物言いに仁美は眉を顰める。
 そんなパートナーを庇う様に前に出ると菫はにこりと笑ってみせた。
「拙者たちは旅の者でござるよ」
「旅? 女が三人でか? ……しかも、こんな場所を、か?」
 疑いとも、呆れともとれる反応が返ってきた。
「風の向くまま、気の向くまま。見聞を求めて、まだ見ぬ地を歩くことに何か不都合でもあるでござるか?」
 龍騎士は頭の先から爪先まで値踏みするように菫たちを見やり、鼻を鳴らした。
「ハッ。このご時勢に物見遊山か。いい気なものだな」
「こんな時勢だからこそ、でごさるよ。拙者、気になるものは自分の目で見たい性質なのでござる」
 しれっと言葉を返し、今度は逆に問い返す。
「帝国の龍騎士の方々とお見受けするが――このご時勢とは?」
「――忠告してやろう。じきにこの辺りは戦場になる」
「争いになるのですか?!」
 その言葉に反応したのは仁美だ。不安に染まった瞳で龍騎士に問う。
「そうだ。この地をシャンバラから守るために大帝は我等は差し向けられた」
 巻き込まれたくなければ首を突っ込まぬことだ――そう言い残して龍騎士は飛び立っていった。
「行ってしまいましたね。菫さん」
「――もっと締め上げられるかと思ったでござるが……拙者たちも軽く見たれたものでござるなぁ、李広殿」
「聞かれたところで、答えられることはあまりありませんでしたけどね」
「それもそうでござる」
 二人の声を聞きながら、仁美は龍騎士が飛び去った方角を見たやる。
 あの先にはコンロン最北の都市があり、世界樹・西王母がある。
 故郷マホロバのことが頭に浮かんだ。
(やはり、戦いがはじまり罪もない人々が巻き込まれてしまうというのでしょうか……)
 やりきれない想いが仁美の胸を締め付けた。
 と、肩に温もりが触れた。
「……菫さん」
「この国のことはこの国に任すしかないでござるよ」
「えぇ……そうですわね……ねぇ、菫さん。どうでしたか?」
「――コンロンまで来た甲斐はあったでござるよ」
 龍騎士は帝国の先触れであり、力の象徴だ。
 彼らが動いたということはそう言うことなのだ。
 多くの争いが大義の名の下に行われる。
 エリュシュオンもそうなのだ。その大義の裏に何があるのかまではわからないが。
 だが、この土地はエリュシュオンのものでも、シャンバラのものでもない。
 コンロンの民のものだ。
「でも、どちらが勝つのが良いのでござるかなぁ……」
 それは菫にも、いや、誰にもわからない。今はまだ――