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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

リアクション


【7】


 閃崎静麻とレイナ・ライトフィードは、段ボールに隠れたまま甲板の隅にいた。
 こっそりサルベージ作戦を企てたものの、結論から言うと無理だった。
「あんなに人がいたんじゃ、こっそり作業なんて無理ゲーすぎる……」
「何してるんでしょう、私達……」
「こんなはずじゃなかったんだが……」
 今更、隠れててすまん! 俺にもサルベージさせてくれ! と出ていくのは気が引ける。
 どうしたものかとプランB(そんなもんないかもだが)を考える。
 段ボールの前では、生駒がコクピットのインターフェイスまわりを整備していた。
 作業は問題なく進んでるように見えたが……しかし、彼女が整備したコクピットには謎のドクロマークのスイッチが取り付けられていた。
 しかも各機体ごとに、スイッチの内容を変えてある。謎のこだわりもあった。
「たまには他人のイコンを改造するのも面白いよね」
「待て待て待てーーっ! イコンを吹き飛ばすつもりかーーーっ!!」
 異変に気付いたジョージが止めに来た。
「大丈夫だよ。爆発する装置なんて付けてないから。トーストが焼けるだけだから」
「そうか、トーストか。トーストなら大丈夫……って、その機能いらんじゃろが!」
「戦闘中って結構お腹が減ると思うんだよね」
 例によって、ジョージの意見は右から左に。
「そんなことより、そこに転がってるジェファルコン持って来て。部品取りするからさ」
「人の忠告は聞かん癖に人使いが荒い奴じゃ……」
 パーツを取る用に回収した保存状態のいいジェファルコンをジョージが取りにいく。
 その瞬間、段ボールをぽーんと上にはね除けて、静麻が飛び出した。
「ちょっと待ったぁ!!」
 ジェファルコンに駆け寄り、コクピットの中を調べる。間違いない。
「これ、俺のジェファルコンだ……」
「あんたら、段ボールに隠れて何してんの?」
 生駒とジョージに冷たい視線を浴びせられ、静麻とレイナはかくかくしかじかと話した。
「……だったら早く出て来ればいいいのに。こそこそするのは良くないよ」
「すみません……」
「めんぼくない……」
「いやいや、こそこそドクロスイッチ取り付けてた奴が言うなっ!!」
 ジョージは突っ込んだ。
「まぁバレたからにはしょうがないな。俺達もイコンの整備を手伝うとしよう」
「始めっからこうしてれば良かった気が……」

「……時空を超えてきたお客さんは、随分と賑やかだねぇ」
 喧噪を背中に受けながら、太公望は釣り糸を垂らし、趣味の時間に浸っていた。
 そこに帰還した白竜が来た。白竜は太公望の前に立つなり居住まいを正し、敬礼をする。
「少しお時間を頂いて宜しいでしょうか、太公望隊長」
「ああいいよ。その堅っ苦しい挨拶をやめてくれたら、なんでも答えてやらぁな」
 敬礼を下げ、白竜は質問をした。
「……教団の軍事力?」
「ええ。出来ましたら、一戦交える前に敵の総戦力を把握しておきたいと思いまして」
「随分と絶望的な質問をするんだねぇ」
 太公望は苦笑した。
 グランツ教はパラミタ全土を統一した組織だ。即ちそれはパラミタ各国の全軍事力がそのまま彼らの支配下にあることを意味する。
 戦争が続いているため、白竜のいた2023年のパラミタ大陸の総戦力よりは幾分疲弊していると思われるが、それでも強大な軍事力を有しているのは間違いない。
「どうだい、なかなかヘビィの相手だろ」
「……と言うことは、シャンバラ国軍も彼らの支配下にあると?」
「シャンバラ国軍?」
 太公望は彼の軍服を見て、言いづらそうに言葉を選んだ。
「残念だが、国軍はもう存在しねぇ。連中に抵抗して壊滅しちまったんだ」
「国軍が……!?」
 突き付けられた事実にショックを受けるも、白竜は軍人らしく冷静さを保つ。
 その時、ふと友人の黒崎から頼まれていたことを思い出した。
「……ところで、その格好と太公望という呼び名は、釣りがお好きだからなのですか?」
「ああ、釣り好きが行き過ぎて、太公望なんて粋なコードネームまで貰っちまったよ」
「私の友人にも釣り好きがおります。もしかしたら気が合うかもしれませんね」
「いいねぇ。ご一緒したいもんだ」
「今は別行動中ですが、機会があったらご紹介します。”黒崎天音”という男で……」
「黒崎天音……?」
「どうかされましたか?」
 太公望は遠く水平線を見つめた。
「……そういやあんたらは別の時空から来たんだったな。懐かしいな、アマちゃん」
「アマちゃん……?」
 その言葉に、白竜は思い出した。
 天音には釣り仲間がいた。アマちゃんスーさんと呼び合う仲の釣り仲間が。
「……もしかして、あなたは”鈴木”さんなのですか?」
 太公望は笑う。
「……本名で呼ばれるのは、どれぐらいぶりになるかねぇ」
 遠くを見つめる彼の目に波のように寄せるのは、遠き日の記憶。
 あの日、海京が崩壊して全てが失われた時、彼は天御柱学院の風紀委員・鈴木だった。
 全てはこの穏やかな海の底に……。
 空には、爽やかな潮風に運ばれて、ケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)が飛んでいくのが見えた。