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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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第一章 本之右寺3

【マホロバ暦1187年(西暦527年) 6月2日 10時30分】
 扶桑の都 山頂――


「未練も無念もあるでしょうけど、今まで何度もピンチを乗り越えてきたんでしょう? 今回だってそう。生き延びればいいじゃん。生きてさえいれば、いくらでも再起はあるよ」
 緋姫崎 枢(ひきさき・かなめ)はそう織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)に語りかけた。
 彼らは扶桑と都が一望できる山に降り立ち、桜の樹を見つめている。
 信那は「是か非かしかないのだ」と答えた。
「また、そんなこといって。いいから座んなさいよ」
 枢は強引に信那を座らせると、隠し持ってきた電池式の電動バリカンを取り出した。
 無論、信那にはそれが何かはわからない。
「すっきりしたほうがいいよ。身も心も」
 枢がバリカンを信那の頭に当てた。
 髪がばらばらと落ちる。
「何をするか!?」
「頭を丸めるのよ。さあ、着るものはこちらに用意してるわ」
 ナンシー・ウェブ(なんしー・うぇぶ)は信那の前で躊躇せずに自分の着物を脱いだ。
 色白の肌があらわになる。
 彼女は着るものが無くなったがあわてる様子はなく、山で拾ったのだという鷹の抜け羽でかろうじて隠していた。
「俺に何もかも捨てよと申すか。国も民も信望も……すべて!」
「戻ったところで、謀反人の周到さからして、信那殿が信を置かれている輩はもういない。のこのこ出て行ったところで偽者とされるか、さらに世が混乱するだけだ」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は、今回の敵は容易ではないのだといった。
「でなければ、このような『変』が起きることがない。歴史が変わった瞬間なのだ。少なくともマホロバ史ではそう伝えられる」
 アルツールはそれ以上は確信めいたことは言わなかった。
 信那には歴史の表舞台からは退いてもらう必要がある。
 時の流れをゆがめず、せき止めずに、だ。
「誇られるとよい。信那殿のように生きるものがいなければ、この地の戦国乱世はまだあと数百年は続くことだろう。
「まるで誰が天下を取るのか知っているような口ぶりだな」
「別に」
 アルツールは「天下を諦めたくなければ、見えないところから動かせばよい」と言った。
「真の天下とは何か。天下に是あれば、表も裏もなかろう。どう思われる?」
 信那は再び扶桑の樹を見つめた。
 大きな大きなその樹はマホロバの命運そのものであり、その命運は彼をも包み込もうとしている。
 これまで世を変え人を変えるために、大地を食らうようにがむしゃらに突き進んできた信那は、その大きさに生まれて初めて自らが飲み込まれそうになるようだった。
 手を伸ばせばあと少しというところで届かなかった。
 目の前あるものが、景色が、急に遠くなった。
「俺がいなくなったあと、この国は……どうなる?」
「それは自身の目で確かめられるといい」
 アルツールは控えさせていたペガサス型イコングラニ二世へ促す。
「追っ手は、私の契約者たちが防いでくれることだろう。信那殿は新たな道を進まれると良い」
 本之右寺での変報を巡って、すでに都周辺は騒然としている。
 謀反軍や織由軍、そればかりではなく、それを聞きつけた野武士や他諸侯が加わり、直にここは激戦場になるだろう。
 信那には気がかりな男がいた。
「よかろう。俺を連れて行け。案内せよ」
 シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が礼節を立てながら、信那を連れ立つ。
「道中の安全はこのシグルズが引き受けよう。僕の部隊はすでに配置してある」
 シグルズが戦場という懐かしい感慨に浸っている時間の余裕はなかった。


卍卍卍



「さすが織由軍、主を失ったとはいえ素早いな。独自に謀反者の追撃をはじめたようだ」
 司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)は馬上(ユニコーン)からエヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)に合図を送った。
 エヴァは強化した魔法で足止めを狙う。
「謀反人者が『鬼』だったっていう話が一人歩きしている。まるで見えない敵と戦っているようだわ」
 噂、デマ、それらが渾然一体となって、敵も味方も動かしていた。
 異様な空気だった。
「都や街道はすぐに封鎖されそうね。アルツールたちが無事に抜けてくれるといいけど」
「そうさせるのがわしらの役目だ。ほれ、レーザーの弾幕でも食らえ」
 仲達はなるべく後の世に形跡を残すことがないようにと弾の残る銃器類の使用を控えた。
「あとは任せるしかあるまい」
 電波やインターネットはないが、強力な伝達網がこの時代にはある。
 隠密行動を生業とし、諜報、破壊、暗殺など何でもこなす技術者集団。
 後の世で生きる機械(マシン)とも呼ばれる『忍者』の存在である。
 随所に抱えられている忍たちが、この変報を見逃すはずはなかった。
 彼らは異変を伝えるべく我先にと各地へ散ったのである。