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伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

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伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

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第七章:ゲームの達人


 同じ頃。
 通常通り授業が行われている校舎の様子を見て回っていた御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、廊下の角から手招きしている見知った顔を見つけて近寄っていった。
 今日の舞花は、分校の噂を聞きつけて調査のためにやってきていたのだ。パラ実の潜入するために、パラ実の女子制服を入手して着替え、顔を隠すためにサングラスをかけている。
「お疲れ様です。首尾はどうですか?」
 舞花は、人目を気にしながら聞いた。それは、彼女が分校へ来るのに先立って、潜入させておいた従者の一人、【極道教師】だった。スキルの【根回し】や【裏社会】の効果もあって、校内にとけこむ事に成功したらしい。
「これ、舞花さまの生徒手帳。これが決闘システムの白ワッペン」
【極道教師】は、舞花が分校内で支障なく行動できるための用意を手渡した。本物と見分けがつかないほど上手く偽造された生徒手帳に舞花の写真が張ってある。パラ実に身分証などあって無きが如しなのだが、持っていないよりは心強い。
 分校内ではワッペンも身分証の代わりになるらしい。チップが埋め込まれており、個別IDが刻み込まれているのだと【極道教師】は説明した。
「本当は、上位色のワッペンが欲しかったのですが、これしか手に入らなくて」
「構いません。私は決闘には参加しませんし、分校生として怪しまれずに動き回ることができるだけでいいですから」
【用意は整っています】のスキルの効果はあったが、それでも高位ランクの取得は無理だったようだ。むしろ下位ランクのほうが単なる一生徒として目立たないかもしれない。
「では、行きましょうか。舞花さまに会ってもらいたい人物がいるのですよ」
「どなたですか?」
 パラ実の極西分校に親しい知り合いはいない。舞花は、【極道教師】に案内されて、そちらに向かった。薄汚い校舎から離れしばらく歩くと、パラ実にしては小綺麗なガーデンへと到着する。
「……?」
 花の先乱れた庭園にパラソルつきの丸テーブルが置かれ、一人の男が座って紅茶をたしなみながら、待ち構えていた。
「ようこそ、お嬢さん。俺は、謎のアドバイザー“”だ。いい情報を聞きたいか? そうかそうか、舞花にだけ特別に教えてやろう」
 男は、ティーカップをテーブルに置きながら一人頷いて見せた。
「は、はあ……?」
 舞花は眼を丸くする。なんなんだ、この男は?
 銀髪を隠すよう髑髏マークのバンダナで頭を覆い、銀色サングラスをかけハーケンクロイツのプリントされたマスクをはめて鋲のついた革ジャンを纏っている。一見ただのバカヤンキーなのだが、声に聞き覚えがある。
「……!!」
 舞花は、ああっ!? と声を上げそうになった。もしかして……?
「しっ」
【極道教師】は、舞花の言葉を遮った。
「誰が見ているか分かりません。知らないフリをしていた方がいいですよ」
 舞花は、【極道教師】を見つめ返す。なんて人を連れてきてくれたんだ?
 謎の男“”は、マスクをずらして紅茶を飲みながら、独り言を呟くように舞花に告げてきた。
「B校舎の3階、手前から二番目の教室に“赤木桃子(あかぎももこ)”という女子生徒がいる。表向きは大人しく目立たない真面目な女の子で校内ランクでは白ワッペンの下位生徒だが、正体は『決闘委員会』の委員長だ。謎のアドバイザー“”の知り合いで、話を聞いたと伝えれば会えるから、仲良くなっておくといい」
「決闘委員会?」
「名前の通り、決闘システムを取り仕切っている委員会だ。ワッペンを発行し管理し、生徒たちを格付けしている。この分校の本当の頂点は金ワッペン保有者なんかじゃない。教師たちよりも力を持つ陰の組織、『決闘委員会』なんだ。この委員会にたてつくと、ワッペンを取り上げられ、地下教室行きになることもある」
「どうしてそれを……? それにあなたは……」
 舞花にはそれ以上口を挟ませずに、謎の男“”は続ける。
「そして、その『決闘委員会』の顧問をしているのが例の特命教師たちってわけだ。彼らは表向きは善良で熱心な教員たちで、ほとんどの場合自分たちでは動かない。何かを掴みたかったら、委員会へ潜り込むのが一番だ。委員会はガードが固く普通なら近づくのは困難だが、舞花なら何とかなるだろう」
「……」
「委員長の赤木桃子の存在は、極秘だ。分かっていると思うが、決闘で校内序列が決まるこの分校で生徒たちの生成与奪を握っているのは、決闘システムを仕切っている委員会なんだ。彼らは、普段から存在を隠しているが、委員長が誰か分かったら襲撃されたり下手をすれば命まで狙われる。ワッペンを取り上げられたり、地下教室に落とされたり、実際に恨みを持っている生徒も多い。だから、慎重に接触してくれ」
「……」
 舞花は、ごくりと唾を飲み込んでいた。話の内容もさることながら。
 間違いない、この声、この喋り方、そしてこの雰囲気。この男は……、山葉 涼司(やまは・りょうじ)だ。変装していてもすぐに分かった。
どうしてヤンキールックに扮してまで分校に? そんな内心を見抜いたように“”は言った。
「俺がしてやれるのは、ここまでだ。以前分校の騒動に関わった手前、ちょっと気になってな。だが、今の俺は部外者だ。これ以上は動くつもりは無い」
「いいえ、十分です。ありがとうございます。……エックスさん」
 舞花が礼を言うと、“”はずらしたマスクの口元でニヤリと笑った。
「そのサングラス、似合ってるぜ。結婚前の環菜そっくりだ。見る奴が見たら、正体バレバレだから、気をつけたほうがいいかもな」
「そ、そうなんですか……」
 舞花は、ちょっとしょんぼりした。改心の変装だったのに目立っていたとは。というか、“”も見る人が見れば、正体バレバレなんだけど……。
「……」
 彼は、それ以上のことは喋るつもりはないようだった。椅子を後ろに向け、光景を眺めているだけだ。
「よくわかりませんけど、お気をつけて」
 舞花は、必要以上の詮索はしないことにした。ペコリとお辞儀をすると、その場を離れた。【極道教師】と、もう一人の従者【清バラ】が一緒についてくる。
「赤木桃子さん、ですか」
『決闘委員会』の委員長。白ワッペンにして分校の頂点に立つ少女。底辺から校内秩序を掌握しているなんてどんな娘だろう、と舞花は思った。
 とにかく会ってみる事だ。そして、謎の男“”の出現。舞花はクスリとする。
 この事件、想像していたより面白いことになりそうだった。



 
 さらには、分校内の某所。
「こちらですよ。ドクター・ハデス」
 真王寺写楽斎はドクター・ハデス(どくたー・はです)を案内して、分校内のとある施設にやってきていた。一見ただの破壊された校舎の残骸だが、その地下に巨大な施設があったのだ。
「ほう。これはなかなかのものではないか」
 ハデスは面白そうに目の前のコンピューターを見上げた。
 大型のスーパーコンピューターから無数のコードが伸び、施設内の端末に繋がれている。
 正面にはスクリーンが設置され、それぞれが画面映像を映し出していた。端末では、研究員らしい男たちが処理を行っている。
「ここは、ボクの研究室の一つでしてね。ツァンダ周辺のコンピューターシステムなら、全てシャットダウンできるくらいの処理能力を持っています。分校内のデータなら、何でも即座に手に入りますよ。生徒たちの個人データはもちろん、大会で戦ったイコンの性能や癖あらゆる戦術シミュレーションの分析表まで」
「それで?」
 ハデスは促す。これを自分に見せた理由はなんだ、とその表情は言っていた。
「たんなる技師であるボクは、“ゲームのような戦争”ができるコンピューターシステムの開発を任されているんです。これまでのイベントはそれらに生かせるためのものですよ」
 写楽斎は照れくさそうに紹介を始める。
「そう、ゲームですよ。戦争はゲームのように行わなければなりません。これはボクの会社も悩みのタネでしてね。せっかく兵器を買っても使っていただかなければ何の意味もありません。新しい兵器を買ってもらいにくいじゃないですか。なかなか、使えないらしいんです、人間ってやつは。ですが、ゲームなら」
「……」
「例えばシミュレーションゲーム。ボクも好きなのですが、画面上の兵力が減っても大きな問題ありませんよね。ただのユニットの数値です。RPG。いいですね。ボクはこれも好きなんです。強力な武器を買ったら敵を斬り倒したくなります。敵は画面上のドットの塊で、ダメージを受けても血が流れるわけではなく、数値が変化するだけ。こうでなきゃ。武器はどんどん使いましょう。何人死のうが単なる数値に過ぎません。町を破壊しても、家には誰も住んでいるはずが無いじゃないですか。ゲームみたいに戦争すれば。更地にしてスカッと気持ちいいですね。そんな架空と現実の交差する快感のプログラムを」
 写楽斎は、本当に気持ちよさそうに話した。
「分校の決闘だってゲームですよ。かつては血が流れたのに、今は単なるHPの数値とポイントの増減を皆が楽しんでいます。現実と架空が交差したんですよ。そして、本当に人が死んでも……。それはゲームと同じと見なすようになります。彼らは気づかない。感覚が麻痺してしまうんです。そして戦い続けるんです。この箱庭で。ボクはそれを観察しながら、プログラムを修正していくのですよ。これを分校内だけではなく、全ての人たちに当てはめることはできないか、と」
 写楽斎にとって、どちらが勝ってもいいし、どちらが負けてもいい。兵器が良く売れる世界が理想だ。長い長い戦争を。延々と続く戦争を。終わることの無い混乱と紛争の世を彼らは望んでいる。
ずっと戦い続けるしかない。『決闘システム』はその試作段階なのだろう。
「……」
 ハデスは見誤ったことを悟っていた。この男は、ハデスのようなユーモアと洒落っ気のある悪ではない。本物の悪党なのだ。
「ねえ、ハデス。あなた本当はいつ世界征服をするつもりなのですか? もっとゲームのように世界征服しましょうよ。あなたはゲームパッドを持った画面の前のプレイヤー。この世は単なる画面の映像です」
 彼は囁く。
「もしそのつもりなら。ボクの方こそ助力を惜しみませんよ」


担当マスターより

▼担当マスター

車 修理

▼マスターコメント

車修理です。皆さまにはいつもお世話になっております。
完成が大変遅くなり、参加者の方々にご迷惑おかけしたことをお詫びいたします。

イコン格闘戦、トーナメント方式でやるんじゃなかった……。
想像していたよりとんでもない労力になり、結局発表が引き伸ばされることに。
ですが、相当力を入れて書いてあります。
アクションも気合が入った物ばかりを頂き、対戦相手を決めるのすら苦労しました。

このトーナメントの成績は、イコン及びパワードスーツ隊の性能やパイロットの腕前に直接繋がるものではありません。
一回戦で敗れたキャラクターも多々いますが、それは劣っていることを意味していませんし、今後の評判に関わることではありません。
どれもこれも素晴らしく、モブを除いて実力は伯仲していました。
勝負は時の運と縁です。ルールあり、ストーリーありで都合により敗れたイコンもあります。

それをご承知の上、楽しんでいただければ、書き手としても大変幸せであります。

なお、今回は個別コメントは一切書いておりません。リアクション描写のまま受け取っていただいて結構です。
また、称号発行もごくわずかです。ご了承ください。

いずれにしても、このリアクションがあなたと楽しいひと時を過ごせるよう祈っております。

またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。