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リアクション
カサと、地面の草を踏む。
「ここは……」
見覚えのある場所に、緋桜ケイは目を細めた。
濃灰の、入口。それはかつて、白雪が封じられていた洞窟。
「この場所が、首謀者と白雪がいる場所か……」
関節を鳴らしながら、エヴァルト・マルトリッツが洞窟の中を見遣る。
「佐々良さんに連絡を受けて駆けつけてみたが……それらしい場所だな」
「ここが問題の洞窟なのね」
「行ってみましょうか」
セレンフィリティ・シャーレットとセレアナ・ミアキスもやって来た。
そのまま、四人は洞窟の内部へ入っていく……。
洞窟内に、一歩足を踏み入れる。
「侵入者だ!」
「追い出せ!」
ライトにおぼろげに照らされた洞窟内で、男生徒達がバタバタと走って来た。緋桜ケイが悪戯っぽく微笑んだ。
「白雪を返してくれるなら、大人しく出て行くぜ?」
「なめやがって!」
ナイフや鈍器を持って、男達が向かってくる。
「交渉に値しない者には……こうするまでだ」
エヴァルト・マルトリッツが、突き出されたナイフをくるりとかわし、敵の背後に回ると手刀を首に叩きこみ、気絶させた。
「うぉおおおお!」
鉄パイプを振り上げた男。エヴァルト・マルトリッツはそのパイプを白羽取りで受けとめ、拳をみぞおちに叩きこんだ。
「ぐっ……」
たまらず、敵は倒れ込む。
「数が多いな……。大人しく、眠っててもらおうか」
「ゆっくり眠ってて!」
緋桜ケイとセレンフィリティ・シャーレットが【ヒノプシス】を発動。
筋肉質の男達が、ぱたりぱたりと倒れて寝息を立てていく。
「くそっ……」
残った一人が、洞窟の奥の方へ逃げて行った。
「待て!」
四人で追いかけていく。
「……この女が、どうなってもいいのか?」
最後の一人は、両手を拘束されて眠っている白雪を突き出し、ナイフを首元へと向けた。
「やってみるがいい。自分の身に何が起きても構わないのならな」
エヴァルト・マルトリッツが、赤い瞳を不敵に細める。
「っく!」
男は白雪を離し、エヴァルト・マルトリッツへと向かってきた。
彼は渾身のボディーブローを男へと叩きこむ。
「ぐふっ……」
そして、拳が引き抜かれた。
「成敗!」
エヴァルト・マルトリッツの声と同時に、男が前のめりにばたりと倒れる。
と、暗い洞窟の中、背後からやってくる声。
「間違いありません。ここに、白雪さんがいます。だから……この洞窟へ、来れますか?」
携帯電話で、起木保と話すのは御神楽舞花だ。
「手が離せない? なぜですか? 白雪さんを迎えに来なくていいんですか?」
『行きたいところだが……僕には、白雪を迎えるためにやらなければならないことがあるんだ……本当は、本当は行きたいんだが』
必死の訴えに、息をつく。
『白雪のために、動いてくれた生徒達に任せておけば、必ず無事に彼女を助けてくれると思う……だから僕は、僕のやるべきことを』
「このまま電話を繋いでおきますから、白雪さんに声をかけてあげてください」
『ああ、ありがとう』
仕方ないですね、と小声で言って、彼女は洞窟の奥を目指して歩き出した。
「迎えにきたぜぇ、白雪のお譲、大丈夫かね?」
その後ろから蚕養縹が耳を動かし、白雪のもとへ。
拘束されている手足を解放し、白い肌をぺしぺしと叩いて起こした。
「……私は、……そうだ、保を殺すと言われて、それで……?」
「白雪さん! ほら、先生」
携帯電話を差し出す。
『白雪……大丈夫か?』
「保……。ああ、私は大丈夫だ」
『よかった……無事で。本当に』
安堵の声が、電話から漏れる。
「これにて、一件落着ってやつでい」
蚕養縹がにっと笑う。
その奥に、白いパーカーで震える人影があった。
「みんなの推理は間違ってなかった。首謀者は、あんただったんだな……羽田美保!」
緋桜ケイが、厳しい視線を向ける。
起木保の妹であり、モンスター大量発生事件で教師を首になった女。
「私は、私は当然のことをしただけです……来ないで!」
身を引く彼女。厳しい視線を向ける面々の後ろから、タタっと近寄る一つの影があった。
その拳が、羽田美保の頬を殴った。
「っ!」
「自分で言うのもなんだけど、わりとマジで怒ってるかもしれないねぇ」
拳を振って、佐々良縁が冷たい瞳を向けた。
「恨みがあるにしろなんにしろ、相方さんに手を出すのはやっちゃいけないことだと思うけどねぇ?」
「よすが! そのへんにしておいて! 倒れちゃったら、話を聞けなくなっちゃうよ!」
再び手を振りあげそうになった彼女を、佐々良皐月が後ろから抱きしめて鎮める。
「ごめん、皐月」
「どうして私がこんな目にあわなきゃならないの? 兄さんは、起木保は学校や生徒達に迷惑ばっかりかけてきたのに!」
「……確かにモンスター大量発生だったり、白雪ちゃんの発掘ん時や空京での騒動の発端は保センセやったけどさ」
『う……』
いつの間にかやってきていた七枷陣が、羽田美保に語りかける。
ついでに繋がったままの携帯電話で聞いていた起木保が、電話先で言葉のダメージを受けていた。
「なんとかしようと必死になってたのはセンセ自身やし、実際なんとかなった。オレらがフォローすれば、これからもなんとかなる」
胸を張り、堂々と告げた。
「つーかさ、白雪ちゃん誘拐したり、ぜんぶ起木保のせいだ、みたいなビラはやり過ぎやろ?」
「……っ、それくらいしないと、合わないんですよ」
肩を震わせて、羽田美保が呟く。
と、セレアナ・ミアキスが進み出た。
「拘束します!」
彼女は【逮捕術】を使い、羽田美保を拘束する。御神楽舞花は、起木保に犯人を捕まえたことを報告した。
「犯人は、捕まえました。さあ、動機を話してもらいますよ」
「言いたいこと、言った方がいいよ?」
ひっそりとついてきていたルカルカ・ルーが告げる。
すると、席を切ったように、羽田美保は語り始めた。
「私は、たった一回の失敗で首にされ、新たに与えられた仕事もうまくできずにやめさせられ……恋人にも振られた」
腹の底から吐き出すように、彼女は告げた。
「でも兄さんは、色々な騒動を巻き起こしてるのに、首にならずに仕事続けてるし、パートナーも見つけた。不平等すぎる!」
羽田美保の主張が、洞窟内にこだまする。
「だから私は……パートナーと仕事、両方とも奪ってやろうと思った。兄さんも私と同じ苦しみと惨めさを味わえばいい」
「それって……逆恨み……」
その場にいるメンバーは言葉を失った。
「このままじゃ気が済まないでしょうから、直接話をしたらいいんじゃない?」
ルカルカ・ルーの提案に、羽田美保が頷いた。
「回復するね!」
佐々良皐月が、羽田美保の顔の傷を癒した。
「みんなで、先生のもとへ向かおうぜ!」
緋桜ケイの声に、全員が頷いた。
「……犯人もつかまり、ユキも解放された。これでもう、心配ないな」
コア・ハーティオンが満足げに微笑んだ。
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