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リアクション
天御柱学院、購買部。
規則的に区切られた棚に系統ごとに分かれた幾つもの商品が並び、飲食物は中の見える冷蔵装置の中で陳列されている。 特に高価な商品などは手の触れられないようショーケースに隔離され、学生の利用しやすいようにと様々に近代的な工夫がなされていた。
ふと足元へ落ちてくるハンカチを見付けた聡は、足を止めてそれを拾い上げた。
「おい、落ちたぞ」
純白の清楚なワンピース姿の女性へ、無造作にそれを差し出す。
天貴 彩羽(あまむち・あやは)は薄らとほくそ笑むと、すぐに慌てたような表情を浮かべた。
「あら、ありがとう。……もしかして、敵の新型と交戦した……エースの、聡さんと翔さん?」
「! あ、ああ。何を隠そう、新型野郎を追っ払ったエースパイロットとは俺のことだぜ!」
自分が含まれていることに目を輝かせた聡は、ずい、と翔を押し退けるようにして一歩前へ歩み出る。
「前の戦い、すごい勇気でした。私、感動しました」
微笑みながらそう言う彩羽に、聡は得意げに胸を張っている。
「ま、あのくらい俺にかかっちゃ軽い軽い!」
「流石ですね。……戦闘記録から、敵のデータを独自に解析してみたの。見てくれます?」
「ん? お、おう」
彩羽の巨乳にすっかり目を奪われていた聡は、慌てた様子で取り繕った。
それに気付いた彩羽は、頬を染めて胸元を両腕で隠す。
「あ……さ、聡さん」
「わ、悪ぃ! お、俺のことは聡でいいぜ。それで、データだっけ?」
「……はあ」
すっかり調子に乗った聡の様子に、翔は呆れた様子で一歩身を引いた。
後ろを見れば、さすがと言うべきか、ナンパ一行はそれぞれに女子へ声を掛けているようだ。
(俺も、やってみるか……)
半信半疑ではあったが、ナンパがイコンの操縦に繋がっているという直哉の言葉を、翔は脳内で繰り返した。
不慣れな翔は、近くの女子の肩へおもむろに手を乗せる。
「なあ」
「きゃっ!?」
驚いたように振り返った蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)に、翔もまた驚きを隠せずすぐに手を離す。
「わ、悪い」
「いえ……あら、噂の新型と戦ったパイロットの方ですよね?」
雪香の言葉に、翔は驚愕を隠して頷いた。彼の認識よりも遥かに広く、彼らの戦闘は学院内に知れ渡っているらしい。
「一度お話したいと思ってたの。色々、お話聞かせて頂けません?」
「構わないが……」
首を傾げる雪香に、翔は頬を掻きながらも頷いた。これがナンパ成功と言えるのかは、難しいところだ。
「実戦ってどんな感じ? やっぱり怖いもの?」
「いや、その……」
「敵って強かった?」
「……ああ。あいつは、強かった」
歯切れ悪く言葉を濁していた翔は、そこではっきりと先日の光景を思い出し、強く拳を握り締めた。
次は絶対勝つ、とそう言い切るだけの自信は、今の翔には無かった。
「あ、質問ばかりでごめんなさい。やっぱり、同じパイロットとしては気になっちゃうのよね」
「雪香もパイロットなのか」
驚き半分、納得半分といった翔の反応に、雪香は深く頷く。
「そうよ。だから、戦場でもよろしくね」
「こちらこそ、よろしく頼む」
「辻永さんは、よく食堂利用する? もしよければ、今度お昼ご一緒しましょうよ」
「翔でいい。……ああ、そうだな、アドレスでも教えてくれ」
翔はナンパの先輩たちの教えに忠実に従い、雪香のメールアドレスを手に入れる。
雪香にもアドレスを渡して、翔はひとまず雪香と別れた。
どことなく達成感の漂う翔が思い出したように聡を探すと、先程まで彼のいた筈の空間では、奇妙な光景が繰り広げられていた。
「ん〜、彩華とちゅ〜したいのぉ〜?」
「い、いや、まだそこまでは……」
背伸びして唇を差し出す天貴 彩華(あまむち・あやか)に、たじろいだ御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が一歩後ずさる。
「なぁんだ〜」
すると何事もなかったかのように、彩華はポシェットに手を突っ込んだ。紫音は思わず身構えるが、彩華が取り出した手にはごく普通の飴が握られていた。
ぽい、とそれを口へ放り込み、彩華は幸せそうに笑みを浮かべる。
「紫音くんも、おやつ食べるの?」
「いや、俺はいいや」
そう言って後ずさろうとした紫音の肩に、不意にぽん、と手が置かれた。
途端、紫音がぴしりと固まる。ぎぎぎ、と音がしそうな程の緩慢さで背後を振り向いた紫音は、さっと蒼ざめた。
「げ、風花……」
そこにいたのは、紫音のパートナーである綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)だった。にっこりと微笑んだ彼女は、すぐに彩華へと威嚇するように鋭い視線を送る。
「紫音、そちらの女性は?」
「い、いや、これは、その……」
ぱくぱくとお菓子を食べながら首を傾げる彩華へ、風花は一方的な敵意を振りまいている。
(私の紫音を取らないで……!)
(お、落ち着けって風花。あっちでゆっくり話をしようぜ、な?)
精神感応で風花を宥め、引き攣った笑顔で彩華へ手を振ると、紫音は風花を引き摺って歩き出した。
「……?」
見守っていた翔と彩華の目がふと合った瞬間、彩華はぴくりと彩羽の方へ顔を向ける。
(彩羽?)
(目的は達したわ。そろそろ行くわよ、彩華)
(聡くんと、親しくなれたの〜?)
(ええ。ばっちりよ)
「貴重なお話をありがとうございました。また今度、ぜひお茶でも」
ふんわりと微笑む彩羽に、聡はすっかり骨抜きになった笑顔で手を振る。
「ああ、メールしてくれよ。いつでも行くからさ!」
「楽しみにしていますね。行きましょう、彩華」
「はぁい! さよーなら」
無邪気な笑顔で手を振る彩華へ手を振り返し、翔は聡へ歩み寄った。
低い声で、呆れたように問い掛ける。
「いいのか、サクラに見付かったら大変だろう」
「いいんだよ。あー、胸デカかったなあ、あの子!」
すっかり有頂天の聡は、アドレスを交換した携帯を見詰め、締まりない笑顔で声を上げた。
「へへっ、この調子で行くぜ! 待ってろ空京、ほーら行くぜ野郎ども!」
「空京は逃げたりしないだろう」
一行を置いて駆け出す聡の後を、翔たちナンパ一行は慌てて追い駆けた。
◆◆◆
「きゃっ!?」
その頃、食堂を後にしたアリサとサクラは廊下で長身の女性に捕まっていた。
突然背後から抱き付いてきた真里亜・ドレイク(まりあ・どれいく)に、サクラは驚きの声を上げる。
「あら、意外といい声。あとで賛美歌とか歌ってみない?」
悪びれた様子もなくにっこりと問い掛ける真里亜に、サクラはきっと眉を吊り上げる。
「き、急に何をするの! 私は忙しいの、放しなさい」
「へえ、忙しいってどうしたの?」
もがくサクラをぱっと解放しながら、真里亜は楽しげに問いかける。
「人を探している」
代わりに答えたアリサに、真里亜はずいっと顔を寄せた。
「待ち合わせ、とかじゃなくて?」
「それが……その、電話が途中で切れてしまってな」
言い辛そうに言葉を濁すアリサとどこか落ち着きのないサクラの様子を交互に眺め、真里亜はにやりと笑みを浮かべた。
「ふうん、電話を途中で切られちゃったの。それってもしかして……」
「もしかして、何よ」
噛み付くサクラの耳元へ唇を寄せ、真里亜は悪戯な声で囁く。
「不純異性交遊ならぬ不純”同性”交遊の最中だったりして」
「「!?」」
これには、アリサとサクラが同時に目を見開いた。
読みが当たったらしい、と真里亜は満足げに笑みを深める。
「そうすると、それぞれの彼女としては大変よねぇ。同乗するわ」
「あ、さ、聡さん、まさか……!」
愕然と肩を震わせるサクラとは対照的に、アリサは早くも落ち着きを取り戻したようだ。
「いや、あの二人に限ってそんなことは……」
「こうしてはいられないわ! 行きましょう、アリサ!」
サクラはアリサの言葉を聞きもせず、言うや否や勢いよく駆けだしてしまう。
「サクラさーん、急に走ると危ないわよー」
にやにやとした笑みを浮かべたままのほほんと呼び掛ける真里亜を、アリサは眉を下げて見上げる。
「頼むから、あまりサクラを煽らないでくれ」
「あら、ごめんなさい。それよりいいの? 早く追わないと、あの子何をしでかすか分からないんじゃない?」
飄々として答える真里亜の言葉に、アリサははっとサクラの走って行った方向を向く。
暫し躊躇うように真里亜と道を見比べてから、アリサは意を決して走り出した。
「今度サクラに会ったら、誤解を解いてやってくれ。いいな、絶対だぞ」
言い聞かせるように言って、アリサもまた駆けだして行った。
二人を見送り、真里亜は満足げに笑みを浮かべる。
「ハーイ。あー、楽しかった」
真里亜もまたうーんと大きく一つ伸びをすると、二人とは正反対の方向へ歩き出した。
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