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コーラルワールド(第1回/全3回)

リアクション公開中!

コーラルワールド(第1回/全3回)

リアクション

 
 
 霊峰オリュンポス。
 そこは、代々の皇帝の亡骸が納められる皇帝の墓場があるところであり、パラミタにおいて、霊的な意味で、最もナラカに近い場所でもある。
 ナラカの穴、と呼ばれる場所が数点存在し、微量の瘴気と、崩御した皇帝がナラカにて屠り損ねた虚無霊等が漏れ出て来ることがあり、それらを殲滅する為に、常に黒龍騎士と呼ばれるエリュシオン最強の騎士団が護りに就いている。
 皇帝の墓所は、地上の遺跡を入口とした、地下の神殿にあり、皇帝の棺はそこに納められた。
 地上の遺跡へは、“裏門”から入る。
 遺跡を抜けた先にある正門は、正式な呼び名を『死の門』といい、崩御した皇帝だけが、この門を開けて、門の外へ行くことが出来る。
 外、とは、無論ナラカだ。
 外側からは、誰の手によってでも決して開くことはできず、そこには、“何もない”に等しい。
 内側から開く時のみ、ナラカと繋がるのだ。

 微風だが、陰気な空気が流れていた。瘴気が混ざっているのだろうか。
 皇帝の墓場の地上遺跡に到着して、その静けさにトオルは周囲を見渡す。
「……連中、まだ来てないみたいだな? 途中で追い越したのか……」
「もう来て、先に進んじゃったのです?」
「それなら、何か騒ぎになってそうな気がするんだけど」
 財布を追いかけて、彼等は結局此処まで来てしまったのだ。
 真深達の目的も、気になる。
 それに、都築中佐達の行方を追うアキラ・セイルーンや清泉北都らとも合流していて、内容に奇妙な符合があり、そこも気になるところだった。



 薄汚れたマントの下は、騎士にはとても見えない意匠の漆黒の鎧を着ている。
『死の門』の門番シバは、訪れたハルカ達を見て、ほほう、と目を細めた。
「随分大勢やってきたものだ。墓荒らし共も、此処に来ることは殆どないのだがな。
 ああ、いや、ついこの前も、来ていたが、本当に珍しい」
 まるで、煽るような口調で言う。
「……それは、都築中佐とテオフィロスのことかな」
「名前なんぞ知らんね」
 北都の問いに、シバはくつくつと肩を揺らした。
 嫌な笑い方だな、と思った。
 その人物が来て、その後自分達が来た。繋がりがあることなど、とうに察しているのだろう、と、北都は思う。
(その上で、この反応か……)
「その人は、今何処に?」
「知らんな。のたれ死んでいるんじゃあないのか。――いや、」
 シバは、一行を見渡して、何か思いついたかのようににやりと笑った。
「ああ……そうだ、思い出したぞ。
 何とかという二人は、この門から、ナラカへ行ったんだった。
 うっかり、手が滑ってな、扉が開いてしまったのさ」
「じゃあ……、もう一回手を滑らせてもらえる?」
 ヒルダ・ノーライフが進み出た。
「二人を迎えに行きたいの」
 シバはくつくつと肩を揺らした。
「駄目だな。この俺も、黒龍騎士の端くれ。同じ過ちは、二度と犯さない。
 だが、そうだな。頼みを聞いてやってもいい。条件があるがな」
 シバは、にやにやと不気味な笑いを浮かべている。
「条件?」
「そう、この門を開けたいならな、首を一つ持ってくるがいい。
 ああ、ただの首じゃあ駄目だ。お前等のような雑魚の命では、鍵になどならない。
 高貴な魂でないと、門の鍵とは成せない」
「殺せ、ってこと?」
 ヒルダの表情が強張る。
「ほう、お嬢ちゃんは頭がいいな。殺せってことだ」
「ふざけんな、そんなの――」
 トオルが言いかけた時、久しぶりの、聞き覚えのある声がした。
「よかった、まにあった?」
「え?」
 振り返って驚く。
 ぱらみいが立っていた。
「ぱらみい? どうして此処に……」
「ただいま」
「あ、ああ、お帰り……」
「門をあけるんだよね。だから、いそいで帰ってきたの。
 わたし、鍵になるよ」
「えっ!?」
 トオルは目を見開いた。

 空の遺跡で、聖剣を彼等に託した時、聖剣を使ってパラミタの全ての世界樹を活性化させるというのなら、きっと、『死の門』を使うのだろう、と、ぱらみいは思っていた。
 門を開けるには、鍵が必要だ。命、という鍵が。
 だから、自分がその鍵になる為に、此処へ来たのだ。

「そういうことか」
 ダリル・ガイザックが、納得して呟いた。
「地祇なら、体が滅びても、精神は滅びない」
「でも、死ぬには変わりないだろ!?」
「うん。
 でも、わたしがいなくなっても、パラミタが滅びなければ、いつか、つぎの地祇が生まれるよ」
 トオルは、ぱらみいの言葉に、打ちのめされたように膝をつく。
 ぎゅっと、ぱらみいを抱きしめた。
「ほう」
 シバは、両手を広げてぱらみいを見る。
「成程、これはいい魂だ。よかろう、この命で門を開けてやる」
「ダリル、でも……」
「ルカ」
 ルカルカ・ルーが何かを言いかけるが、ダリルは厳しい口調でそれを遮った。
「俺の信念は、知っているな」
 ルカルカは、ぐっと黙る。
「事実にも破壊にも感情は不要、ただ在るのみ行うのみ」
 あえて、ダリルはそう言い聞かせる。
「これが最も合理的だ」

「――シキ」
 ぱらみいを抱きしめたまま、トオルは呟いた。傍らで、磯城(シキ)が彼を見下ろす。
「死なせたくない」
 佇んでいたシキは、いきなりトオルの手からぱらみいを奪うと、そのまま、この場を走り去った。
「あ、――」
「ルカ!」
 逡巡したルカルカは、ダリルの声に、どうするにしろ、とにかくぱらみいを連れ戻した方がいい、と判断する。
 だが、追おうとしたところを、トオルが立ちはだかった。


 騒動を、シバは面白そうに眺めている。
「あの……、門番さん?」
 ハルカが、シバに話しかけようとした時、シバは、はっと背後を振り返った。
 その身を、槍のような光の束が貫く。
 シバの体を貫いた光の束は、そのまま、ハルカの身も貫いた。
「ハルカ!!」
 倒れたハルカに、刀真が駆け寄る。
 シバは、背後――門を見て、にやりと笑った。
「やるな、流石は龍騎士……。隙を、つかれたか……」
 閉じられた門を隔てて、向こう側から、一瞬でもこちらに戻ってくるなどと、普通できることではない。
 龍騎士だからこそ、なのか。
 門の前に、幻像のように現れているその男を見て、ヒルダが悲鳴を上げた。
「テオフィロス!?」
 無事だったのか。でも。
 安堵と、冷やりとした悪寒が同時に背中を駆け上がって、ヒルダは混乱する。
 シバを睨みつけたテオフィロスの幻像は、すっと薄れて消えた。
「ハルカ、しっかりしろ!」
 治療が間に合わない。ハルカは今にも事切れそうだ。
 絶望しかけた時、ハルカの体に、突然、水晶のような物が貼りついた。
「!?」
 長さ10〜20センチほどの水晶が大量に、みるみるハルカを覆い尽くす。
「く、くくく……」
 横たわるシバが、笑って、血を吐いて咳き込んだ。
 その掌がハルカに向けられていて、ハルカを水晶で覆ったのが、彼なのだと解る。
「この俺の、穢れた魂では、門の鍵になどならんぞ……。
 その娘、鍵に使うのならば、そのままとどめを刺すがいい。
 使わないのなら、それが剥がれ落ちない内に、何とかすることだ……」
 血を吐きながら笑って、シバは息絶えた。
「……テオフィロス……? でも、でも……」
 震えるヒルダを見て、大丈夫か、と大熊丈二が声をかける。
「どうしちゃったの……」
 テオフィロスの目に、ヒルダは、ぞっとする程の、強い憎悪と、激しい狂気を感じ取っていた。



(――アルゴス)
 不意に、耳の中に響いた声に、巨人アルゴスは首を傾げた。
「ラウル?」
 どうしたのだろう、と不思議に思う。
 アルゴスとオリヴィエは、秘密の通信方法を持っていた。
 かつて彼等が女王殺害計画を企てた時、オリヴィエは、その方法でアルゴスを呼び寄せたのだ。
 だが、捕らわれてシャンバラ王宮に服役する身となった後、お互い一度もその方法を使おうとしなかったのに。
(ハルカが死んだかもしれない)
「何!?」
(いや、これから死ぬのかな……。
 何だか、とても眠くてね……。意識を失う前に……君に、別れを……)
「ラウル!」
 通信は途切れた。呼んでも、二度と返事はない。
 監獄代わりのイコン格納庫で、突然叫んで立ち上がった巨人に、警備の騎士達が何事かと集まる。
 アルゴスは、彼等に構わず、強引に扉をこじ開け、格納庫を出た。

「巨人が脱走した! 警備の騎士は中庭に回れ! イコンは出せるか!?」
 足元の緊張になど意識を向けず、アルゴスは、聳え立つ宮殿を見上げ、歩き出す。
(シャンバラの女王よ)
 声は、届いていると確信していた。
(必要があれば壊そう。
 必要があるのなら、殺す。
 さもなくば、この俺を排除しろ)

 不意に窓辺へ歩み寄った女王ネフェルティティが、突然座り込んだので、側近やメイド達は驚いて駆け寄った。
「女王!?」
「大丈夫です……」
 だが、そう微笑むネフェルティティの額には汗が浮かび、見るからに酷く疲労している。
「ごめんなさい……少し、疲れてしまって……。
 暫くの間、休みますが、どうか、後をよろしくお願いします……」
 そう言って意識を失った女王が、赤ん坊の姿になったことに、周囲は騒然とする。
 誰も、女王の突然の異変の原因を知ることはなかった。
 そして、突然巨人の姿が忽然と消えた理由も。
 女王は、単独で、テレポートの魔法を使ったのだった。
 負担になると解っていても、そうせずにはいられなかったのだ。
 それ程に、巨人の懇願は、悲痛だった。



 門の前に、突然現れた巨人に、居合わせていた者達は驚いた。
 アルゴスは、門と、その周囲、そしてハルカを見て、自分の居場所と事情を察し、そういうことか、と呟く。
 ハルカは、『死の門』の鍵にされようしているのだ。
「その少女を生かせ。代わりに、俺が鍵となろう。
 巨人族の命、不足はあるまい」
「アルゴス!?」
 彼を知る者は、現れる筈の無い者の出現と、彼から放たれた言葉に驚く。
「――だが、巨人族の誇りに賭けて、貴様等に黙って殺されることを拒絶する。
 俺はこの門を破壊する。止めて、殺してみせるがいい」
 我が本来の武器よ、この手に来たれ。
 アルゴスがそう唱えると同時に、彼の手には、何処かから現れた、槍のように長い柄の槌が握られていた。

(いいのかい。盛大な自殺になるけど)

 かつての、オリヴィエの言葉が思い出される。
(……俺は、何も変わらんな)
 同族の仲間を探していた。
 けれど本当は、巨人など、もう自分の他に見つかるはずもないのだと、解っている。
 例え一人や二人見つかったとしても、傷を舐めあうように生きることしかできないのだと、解っていた。
 巨神アトラスすら今はなく、もう、この世界で、巨人とは滅びた種族なのだ。
 滅びた種族が、たった一人、未だに生きているなど滑稽だ。
 もう、死んだところで悔いも未練もない。
 その最期を、友人の為に死ねるなら、上出来だと思う程だ。
 さあ、この者達は、自分を殺す程の力を持っているだろうか。
 槌を叩きつけた扉が、みしりと音を立てた。


「まだ、巨人の生き残りがいたとは」
 地上の遺跡の全貌を見渡せることが出来る高台で、二人の黒龍騎士が、『死の門』の様子を見ていた。
「どうする。彼等の行為は越権行為を越えている。
 エリュシオンへの侵略と判断されてもおかしくはない」
「もう少し、様子を見よう、リアンノン。
 今、我々が事態を収めてしまっては、彼等がエリュシオンを侵略したという状態から動かせなくなる。
 貴女も、彼等がそのつもりでないことは解っているのだろう」
 手遅れにならない限りは、彼等自身の手で事態を収めるのを待つ。
 その判断に、リアンノンと呼ばれた騎士は頷く。
「そうだな……」
 銀髪の騎士と黒髪の騎士は、暫く事態を静観することにした。



 追手の気配は無い。
 シキは慎重に気配を探りながら、ぱらみいを抱えて山岳地帯を抜ける。
 もうすぐ森林地帯だ。そこに至れば、ずっと身を隠しやすくなるだろう。
「シキちゃん。
 戻らないと……トオルちゃんが怒られるよ」
「そうだな」
 シキは苦笑する。そして、あえて話を変えた。
「ナラカは、どうだった」
「うん。ドージェちゃんとともだちになったよ。
 ふるさとの歌を教えてもらったの」
 ぱらみいは嬉しそうに答える。
 そして、門の鍵となる前に、目的が果たせて良かった、と続けた。
「……トオルが、悲しむ」
「……わたしはね、きっと、霧散して、消えちゃう。
 パラミタは大きいから」
 ぱらみいは、ぎゅっとシキに抱きつく。
「また生まれても、きっとそれは、ずっと先のことだし、わたしとは違う部分が集まって、地祇になるのは、たぶんわたしじゃないけど、でもね、パラミタの地祇が、いなくなっちゃうわけじゃないから……」
 だから、大丈夫。
 ぱらみいはそう言ったが、シキの足は止まらなかった。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 
 第一回リアクションお届けいたします。
 ちなみに女王は多分三日くらい赤ちゃんの姿でいて、回復したら元に戻ります。


 裏ルートの方で、ナラカまで犠牲を出さずに到達する条件は、

・誰かが、機動要塞等の異界対応の積載艦を持参していること
・全員が、デスプルーフリング等の、ナラカで活動できるアイテムを装備(又は異界対応イコンを持参)していること
・総合レベル100以上(イコンを用いるならパイロットランクが35以上)のPCが、LC含めて十人以上いること
・物理攻撃の有効でない相手に対する攻撃方法を有していること

でした。
 以前、『ナラカの底の底』というシナリオにおいて、教導団空母三隻(+エリュシオン船)で、ナラカに向かった作戦があり、その際に多くの犠牲が出てしまっていることを鑑み、これくらいの戦力が無ければ無事にナラカまでは行けないだろう、という条件設定でした。
 不足分を龍騎士二人で補う予定でしたが、補いきれなかった感じです。


 ハルカの財布を護りきる条件は、朝永真深(とハデスさん)の他に、真深の仲間(パートナー)がいることを閃くかどうか、が鍵でした。
 ハルカの周りに集ってくださった面子が猛者揃いだった為、戦力差で失敗しそうでしたが、真深達は一応目的を達しました。


『死の門』関連につきましては、次回ガイドの方で、おさらいの説明をさせていただきます。
 アクションが無かった関係で、重要な事項が一件、動いていません。


それでは、次回も何卒よろしくお願いします!