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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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激突・龍騎士団 〜雪原の行進曲〜
 
 雪原の小さな街で後続との連絡要因として待機していた軍師マリーのパートナー蘆屋 道満(あしや・どうまん)と合流した後続の輸送部隊はユーレミカを目前に控え、小休憩を取っていた。
「マリちゃんの頼みとは言え、一人はなかなかに暇だったのだよ」
「待たせて済まなかったな」
「で、でも……待っていてくれて、た、助かりました」
 と、本営派遣の大岡 永谷(おおおか・とと)が答えれば、クレセントベース派遣のレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)がぺこりと頭を下げる。
 エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)がティーパーティーで用意してくれたお茶菓子とお茶を手に情報交換の真っ最中だ。
 三人が覗き込むのはコンロンの地図には大量の朱書きがされている。
「これで、今の状況はおおよそ理解できたよ。問題は」
「――帝国の龍騎士であるな。今はまだ……」
 道満が言い差したところへ、斥候に出ていた徐 晃(じょ・こう)と同行していたながねこたちが駆け込んできた。
「ど……どうかしたんですか?……」
「敵ニャー。たくさんいるニャー。空飛んでるニャ」
 ふわふわの毛に覆われた長い体でレージヌに飛びつきながら、ながねこが報告した。
「何だって?!」
「やはり――数は?」
 ニャーニャーと告げるながねこたちの後ろから徐 晃が答える。
「敵兵は100。配置は――」
 地図に新たな印が書き込まれる。
 もはや戦闘は避けられない。
「――レジーヌ。クレセントベースからの団員を任せていいか?」
「は、はい……足手まといにならないように頑張ります」
「なら俺もそちらに入ろう。何、かつてはラスボス、敵将まで務めたオレだ。遅れはとらん」
「ああ。頼む」
 三人は顔を見合わせ、頷き合うと駆け出した。
 
 * * * 
 
 雪原で待機していた団員たちに永谷が指示を飛ばす。
「よし。皆、これより我が補給部を突撃部隊とする!!」
 威勢の良い、だが、どこか緊張したそれに声が応じる。
「気負うことも、慌てることもない。落ち着いて、自分にできる全力を尽すんだ。総員、戦闘準備!!」
「「「「おぉー!!」」」」
 
 
 ながねこたちに囲まれて、お茶を楽しんでいたエリーズは膨れっ面でパートナーを出迎えた。
「もうっ。猫さんとのもふもふ邪魔されちゃったよー」
 遊んでいた名残なのか。エリーズに体にはながねこたちが数匹巻きついたままだ。
「ご、ごめんね。エリーズ」
「ううん。レジーヌのせいじゃないから。気にしないで。ごめんね」
 何故か責任を感じて身を縮めるレジーヌにエリーズは首を振る。
「さ。私、レジーヌのために頑張るよ。何でも言ってね」
 そこに道満と徐晃が後を追って姿を見せた。
「永谷の部隊が突撃をかける。オレたちはその後詰だ」 
「さあ。レジーヌ。貴公が号令をかけるでござる」 
 エリーズの、道満の、徐晃の。
 それぞれの言葉がともすれば震える体を支えてくれる。力をくれる。
 背筋を伸ばすと、レジーヌは口を開いた。
「……みなさん!! 戦闘の準備を。これより――打って出ます」
 
 * * * 
 
 灰色の空を埋め尽くすかのような龍騎士の群れ。
 白い大地に立つ教導団の部隊。
「報告!! いました。前方に部隊を確認――帝国の龍騎士団です」
「――あれはシャンバラ教導団。援軍かっ。ユーレミカに入る前に叩き潰せ!!」
 咆哮があがったかと思えば、空中から攻撃が開始された。
 
「孤立する必要はありません!! ながねこさんたちは必ず5人一組で」
「ニャー! がってんニャー」
 少女の可憐な声が響き、わらわらとねがねこたちが陣形を組む。
 突出しないこと、無理をしないこと。
 それが戦闘経験の少ないねがねこたちへの命令――いや、レジーヌのお願いだった。
 ちなみに見聞を広めるために出兵に同行させたとびねこは後方で待機中だ。
「後ろは拙者に任せて下され。レジーヌ殿は前に集中を」
 徐晃が槍を構え腰を落とした。
 その目は絶えず周囲を伺い、斥候で得た情報を元に味方に有利な陣形をはじき出す。
「とりあえず、龍から下ろさないとね。私に任せて」
 エリーズはとびきりの笑顔で六連ミサイルポッドを叩く。
 加速ブースターの準備も万端だ。
 レジーヌは大きく息を吸うと号令をかけた。
「行きます!! 総員、進撃開始してください!!」
 
  
 空を裂く音が耳元を掠め、抉られた雪が宙に舞う。
 矢継ぎ早に繰り返される攻撃を避けながら永谷は前線を維持する。
 空を飛ぶ敵には地上からの攻撃が届かないのがもどかしい。
「――無理はするな! 第一列は後退しろ! 第二列、前へ!」
 その後方から少女の声が響いた。
 レジーヌの号令だ。
 味方の間を縫って、発射された弾が綺麗な軌跡を描き――龍の翼を射抜いた。
「今だ! 突撃!!」
 爆音に怒号が混じる。
 それが合図となって、龍騎士団と教導団の戦いは始まった。
 
 * * * 
 
 雪原での戦いを影から見守る一団があった。
 遠くマホロバの地から、世界樹と対話するためにコンロンへとやってきた者たち。
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が率いる【鬼城忍者部隊・八咫烏】の面々だ。
「先に放った斥候の情報通りですな。マスター」
 配下たちの報告を重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が纏めれば、
「ルートは全部で十通りだ」
 武神 雅(たけがみ・みやび)がキーボードを叩いて示す。
「ちなみに、ユーレミカは雪だるまと交戦中らしい。現地の民と交渉する余裕はなさそうだ」
「マスター」
「愚弟」
 異口同音に我竜の名を呼ぶ。
 しばしの沈黙の後、牙竜はもう一人のパートナーの名を呼んだ。
「――灯」
「ガードインストール」
 掛け声一つ。龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)の体は鎧――ケンリュガーへと転じた。
「――戦っている連中には悪いが、俺には果たさねばならないことがある!」
 コンピューターの指し示すルートから一つを選ぶ。
「鬼城忍者部隊・八咫烏――これより世界樹・西王母を目指す!!」
 灯を纏った牙竜の姿が掻き消えた。
 リュウライザー、雅、そして配下たちもそれに続く。
 疾風の如き一団は、他の何にも目をくれず、真っ直ぐに世界樹を目指した。
 
 * * * 
 
 ――ズゥゥゥン
 エリーズの姿が残像を残しながら、地に落ちた龍騎士の間を駆け抜ける。
 翼をもがれた騎士たちは急所を狙ったレジーヌの一撃とながねこの連携。
 そして、永谷の突撃によって、少しずつ。
 だが、確実に数を減らしていた。
 その連携の要を狙う者もいた。
 だが、それは彼女を守る槍の一撃。
 深追いを禁じ、戦力確保のための永谷の的確な撤退指示をよって叩き潰されていた。
 
 この補給部隊には絶対的な火力はない。
 だが、戦略と連携があった。
 敵を霍乱し、組織的行動を取らせないという永谷の戦略は今最大の力を発揮していた。 
 
 そして―― 
「く、くそ……我等、龍騎士団が――うぉ?!」
「そこ、です」
 敵将の目をレジーヌの一撃が焼く。
「落っこちちゃえ!!」
 その隙をついて、エリーズの銃弾が竜の翼を貫き。
「――もらった!!」
 地に落ちた指揮官を永谷の槍が討ち取る。
 雪原に勝利の歓声があがった。