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リアクション
アクリト艦を護衛せよ! 1
アイールを発って間もなくゴーストイコンの群れがアクリトの艦を追い始めたという連絡が入った。現在アクリトの艦を中心に護衛に駆けつけた巨大戦艦が展開している。葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の伊勢が偵察機を艦載しているため最後尾を哨戒しつつ追尾、ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)を艦長とするローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)のHMS・テメレーアが旗艦としてアクリト艦の右後方を、湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の土佐が右前方を警戒、左後方には柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)のパートナーアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が艦長を務めるウィスタリアが、左前方警戒には大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)の加賀が配備されている。各艦の砲が遠距離支援を行い、各々を母艦とする多数のイコンが、周囲の警戒と近接戦闘に当たるわけだ。艦隊の配備が完了したときに、ローザマリアはアクリトへの通信を行っていた。
「こちらHMS・テメレーア。全艦隊が貴艦の周辺に護衛のため配備されました。
敵機の数は膨大です。輪形陣から外れぬよう、進路変更等あるようでしたらご一報願います」
「わかった。今までのコースで中継基地に向かうと、ゴーストイコンの群れがアイールの街を直撃することになるらしい。
当艦はその事態を回避するため進路を変更する。データについてはすぐそちらに送ろう。護衛を感謝する」
通信に応えたのはアクリトだった。そのことでもアクリト自身が今回の事態を重く見ていることがわかる。
そのことを重く受け止めながら、ローザマリアはこの近辺の空路・水路の管理用レーダー基地であるアイール水路警備局とテレメーアの艦橋に隣接した一角に設置された防空戦闘管制室――プロップルーム――の回線をリンクさせ、ネルソンの補佐を行うグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がアイール周辺の偵察の為に先行する伊勢の情報双方を把握できるよう努める。ローザマリア自身はデータを照合し敵の数や展開状況を可能な限り把握に努め、護衛に当たる艦全てと砲撃支援効果をあげるための各艦との間のデータリンクを構築する。コンソールの上でローザマリアの指が忙しく踊った。旗艦テメレーアは万が一包囲されたり敵が殺到して来た場合、対空戦闘のなか伊勢と位置を入れ替え旗艦を最後尾に移動させ追尾をかわすための時間稼ぎをするつもりでいた。
亮一はモニターに映し出されたアクリトの艦を見た。
「敵の目的はこの前のヒトガタねぇ……。
どんな秘密を秘めているか知らんが、これだけの手段をとって来るということは何かの切り札になるのは間違いない。
全力を尽くしても護り切らないとな」
その呟きを耳にして、土佐の通信管制と索敵を担当する高嶋 梓(たかしま・あずさ)が顔を上げる。
「そうですわね、なにかとても大きなものが背後にあるようですし……」
ゴーストイコンの群れがゆっくりと進む戦艦群の後方に見えてくる。艦隊最後尾を後方に偵察部隊を出していたコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が吹雪に向かって叫ぶ。
「きたわよ! 後方の空は敵が7分に空3分って感じね」
すべてを食い尽くして空を覆うという飛蝗のごとく、レーダーには点というよりも面に近いほど密度の濃い場所すら散見される。ネルソンがチャネルを開いた。
「ホワイトエンサイン旗一旒! 各艦、奮励努力し義務を尽くせ。
ただし無茶はするな。無事生還する事もまた諸君等の義務である!」
全艦隊に緊張が走る。ネルソンは素早く各艦のデータに目を通し、砲撃準備に入る。アクリト艦の周辺を護衛する起動要塞。そこから間断なくゴーストイコン部隊を攻撃可能にするために、砲撃はテメレーアを皮切りに、部隊を構成する機動要塞がローテーションを組んで交互にゴーストイコン部隊を砲撃することになっている。
「テレメーア、砲撃準備!」
ネルソンの短い号令が入る。艦長補佐を努めるエリザベス?世の英霊、グロリアーナが送られてくる、あるいは各種レーダーやセンサーからの情報をもとに算術士と分業しながら距離や位置関係の算出等を行い、部隊の持つ艦載機にも適切な指示を与えてゆく。
「各機、最大警戒を行うように。敵は弱いとはいえその数は膨大である。心してかかるよう」
グロリアーナと詳細なデータのやり取りを行いながら砲撃長のローザマリアが魔道レーダーで測距を行い、さらに従来の備え付けの機械系レーダーセンサーによる測距と併せて着弾誤差を減らすべく細心の注意を払う。弾道上に友軍の艦艇やイコンが居ないか確認を行い、エイミングとスナイプで標的の密度の濃い場を狙う。
「テメレーア、主砲第一射発射準備!」
ローザマリアが主砲の調整を終え、薄茶の髪をきりりと後ろで束ね、同じ色の瞳に生真面目さを浮かべた副砲担当の上杉 菊(うえすぎ・きく)も調整完了を告げる。
「こちらも発射準備完了です!」
「第一射――ファイア!」
ローザマリアの凛とした声が響き、同時に菊も発射を告げる。
「第一射、ファイア!」
テレメーアの砲撃がゴーストイコンの雲に風穴を開ける。
「次弾装填急げ。着弾データならびに敵の撃破状況を僚艦に送信!」
ローザマリアに続きネルソンの声が響く。
「敵が突出した部分、密集している部分を優先的に砲撃せよ。
万一ゴーストイコン部隊が散開した場合、敵の上下左右に砲撃を加えよ。決して囲まれるな!」
「細かいのは任せてくれ」
最後尾、最前線の亮一から通信が入る。先行して特攻してくるゴーストイコンを捕捉し、第二射を担当する土佐がでの射撃準備に入る。
「荷電粒子砲発射します。砲撃座標コード2082534。軌道上のイコンは至急回避行動を行ってください」
梓が僚機に通信を行う。土佐の荷電粒子砲が特に敵の密集した場所を狙い撃つ。砲撃に触れたゴーストイコンは溶けるように消えてゆく。
「抜けてきた敵に向けてイコン部隊発進。突破した敵はFRAGライフル、レーザーマシンガンでお迎えしてやれ!
イコンデッキ、修理および補給準備。すぐ忙しくなるぞ」
亮一が指示を出す。梓がAIのフォローを受けながらレーダー、赤外線探知、外部カメラによる目視確認を併用して敵の位置をチェックし、僚機とのデータ送受信を行う。
「こちら土佐。補給、修理を要する機体は位置座標を送ってください。最寄の機動要塞に誘導します」
土佐のイコンデッキではアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)とソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)が帰艦してくるイコンを待ち受けている。
「さて、忙しくなりそうですな」
アルバートが言い、銃型HCに登録した亮一が開発したトリアージプログラムを使い、移動段階のイコンからデータの収集を始める。ソフィアも整備分隊に指示を与え、入れ替わりに出撃するイコンの最終チェックを行う。
「イコンの整備と補給は任せて。けど、このプログラムがあるからだいぶ楽ね」
「そうですな。しかし必ずや……」
言いかけるアルバートを制して、ソフィアが言う。
「かならずや目視確認も行うこと、でしょ? わかってるわ。持込みで変な捕獲品が入ってこなければいいんだけど。
持ち込まれちゃったらとりあえず動けないように固定して、後でアリクト教授に押し付けましょう」
てきぱきと動くソフィアをみて、アルバートはにっこり笑った。ソフィア嬢、いい整備士になるだろう。
藤色の貴婦人、ウィスタリアはジャマーカウンターバリアを張りつつ、第三射を行う。
「こちらウィスタリア。ゴーストイコンの群れに向けて主砲発射します。発射準備オーケー。
目標ゴーストイコン。コンディション・オールグリーン。――発射!」
アルマの淡々とした確認の言葉と共に艦載砲とグラビティキャノンがゴーストイコンめがけて発射される。藤色の髪と眠たげな瞳を持つこの少女は、いつも無表情であるため感情というものが存在しないかのようにみられがちだ。今アルマはウィスタリアのコントロール最適化のため、自艦と己をリンクさせていた。ウィスタリアが破損すればそれは彼女の神経に痛みをもたらすだろう。だがその痛みさえ、彼女の表情に出ることはないのだ。
アルマはすぐに今の射撃情報を僚艦に送信する。最大の効果を上げるためには全艦隊が一体化し、情報を共有しなければならない。――そう、今のアルマとウィスタリアのように。
桂輔は整備班αに指示を出しながらウィスタリアのイコンデッキで土佐に収容しきれないイコンや補給だけで済む機体の受け入れ準備を行っていた。
「とりあえず、着艦した機体の状態を見てから最終的な整備トリアージを行う。
区分は『青=問題無し、緑=損害軽微、黄色=小破、オレンジ=中破、赤=大破、黒=修理不能』。
無傷、軽度の損傷の機体はこっちで引き受けるとして、中破以上の機体は土佐、伊勢に廻すつもりだ。
修理、補給は損傷度の低い機体から優先的に行っていくぜ」
まもなく交戦していたイコン部隊の第一波が戻ってくるだろう。
(出来るだけどのイコンもダメージが最低限だといいんだが……)
桂輔は祈るような気持ちで、外部を映し出すモニターに目をやった。
伊勢ではコルセアを前に吹雪が喜色満面といった感じで第四射の準備を行っていた。伊勢は最前線の艦であり、戦力を正確に分析し後方の味方に連絡する役目も今回持つ。戦艦としては小型の船体だが、大火力とイコン搭載能力を備えた高性能な艦である。ただしその代償として居住エリアが犠牲になっており、潜水艦のような余裕の無い構造となっている。先日吹雪がなにかやっており、狭い寝台の並ぶエリアがさらに狭まっていた。
「やっと自分にもアレを使うときが来たようであります」
吹雪が言い、ビッグバンブラストの発射準備を行う。
「……いつの間にそんなもの入手してたのよ?!」
コルセアが目を丸くする。ビッグバンブラストは威力は高いが使用に際しての危険性も高い武器だ。
「土嚢作りと塹壕堀だけが特技ではないのですよ、発射―――ッ!!」
凄まじい爆発が、ゴーストイコンの群れに炸裂し、かなり大きな群れがそっくり消えうせた。
伊勢のイコンデッキでは鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が親衛隊員達を整備員代わりに、おそらく一番ダメージの大きな機体が最前線の伊勢に着艦すると予測して各種の部品をそろえるなど整備準備を行っていた。中破以上のレベルとなると、機体のみならず搭乗者の怪我なども予想される。艦の救護室や医師等の医療班との連絡も抜かりなく行い、消毒薬などのほかストレッチャーの手配も行った。
「イコン整備準備完了であります」
天城 千歳(あまぎ・ちとせ)は加賀のCICで通信管制と索敵を担当していた。データリンクで艦隊ネットワークから廻って来た索敵情報を元に、レーダー、赤外線探知、外部カメラによる目視を併用して効果の高い位置を算出して龍一に告げる。
「伊勢のビッグバンブラスト射撃完了しました。加賀のグラビティキャノン発射準備完了です」
「グラビティキャノン発射用意。あの蚊柱みたいなのを吹き飛ばす!」
千歳がすぐに射線上の僚機に退避勧告を出す。
「主砲を発射します。射線上のイコンは速やかに退避してください。座標コード369875です」
「グラビティキャノン――発射!」
暗黒属性の重力波が発射されるとゴーストイコンの群れが景色もろとも歪み、押し潰されて爆散する。
「抜けてきたやつはウィッチクラフトライフル、レーザーマシンガンによる対空砲火で迎撃するぞ」
攻撃の効果を素早く確認し、捕らえ切れなかった目標の迎撃準備に入る。
襲い来るゴーストイコンの群れに向かい、途切れなく砲撃を行いながら、大艦隊は着実に中継基地へと向かってゆく。
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