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リアクション
一方、溜池キャンパス校庭では。
ウィイイイイン ガガガガガ
大音量を上げて、あちこちに穴と傷を作りながら、起木保の放った機械が転がっていく。
右へ左へ前進し後退し。蛇行しながら。
「ネヴィル、あの茂みがめちゃくちゃになってますよ!」
「直してやるぜ! 野郎ども、あっちの茂みだ、行けっ!」
ガートルード・ハーレックの指摘に応え、ネヴィル・ブレイロックが指示を出す。
「おう!」
応じた男達が、剪定ばさみやスコップを取り出し、修復していく。
「順調だぜ!」
「これで12か所目……今回はどれだけ絞り取れるでしょうか」
楽しげに、怪しげに笑う二人。
その間にも、機械は進み、学園の傷を広げていく……。
正午を過ぎた太陽の下、チラシ配りは続いていた。
「起木保先生を、一緒に助けましょ!」
遠野歌菜は声を張り上げ、笑みを振りまいて続ける……。
と、その表情が、真剣なものに代わる。
【殺気看破】と【超感覚】を併用している彼女の感覚が、危険の接近を捉えた。
「活動をやめろ」
「起木保は有害だ!」
やって来たのは蒼空学園の一般生徒。その後ろから、一際体躯の大きな生徒が進み出た。
「活動を辞めないなら、実力行使したっていいんだぜ?」
鉄の棒を手に、睨んでくる相手に、遠野歌菜は動じず睨み返す。
「歌菜!」
【テレパシー】により異常を察知した月崎羽純が走ってきて、遠野歌菜を庇うように前へ出る。
「お前、起木のせいで何か酷い目にあったのか?」
「あいつのせいで、俺は試合にでれなくなっちまったんだ! あの、疫病神のせいで!」
「それだけでパートナーを誘拐するなんて、やりすぎじゃねえか? 更生のチャンスを与えるべきだ」
「誘拐? そんなの知らねえ。俺はただ、言われた通りに行動してるだけだ」
「言われた通り……ってことは、他に首謀者がいるってわけね」
青い目を光らせる遠野歌菜。しまった、と口を押さえる生徒。
「話は聞かせて貰いました。確保願います」
十束千種の言葉に、アンタル・アタテュルクが頷き、先頭に立った男を羽交い締めにした。
「私は、起木保を手助けするって決めたの! 首謀者は誰? 答えて!」
芦原郁乃が腰に手を当て、進み出て問いただす。
しかし、男は断固として答えない。
「それは、この唖久灯。何があっても言えねえな」
「ふむ、何があっても……ですか」
首を傾げた十束千種が、鋭い瞳を唖久灯に向けた。
「どうしても教えて頂けませんか?」
「どうなんだ?」
十束千種の問いかけと、アンタル・アタテュルクの凄みを利かせた表情にも動じず、唖久灯はしっかりと頷く。
「この手は使いたくはなかったのですが……仕方ありません、あれを持ってきてください」
目配せを受けて、びくっと乳白金の髪を震わせつつ蒼天の書マビノギオンが包みを差し出した。
それは風呂敷に包まれた、一杯のどんぶり。
「それ……私が作った……」
芦原郁乃がぽつりと呟く。
十束千種は、まるで汚物でもつかむかのように、蓋をつまみ上げて開けた。
蓋の下から現れたのは、揚げた何かが乗った、丼もの。青紫という、食欲をそそらない色をしている。
「尋問といえば、カツ丼は定番ですよね? さぁお食べください」
毒々しい、と言っても過言ではないそれを、スプーンですくって突き出す。首を振って口を開けない唖久灯。
アンタル・アタテュルクが顔を固定し、口を無理矢理開かせる。
「あぁあああ!」
叫ぶ口の中へ、カツ丼だというそれを、投入。
ごくり、飲みこんだ途端に、巨体から汗が噴き出した。顔は青白くなり、氷点下に晒されたかの如くぶるぶると震えている。
「一口で、あんなに……」
蒼天の書マビノギオンが絶句する。
「このカツ丼は悪魔の料理人、七大怪奇レベルを称される我が主人が作ったもの」
「こらぁ〜っ!」
芦原郁乃の怒りの声。しかし、パートナー達は応じる事はない。
「で、お前はどうしたい? 俺達はいいんだぜぇ〜、何口食べさせたって」
「こらぁ〜! 人の料理を尋問の道具に使うなんてっ!」
芦原郁乃の声は聞かず、アンタル・アタテュルクがにやりと笑う。蒼天の書マビノギオンが頭を下げる。
「お願いですから、正直に話してください」
「チャっチャと話してくれた方が、お互いの身のためだと思うんだがなぁ」
「あの子は本気です。本気で、話すまで食べさせる気です」
脅しと懇願の両方を、半分意識の飛びかけた唖久灯がうける。
「もう一度聞きます、話す? 話さない?」
そう言って、カツ丼を突き出す十束千種。
「……す。はな、すから、や、やめてくれ!」
「……役に立ったから……良いということにしておこう……」
諦めた芦原郁乃が呟いた。唖久灯が口を開く。
「首謀者は――」
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