リアクション
◇ ◇ ◇ 帝都では、ヴリドラの召喚に失敗し、ユグドラシル内の街に戻ろうとするジール達の後ろで、じっと考え込んでいた黒崎 天音(くろさき・あまね)が、意を決したように顔を上げた。 「申し訳ないのだけれど、もう一度、召喚を試してくれないかな。 繋がりが切れていないと言っていたよね」 先を歩く、彼女の師匠を顔を見合わせた後、構いませんが、と答えつつも、ジールは首を傾げる。 「繋がりと言っても、『探す手間が省ける』くらいのものでしかありませんが」 もう一度やってみたとて、同じ結果になるだけなのでは、とジールは告げた。 天音は肩を竦める。 「本当は……リューリク帝に願わないと召喚に失敗するだろうことは解っていた。 でも、それを言うことができなかった」 天音は、召喚の成功を願っていなかった。 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、少し驚いた顔をしたものの、すぐに、やれやれ、と肩を下ろす。 全く、天音にはそういうところがある。 天音には、ずっと疑問があった。 何故、真面目で堅物のテオフィロスが、都築中佐を伴い、皇帝の墓場へと赴いたのか。 何故、都築とテオフィロスは死の門から先に進めたのか。 何故、テオフィロスは門の向こうから、門番シバに攻撃することができたのか。 英霊と普通の人間の魂、パラミタに転生する際の浄化期間の長さの違い、確かに魂に差というものは存在するのかもしれない。 だが、そもそも、門を開くのに、本当に高貴な命を必要とするのか、それが天音には引っかかる。 「そんなものに、ヴリドラの命を使ってくれと願えなかった……」 すっかり捻くれた人間となってしまった自分には、心の内を素直に明かす、ということができなくなってしまったけれど、今度はちゃんと、ヴリドラに伝えたい。 嘘をついたことを謝りたかった。 そして、コーラルワールドへ赴いた者達の帰還の為に、再び門を開く為の犠牲となって貰えないだろうか、と、その言葉を聞き届けてくれることを、真剣に願った。 |
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