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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

リアクション


・天学イコン


「では、本日の会議を始めます、まずはこれまでのおさらいですね」
 会議の議事録を開き、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)が切り出した。
 議事録自体はコピーをとって、参加者に配布されている。今回の議事録はクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が作成、仕様書、及び報告書に関しては真琴の方でまとめることになっていた。
「方向性としてはイーグリットをベースとした高機動、高出力の攻撃型ですね。それを元に、具体的な仕様についての意見を出していきましょうか」
 最初に意見を出したのは、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)だ。
「最終的には天御柱学院の方々の意見が優先されるべきだと思いますので、あくまで参考までに、ということで出させて頂きます」
 説明を始める。
「基本的な部分については、前に出した部分と変わりません。高出力化にあたり、大型化の方向でいいのではないかと思います。
 メインの武器については銃剣ですね。ビームサーベルとライフルの良い所取りが出来ればどうかと思った次第です。これまでの話では攻撃型とは言っても、至近距離・間接距離どちらの意見もあったかと思います。幅広いニーズに応えるためにと思い、このような形になりました」
 訓練を積んだパイロットなら、そうったオールラウンドな武器も上手く扱うことが出来るだろう。
「その他の装備に関してですが、基本コンセプトに沿う形のものであるなら、進んで取り入れるべきかと思います。例えば補助ブースターやスラスターとかでしょうか。しかし、あまり多機能化しても生産・整備が難しくなるだけなので、逆に言えばコンセプトに沿わない機構……例えば武器格納なり過剰なまでの補助装備等ですね、については今回は外した方がいいかと思います。無論、基本コンセプトに沿う明確な理由があれば別ですがね」
 あくまで堅実に。それが彼の提案であった。
「これは個人的に思うことなのですが」
 アウグスト・ロストプーチン(あうぐすと・ろすとぷーちん)が口を開いた。
「イーグリットをそのまま第二世代機にするまえに、試作機として一度一.五世代機相当のものに再設計する必要があるのではないでしょうか」
 それに相当する機体はレイヴンとガネットが天御柱学院に存在するが、一方は超能力者用、もう一方は可変機構による水中仕様の適用と、純粋に性能の向上を図ったものではない。
 そのため、イーグリットを一.五世代機にした後、それをベースに第二世代機へとするという過程を踏まねばならないということらしい。
「性能に関して、ポテンシャルの全体的な底上げではなく、あくまで第二世代機の方向性に倣ってパワー、機動力を最大限に引き上げ、照準を第一世代機比で七十パーセント上昇。エネルギー、センサー類を五十パーセントほど引き上げる。機甲は見送られる形になりますが、防御特化機との連携で十分カバーし得るものであると考えられます」
 それから、武装案についてを伴 長信(ともの・ながのぶ)が述べる。
「わざわざ専用の武装を用意することには疑問があるので、あくまで既存の武装を装備出来るようにするだけでいいのではないでしょうか。もし専用のものが必要なら、腕、頭部、胸部に内蔵式にする方が効率がいいのかもしれません」
「加えてになりますが、わたくし達として譲れないのはやはり、四枚の大型バインダーの搭載です。機体制御に必要なスラスター基部、大出力の推進器も内蔵しており余剰スペースに携行武器を収納するコンテナを持ちます。また、以前にも申し上げた通り、それ自体がシールドの役割を果たします」
 問題は、それによって整備の手間が増えてしまわないかという点である。
「私としては四枚のバインダーによる多機能性ではなく、あくまでコンセプトに沿った形での一対のウィングバインダーを提案します」
 エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)が説明を始める。
 前の会議のときと同じように、スクリーンを使っている。操作しているのはラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)だ。
「補助的にスラスターで姿勢制御を行い、また飛行時の揚力を得ることを目的としているものです。現在の天学イコンは、飛行時の姿勢制御が楽ではありませんからね。それに、あまり多機能にしてしまったらトラブル発生時のリカバリが難しくなりますから」
 次いで、ラグナルが機体の仕様についてを話す。
「再設計した強襲型イコン『グリプス』だが、機体の特性としては機動性及び出力を重視。装甲に関しても一定の向上を図る。いくらブルースロートがいるとはいえ、防御を頼りっ放しにするのも危険だからな。さらに汎用性を持たせるために地上での運用も視野に入れ、足回りを改良。足底部の面積をベース機より広く取ることにより設置能力を強化し地上での走破性能を高める。また、前腕部に伸縮機甲を組み込み最大で前腕部を二倍に拡張する」
 エルフリーデに戻って、武装案だ。
「主武装は従来のものをそのまま使用することを想定していますが、独自武装として『ソードブレイカー』を提案します。主武装ではなく副武装とする類のものです。
 本来、短剣サイズの武装ですがこの武装の特徴は峰にあたる部分に櫛状の部位があり、近接戦において防御や相手の武器破壊・武器落としといったことが可能なことです。また先端部は鋭利になっており、攻撃時には斬るほかに刺突武器として使用出来ます。このときに前腕部に内蔵した伸縮機構を瞬間的に作動させることによって、敵機に間合いを五人させることも可能です。まあ、それは奥の手ですが」
「補足すると、前腕部にマウントしておくことにより、防御の際、簡易的なシールドとしても使用可能だ。またマウント状態からでも受けようによっては敵の近接武器を折りにいったり弾き落とすことも可能だな」
 続いて、エネルギー不足解消についての意見をエルフリーデが述べる。
「エネルギーについては、パラミタ先進技術研究機構(PASD)の人工機晶石をカートリッジ化したものを補助動力源として利用出来ればと問い合わせましたが、それについては……リーリヤ、お願いします」
 PASDへの問い合わせ結果を、リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)が告げる。
「さすがに量産化は難しいみたいだ。だが、普通に機晶石をカートリッジ化して補助動力に使うことは出来るだろうというの意見をもらった。それと、浮遊機晶石をフローターとして使用するについても、何らかの手段で浮遊力を確保出来れば問題ないということらしい。上昇から下降に転じるときに余計なエネルギーロスが発生しそうだが、その際に浮遊機晶石から動力へエネルギーをバイパスすることによって、一時的に浮力を消し、加速のためのエネルギーに転化する、ということも理論上は可能とのことだ」
「ということで、動力炉に使われているもの以外の機晶石を使って、機体を補助することが出来るとのことでした。
 最後になりますが、レプンカムイについては現状までのバージョンで全学校用に対応したものを、必要に応じて基幹システムとして導入出来るようにしておきました。こちらもご検討下さればと思います」
『なお、レプンカムイについては今後もダークウィスパーでバージョンアップを続け、この俺様協力のもと、プログラムに支援AIを組み込んだことを想定した運用試験を予定してたり、特殊な音声暗号通信の試験を予定してたりなかったりする。今回の会議にさして関係ないかもしれんが、そんなところだ』
 『グリプス』のデータが映し出しているパソコンのスピーカーから、【戦術情報知性体】 死海のジャンゴ(せんじゅつじょうほうちせいたい・しかいのじゃんご)の声が響いてきた。
 今は関係ないかもしれんが、連携用のシステムが発達すれば、イコン戦もよりやりやすくなるだろう。
「やはり高出力化に関してはエネルギーをどうにかしないと難しいか」
 続いて、久我 浩一(くが・こういち)が提案する。
 説明を行うのは、希龍 千里(きりゅう・ちさと)だ。
「補助動力が使えるということなら、背部に高出力スラスターと大型バッテリー――機晶石をカートリッジしたものですが、それをパック仕様としたやや大型の飛行ユニットとすることで、メインスラスターとしたいと思います。
 それによって推進力を確保した上で、左右の腰周りにスラスターを備える観点を残しつつイーグリットの肩口スラスターの運用データを元に垂直、水平それぞれの推進力を得るための可動式の補助スラスターとして、格闘戦時の『小回り』が効くように出来ればと」
 機体が大型にならざるを得なそうな状況を考えれば、何らかの形で小回りが効いた方がいいだろう。
「空中での浮遊感を味わったのですが、高機動から減速するにしても、足を振り子のようにしイーグリットなら肩のスラスターを逆噴射しないと緊急的な機動は難しい。そこで、自分達のデータを元に、追加スラスターを設定した上で制御プログラムをイーグリットの運用データを元に、検証してみました」
 それをが提示した。
 確かにイーグリットは高機動だが、その機構上安定させるのが難しい。補助スラスターはスタビライザーとして扱うことによって、高機動時の姿勢安定に努めようというのである。
 問題があるとすれば、量産性と整備性だ。コストを掛けずにその機構を組み込めれば御の字である。
「可能なら、背部のスラスターなしでも飛行出来るようにしたいし、地上戦でもこのスラスターでなら跳躍も出来るからさ」
 浩一が言う。
 その点においては、十分汎用性があると言えるかもしれない。
「これまでの意見を見ると、今までのイコンは『空を飛ぶ」がコンセプトだったけど、今度は『空を舞う』を目指しているんじゃないか?」
 これまで以上に、自在に空中を駆け巡る。第二世代機はそれを理想としているのかもしれない。
「ここからは私なりの提案になります。スラスターにはジャイロ効果を持たせたいと思います。『覚醒』は、意思を通すもの。機体の限界を超えても、成そうとするときです。そこで、覚醒時かつ機体限界を超える機動を行ったときのみ、自動的に機体限界を緩和させる制御を行う。そのためのジャイロ機能です」
 航空機やロケットに使われているリングレーザージャイロスコープをイコンに導入すれば、これも可能になるだろう。その場合は、千里の言うジャイロ効果ではなくサニャック効果を用いることになるが。
「安定ということを考えると、可変機構による戦闘機寄りの変形を実装出来ればいいと私は思う」
 リーゼロッテ・フォン・ファウスト(りーぜろって・ふぉんふぁうすと)が口を開いた。
「間もなく配備される可変一.五世代機のガネットのデータを利用すれば、そう難しくはないだろう。制空権獲得という点においてはイーグリット以上の機動力が欲しいところだ。ただ、人型である以上、どれだけ機動性を上げても限界がある。やはり超音速戦闘機クラスの速度を実現し、近接戦闘を行う際に瞬時に人型になって奇襲を仕掛ける。そうすれば敵を翻弄することも出来るだろう」
「これなら……姿勢制御も……航空機に使われている技術を……そのまま適用出来ると……思う」
 フィア・シュヴェスター(ふぃあ・しゅう゛ぇすたー)が呟く。
 彼女達の意見は、イコンパイロットというよりは戦闘機乗りの人間の発想だ。
「それと、あえて可変機構を実装することを前提で申し訳ないが……変形しているときにブルースロート用のドッキングユニットとして機能させることは出来ないだろうか」
 防御特化のブルースロートと対になるのなら、ブルースロートを高機動にさせることも必要だと考えたらしい。
「今の天御柱学院の技術では、難しいですね。可変機構も強化外装との連動方式を取っているくらいですから」
 真琴がリーゼロッテの意見に応えた。
 大掛かりな変形や合体は、現状では適わないようだ。
「変形も、いずれ一般的になるといいかもしれないわね」
 荒井 雅香(あらい・もとか)が整備科の観点から、意見を述べる。
「けれど、それについては技術研修に行っている博士や生徒達がポータラカから何らかの技術を持ってくることに期待しておきましょう。
 やっぱり、整備のしやすさというのはこちらとしては重きを置いて欲しいわね。パイロット科の生徒からは高機動になってもある程度の安定性があれば助かる、みたいな意見が出ているわ。イーグリットは現在のイコンで最も機動力があるけど、操縦に慣れないと速度にかえって振り回されてしまうみたいだし。そういったことを考えると、可変型は操縦が難しいみたいだし、整備も難しくなる。今はまだ、基本となる人型の方がいいわね」
 だからこそ、さっきもスラスターによる安定化の話が出たのだろう。
「高機動重視での武装については、私もさっきのソードブレイカーのような副武装には賛成よ。基本武装はこれまでのものでどうにかなると思うからね。ソードブレイカー以外だと、マニピュレーターに収納可能な爪を仕込んだり、腕の部分に刃を入れといたりとか。
 一度に大きな損傷を与えるより特定の部位を狙って小刻みに与えられる武器、乗り手の戦闘スタイルによって変わるだろう主装備を邪魔しない武器、主武装が失われた場合の予備武器、そういった扱いになるわね」
 武装よりも、基本性能が向上すれば現状の武器でも十分戦えるだろうというのは、彼女も同じようだ。
「確かに新しい武装よりも、まずは基本性能の向上を行いたいところだな」
 佐野 誠一(さの・せいいち)が声を発した。
「イーグリットをベースにしているなら、極端に操縦性が変わるってこともないだろ。そうなると、これまでに出た安定性を考慮した上で、スラスターの増設による機動力向上、機体の装甲やフォルムに傾斜や流線を持たせることでの空気抵抗の減少。抵抗が少なくなることで、急制動でもある程度の安定は確保出来るはずだ。まあ、基本的には昔の戦車に使われていた傾斜装甲の応用だな。今でも実弾武器には有効だと思う。機動力が上がれば、自ずと回避力も上がるだろ。あとは、やっぱりセンサー類は強化しておきたい」
 続いて武装案に入ろうとする。
 が、その前に結城 真奈美(ゆうき・まなみ)がある提案を行った。
「これは別件になりますが、並行して新技術の開発や既存技術の応用を進めておく必要はないでしょうか? 先程の試作機の話もそうですが、既存の技術でもまだまだ伸びしろはあるはずです。その一つとして、国軍である教導団には、向こうのイコンに使われている軍事技術の解析転用を行わせてもらえるように要請を。飛行機能を持たず、歩行型だから余計なエネルギーを消費せずに稼働時間が長くなっているのかもしれませんが、飛行型も延ばせないか既存機で試しておきたいところです。他にも試験的実験的な試みがあればそこで試せますし、共用イコンにも技術を回すことが出来ます」
 そうなれば、さらにイコンの可能性を広げることが出来るだろう。
「レイヴンやガネットもそういった技術の応用の中で出来たもののようですし、おそらく今も研究所が独自に行っていることでしょう。それをもっとオープンに出来るかどうか、後ほど確認しようと思います」
 真琴が真奈美の提案に対し、そう返した。
 ポータラカからも新技術がもたらされる可能性だってある。そういったものを広く共有出来れば、イコンの更なる発展も期待出来るだろう。
「それで、基本武装については高火力という点を踏まえて、レーザーライフル。欲を言えば、アルジュナのプラズマライフルを装備しておきたいところだ。白兵武器に関しては、イーグリット同様ビームサーベルだな」
 新世代機ということもあり、あくまで既存のものからある程度熟練したパイロット向けのものを選択したようだ。
「ただ、パイロットの得意とする武器は違うので、これを完全に統一するのは難しいかもしれません。私としては、新規武装として複数種類のビームを打ち分けることが出来るビームライフルを提案します。ビーム兵器は威力調整が可能ですが、これは単発と散弾を撃ち分けられるようにしたものです。モードチェンジが可能なビームライフル、ですね。既存のビーム兵器の改良で済めば、コストもそれほど掛からないでしょう」
 真琴が意見を述べる。
 この技術が使えれば、高火力プラズマライフルに複数のモードを搭載することも可能だろう。
「ビームサーベルについても、出力調整によって既存のものよりも高出力が出せるようにしたいところだね。使いこなせれば、敵機を一撃で切り裂くことが可能だろうしね」
 と、クリスチーナ。
 ビームライフル同様、高出力化くらいならそれほど手間は掛からないだろう。
「具体的には、スラスター増加は必須になりそうですね。それと、武装は既存のものを使用。代わりに、副武装を導入と。エネルギー問題に関しては、補助動力を使用することで出力向上と稼働時間の確保に充てる。そんなところでしょうか」
 浮遊機晶石を利用して、スラスターなしのデフォルト状態での浮遊状態を確保する。その際のエネルギーの補填を動力炉だけでなく、バッテリーパック用の機晶石を用いた補助動力を使用。
 イコンの動力炉をゼロから再現するのは困難だが、補助動力源なら機晶石を用いて作成することが可能だろう。
 現実的に可能そうなものを優先的にまとめると、

 ・武装はイーグリットと同種だが上位互換の改良品
 ・緊急時にも使える副武装の導入
 ・スラスターの増設。それらは姿勢制御と機動性を上げるためであり、浮遊のためのものではない。
 ・補助動力の導入。

 これらを組み込んだ上で、高火力、高機動を実現する。
 多少変更はあるが、最低限これらは新型機に適用されるだろう。
「では、こちらを仕様書として学院と研究所に提出しますね」