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リアクション
広場の隅の植え込みの陰。ピエロと地味茶髪、仮面の男に長身八重歯が座り込んで顔を寄せ合っている。
ピエロの女はナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)、赤と緑のツートン衣装にメイクはピエロそのものだ。
「話した通りだ、粋でド派手な大花火を上げてやろうぜ!」
地味茶髪は渋井 誠治(しぶい・せいじ)、蒼空学園のソルジャーであり、地味な顔を歪めて辺りを見回している。
「イチャつきやがって、俺だって、俺だって本当は今ごろ…」
渋井は植え込みの葉を千切っては投げて散らしていった。
「あんな奴らに負けてられるか! パアッとやってやろうぜ!」
仮面の男はブレイド・オーバーウェルム(ぶれいど・おーばーうぇるむ)、顔の半分を仮面で隠したセイバーである。
「安心するがいい、火薬は私が掻き集めてきてくれようぞ」
長身八重歯は蒼空学園のローグ、クロノス・ヴィ・ゼルベウォント(くろのす・びぜるべうぉんと)である。
「機械は俺が調べてみるぜ、火薬集めは任せたぜっ」
ピエロが笑んで立ち上がる。
「野郎共! 生きて帰れよ! チーム漢花火、出陣だぁ!」
おおぉ! と言って立ち上がった事も叫んだことも、目立ちに目立ってしまったとか何とかと。四人は顔を見合わせて、群集の中に紛れていった。
火薬を奪おうとする者あらば、制作の邪魔をしようとする者もまた然り。
並べられた花火玉制作機を見上げて、イルミンスール魔法学校のウィザード、メニエス・レイン(めにえす・れいん)は舌なめずりをした。
「機械の前に立ってイメージするだけなんて、ねぇ、ミストラル」
「えぇ、全く面白くありませんわ」
「愛は障害によって燃えたぎるもの。痛みの先に快楽が、そして芸術があるのよ」
メニエスはパートナーの吸血鬼、ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)に瞳を向けて笑みかけた。綺麗な花火を見るための手段は人ぞれぞれに。美しい花火に仕上げる為の行動だと思いたいものである。
「ほらほら刀真、早く」
引かれ連れられて広場に入ったのは蒼空学園のセイバー、樹月 刀真(きづき・とうま)であり、満面の笑みで刀真のキレイな手を引くのは、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)である。
「月夜、そんなに引っ張るなって」
「わぁ、人がいっぱい居る」
広場に集まりし生徒達を見て、月夜は感嘆の声をあげた。
「ようし、刀真、私、頑張って作るね」
花火を見るのが初めてだと月夜は言っていた。一体どうやってイメージするのだろうか、刀真は思いながらデジカメを取り出して、はしゃぐ月夜を一枚撮った。
「あっ、刀真、撮ったでしょ」
「いいだろ、撮られる事で記憶は強く鮮明になる。いい思い出にしよう」
「うんっ」
記憶の少ない月夜の為。多くの人の笑顔に触れる事は月夜を楽しませてくれるはず。カメラを構えてレンズ越しに、刀真は広場を見渡し始めた。
多くの人と話そう。そんな目的を持った二人がここにも居た。
浴衣姿にもポニーテールが良く似合う、レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)と、パートナーの剣の花嫁、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)も浴衣が映えていた。
「あの、浴衣の時も、このカチューシャは、付けてないとダメですか?」
「もちろんネ、とってもとっても似合ってる」
淡いピンクの浴衣姿、頭には犬耳のカチューシャをつけていて、それはもう、可愛い良い。
「浴衣だって、夜からでもよかったのでは?」
「打ち上げ会の司会をやりたいネ、だから今から覚えてもらう、その為の衣装なのヨ」
「なるほど、そうでしたか」
同じ服なら覚えやすい。花火に込めた想いを聞いて、それを司会進行に生かしたい。元気印の笑顔っ娘。名司会者誕生の予感が… 、うん、するような気がした。
広場に入ってくる者が、皆一様に笑顔かと言えば、そんな事は無い訳で。蒼空学園のバトラー、椎名 真(しいな・まこと)は悩み顔で現れた。
「打ち上げ花火は俺も苦手なんだよね、魔力もほとんど無いし。京子ちゃんと一緒に花火見物でもしようか。でも京子ちゃん、火が苦手だから、近くで見ることもダメだろうし。遠くから見る? いや、それはそれでもったいない気がするし」
セリフにあらず、モノローグ。だから真の後ろを歩くパートナーの双葉 京子(ふたば・きょうこ)には何も聞こえていないのだ。それでも京子は怪訝な表情をしていた。
「どうして広場に来たんだろう。真君は魔力ほとんど無いし、私も作れないし。真君も打ち上げ花火は苦手なんじゃなかったっけ? 場所取りするのかな、こんなに早くから?」
首を傾げて考える二人。腕組までして同じ様。互いを想いて巡らせて、それが伝わるれば嬉しい限りに。きっかけは花火、さて、どうするのかな。
悩み顔あれば、暗い顔あり。活気に溢れた広場においては異色の空気を出してしまうもので。そんな峰谷 恵(みねたに・けい)を、見つけて声をかけたのは、峰谷と正反対の心境をしたイルミンスール魔法学校のセイバー、織機 誠(おりはた・まこと)だった。
「あの、魔力、持ってます?」
峰谷は驚きながらも小さく頷いた。自分が声をかけられるなんて思ってなかった、そんな空気を出していたつもりもなかったから。加えて誠は、自分の代わりに花火玉を作ってくれないかとお願いしてきた。
「あ、でも、ボク」
花を上に向けた菊の花束。イメージはもう決まっている。母親の虐待から自分を庇い助けてくれた兄に奉げる花。
「あ、そうか、君も花火玉作りますよね。そうですよね、困ったな」
眼鏡のズレを直して考えている。明るくて、丁寧な人。
「あっ、それなら、あなたのイメージに混ぜて貰えませんか? 線香花火をイメージしたいんです」
イメージに混ぜる? 線香花火? 線香花火。
「うちのお嬢に花火を見せてやりたいんです。私の好きな線香花火を」
線香花火、お線香。そうだ、兄さんのお墓参りにも行けなかった。線香花火、兄さんに奉げるのに、ぴったり、かな?
「本当に? ありがとう、お嬢も喜びます」
誠の見つめた先、金髪のお嬢様ドリルツインテールをなびかせた上連雀 香(かみれんじゃく・かおり)が誰かを探しているように見渡し凝視していた。喜ぶ誠の顔が眩しかった。
何をしても気分が晴れなかった。でも今は。少しだけ、軽くなった気がしたんだ。
魔力を持たずに苦悩している二人が、ここにも居るようですよ。一人の魔力が微力である為、同じイメージを共有して、協力して一つの花火玉を作ろうとしているようですが。
百合園女学院のメイド、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が、
「鷹は闘争のシンボル、その凛々しい姿は、わたくしの美貌と並ぶほどに強く美しいですわ」
と言えば、パートナーのナイト、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は、
「花火も見ている人々を幸せにしますわ、平和のシンボルである鳩にするべきよ」
と反論する。
同じイメージを共有して、協力して一つの花火玉を作ろうと…。
天使と言えば、堕天使だと。桜井校長の笑顔と言えば、自分の美貌が勝ると。
同じイメージ、は遠きにあるようだ。
「ふんっ」
背を向けて、歩き出す。
仲違いのペアが発生した時、花火玉制作機の準備が出来たとのアナウンスが噴水広場に鳴り響いたのだった。
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