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イケメン☆サマーパーティ

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イケメン☆サマーパーティ

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親善露店に集う人々

 大賑わいを見せているのは、やはり親善露店。各地の名物料理を食べられるとあって、長蛇の列を作っていた。蒼空学園から店を出しているのは、椿 薫(つばき・かおる)イリス・カンター(いりす・かんたー)のペア。
「い、イリス。今注文はいくつ入っているでござるか」
「お好み焼きが15と、焼きそばが8ですわ。あと、肉なしが1つずつ」
 2人が忙しなく動き回る様子を見ながら、小林 翔太(こばやし・しょうた)はわくわくと出来上がりを心待ちにしていた。
「すごいねぇ、ここ一体だけでも色んな料理があるよ! やっぱり目指すは食べ物屋を完全制覇だよね♪」
 それを聞いていた、同じ列に並ぶ柳生 匠(やぎゅう・たくみ)は、翔太の肩を叩いてVサインを向ける。
「だよな! 食いまくってこそ祭だぜっ! あんたとは気が合いそうだ、一緒にまわらねぇ?」
「君も同じ? うわぁ、僕たち7人でお店をまわってるんだ。食い倒れツアー一緒にやろうよ!」
 意気投合する2人が目を輝かせて屋台を見つめるが、イリスはこのままではお店の手がまわらないのではと心配になってくる。
「……そうですわ、貴公! 謝礼を出すので手伝ってはくれませんか」
 得意の良い声で呼びかければ、振り返ったのは皆川 ユイン(みながわ・ゆいん)
「なになに? イケメンさんのお願いだったら聞いちゃいますよー!」
「お店を手伝ってくれるなら、商品を1つ持ってってくれてかまわないでござる」
 美味しい物のお代は浮きつつ、店に来るイケメンウォッチングが出来る……なんて美味しいお誘いだろうか。ユインは2つ返事で了承して、売り子のお手伝いをすることに。
「さぁ! イケメンさんは遠慮なく寄ってってほしいですー」
 イルミンスール魔法学校の深見 ミキ(ふかみ・みき)アーチボルド・ディーヴァー(あーちぼるど・でぃーう゛ぁー)のペアが冷製スープを振る舞っている。その中にはイルミンスールで採れる、美容と健康の効能がある貴重なハーブが入っていると言うから、美しく健康でありたいという生徒達がとくに列を作っているようだ。
「注文をする気があるならアンケートに記入するのだ。体調によってハーブの分量が変わるのだからな」
「アーチボルト、しっかりお仕事はなさっているの? なにやらお客様に対して不躾な物言いが聞こえた気がしたのだけれど」
 奥でにっこりと微笑むミキに食事抜きと言われるのではないかと、アーチボルトは気合いを入れ直す。吸血鬼だというのに、相手の了承がなければ血も吸えないなど、面倒な呪いを受けたものだ。
 配られたアンケート用紙にすらすらと記入の出来ない城定 英希(じょうじょう・えいき)は、どうしたものかと考え込んでいた。
「うーん、凄い列だから分担で買うことにしたのに、なんだこれ。最近のお疲れ度はって、みんなのコトそこまで知らないしなぁ。ま、祭ではしゃいで疲れるだろうからマックスにしといて大丈夫だよね、早く買ってみんなと合流しなきゃな!」
「貴公、記入は終わったのか?」
「うん、これでお願いします!」
 アーチボルトからアンケート用紙を受け取ったミキは、人間用のコンソメスープのベースにハーブを配合していく。パートナーが吸血鬼ということもあり、血液風味のベースも用意しているらしく、どちらもこのハーブのさじ加減が味の決め手となるようだ。
 そう、このスープが体調と不一致の場合にもたらす悲惨な事態など想像せず、適当なアンケートでメンバーの分を買ってしまうことを後悔することになるのだった。
 百合園女学院からは、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)和泉 真奈(いずみ・まな)のペアが同じハーブでもマドレーヌのついたハーブティセットとリンゴ飴が売られており、まったりとした空気に溢れていた。
 そんな穏やかな空気が似合う美男美女カップル、高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が談笑している姿は、ある種客引きに一役買っていた。皆に憧れの視線を注がれているなど露知らずで、2人はハーブティを飲んでいる。
「でも、芳樹がこんなところに誘ってくれるとは思わなかったわ」
 絶えずニコニコと微笑んでくれるアメリアに、連れ出してきて正解だと芳樹は思った。いつもはこうしてゆっくりした時間を2人で過ごすこともすくなくて、楽しそうなイベントに参加するだなんて以ての外だった。
 だからこそ、誘うときも興味があるのかわからなくて心配したものだが、やはり中身は普通の女の子。次からは、もっとこういう物にも連れ出して息抜きをさせてあげたいと思うのだった。
「一休みしたらどこに行く? さっきマップを貰ったけど、本当にたくさんのお店があるみたいだよ」
「ゲームで対戦してみるのもいいよね。あ、イケメンコンテストだって! 芳樹は出ないの?」
「僕が!?」
 楽しそうな笑い声が響く客席に、抑え気味の怒り声が聞こえてくる。どうやら調理場にいたミルディアが動かない真奈に代り表に出てきたらしい。
「真奈! あなたまで休憩してどうするのよ」
「もう、誰のせいで走ってきたと思っていらっしゃるの?」
 やる気満々で学園を飛び出したミルディアが親善露店の招待状を忘れ、それに気付いた真奈は走ってそれを届けることになったので、祭が始まる前からくたくただ。しかし――
「だって、楽しみだったんだもん。それに、あなたはお料理が出来ないんだから売り子くらいはしてもらわなくちゃよね?」
 そんなやりとりをしていると、紅白の目立つ衣装を着た2人組、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)アレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)がやってくる。
 ストライプのズボンに上着、三角帽子も被ったその出で立ちは、今にも太鼓を背負って歩いてきそうで、まさしく食い倒れツアーの参加者を名乗るにふさわしい服装だった。
「うぅ、スレヴィ〜早く口直ししたいです。すれ違いざまに英希さんから貰ったスープの味が、まだ口の中に残ってます……」
「出された物は食べるのが礼儀だろ。それに、買い物の前にミルディアへ差し入れを渡さないと……」
「あれ、スレヴィさん! 来てくれたの?」
 ミルディアは知ってる顔を見付けて驚いてしまう。
 こんなに大きなお祭りなのだから、わざわざ自分のところへ寄ってくれるなど思っても見なかったのだ。
「もちろん。今日は暑いから、冷たい飲み物でも差し入れしようと思ってね。あとは、サトゥルヌスのところに寄るつもりなんだけど……」
「スレヴィ、口直し−!」
 アレフティナの悲痛な叫びに混じって、もう1人の声が聞こえる。林田 樹(はやしだ・いつき)の声だ。
「ジーナ! 一体これはなんの冗談だ!」
 呼ばれて振り返るのは、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)。小柄なのにしっかりと中華鍋を奮う様は目を疑いたくなる光景だが、軽々と持ったまま微笑み返す。
「林田様が仰られたのですよ? 射的がしたいって」
「しかし……!」
 今回出店するのは、海開きでゲットしてきたクラゲとフカヒレを使って『スイライクラゲのスイーツ、杏仁豆腐風』と『パラミタホホベニザメのフカヒレ炒飯』という、中華風のメニュー。それに合わせて売り子の樹に衣装を用意したのだが、着替えたはいいものの人前に出るのが恥ずかしいと店奥でうずくまっていた。
「ミニのチャイナドレスにほんの少しフリルがついたスカートがくっついているだけじゃないですか」
「それが問題だと言っているのだ、ジーナ!」
 売り子をすれば、美味しい物も食べられる上に楽しみにしている射的にも参加し放題だと言われて手伝う約束はしたものの、こんな衣装を着るとは聞いていない。フリフリ・ひらひらを苦手としている樹にとって、この衣装は耐え難いものがある。
「大丈夫ですよ。あなたの分まで、私が頑張りますから」
 そう微笑むのは久我 輝義(くが・てるよし)。薔薇の学舎の制服姿だというのに、どことなく妖艶に見える容姿に釣られてか、先程から男女問わずに列を作っていた。
「お待たせしました、食後のスイーツをお持ち致しました」
 1つ1つのテーブルに丁寧な接客を心がける輝義は、品物を運ぶだけでなく1人1人の顔を見て言葉をかける。容姿を褒めたり、体調を気遣ったりしながら、自分の運命の人でも探すかのように対応している。
「久我様が頑張ってくださるのは助かりますが……林田様とお祭りを楽しみたかったです」
 これでは、折角2人で親善露店を引き受けた意味がない。目を潤ませて下を向いたジーナに、慌てて樹は飛び出した。
「よ、よし! さっさと売り上げを作って遊びに行こうじゃないか!」
 ジーナの機嫌を損ねると、後が大変だ。彼女のお願いを聞かなかったおかげで大暴れされ、2〜3日は手に負えない。それだけならまだしも、大事な武器を壊されたこともあり、出来る限りお願いは聞いてやろうと心に誓っていたのだ。
「わー、あんな可愛いウエイトレスもいたんだぁ」
 可愛い。その言葉に恥ずかしくなり、飛び出した勢いのまま再び奥に戻ろうとしたがジーナが立ちふさがる。
「林田様、やっぱりワタシとお祭りは……」
「い、いや、そんなことはないぞ! 楽しいなぁ祭は!」
 涙ぐんだジーナに負けて、恥ずかしながらも接客を頑張る樹。
 可愛らしい格好をして忙しなく動き回る樹を見られて、ジーナは大満足するのであった。