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イケメン☆サマーパーティ

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イケメン☆サマーパーティ

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似顔絵屋に集う人々

 熱狂するステージから少し離れた場所で、明智 珠輝(あけち・たまき)リア・ヴェリー(りあ・べりー)は、似顔絵屋を出店していた。
「へぇ。まさかここで、あんなに熱い演奏が聴けるなんて思わなかったね珠輝。……珠輝?」
 チラシを配っていた手を休めて店へ戻ってきてみれば、勢いよく何かを書き上げた様子。
 満足げに店先へ置かれた絵には『マイパートナー』と名付けられたようで、どんなもんかとリアは絵を覗きこんだ。
「……はあぁっ!?」
 そこには、リアの上半身全裸図が。華奢だが引き締まった男性の体を美しく描いており、最早どこから突っ込んで良いものか分からなかった。
「こんなもん置くなっ! だいたい、僕の身体なんていつ……!」
 顔を真っ赤にしながら明智を足蹴にしても、気が晴れることはない。1度たりとも見せていないこの身体、勝手な妄想で描かれたことも恥ずかしければ、こんな目立つところにさらされるのも溜ったもんじゃない。
「ふふ、美しすぎるでしょう? パートナー同士の裸の付き合いすらさせて貰えないのでつい」
「ついじゃない! そんな付き合い必要ないだろ?」
「おや、飛び越えて愛の営みを? それは大胆なお誘――」
「言ってない!!」
 そうして言い争う2人を、遠目から見守る姿があった。ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、お祭りの記念に絵を描いてもらおうと思っていたのだが、取り込み中なようで中々声をかけることが出来ない。
「あ、あのぅ……」
 勇気を振り絞って2人の間に入ると、暫くぶりに訪れたお客様に2人は目を輝かせた。
「見慣れぬ薔薇学さんですね……! どんな絵にしますか?」
 容姿端麗な美男カップル、ダリルが長身だからか、何故かダボっとした制服を着ているのルカルカが小柄に見えた。さらには、薔薇学の制服に身を包んでいることから、良からぬ妄想をかき立てられ、イメージが膨らんでいく。
「えっと、カップルとして《ものすごく仲よさそうに》描いてもらえるカナ?」
 その言葉を聞くや否や、珠輝は目を輝かせて下絵に入る。その描かれるスピードに驚きながらも、ルカルカはダリルへ耳打ちをした。
「ね。ね。男の子に見えるカナ?」
 薔薇学だと、男同士のカップルも珍しくないらしい。そんな噂を耳にしたから、お祭りを楽しむために男装してきたにも関わらずダリルと仲良く露店をまわっている。
 実際訪れてみれば、売り上げのために女装している男性もいて、もしかしたら普通に入っても大丈夫だったかも知れない。
「もっと傍に寄ってください。えぇ、もっとです……!」
 珠輝の指示により、寄り添うような形になる2人。確かにカップルとしてとは言ったけれど、人前で密着するのは少しばかり恥ずかしい。
 しかしこれは、絵を描くための構図ではなく、2人の仲が親密になれば良いのにと言う珠輝の願望に近いもののための指示だった。
「記念の絵、どんな風に仕上がるかな? あと、どこ見てまわろっか」
 絵を描いて貰っているというのに落ち着きのないルカルカに、ダリルは心配になる。
 目をつぶって懸命に巻くのを手伝ったさらしも、いつ外れてしまうかと気が気でない。
「そんなに、はしゃぐな。回るな。あぁ……頼むから目立たんでくれ。」
「……ふふ、出来ました!」
 自信満々に目の前へ掲げられたのは、薔薇園を背景に“上半身裸のダリルの腕にくるまれた、ダボダボ制服のルカルカ”という構図。
 どういう反応を返したらよいものかと、ルカルカがダリルに視線を送るが、同じコトを考えていたのか目が合ってしまった。
「ありがとう、確かにもの凄く仲良さそう。ね、ダリル?」
「ああ、このような絵は初めて描いて貰った。明智、今度是非教導団に遊びに来てくれ。こっそり色々案内するぞ」
 予想以上に仲の良さ過ぎる絵に戸惑いつつも、これも一緒にお祭りを楽しんだ記念の1つ。喜んで絵を受け取ると、2人は仲良く露店を巡り始めた。
 そんな仲よさげな2人を見て、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)に提案する。
「今は気軽に写真で思い出を残せるけれど、たまにはこんなのも良さそうですぅ〜」
「はい、絵なんて滅多な機会がないと描いてもらえないもんね! お願いしまーす」
 駆け寄ってきた2人に、急いでリアはお茶の準備をする。先程は自分の件で動揺していて仕事が出来なかったが、ビラ配りの他に来客をもてなすのは自分の仕事だ。
「いらっしゃい! ここは似顔絵屋だよ、2人並んでいるところでいいのかな?」
「おいでませ、美女お2人……!」
 創作意欲の掻き立てられるモデルが連続で登場してくれるため、珠輝の想像力もとい妄想も限りなく広がっていく。
 普通に仲良さそうな2人と、メイベルが着ている百合園の制服でまたもあらぬ方向へと突飛しているらしい。
「メイベルちゃん、ライブに間に合うかな?」
「とっても描くのが早い方のようですからぁ、ROSIERが出演するまでには終わりますよぉ。ふふっ楽しみですぅ」
 露店をいくつかまわったけれど、まだまだ時間もたっぷりあるし、ゆっくり楽しみたい。そんな2人の前に、着色前の線画が披露された。
「どうですか? 百合園の日常ってこうですよね?」
 自信満々に見せられたのは“メイベルの胸のリボンを口で解こうとするセシリア、うっとりした表情の2人”という絵で、まさかこんなものが出来上がると思っていなかった2人は顔を真っ赤にして否定する。
「ゆ、百合園学園をなんだと思っているんですか! 僕はこんな、こんな……!」
「そ、そうですぅ! 大切な方ですけれど、これではあんまりですよぉ!」
「え? 違うのですか? ……残念です」
 記念に部屋へ飾ろうと思っていた絵も、これでは恥ずかしくて飾ることは出来ない。
 なんとか普通の絵に描き直して貰った2人は、ホッとした様子でステージへと向かうのだった。