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リアクション
そして更にその十日後、彼等はようやくナラカへ到達した。
推進機能を損傷した艦を、アルマは辛うじて平面に誘導し、ウィスタリアは海の底に沈むようにして、ゆっくりと不時着する。
「……ついに、到着したか」
ふう、と、旭が息を吐く。とりあえず、此処までは来た。
「ですが、ウィスタリアは修理しないと動かせません」
暫く、ここに足止めとなるだろう。
「おい、あれ、ひょっとして線路じゃないか?」
ラルクが前方を指差した。
ズームしてモニターに表示させると、確かに、線路らしきものが見える。
外に出られない者達に艦の修理を任せて、ラルク達が様子を見に行くことにした。
線路から左右を見ると、数キロ先に、ポツンと建物が見える。
駅に違いないと行ってみると、確かに無人の駅だった。
「時刻表があるが……今は何時なんだ?」
駅に時計はなく、旭が首を捻る。
小一時間程待っていると、列車が滑り込んで来た。
車掌室から降りて来たのは、全身に黒いローブをまとった者だった。
顔の部分が闇のように黒く、性別は解らない。
「……まあ、やっぱ、トリニティじゃねえよな」
期待していたわけではないが、やはり残念でラルクが呟くと、車掌が首を傾げた。
「おぬし、トリニテー殿と知り合いでござるか。
見たところ、ナラカの者ではないようでござるが?」
男の声だ。そして意外にフレンドリーである。
「あんた、トリニティの知り合いか?」
「知り合いではござらんが、同じ車掌業を生業とする者として見知ってはいるでござる。
トリニテー殿はエリートでござるので、このようなローカル線ではなく、急行を担当されているでござるよ」
トリニティは、かつてナラカエクスプレスを利用した時、その車掌を務めていた女性だ。
「あんたはこの列車の車掌か。この列車、菩提樹駅まで行くか?」
旭の問いに、車掌は、否、と言った。
「この列車は、死者の宮殿行きでござる。
菩提樹駅には、そこで寝台車に乗り換えるといいでござる」
切符、と車掌は手を出した。
「これ、使えるか?」
旭は、ナラカエクスプレスの回数券を渡す。
「……急行用でござるな。期限が切れているでござる」
車掌は切符を確かめて、じっと旭を見た。
「……しかし、ナラカの者でない生身の御仁が、これを使う機会など、そうはないでござろうな。
おまけするでござるよ」
「感謝する」
「俺はこいつだ。使えるか? 俺以外にも、乗せたい奴がいるんだが」
ラルクが差し出した『Naraca』を見て、車掌は頷く。
「構わんでござる」
『停車中の魔列車は、各駅停車、死者の宮殿行きでござる。出発の時刻まで、もう少々待つでござる。
尚この列車は永世中立空間でござる。列車内での迷惑行為、戦闘活動、他者への体乗っ取りは堅く禁止するでござる。
違反した者は容赦なく車外へお引取り願うでござるよ』
列車内に、車掌のアナウンスが流れる。
「これで、暫くは息がつけるな」
ナラカローカル線で菩提樹駅に向かうのは、外に出ることができた、ラルク、セルマ、旭達、リカイン達だった。
ウィスタリアの外に出られない者は、修理の完了を待って後を追うことになり、真司達はその護衛で残った。
線路沿いに進行すれば無駄な戦闘は避けられるだろう、と車掌が助言したので、道中のような厳しい状況は脱したと判断していいだろう。
「パスワード、か……」
列車に揺られ、車窓から見える、ナラカの不気味な光景を眺めながら、セルマは呟いた。
パスワードを持ってきて、とパルメーラは言った。
考える時間があまりなく、思いついたものは少ない。
セルマは上空を見上げる。自分達が降りて来たそこは、どんよりと濁っていて、じわじわと精神を侵食してくるような気すらした。
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