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【アナザー北米戦役最終回】 決戦! 黒い大樹!!

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【アナザー北米戦役最終回】 決戦! 黒い大樹!!

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04 サルヴァ

 
 
 
 一方その頃、精神世界では呪術師たちの支援も受け、契約者が現実の戦闘より先に敵の本体であるサルヴァと遭遇していた。
「何てデカイんだ……」
 免疫機構の二次防衛線。騎士球の攻撃をよけつつ実質的なボスともいうべき2型支援球を打ち倒しながら、ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)は呟いた。
 サルヴァの精神体はとてつもなく巨大で、目算し現実世界の大きさに換算するなら全長500メートルに若干満たないといったところだった。
 ナオキは小型飛空艇アルバトロスにパートナーのシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)を同乗させながら、巨大な人型のサルヴァが全身からハリネズミのように放つ弾幕をすり抜けていた。
 シャウラは【精神のガントレット】と【エナジーコンセントレーション】で精神力をアップさせつつ、グレースから精神力が重要と聞いていたこともあり【超人的精神】でタフさを備えつつも精神力が自動的に回復するように準備を施していた。 さらには【虹のタリスマン】や【ルーンの護符】で各種耐性や状態異常防御などの防御も固めるという徹底的な精神世界対策でサイコダイブに望んでいた。
「なに、でかいならどこ狙っても当たるさ!」
 シャウラはナオキのつぶやきにそんな風に返しながら、バリアを展開している1型支援球に攻撃を加える。
「そうだな……っと!」
 シャウラはそれに同意しつつ【覚醒型念動銃】でバリアが敗れた瞬間を狙い、サルヴァの本体に銃撃を仕掛ける。
「キヒヒヒヒ……まさかこんな手段を使うとは思いもよらなかったよ。流石、人間は面白いネー」
 地の底から、あるいは天空から響くようなサルヴァの声が精神世界に居る特異者たちの耳に響く。
「フン……人間の自由な発想ってやつよ」
 セレアナは呪術師たちと協力しながら周囲の支援球や歩兵球を破壊して回り、更には破壊された歩兵球の残がいを吸収しようとする猟兵球を真空波で切断する。
「それにしても、思ったよりここにたどり着く人間が多かったけど、一体どうやったのかな? ミーに教えてくれないかな?」
 ハリネズミのように弾幕を飛ばしつつ、サルヴァが人間たちに訪ねてくる。だが無論、それに答えるような真似はしない。
 実のところそれは現実世界に残ったシャウラのパートナーであるユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)が【驚きの歌】の弾き語りでサイコダイブした呪術者や契約者の精神力を回復させ続けていたのだ。そのために『燃料切れ』に陥ること無く多くのものがサルヴァまで辿りつけたのである。
「まあ、あたしたちじゃお前に直接ダメージを与えることは出来ないかもしれないけど、露払いぐらいはできるわ!」
 そして、セレンが【グラビティコントロールで】歩兵球たちをまとめて吹き飛ばす。
「……読めたわ! カーリー!!」
 マリエッタは【ディメンションサイト】で敵の配置を読むと、その位置情報や予測情報をゆかりに伝える。
「分かったわ! 呪術師のみなさん!!」
 ゆかりは、サルヴァに辿り着くまでに呪術師の特性や個性をある程度把握し終えていた。そして、シャンバラ教導団大尉としての経験を活かして集団での戦闘の経験などまるでない呪術師たちをどうにか即席でまとめ上げ、より有効的なフォーメーションを構築していたのだった。
 そんな支援を受けてサルヴァに向かう契約者たちは防衛網に労力を割かれること無く戦うことができていた。
 そして、サルヴァに大きな一撃を与えたのは魔鎧であるカスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)を装備し、意志の力で外観をイコン風に変えた斎賀 昌毅(さいが・まさき)マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)の特殊なコンビネーション攻撃だった。

 まず、昌毅が【グリムイメージ】を使用する。それは罪深い行為のイメージを見せることで負の感情を植え付けるというものだが、精神世界においてはそれは半ば現実の形をとってサルヴァを襲っていた。
 科学の発展によって人類の戦争が変化していったことに感銘を受け、自身も科学する人となった怪物であるサルヴァは、科学をしていく過程でかなりの深度で人間の思考をシミュレートしていた。科学は手抜きをしたい、相手に勝ちたい、等様々な理由で発達する。必要は発明の母という言葉もあるように、研究・開発・発明をするためには他のダエーヴァ以上に人間の心理に近づく必要があった。
 したがって、サルヴァはそれらの負の感情の影響を少なからず受けてしまう。
 さらには、マイアの【エンヴィファイア】がサルヴァに重ねてかけられる。
 【エンヴィファイア】は自分や他人の負の感情を魔力に変える術だ。
 そして、その負の感情のエネルギー源はサルヴァ自身。サルヴァから集めた負の感情は黒い炎のような形態をとり、マイアの周囲を漂う。
 マイアが術を解放すると炎は消滅し、サルヴァと、周囲の免疫機構に向かって莫大な魔力が放たれた。
「があああああああああああああああああっ!!」
 サルヴァの悲鳴が、精神空間に響く。
「くっ……」
 術の反動としてマイアは激しく疲労し、てこの存在がいない後方の空間に下がって休憩を取る。
「いまのは、すこ〜し効いちゃったよ? ユーたち、なかなかやるね」
 サルヴァは、まだ余裕をたたえていたが、少しだけ余裕のヴェールが剥がれたようだった。
 
「ヘイ、サルヴァ! 今のダメージで現実世界のダエーヴァの動き、かなり乱れたんじゃないか?」
 ナオキが、サルヴァに対して囁き攻撃を開始する。
「……どうやら、そのようだネー」
 サルヴァの口調は、なかなかに悔しそうであった。