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リアクション
第一世界・第1章「大平原へようこそ」
扉(ゲート)を抜けたら、そこは大平原だった――
花妖精の村を訪れた契約者のうち、古代の剣のような物があった遺跡にあるゲートを抜けた者達を待っていたものは緑鮮やかな景色だった。
便宜上、第一世界と名付けられた世界へのゲートを次々とくぐる調査団のメンバー。その中の一人、諸星 望(もろぼし・のぞむ)はいち早く駆け出して大地に寝転んだ。
「わ〜、凄いよここ! 綺麗だね、ロキ!」
降り注ぐ太陽の光を全身に浴びながら、パートナーのロキ・ミスチーヴス(ろき・みすちーう゛す)に笑いかける。ロキの方は若干苦笑と言った方が良い笑みを浮かべながらも、望に向けて手を差し出した。
「確かにこの空気、良い感じだね。問題は何がいるのかって所だけど」
望を引っ張り上げるロキが見た方向には草原が。全体的に見通しが良いとは言え、高低差で死角になったり草が深そうな場所もあったりと、手放しで安心する事は出来なかった。
同じ事を考えたのだろう、ロキのそばにいるアリス リリ(ありす・りり)と浅井 健(あさい・けん)が彼の言葉に反応した。
「リリちゃん、何か不吉な予感がするんだよねぇ。一応、何が来ても良いようにはしておこうかな」
「っはは、リリは心配性だな。ま、こんなゲームみてぇな場所だと定番なのはモンスターってとこだろ。こんだけ大勢で押しかけてんだし、何とかなるって」
「健くんは強気だね〜。でも油断は禁物だよ? リリちゃん達、まだ新米さんなんだから」
やや臆病なリリと勇敢な健。対照的な二人もまた、パートナー同士だった。そんな彼らに今度は望の方が反応する。
「ねぇねぇ、二人もこういうのに参加するのって初めてなの?」
「ん? あぁ、今回の調査団が初めてだけど……お前もか?」
「うん、そうなんだ。僕、諸星 望。よろしくね!」
「俺は浅井 健。こっちはリリだ。ま、ペーペー同士、仲良くしようぜ」
望と健が握手を交わす。そんな二人を、ロキは微笑ましく見守っていた。
(どうやら出だしは上々のようだね。出来る事なら、この先も望にとって楽しいものが待ってるといいんだけど)
望達のように初対面の者達が挨拶を交わしていく中、ポロ・ハスター(ぽろ・はすたー)は輪の中に加わらず平原の先を見つめているモノイ・ハールマン(ものい・はーるまん)の横顔へと熱い視線を向けていた。
(きゃはっ、モンちゃんったらキリっとした顔しちゃって。きっとどんな動物達がいるか思いを馳せてるんだね。さっすがモンちゃん! ビーストマスターの鑑だよ!)
抱きしめたくなる欲望を必死に抑えながらモノイを眺め続けるポロ。そんな邪な視線にも気づかず、モノイはこれからの事を考えていた。
(異世界の獣でございますか……どちらかというと召喚師のイメージではございますが。まぁそれはともかく、配下となる対象がいれば良いのでございますがね)
次の瞬間、狼の遠吠えのような鳴き声が聞こえてきた。高低差に隠れてなのか姿は見えないが、意外と近く、大きめの音がする。そのせいでモノイは思わずその場から身をかわすように動いてしまった。
「おっと……」
「きゃー! モンちゃ〜――ふべらっ!?」
運が良いのか悪いのか、避ける前の位置に向かってポロがダイブをかます。鳴き声に驚いたフリをして抱き付こうという魂胆だったのだが、その行動はモノイの動きによって無にされてしまった。
「拙者とした事が、あれで反応してしまうとは……ん?」
後ろを振り返ったモノイの目に入ったのは、何故か地面に海老反りアタックをしているポロの姿だった。それがダイブ失敗の痕跡だとは思いもせず、進み始めた調査団の列に従う。
「さっさと終わらせて帰りたいのでございます。行きますよ」
「あ、あはは……ですよね〜、そんな上手く行くはず無いよね〜……」
草を払いながらのポロのつぶやきに、モノイが気付く事は無かった。
調査団の進行は予想よりも順調に進んでいた。広い平原を歩く彼らはさながらピクニックに来たような雰囲気となっている。
(とは言え、どこから危ない事が起こるかは分からないからね)
そんな中、ロキは望が変な所に行かないよう、イタズラを装って火術を飛ばし望の進む方向を制御していた。彼の懸念は一応ではあるが、現実のものとなった。
「あー! あたいのオカリナ!!」
草がより一層深くなっている所を歩いていたアルト・ルナ(あると・るな)の叫び声が響く。何事かと注目する一行の前を、犬に似た姿をした一匹の獣が走り抜けていった。その口には蒼い色をした何かを加えている。
「リュー! あいつを追って! 皆もお願い!」
「その人使いの荒さ、やはり治らぬか……しかし異世界で一番に騒動を起こすとは、さすがは幸運スキル〜Eのマスターだ」
アルトに続き、牧野 龍玄(まきの・りゅげん)も獣を追って走り出す。そこでようやく先ほどの獣がアルトのオカリナを持ち去ったのだと周囲が理解し始めた。その中の一人、出雲 櫻姫(いずも・おうひめ)が八雲 千瀬乃(やくも・ちせの)に指示を下す。
「ふむ……千瀬乃よ、丁度良い機会じゃ、あの獣を捕えて参れ」
「今の獣ですか? ……中々に速いですね」
「うむ、じゃからこそ鍛錬にもなろう。それに、こういう時に動いてこそ真の剣士じゃからな」
「なるほど……では、心身共に恥じる事無きよう、八雲 千瀬乃……参ります!」
先に獣を追いかけて行った者達に続き、走り出す千瀬乃。第一世界調査団最初の調査は、獣の追跡から始まった。
「くそっ、すばしっこいな……リリ! そっちに行ったぞ!」
「う、うん! ほら、大人しくしなさい!」
「このー! オカリナを返せー!!」
獣を三方から囲む形で追跡を続ける。健が、リリが、アルトが徐々に包囲を狭め、次第に先回りして待ち構えている千瀬乃の所へと誘導していった。
「痛い思いをさせるのは本意ではありませんが、あの速さ、丸腰で止めるにはいささか荷が重いですね……」
せめて威嚇にだけ使えればと刀を抜く千瀬乃。もう少しで間合いへと入る獣を前に気合いを入れたが、それを敏感に感じ取ったのか、獣がオカリナをぽろりと口から零した。
――が、それも束の間、今度は近くにいた鳥が落ちたオカリナを足で掴み、空へと飛び立つ。
「あぁぁぁぁぁ!?」
「……いやはや、まさか二段落ちとは。マスターの薄幸度合いは我の予想を超えるか」
愕然とするアルトとむしろ感心したとばかりに頷く龍玄。対空装備の無いアルト達に代わり、今度は小型飛空艇に乗ったシャミア・ラビアータ(しゃみあ・らびあーた)とリザイア・ルーラー(りざいあ・るーらー)がこちらへとやって来た。
「ん〜、あれはシャンバラにいるタイプの鳥なのかどうか……ちょっとここからじゃ判断つかないかな」
「そうですわね。あちらの方の物を掴んでもいるようですしここは捕まえて差し上げたい所ですが、いかがなさいます?」
「じゃあ生態観察がてら追い込みますか。丁度下にも援軍が来たみたいだしね」
鳥を挟み打ちするように動き出す二人。地上では彼女達の真下へと走り込む形で九条 風天(くじょう・ふうてん)と白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)が到着していた。
「どうやらあのお二人が抑えてくれるみたいですね」
「そのようだな。さて、どうする風天? 一応私の雷で落とす事も可能ではあるが」
「そうですね……それ自体は悪くないのですが、あの高さでオカリナを手放されると、受け止めたとしても心配です」
「ふむ。ならばおぬしに取りに行ってもらうか」
「分かりました。お願いします、白姉」
セレナの空飛ぶ魔法で風天が空に舞う。途中でセレナが一瞬だけ不思議そうな表情を見せたが、すぐに気を取り直して今度は天のいかづちを鳥へと放った。
落雷を受けてオカリナと共に落ち始める鳥を風天が優しく両手で受け止める。そのままゆっくりと降下し、アルト達が待っている場所へと着地した。
「良かった〜、どこも傷ついてないみたい。ありがとう皆!」
アルトへとオカリナを手渡し、鳥の様子を見る為に輪から離れる風天。するとセレナが何か考え込んでいる事に気が付いた。
「どうしました白姉?」
「ん、いやな……今おぬしを空へと飛ばした時だが、どうも効果が薄かった気がしてな」
「効果が? 確かに普段ならもっと勢い良く飛んでいた気はしますね」
「うむ……おぬし、太ったか?」
「いえ、普段と変わりませんし……それに、体重が影響するんですか? その魔法」
「……少し気になるな。念の為報告はしておくか」
「あ、さっきの鳥、もう飛べるみたい。電撃喰らったのにタフね〜」
小型飛空艇に乗ったままのシャミアは地上にいる風天の手から鳥が飛び立って行くのを眺めていた。そのまま視線を鳥の進む方へと向けると、地上に一人の男の姿が見えた。
「あれ? ねぇリザイア、あそこにいる人って調査団のメンバーじゃないよね?」
「どちらですか? ……そうですね、ゲートを抜ける時に拝見した顔ではありませんし、服装も違いますわね。どちらかと言えばこの世界の雰囲気に近いですし、現地の方でしょうか?」
「動物の生態調査をするつもりがとんだ物が釣れたわね。リザイアは一度皆に報告して来て。私はあの人に会いに行ってみるから」
「分かりましたわ。お気を付けて」
本隊へと向けて小型飛空艇を飛ばすリザイア。彼女を見送り、シャミアは男の下へと降下して行った。
「な……人が、飛んだ……? それにあの服装、伝承は本当だったのか……」
近づいてくるシャミアを前に、驚く男。これが調査団と、この世界に住まう人との最初の出会いだった――
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