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リアクション
第 4 章
和輝が教導団の無線を傍受していると、チッと舌打ちする。
「意外と早く突き止めたな……偽の情報に引っ掛かってくれるといいが」
「和輝……私を纏っている事忘れないでね。変装の意味がないわ」
一瞬黙った和輝は仮面の上から口元を覆うように手を当て、わかったというように頷きながら研究所の位置についての偽情報のデータをすり替えるため、教導団へのハッキングを試みていた。
カルとジョン、暁はシャンバラ大荒野に場所を絞り、該当する建物を片っ端から照合していった。惇とドリルは内通者の邪魔が入らないよう3人の護衛を引き受けている。
「暁さん、内通者らしい人をピックアップしてみたんだ。こっちの端末で調べてみてくれないか?」
「おう、じゃあ借りるぜ。さっきの犯人と内通者というか、手下というか、そういうヤツはとっとと捕まえないとな!」
カルと暁の元気な声が飛び交う中でジョンは『博識』を使って大荒野に点在する建物を一つずつ照合していく。しかし、そんなジョンの表情に困惑が見られた。
「変ですね……この座標に、こんな建物はなかったはずですが……」
「ジョン? ……どうしたのだ」
惇が後ろから話しかけると、ジョンはモニターを指差しあるはずのない場所に建物を示す印をある事を教える。カルと暁を警護しているドリルも覗き込むようにモニターを見つめた。
「最近、出来たとかそんなんじゃねえのかい?」
「うん……それなら、照合しているデータも更新されていないとおかしいからね……」
言いながら、ジョンは他にも同じく座標の食い違いを確認するべくモニターに視線を戻すのだった。
◇ ◇ ◇
シャンバラ大荒野を進み、廃墟となった建物を発見するとトレジャーセンスで慎重に探索をしていたウィル・クリストファー(うぃる・くりすとふぁー)とファラ・リベルタス(ふぁら・りべるたす)が中々反応しない事に溜息をついてしまう。
「ここでもないようですね……」
「そうじゃな、人の気配というものがない……なに、大荒野と絞り込めただけでも進歩じゃ。諦めては得体の知れぬ者に青の書が使われてしまうからのう……ウィル、次じゃ」
連絡係として同行していたシャウラとナオキも窓から中を覗き込み、無人である事を確かめるとルカルカへ連絡し、次の建物への指示をもらう。
「ウィル、ファラ。俺とナオキが空飛ぶ箒で先行して案内をするから付いてきてくれ」
「はい、わかりました。シャウラさん」
いくつかのグループにわかれて探索している姿を見掛けるものの、未だアジト特定に至らないままであった。
「フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)、反応はどうや?」
同じ頃、トレジャーセンスでほぼ廃墟となっている建物を調べていたフランツと大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が反応のない事にがっくりと肩を落とす。
「2人揃ってそう肩を落とす事もあるまい、息が合っていて微笑ましいが――」
「讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)、気のせいかしら……2人が更に脱力しているように見えます」
レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)がさりげなくトドメを差してしまうものの、泰輔が立ち直ると同行しているセレンフィリティとセレアナへ両手をバツに交差させてジェスチャーを送る。
セレンフィリティが残念そうにルカルカへ調査した建物はハズレである事を連絡すると、セレアナが警戒するように周りへ注意を向ける。
「セレアナ? 何か、見つけた?」
「いえ……ただ、悪党特有の嫌な気配を感じただけ。それにしても、こう闇雲に探索していたのでは見つかるまでに青の書が無事という可能性は薄れていくばかりだと思うわ。もう少し建物の条件を絞れないかカルに掛け合うのもいいかもしれないわね」
調査していた6人がその場を離れると岩陰から人影が覗き、素早く去ると近くの廃墟へ向かっていきました。
◇ ◇ ◇
和輝が差し替えた地図のデータで時間を稼ぎ、その間にダンダリオンの書がシルヴァニーから得られるだけの知識を得ようとしているところへ知らせが舞い込んだ。
「この近くまで探索に来ているのか、じゃあここを調査に入ろうとするのも時間の問題だな……リオンの方はある程度、青の書から知識を引き出せたのか……」
「青の書が反抗していなければ……でも、さっき見た限りだとリオンと相性悪そうね、彼。……いえ、案外喧嘩友達くらいにはなれるかしら」
スノーの言葉に和輝は敢えてコメントせず、目の前の機器を相手にする。新たに傍受した無線の情報から教導団へのハッキングを繰り返して偽の情報を流し続けた。
不審な教導団員をピックアップしていく最中、暁が調べていた内通者とおぼしき数名のデータを見比べると、どうにも辻褄の合わない現象がある事に気付いた。
「カル……教導団って、数分おきに個人データって変えるものなのか?」
「いや、そんな事はないけれど……何か気になる事が出てきたのかい?」
暁が言うには、数分前に確認した教導団員データが別の教導団員のデータとして検索されてしまうのだ。
「見覚え有り過ぎて、先に確認した教導団員のデータを見てみたら全く違うデータにすり替わっているんだ……どうなってんだよ」
暁の声に、ジョンが彼の後ろから端末を覗き込んだ。
「やはり、教導団のデータが改ざんされている痕跡があるようですね……こちらの情報がハッキングされているかもしれません。カル、ルー少佐に一時的に通信を遮断すると伝えて下さい。通信ポートを閉じます」
「あ、うん了解!」
目まぐるしく事態が動く様子に惇とドリルは半ば呆気に取られてしまっていた。
「……つまり、どういう事だ?」
「簡単に言えば、敵側からこちらに嘘の情報を流し、少佐達にその情報を伝えてしまっているという事ではないか……?」
げ、とドリルが思わず声に出してしまうとバックアップされているデータから正常の状態に直しながらジョンの【博識】を頼りに内通者のピックアップと通信ポートに侵入した回線を特定したのだ。
「参ったな、侵入回路を防がれた……中々手強いやつが向こうにいたようだ」
どこか楽しそうな声色を響かせながら、和輝が呟くとスノーもそれにつられたかのように続ける。
「それじゃあ、手助けはここまでって事かしら……充分、時間は稼いだと思うわ、リオンも満足していれば撤退の準備を始めるべきかしらね」
揃えられた機器を後にし、和輝とスノーはリオンとアリスの元へ向かった。
◇ ◇ ◇
特定された建物――今は廃墟となっている研究所を囲むように少人数に分かれて待機していた清泉 北都(いずみ・ほくと)が正面と裏口と思われる出入り口にいる見張りのゴロツキの様子から間違いないと確認した。
「他の建物にはあんな見張りいませんでしたからねぇ、裏口の方が若干見張りの人数が多いようです……青の書は、裏口に近い場所と思っていいかもしれません」
北都の言葉に合流したエースとメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)も同意を示し、イーシャンへ訊ねた。
「イーシャン、裏口に近いとしてここから彼の居場所を予測するならどの辺りの部屋になるだろうか……」
「そうですね……窓の間隔からいけば、裏口から3つ目……いえ、4つ目の窓がある部屋がそれなりに広さがあるのではないでしょうか。おそらくシルヴァニーの傍に見張りも何人かつけているでしょう」
ほぼ断言したイーシャンにメシエが興味深そうな視線を送ると、エースが更に訊ねる。
「それは、どうしてだい?」
「古来、捕虜となれば地下か……出入り口から一番遠い場所が常です。北都さんが指摘したように裏口の見張りが多いという事は、裏口近くの部屋で、仮にも侵入者があれば立ち回りやすい場所か罠を張りやすい場所が考えられます」
「君とは気が合いそうだ、その推測にはルー少佐も同意してくれると思う。ひとまず報告しておこう、問題は先に確保するのは青の書か……愚かな研究者と悪党共か、それとも同時に突入かだね」
一度、全員で集まって相談すると先に犯人と悪党共の捕縛、青の書に危険が及ぶ可能性が低くなったところで彼を救出という算段になった。その手順が決まるとイーシャンは契約者達を見回し、一言告げた。
「1つ確実な事はシルヴァニーの力はまだ使われていません。おそらく命令が上手くいかなかったのでしょう……これから戦う皆さんに教える事があります。命令をする時は僕の本名を呼び、命令して下さい。‘イーシャン・リードリット、力を解放しろ’と」
黙って聞いていた鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が眉尻を下げながらイーシャンに訊ねる。
「あの、それって命令口調じゃないと駄目ですか? 俺は人に命令するのはあんまり……」
「そやなぁ……貴仁の気持ちもわからん事もない、僕も命令すんのは趣味やないしなぁ」
貴仁と泰輔の言い分に同意を示す声が多い事に、イーシャンも柔らかく微笑む。
「いえ、大丈夫ですよ。命令口調じゃなくても僕の名と威力を上げたい魔法スキルを言ってくれれば問題ありません。それに僕らは命令される事に不快を感じる事はないんです、その点は気にしないで下さい」
「だが、問題は大いにあるぞ……イーシャン」
ダリルは耳栓と小型精神結界発生装置を手にイーシャンの前に進み出た。
「敵は、命令する方法を知らなかったが俺達が君に対して命令し、君がそれを実行する事によって彼らもまたイーシャンの力を利用しようとするだろう。君はそれを拒めない……青の書とて同じ事、敵の前で命令する事は非常に危険だと判断するが」
ダリルに言われてイーシャンもその危険性に気付き、肩を落としたがダリルは手に持っていた2つのアイテムをイーシャンに手渡す。
「そうならない為の必須アイテムだ、きっと役に立つ。どうしても君の力が必要になった時は耳栓を外して俺達の願いを聞いてくれ」
頷いたイーシャンが受け取ったのを機に、正面と裏口に分かれて配置についた。シャウラとナオキが犯人捕縛後の突入合図の連絡係として裏口を固めると同時に正面入り口に突入を開始するのだった。
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