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【四州島記 巻ノ三】 東野藩 ~解明編~

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【四州島記 巻ノ三】 東野藩 ~解明編~

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第十一章  呪詛

「どうですか、秋日子さん。何か、わかりましたか?」
「あ、円華さん。ん〜、それが今のところさっぱりで……」

 五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)の問いに、東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)はバツの悪そうに応じる。
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)日下部 社(くさかべ・やしろ)が首塚大社で東遊舞について調べているように、秋日子とキルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)は、知泉書院で調べ物をしていた。
 図書館のような場所での調べ物に不慣れな二人は、響 未来(ひびき・みらい)に手伝いをお願いしたものの、未来自身も状況は似たりよったりで、大方の利用者がそうであるように、三人は膨大な収蔵物の海の中で、すっかり遭難しかかっていた。

「そうですか……」
「んー……。なんとか円華さんが来るまでには、何か見つけたかったんだけど……。ごめんね、無駄足踏ませちゃって〜」
「いえそんな、気にしないで下さい。私も、『あんまり、終夏さんと社さんの邪魔しちゃいけませんよ』ってなずな
いうものだから、こちらに来ただけなんです」
「あ、そうなんだ!それで、どうなの、あの二人?」
「え、ええ。そうですね……。何というかあの……こうすっかり『二人の世界』と言うカンジで、やや当てられっぱなしというか……」
「えっ!そ、そんなに露骨なのあの二人?」
「い、いえ!決してそんな事は無いんですけれども……。やっぱりこう、視線とか、ちょっとした仕草の端々とかに、そういうのが見え隠れしているというか……」
「あ〜、わかるわかる!あるよね〜、そういうの!」

 東遊舞の話も何処へやら。いつの間にか、女子会トークに花の咲く二人。

「あ、いたいた!二人とも、ちょっとちょっと!」

 そこに、響 未来(ひびき・みらい)が息を切らせて飛び込んできた。

「ど、どうしたんですか未来さん!?」
「何かあったの?」

 その尋常でない様子に、二人の顔色が変わる。

「そ、それが大変なのよ!キルティスちゃんと、なぎさちゃんが喧嘩してて――」
「なんだ、驚かせないでよ、未来ちゃ〜ん!あの二人が喧嘩するなんていつものことじゃな〜い!」
「そ、それがそうでもないのよ!なんだか、いつにも増して険悪な雰囲気で――とにかく、ちょっと一緒に来て!」

 未来のただならぬ雰囲気に現場に急ぐ秋日子と円華。
 その耳に、二人の言い合う声が飛び込んで来る。

「ええ、そうですよ!確かに僕は男です。でも、それがなんだって言うんです?」

 キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)の衝撃的な告白に、三人は思わずその場に釘付けになった。

「き、キルティスちゃんが、男……?」
「し、知ってました?秋日子さん」
「う、ううん、知らなかった……。キルティ、男だったんだ……」

 何気に3人の中で、秋日子が一番ショックを受けている。

「あら?ようやく自分が女装癖のある性倒錯者だと、白状する気になったのね?」
「認めるも何も、僕は僕。何も変わらないよ。君こそ、人の性癖をとやかく言って悦に入っていられるほど、大した人間性でも
無いと思うけどね」
「あら……。それは一体、どういう意味ですか?」
「あなたが、差別主義者だってことですよ。やれ『女装癖』だの『性倒錯者』だのとレッテルを貼って、人を差別しようとする――最低の類の人間です、あなたは」
「さ、最低……」

 その言い草にカチンと来たのか、なぎさがキルティスを睨みつけて、言った。

「いいんですのよ、私は別に。あなたがどんな性癖だろうが!問題は、あなたがその性癖を隠して、真之介に近づいたことよ!口ではわたくしの事を偉そうに『差別主義者だ!』なんていってるけど、本当は、あなただって恐れてたんじゃないの?真之介さんにも差別されるんじゃないかって」
「それは残念でしたね。僕はもう、御上君には話してあるんですよ。僕が、男だってことはね。御上君はそれを知っても、僕の事を避けたり、差別したりはしませんでした――キミとは違ってね」

 そう言ってキルティスは懐に手を伸ばすキルティス。
 今までずっと使わずにいた『伝家の宝刀』に手を伸ばすと、おもむろにそれをかけた。

「な……!あ、あなた、その眼鏡……!」
「やっぱり、気づいてくれましたね。御上君の事については目ざとい君のことだから、きっと気づいてくれると思っていました――そう、これはね、御上君とおそろいなんです。この間、一緒に『デート』した時に、二人で選んだんです」

 キルティスは、デートの部分に、ことさらに力を込めて言った。
 確かに渚は、最近御上が時折、これまでのような瓶底メガネではない、ちゃんと顔の見えるオシャレなメガネをかけている事に気づいていた。
  
「御上君はちゃんと、僕を僕として見てくれるんです。あなたのような、人をうわべだけで差別するような人とは違います」

 完全に言い込められた上に決定的な『差』まで見せつけられて、なぎさは屈辱と悔しさで顔を真っ赤にしている。

「確かに御上君が、男の僕を選ぶ事はないかもしれない。でも、あなたみたいな人には、御上君は渡さないよ――絶対に」

 キルティスは、メガネに手をやりながら、そう宣言した。
 
「そうやって、意気がっていられるも今の内よ――。いずれ、吠え面かかせてあげるわ!」

 なぎさは、涙の浮かんだ目でキッとキルティスを睨みつけると、逃げるように走り去っていった。

「フゥ……」

 その背中を見送って、ため息を吐くキルティス。

「みんな、もう出てきてもいいですよ。いるんでしょ、そこに」
「あ、アハハハ……ば、バレてた?」
「キミは、こういうチャンスは絶対に見逃さないものね――それも、悪魔の才能?」

 笑って誤魔化す未来を見て、呆れた顔をするキルティス。
 硬かった場が、少し和らいだ。

「あ、あの……キルティスさん!」
「ど、どうしたの、円華さん?」

 円華が、思いつめた表情で、前に出た。

「あ、あの……。私、キルティスさんが男でも、全然大丈夫ですよ!確かに少し驚きましたけど……。でも、『自分を自分として見て欲しい』っていうキルティスさんの話、私、すごく感動しました!」

 興奮のあまり少し頬を紅潮させて、円華が言う。

「さすが円華ちゃ〜ん、直球だね〜!」
「わ、私が先に言おうと思ってたのに……。パートナーの私の立場って一体……」
「えっ!ご、ゴメンナサイ秋日子さん!」

 自分が完全にKYだったと気づいて、露骨にうろたえる円華。

「有難う、円華さん……ホント、良い人だね。キミって」
「――えっ!?」

 キルティスは円華に歩み寄ると、そっ――と彼女を抱きしめた。

『いっそ、キミが御上君の恋人だったら良かったのに――』
『――!』
 
 円華にだけ聞こえるように、そっとその耳に囁くキルティス。
 円華は、顔を真っ赤にしたまま、よろよろと二、三歩よろめく。

「き、ききききキルティスさん、な、ななな何を――。わ、わわわわ私はそそそそんな別に――」

 予想だにしない一言に、テンバりまくる円華。

「本当、良い人だな。円華さんは」
「き、キルティ……」
「キルティスちゃん……」
「ん?ど、どうしたんですか、二人とも?」
「そんなキルティスちゃん、カミングアウトした途端に円華ちゃんに食指を伸ばすなんて――」
「男のキルティが、こんなに肉食系だったなんて――」
「違いますっ!」 

 二人に向かって怒りながら、キルティスは、今までとまるで変わらない皆の反応に、心の中でそっと「有難う」と呟くのだった。 




「先生、情報提供者から、『暗殺に注意しろ』っていう警告があったって、本当か?』に

 泉 椿(いずみ・つばき)は、御上 真之介(みかみ・しんのすけ)の元に駆けつけると、深刻な顔で訊ねた。

「はい。セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)さんから、そうした情報が入りました。今、広城にいる定綱さんに連絡した所です。真っ先に狙われやすいのは、影武者を務めている風祭 隼人(かざまつり・はやと)君に、春日さん。あとは重綱さんや定綱さんですからね。後、一般の調査団の方々にも、気をつけて頂くよう連絡をしておきました。ああ後、円華さんと、念のため海兵隊基地のマイク・カニンガム大佐にも」
「それだけ……?」

 御上の顔を、ジトッとした目で睨む椿。

「それだけって?」
「だから、暗殺に注意しないといけないのはそれだけなのかよ!」
「え――……。他に、まだ誰かいましたかね……」

 サッパリわからない、と言う顔で首をひねる御上。

「はーっ……。自分の事、忘れてるぜ。先生……」
「え……?ぼ、僕?」
「そうだよ、先生!今この調査団の真のリーダーは、先生なんだぜ!あたしが敵だったら、真っ先に先生狙うよ!!」
「またぁ、泉君ってば」
「『またぁ』じゃねえっつーの!ちっとは危機感持ってくれよ、先生!」
「いやー。でもねー……。そんな『真のリーダー』なんて言われても、実際今僕がしてるのって、連絡係とか、雑用係みたいな事だよ?」
「今だって、一揆の連中と交渉してるじゃんよ!大体先生は昔っから、自分の事過小評価し過ぎなんだよ!」
「そ、そうかな……」
「そうだよ!」

 すごい剣幕で、御上に詰め寄る椿。

「ご、ゴメン……」

 そのあまりの勢いに、御上はすっかりタジタジになっている。

「よしっわかった!今から、あたしが24時間体制で、先生を護衛する!」
「エエッ!い、泉君が!?」
「なんだよ先生。あたしじゃ当てにならないってか?」
「そ、そういう訳じゃないけど……。24時間なんて、ちょっと、大げさ過ぎない?」
「大げさじゃない!」

 こうして、半ば強引に御上の護衛になった椿。
 幸いにしてその後は何事無く過ぎ、そして夜――。

「それじゃ先生、あたしはこっちで寝てるからな!何かあったらすぐに駆けつけるから、ゆっくり休んでくれ!」

 自分のパイプベッドをバシバシと叩いて御上にアピールする椿。
 何分にも今は印田(いんでん)で暴動の対処中のため、こじんまりとしたテントの中で二人一緒に寝なければならない。
 御上のパイプベッドとは、わずかに通路1つ分しか離れていない。

「う、うん。わかった……泉君も、ちゃんと寝ないとダメだよ?」
「ダイジョブだから、早く寝ろって、先生!」
「そ、それじゃ……お休み」

 今ひとつ釈然としない様子で、それでももそもそとベッドに潜り込む御上。
 御上がしっかりとベッドに入ったのを確認して、椿も布団を被る。
 今までは御上がいたから去勢が張れたが、いざ一人で起きていると、隣にいる御上の事を意識してしまって仕方がない。

(お、落ち着け!落ち着けあたし!今のあたしは護衛!つまりボディガード!ボディガードと護衛される人の間に、何も起こるはずは無い!)

 必死に、胸の高まりを抑えようとする椿。
 しかし、意識しないようにとすればするほど、却って変に意識してしまう。

(ん?そういえば昔、ボディガードとかいう映画があったよな……。確かアレって、ボディガードの男と護衛されてる女の人が、恋人になっちゃう話だったような……って、何ソレ恋人って!ナイナイ!絶対そんなの無い!)

 こうなってしまうともう、この間怪我して御上におんぶされた時にやけに広く感じた背中のコトなどが思い出されて、もうどうにもならない。

 結局椿はこの後、スヤスヤと寝息を立てる御上の横で、一人で悶々とし続けていたのであった。



 そして、翌日の払暁――。
 
 御上たちの眠るテントの裾が、風も無いのにスッ――と動き、何かが、テントに入って来た。
 暗殺者だ。
 【隠形の術】と【隠れ身】で気配を消した暗殺者は、テントの隅に陣取ると、《剛腕の強弓》を構えた。
 寝ている御上に狙いつけたそれは、【封印解凍】して臂力を極限まで上げると、ギリギリと弓を引く。
 暗殺者は、【歴戦の必殺術】で、布団の上から御上の急所を捉えると、勢い良く矢を放った。
 
 弓から放たれた矢は、狙い過たず、御上に突き刺さる――しかし、御上は苦悶の声を上げることもなく、苦痛にのたうつこともない。
 暗殺者は、不審に思いながら、御上のベッドに近づくと、一気に布団を剥いだ。

「――!」

 そこにあったのは、毛布にくるまれた《丈夫な屏風》だった。

「出やがったな、暗殺者!」

 一瞬の隙を突いて、【軽身功】で暗殺者に飛びかかる椿。
 こんなこともあろうかと、御上にはベッドの下で寝てもらったのだ。

「捕まえたぞ、この野郎!」

 暗殺者を組み敷いた、と思った椿は、腕の下を見て目を丸くする。それは、暗殺者の【空蝉】だったのだ。
 椿が空蝉に引っかかっている間に、テントの外に飛び出す暗殺者。

「待て、てめぇ!」

 続いて椿が外に出た時には、暗殺者の姿はもう何処にもなかった。

「クソッ!逃したか……」

 悔しそうに、拳をバチン!叩きつける椿。

「大丈夫だった、泉君?」
「あ、ああ先生、もう大丈夫だぜ。しかし、逃げ足の早いヤツだな……」
「うん。鮮やかな引き際だったね。ま、泉君の護衛の方が、もっと鮮やかだったけど」
「てへへ……」

 面と向かって御上に褒められて、照れる椿。
 寝起きで素顔のままという所も、余計に照れてしまう。

「今日は……本当に有難う。今、こうして生きていられるのは、君のお陰だ」
「へへっ。先生を守るのが、あたしの役目だからな」

 大切な人を守り通せた無事守り通せた事が、泉は何よりも嬉しく、そして誇らしかった。




「――玄秀様、只今、戻りました」
「……仕損じたか」
「まあいい。初めから、あまり期待はしていなかった」
「申し訳ありませぬ」
「それで、御上の護衛の様子はどうだった?」

 高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)は、式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)に訊ねた。
 今回は、あくまで護衛の状況を探るのが目的。襲撃は、ついでに過ぎない。

「はい。護衛は、格闘家の女が一人のみ。術者は一人もおりません」
「ナニっ!それは本当か!」
「間違いありません」

 「天佑だ」と玄秀は思った。
 《結界》を張ったり、《呪詛返し》を行ったりする術者がいないのであれば、《呪詛》は成功したも同然だ。

「よし、お前は引き続き御上を見張れ。もし新たに術者が警護に付くようであれば、すぐに連絡しろ」
「かしこまりました」


「まさか、護衛の術者が一人もいないとは……。僕はツイてる!」

 玄秀は、慌ただしく呪詛の準備を始めた。
 松村 傾月(まつむら・けいげつ)から依頼された呪殺の刻限までは、まだ間がある。
 玄秀は確実を期すために、水垢離して精進潔斎し、集中力を高める所から準備を始めた。



 そして、その日の朝。
 間もなく始まる一揆勢との交渉の準備に、御上たちは直前まで追われていた。
 今回の交渉、御上は藩側と一揆側の仲介役を務めることになっている。

「遺体と怪我人を引き渡すこの交渉が上手く行けば、今後の交渉にも弾みがつきます」
「この間は、変な洗脳みたいなのが効いてたんだろ?今度はその術も解けてるって言うじゃん。なら、成功したも同然だって」

 秦野 萌黄(はだの・もえぎ)が掴んできた情報は、もう椿の耳にも入っている。
 御上の交渉能力を買っている椿は「先生なら、きっと上手くやるに違いない」と、信じて疑わなかった。

「そうだといいのですが……」
「今回は父上からも、多少の譲歩はしても構わないと確約を頂いております。きっと、上手くまとまりますよ」

 藩側の代表としてやって来た大倉 定綱(おおくら・さだつな)も、交渉の行方には楽観的だ。

「先生、そろそろ時間だぜ」
「では御上殿、よろしくお願いしますぞ」
「では、行きましょう、皆さん」

 御上は、交渉の場へと向かった。


 交渉は、定綱たちの予想以上に、トントン拍子に進んだ。
 当初予定されていた、遺体と負傷者の引渡しを超えて、事態は一気に解決に向かうことになった。
 一揆側の代表は、先日の破壊行為を詫び、自分たちの窮状を訴えた上で、生活の保証さえしてくれれば、すぐにでも解散すると申し出た。
 これに対し定綱も、「もう二度と騒動を起こさない」という誓書を提出することを条件に、今回の騒動の罪を許し、さらに追加の生活保障の手立てを講じる事を確約した。
 早速、一揆勢の代表者、藩の代表者たる定綱、交渉の保証人となった御上の間で、首塚大神(くびづかのおおかみ)の名の元に誓詞が交わされた。
 それぞれの血判の押された誓詞が燃やされ、その灰が提子(ひさげ)に満たされた酒に混ぜられる。

「ではこの杯を持って、約定の成立と致します」

 古式に法(のっと)って、御上の音頭の元、三者の間で杯が交わされる。
 最初に、御上の供した杯が三者の間で飲まれ、続いて一揆勢の代表者の杯が飲まれる。そして最後に定綱の杯が飲まれようとした時――。

 遠く離れた地で、玄秀の《呪詛》が始まった。

「う……グウッ……!」

 急に、胸を押さえて苦しみだす御上。

「ど、どうした御上先生?」

 咄嗟に、御上に駆け寄る椿。

「いかがなされた、御上殿!――ぐ、グウウッ……」

 同じように駆け寄った定綱も、御上同様に胸を押さえて苦しみだす。

「ハッハッハ!見たか!夷狄を招き寄せ、四州を汚す不埒者共め!」 
 
 一揆勢の代表者が、勝ち誇ったように言い放つ。

「て、てめぇ!先生に一体ナニをした!!」

 しかし男は、椿の質問には答えず、ただただ高笑いを続ける。

「早く、そいつを取り押さえろ!」
「だ、誰か!早く医者を――」
「は、ハイ!」
「定綱様!お気を確かに!」

 交渉の場は、一転して混乱の坩堝(るつぼ)と化す。

 定綱付きの侍に、取り押さえられる男。
 しかし男もまた、苦しげに胸をかきむしり始める。

「お、おい――?」

 男の異変に気づき、男をガクガクと揺さぶる侍。

「ぐ、ググウッ……!!」

 男の身体が一瞬激しく痙攣し――全身から力が抜けた。
 まさか、と思いつつ、男の胸に耳を当てる侍。

「し、死んでる……」

「定綱様、今医師が参ります!お気を確かに、定綱様!」
「先生!しっかりしてよ御上先生!」

 目から涙を溢れさせながら、必死に御上を呼び続ける椿。
 しかし御上の顔からは、急速に血の気が引いていく。

「医者が来ました!」
「椿さん、そこをどいて!」

 張り詰めた表情の九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が御上の側に跪(ひざまづ)き、バイタルサインを確認し始める。

「いけない――脈拍と血圧が急速に低下してる。誰か、AEDを!」
「やだ……。やだよ先生!そんな……、死なないで!死なないでよ、せんせいっ!」

 椿には、ただ叫び続けることしか出来なかった。

担当マスターより

▼担当マスター

神明寺一総

▼マスターコメント

 皆さん、こん○○は。神明寺です。四州東野編、解明編のお届けです。

 今回は、色々と多忙に多忙が重なって、今までにないほど遅れてしまいました。
 ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません。
 また、今までお待ち頂きまして、本当に有難うございました。


 しかし今回は本当にいつにも増して、処理に困るアクションが目白押しで難渋しました。
 うっかり「解明編」などと書いてしまったのがいけなかったのか、皆さんかなり踏み込んだアクションを投稿してこられて……。
 そのアクション全部採用していると、東野藩の解明どころか、ほぼキャンペーンが終わってしまうという……(笑)
 一言で言うと、さじ加減が難しかった訳です。


 さて、その解明編なのですが、「これのドコが解明編なんだよ!」という向きもあるかと思います。
 あると思いますが!
 一応次回のシナリオガイドで、今回まだ出てこない黒幕もそこそこ出て、「そうか、お前が敵なんだなぁ!」と言って頂ける位にはなる予定ですので、今しばらく!お待ちください!!


 次回のガイドは、遅くとも月内には公開する予定です。
 いい加減アクセル駆けて行かないと、このキャンペーンもいつ終わるかわかりませんし、何より冬のリアイベの話題にもしたいですしね♪

  
 今回もまた、アクション内にて随分沢山の方から励ましのお言葉を頂きました。掲示板の方に感想をお寄せ頂いた方と合わせまして、重ね重ねの御礼を申し上げます。いつもいつも、本当に有難うございます(ペコペコ)
 モチロン、今まで通り、掲示板の方へのご意見ご感想もお待ちしていますので、よろしくお願い致します。


 さてさて、意外(?)な終わり方をした今回のシナリオですが、次回は大方の皆様の予想の通り(??)、死にかけた御上を何とかするシナリオとなります。
 もちろん、その他の目的の方も今まで通りご参加頂けますので、ご安心くださいませ。

 長い間、自分にお付き合い頂いている方なら、何をするかは予想がつくかもしれませんが……。

 是非、次回も奮ってご参加下さい。
 では『北嶺』にて、皆さんにお会い出来る事を楽しみにしつつ――。



 平成癸巳  秋霜月


 神明寺 一総


 P.S.
 今回の戦闘シーン作成中のBGM  −宴−  T.M.Revolution