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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

リアクション


・ポータラカ見学会2


 ホワイトスノー博士達が製造プラントの見学を行っている頃、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は犬頭のポータラカ人の案内でドックの中を見回っていた。
「勝手にどっか行こうとしないように」
 しばらく現地の案内人が付いていれば自由行動が出来るとはいえ、あまり一人でほっつき歩いたりしてたら何が起こるか分からない。
 そんなこともあり、彼女達から離れようとしたまたたび 明日風(またたび・あすか)をとっ捕まえて見張ってもいるのである。
(今回の目的はサロゲート・エイコーンの技術について学びに来た、という認識で宜しいか?)
 犬頭が確認を取ってくる。
「そういうことになるかしら。それで、ちょっと聞きたいんだけど」
(何だ?)
 リカインが質問する。
「イコン間のみならず、広域通信によるナビゲーションっていうのは可能なのかしら?」
 現在のイコン戦闘は、前線に出ている部隊間での通信が中心になっている。一応はパイロット科長や教官長が学院に控えて部隊長に指示を出してはいるものの、「部隊全体」というわけにはいかない。
 また、天御柱学院のある海京から極端に離れた場所とは、通信の際にタイムラグが発生するという欠点もある。
 シャンバラ近郊で戦っている現状ならそれほど問題はない。だが、この前のウクライナ共同作戦のように、今後は遠征する可能性だって十分にあり得る。
 イコンの配備数が増え、大規模な作戦を今後行うようになるとすれば、現在の通信網では限界があるだろう。
 それをどうにかしたいとリカインは考えたのだ。
(現行のシャンバラの技術を我々も完全に把握しているわけではない。が、それ自体は可能だ。中継所を用意するか、あるいは移動式の拠点――空母や移動基地を造り、司令部とすれば可能だろう。通信への干渉を防ぐための工夫も必要になるが)
 そういった技術を導入すれば改善されるとポータラカ人は無表情に告げる。
「自分からも質問があります」
 ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が口を開いた。
「イコンの小型化や無力化は、構造上どの程度まで出来るものでしょうか?」
 二人の乗りの限界があるものの、小型化が実現出来れば、生産性の向上、被弾率の低下などの利点があるということは、第二世代機開発プロジェクトにおいても挙げられていることである。
 また、破壊を目的としない戦闘手段が確立出来れば「流れ弾による周辺への被害」を抑えることが出来る。シャンバラ以上に、地球においては重要なこととなるかもしれない。 それが、ヴィゼントの主張であった。
 実際に、イコンを戦闘以外でも、というのは会議の方でも出ている意見である。あくまで対象を「無力化」することに特化した、汎用兵装。それを形に出来れば、といった思いからポータラカ人からの助言を求めたのだろう。
(単に無力化するならば、動力である機晶エネルギーへの干渉という手がある。問題は、それを使用すれば使った側も無力化されてしまうことだ。対策を講じる必要があるだろう。小型化に関しては、そちらの単位でいう七〜八メートルが限界といったところか)
 犬頭が説明した。
 ポータラカ人の場合は身体がナノマシンであるため機体にも融通が利くらしいが、シャンバラにいる契約者達の平均的な身体特徴と合わせると、それだけで制約が課せられるのだという。
「ちゃんとメモ取ってくれた?」
「え、拙者っすか!?」
 不意をつかれたように明日風が声を上げる。
「いや、何の話をしているかちんぷんかんぷんで」
「分からなくてもいいから、とりあえず覚えておきなさい」
「いや、そんなとんでもない記憶力なんか持ち合わせちゃいませんて」
 せっかく技術研修に来たのに、シャンバラに持って帰れなければ意味がない。
「だったらここで別荘暮らしね」
「ちょっと、そりゃ洒落になりませんよ。善処しますから勘弁して下さいな……」
 困惑した様子の明日風をリカインは見やる。
 さすがにポータラカ暮らしは冗談だ。今は人目があるから大丈夫だが、まだ完全に安全だと言い切れるわけではない場所に、パートナーを置いていくわけにはいかない。
 彼女は再び犬頭と向き合い、話を聞き始めた。

* * *


「頼みがある」
 月谷 要(つきたに・かなめ)はポータラカ人の技術者と思しき人物の元を訪れた。
 先の戦いで重症を負い、義手である両腕ばかりではなく、両脚も失ってしまった。四肢のない状態で車椅子をサイコキネシスで押し、なんとか博士達と一緒についてきたのである。
(ふむ、何かね?)
 どう見ても棒人間にしか見えないポータラカ人が無表情な顔を要に向ける。
「義肢を作って欲しい」
 元々はホワイトスノー博士に頼むつもりだったが、第二世代機開発プロジェクトや今回のポータラカの技術研修で、あまり時間が割けない状態にある。
 ならば、このポータラカ行きを一つの機会と考え、オーバーテクノロジーを持ったこの地の者に作ってもらおうとしているのである。
「その代わりに、俺を被験体として使ってもらって構わない」
(ちょうど試したい技術があるんだが……ふむふむ、なかなか興味深い身体だ)
 棒人間が要の身体をチェックする。
 よく周囲の人間から人外扱いされる要であるが、ポータラカ人からしても、不可解な部分があるようだ。
(では、ついてきてくれ)
 ポータラカ人に案内され、施設へと入っていく。
 被験体として志願した以上、義肢だけで済むかは分からない。それでも、あの「青」と「白銀」を倒し、その上で自分も生き残れるようになるためには、そのくらいのリスクは負って然るべきであった。

* * *


(ここもパラミタである以上、あるはずですが……)
 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)は自由行動の時間を利用して、あるものを探していた。
 ――世界樹。
 ポータラカもパラミタの一国であるなら、世界樹が存在するはず。
(どこかで情報を得ませんとね)
 とはいえ、せめて名前が分からないと探しようがない。
「少々お伺いしたいことがあるのですが、宜しいでしょうか?」
 現地の案内人の一人に尋ねてみる。
(何かな?)
「私、植物学にも興味がございまして。各国の世界中についての調査も行っております。宜しければ、この国の世界樹についてご存知のことを教えて下さるとありがたいのですが」
(世界樹ねえ……)
 二等辺三角形状の姿をしたポータラカ人はしばし考え込む。
「些細なことで構いません。世界樹の名前とか……」
 むしろ、それを先に知りたいのだが、あえて誘惑しながら聞き出そうとする。が、真の肉体を持たないポータラカ人には性別の概念も希薄なようで、効果がない。
(申し訳ないことに、まだ外部の者には教えてはいけないってことになってる)
「そこを何とかなりませんか?」
(『戻される』のは勘弁だしな。まあ、いずれ知る機会は来るだろうさ)
 それは今ではない、ということらしい。
「今、パラミタは大変なことになっているのですよ?」
(もう聞いているかもしれないが、この国の人は元々パラミタとは別の世界から来た者達だ。パラミタがどうなろうと、それはパラミタの人々がどうにかする問題であって、この国の者が関与することではない。簡単に言ってしまえば「そっちの都合で勝手なことをされるのはごめんだ」ってことさ)
 今回の交流も、極めて限定的であり、それはシャンバラとの協力関係にも言えることである。
 扶桑の巫女として、マホロバ――厳密には前将軍である鬼城 貞継を救うために世界樹同士の協力関係を築けないかと思ってやってきたつかさだったが、当てが外れてしまった。
 自国の問題はあくまで自国で蹴りをつけなければいけない、ということだ。