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リアクション
並んでいるというのは、辺りを観察するには適しているのだ、そこにいる大義名分があるからである。
赤い浴衣を着た泉 椿(いずみ・つばき)は辺りを見回し、探していた。男を探し、美形を探す、あたしは彼氏が欲しいのだ、と。
何度か飛び出しそうになった椿を止めるのはパートナーの緋月・西園(ひづき・にしぞの)である。
「ほら、椿、歩き人にぶつかってしまいますよ、大人しくして下さい」
「あっ、ほら、あの人も渋くてイイ感じ」
「うんと大きくてキレイな花火を作るんでしょう?」
「うん、頼んだぞ、緋月、ロマンチックなやつだぞ」
「えぇ、ですから椿も一緒に並んで下さ、って椿?」
瞳は蕩けて口は開いて。椿は吸われるように歩みを始めていた。
「ちょっと、椿、椿ぃ!」
瞳だけで追っていたら行ってしまう。少しだけ躊躇して、それでも緋月は飛び出した。
一度離れれば、次は最後尾から。花火玉制作機まで、二人はまだまだ、かかりそうである。
ロマンティックにキレイで素敵な花火を!
ピンクの浴衣に身を包む、桜井 雪華(さくらい・せつか)はそんな花火は望みで無い。
「ええか? 団扇にハリセン、用意できとるな?」
「えぇと、えぇと」
大きな大きな紙袋、その中からヘルゲイト・ダストライフ(へるげいと・だすとらいふ)は団扇とハリセンを取り出した。
「よぅし、後は花火に関する知識やな。なになに? 菊と牡丹の型を成すのは…」
「なぁセツカ、こんなに早うから準備せんでも良ぇんと違ぅ?」
「何言ぅとるんや!どんだけしても準備のし過ぎ、は無いんやで。損はせぇへん、損せぇへんのなら、やらな損やろ?」
雪華の言葉に、何とか納得、なぜが素直に納得していた。花火玉を構築するのはヘルゲイト、今一度、イメージをしてみた。二人のコンビ名は「ピンク・ナース」、ハートマークの中にピンク・ナースの文字、色は赤から桃、そして白へ。セツカの花火解説で盛り上げて、ピンク・ナースの知名度も上げる。花火は宣伝の絶好のチャンス!
「絶対に、絶対に、成功させる」
ヘルゲイトの瞳がすわっている。気負い過ぎな気が、するのですが…。
目一杯に首を伸ばして、メイド服を着たナナ・ノルデン(なな・のるでん)は列の先を見つめ見た。
「これだと予定が立てられないです」
いつもの様だと分に秒に刻んで立てている。次の動きにその次の動き、思考を巡らせて予定を立てているのだが。ふと目に入った、難しい顔をしているパートナーのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)を見て、ナナはハッとした。
「ダメだわ、最近は、お仕事ばかりでしたから、今日はズィーベンと二人でゆっくりすると決めましたのに。私ったら」
難しい顔をしているのはイメージを繰り返し繰り返し反芻して構築しているから。眉に力が入りきっている。
「そんなに気負わなくても良いですよ」
「いや、今日はキメるんだ。必ず上手く作るんだもん」
なかなかに見せない真剣な表情を見て、ナナは優しい笑みを得た。
いっしょに、ゆっくり。今日は満喫できるような、そんな気がした。
列の最後尾、イルミンスール魔法学校のウィザード、クラーク 波音(くらーく・はのん)が列に加わろうとした時、彼女に声をかけた生徒がいる。蒼空学園のローグ、シャラ・カプハ(しゃら・かぷは)である。
「一人、なの?」
「うん。そうだけど」
「あたし、魔力少ないんだ、でもイメージ通りの花火を作れるなら、面白いと思う、だから、魔力、貸してくれない?」
「魔力を、貸す?」
自分の代わりにイメージして、花火玉を構築してくれって事かな? でも。
「青い光を発しながら高く空へ昇っていく。頂点に達した時に大きな音と共に現れる光は完全な球体なの。光は青色から赤色、さらに緑色に三たび色を変えながら広がって、一瞬光が消えたかと思ったら小さな破裂音が幾重にも重なる。破裂したのは広がった花火の先、小さな光が広がった球の周りを彩り、ゆっくりと光を弱めながら落ちてゆくの」
息もつかずにシャラは言った、言いきった。それは、聞いていた波音の瞳を丸くした。
「あの、ちょっと。難しい、ね」
これに瞳を丸くしたのはシャラである。
丸い瞳が向かい合う、見つめ合う。そしてゆっくりと、自然に二人は笑んでいった。
「あの、ひまわりの花を、入れてもいい?」
「ひまわり? ひまわり、ひまわり? うん、その衝撃は面白いかも」
ひまわりが衝撃…。波音には幾つか分からない点はあれどもに、どうにもイメージは伝わる、もっと接して話す事で、きっと伝わってくる、そんな気がした。
話し伝えたシャラも感じたのだろう、伝わるんじゃないかと。
巡り合わせに感性と瞳合わせ。言葉だけにあらず、繋がる想いは繋がりゆく。
半被に、さらしを巻いた荒巻 さけ(あらまき・さけ)が鉄板に火をかけ始めたのを見て、パートナーの日野 晶(ひの・あきら)が驚きの声を上げた。
「えぇっ、もう始めるんですか?」
「えぇ、始めますよ。たこ焼きはどの時間でも人気者ですもの」
「あ、いや、そうかも、ですけど」
昌は、さけの半被姿を見て、ため息をついた。
「女の子らしく浴衣を着てくれればいいのですが…」
たこ焼きの屋台をやって楽しみたい、さけの瞳が輝いていたから。でも、花火が打ち上がる時には、二人で一緒に見るときには、浴衣を着てほしい、可愛い姿で。
「並んでる人たちに、一番に食べてもらうの」
そう言った時も、準備をしている今だって、さけの瞳は輝いている。
昌も笑顔を見せて、さけに寄りた。
「私は花火の中で、線香花火が一番好きなんですよ」
峰谷 恵(みねたに・けい)は、織機 誠(おりはた・まこと)の言葉を聞いていた。誠のパートナー、上連雀 香(かみれんじゃく・かおり)はどこかへ行ってしまっていたが、ようやくに戻ってきたようだ、走ってくる姿が見え始めた。
「見つけた、見つけたぞ、私の相手っ」
香が連れて来たのは気弱そうに見える男子生徒だった。
「わらわが誰かとくっつくと、ヘタレ誠のラブタイムが始まるようであるからのぅ」
これで誠は自身の相手を探す事になる、こんなに面白い事は無い。
「あぁ、そうですか、それは大変結構な事だと思います」
「ぬぅ、信じておらぬな?ようし、良ぃじゃろう、見ておれ」
香は男子生徒の手首を持って、空に掲げて叫んだ。
「わらわ、この人と今のところ『 りこん 』することになってるのじゃ!!」
ブホーッ! と飲んでいたラムネを噴き出して、誠の形相はみるみるうちに悪鬼へと変化を遂げていった。
「い、今のとこ『 ロリコン 』するだとォ!!?」
誠はゆらりと歩みゆき、男子生徒へと迫ってゆく。
「テメェ、うちの娘に良い度胸してんじゃねぇか!! 発射台に行こうぜ、久しぶりにキレちまったよ…」
「っっ、っつっ」
今まで落ち着いた声で話していた誠の変わりように、峰谷は言葉を失っていた。きっかけを発言した香に至っても僅かな疑念は抱いたようだが、
「… ん? なんか違うような気がするのじゃ。『 けっこん 』じゃったかの?」
そんな言葉も、誠には届いていない、もはや男子生徒に怒りをぶつける事以外には体が動かない事だろう。しかし、峰谷は香のこの発言を聞いていた。咄嗟に思考を最大限に巡らせた。
「そうか、本気だと伝えたくて、けっこん、と言いたかったけど、りこん、と言ってしまって、それを、ろりこん、と聞き違えたから」
笑い事じゃない、そう思ってる。誠は男子生徒の胸ぐらを掴んでいるし、気を惹けた事が嬉しいのだろうか、香は笑顔で誠を見つめている。
でも。峰谷は小さく笑ってしまった。広場に来るまでは、広場に来てからも、笑えるなんて思ってなかった。悲しみだけで体が形作られているようだったから。でも、二人の姿を見ていたら。
「兄さん、ボク、笑えたよ。ごめんね、笑っちゃった」
笑顔と共に涙が見える。眠っていた感情が、目を覚まし始めたようだ。
心に闇を抱えたまま広場に現れた生徒が、ここにも居るのです。
蒼空学園のメイド、日奈森 優菜(ひなもり・ゆうな)は俯いて、亡き父と母を想っていた。
「お父さん、お母さん。あの日いっしょに見た花火を再現するわ。毎年同じの、あの花火の下で、お父さん、プロポーズしたんだよね。照れてる二人も幸せそうに見えたんだよ」
考えているだけで涙が溢れてしまいそうだった。涙を抑えようと顔を動かした時、パートナーの柊 カナン(ひいらぎ・かなん)のだらしない顔が見えて、我に返った。
「兄さん、無差別告白とか、させないわよ… ?」
カナンはビクリと体を跳ねさせて、優菜に顔を向けた。
「な、なにを言うんだ、僕は花火玉制作機の素晴らしさを改めて考えていた所…」
「花火を使って、会場の女性たちにアプローチするつもり… ?させないわよ」
カナンは咄嗟に顔を背けた。なぜバレたんだ?読心術か?
「そんなだらしない顔してたら、わかるにきまってるじゃない」
我が妹ながら何とも恐ろしい。うぅ、これでは、もう、花火玉は作らせて貰えない、か。
「ん?」
優菜の瞳が生きていない。カナンはそう感じて、訊いていた。
「何でもないわ、花火のイメージを思い出の中から探してただけよ」
「嫌な、思い出なの?」
「そんな部分もある、ってだけよ」
優菜は僕に出会う前のことはあんまり話してくれない、僕は知らないんだ。
僕と優菜は義兄弟の契りを交わしたんだよ、優菜の過去を痛みを僕も背負いたい。優菜、話してくれないかな。
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