リアクション
▽ ▽ スワルガに捕らえられたタスクが脱走を試みた時、カーラネミも、それに力を貸した。 二人は協力して脱出し、それを追った黄蓮は、結局二人を見逃した。 「それじゃ、ここで。君も無事で」 「あなたも」 逃げた先で、行く先を別にした二人は別れる。 常に鏡の状態でいた彼女を所持していたタスクは、その際に初めて、カーラネミの人の姿を見た。 カーラネミは、去っていくタスクを見送った後、自らも身を翻す。 誰にも姿を見られない内に、物陰に隠れた。 △ △ 「……妙な夢を見たなあ……」 五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)は、今朝見た夢のことを、ぼんやり思い出した。 「もしかして、これが噂の『前世』なのかな?」 感情の起伏の薄そうな、機械的な感じの人だった。あれが自分の前世か。 スワルガに捕らわれてイデアという人物の所有となり、その後同じく捕らわれていた祭器の誰かと逃亡した、という、中々波乱万丈な人生を歩んでいたようだ。 「その後はどうなったんだろう……」 東雲は上を見上げた。まだ日は高い。昼寝の時間には早い。寝直すには時間が悪そうだ。 「……えっと……そうそう、ジャタの森に、捜索者がいるかもしれないんだっけ。確か、トオルさん……」 行ってみようかな、と思う。頭も冷やしたい。 「でもどうやって捜そう……。 歴戦の獲得術で見つけられたりしないかなぁ」 すっかりレアアイテム扱いである。 ▽ ▽ 自分の為にヤマプリーを出奔することになった現在の主、アマデウスの、密かな恋人との逢瀬を邪魔するつもりはなかったのだが、翠珠は偶然、見てしまった。 眠るシャクハツィエルの傍らに、アマデウスが佇む。 自分も魔力に精通するディヴァーナだ。 翠珠は特に防御魔法を得意としているが、それはアマデウスにも隠している。 また、自分がアーリエに捕らわれていた理由も、恐らくアマデウスは知らないはずだった。 翠珠は、アマデウスが何らかの魔法を使ったのが解った。 「あの……何をするつもり……ですか?」 「……見られてしまいましたのね」 振り返ったアマデウスは苦笑した。すっと彼の側を離れ、行きましょう、と翠珠を促す。 「……あの、ですが……」 放置して行くシャクハツィエルを気にする翠珠に、アマデウスは構わず手を引いた。 「大丈夫ですわ。死んだりはいたしません」 それは禁術だった。他者の力を奪い取り、それを自分の力とする禁呪。 彼女は力を必要としているのだろうか。翠珠は不安げに、先を歩くアマデウスの顔を見つめた。 翠珠は、元はワンヌーンのところにいた。 そう、ワンヌーンのところで、何かを見て、それを妨害する為に、何か大切な物を持って逃げた。 「これさえ……無ければ……誰も傷つかないはず……」 それを見た時に、翠珠はそう思った。 そしてそう思ったらいても立ってもいられなくなり、ついに行動に移したのだ。 若い女とばれないようにローブのフードを深く被り、杖を持ち、――けれど逃走の挙句、アーリエに捕らわれることになろうとは、知る由もなかった。 △ △ あの時、自分は何を見たのだろう。 広大なジャタの森を、手分けして捜そうと、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は、パートナーの吸血鬼、シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)と共に森を歩く。 時折、頭痛がしていた。 見たことのない場面が浮かんできて辟易する。 「大丈夫か? 顔色が悪いが」 心配するシェイドに、大丈夫です、と笑って見せる。 「ふう……過去は過去で……過ぎたことですし……今更遅すぎると思うのですが。 何でしょうかね……頻繁に見るとは……。何か伝えたいことでもあるんでしょうか?」 歩きながら、考え込んでいる紫翠の姿が、ぼやけたような気がして、シェイドは目をこすった。 まるで、誰かの姿がぼんやり重なっているような。 「紫翠?」 ばっ、と紫翠の腕を取る。消えてしまいそうな気がした。 「どうしました?」 「大丈夫か?」 「ええ……平気ですけど」 きょとんとする紫翠に、シェイドはほっと息を吐く。 「……気のせいか? ああ、いや、何でもない」 腕を離した。 「行きましょう。早くトオルさんを見つけなくては。嫌な予感がします」 「……オレもするよ」 と、シェイドが答えた視線の先には、目を放すまいと紫翠の姿があった。 ▽ ▽ 「シュクラ、お前には悪いことをしてしまった。けれどこれで、あの宝石は……」 幽閉されていた牢を脱獄したアザレアは、白い竜馬のような聖獣に乗り、少ない供と旅立った。 「この大陸の何処かにあると伝わる、王たる世界樹。 その袂に、私達の祖と言われるお方の坐す寝所があるとされています。 けれど、今その世界樹を巨大な影が覆い、蝕もうとしている……」 アザレアは、密かに歌で世界の危機を伝えながら、世界樹を捜し求める旅に出たのだった。 大々的に伝えればきっと混乱が起きてしまう。 けれど、心ある人々に伝えなくてはならなかった。 長く続く争いが、仕組まれたものであることを。 人の心の影に忍び寄り、昏い感情を煽り、掻き立てている存在があるということを。 世界樹の袂に眠るのは、ディヴァーナだけではなく、全ての命の祖であるということを。 △ △ ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は、テレパシーで、手分けして捜す捜索者同士のサポートをしつつ、トオル自身にも呼びかけてみた。 (トオルー? トオル、どこにいんの) (え? あれっ、ヘルか!?) 「コユキ、いたよ」 パートナーの早川 呼雪(はやかわ・こゆき)にそっと声を掛けながら、通信を続ける。 (そうだよ。今何処にいんの。皆で捜してんだよ) (えっ、ちょっと待て。 ひょっとして皆って――うわっ!) 「あ、ヤバい」 通信が切れた。 「ヘル?」 「何かあったみたい」 ヘルは呼びかけを続けたが、それっきり、トオルからの応答はなかった。 |
||