空京

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重層世界のフェアリーテイル

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第一世界・第2章「幻獣と会ってみよう!」
 
 
 大平原で出会った男。彼はこちらの予測通り、第一世界の住人だった。
 今は調査隊の一部が彼と共に情報収集の為に近くの村へと向かい、残りが大平原の調査を続けている。
 土方 歳三(ひじかた・としぞう)四条 輪廻(しじょう・りんね)も、担当箇所である川辺の調査を行っていた。
「足跡を見る限り、巨獣のような大型の生物はこの周囲にはいない、か」
「水質も良さそうだ。植物の方はパラミタと似た物もあるが、若干見た事の無い物もあるな」
「この辺は要記録だな。あとは……向こうか」
「あぁ……幻獣、か……」
 調査結果をそれぞれの銃型HCに記録した二人が振り返ると、そこには同行したメンバー達が幻獣と呼ばれる生物を探し回っていた。輪廻達の近くを見て回っているのは日吉 楓(ひよし・かえで)川崎 優(かわさき・ゆう)だ。
「優さん、そっちにはいましたか?」
「うん、あの茂みに……いました、どことなくウサギに似ていますね」
「ウサギかぁ、怖いモンスターとかじゃなくて良かった。ホッチキス、こっちにいるみたいだよ」
「本当? ボクも見たい見たい!」
 楓に呼ばれ、リナ・ホッチキス(りな・ほっちきす)が一緒に優の下へと走って行く。優のパートナーであるジオ・ランド(じお・らんど)もそばへと寄り、四人でウサギ型の幻獣をじっくりと観察し始めた。
「結構大人しいね。近寄っても大丈夫かな? 優」
「一応注意だけはしておきましょう。大丈夫だとは思いますけどね」
「は〜い。じゃあそ〜っと、おいでおいで……わ、来た来た」
 膝をついて手を差し出すジオに興味を持ったのか、徐々に近づいてくる幻獣。そのまま撫でる為に手を上にやっても、逃げ出そうとはしていなかった。
「はは、大人しいねこいつ」
「尻尾だけは犬なんかに似てるけど、他は本当にウサギみたい。ねぇジオさん、僕達も撫でてみていいですか?」
「あぁ、ほら」
 続いて幻獣を優しく撫でていく楓。楓の後にはリナが撫でていたが、ふと視線を上げるとやや遠くから一人の男がこちらを見ているのに気が付いた。
「ねぇ日吉、あの人も触ってみたいのかな?」
「あの人? ……あぁ、そうかも」
 人見知りであるリナが楓に伝え、楓が代わりにその男、上社 唯識(かみやしろ・ゆしき)の所に歩いて行った。
「あの、お兄さんもこの子、触ってみますか?」
「え? あ、わざわざありがとうございます。邪魔をしては悪いと思っていたので、助かりますよ」
 楓達と同じように幻獣を優しく抱く唯識。彼らに抱かれた幻獣はただのんびりと、その境遇を受け入れていた。
 
 ――その一方で、騒がしい出会いを演出する者達がいた。
「動物と分かり合うにはじゃれつき合うのが一番! っしゃオラー!」
 別働隊が見つけて来た幻獣に向け、結城 奈津(ゆうき・なつ)が気合いを入れて突撃を行った。体長1mを超える、大型犬をそのまま更に大型化したかのような幻獣相手に抱き付いた彼女は全身をわしゃわしゃと撫で、そして幻獣の体重など気にしないとばかりに幻獣ごと草原に寝転がった。
「本物のプロレスラーは相手の攻撃は全て受け止めると言う……ならあたしはお前のじゃれつきを全力ですべて受け切ってみせるっ!」
 じゃれつき以前に困惑している感じの幻獣を見てため息をつくのは秦野 萌黄(はだの・もえぎ)。村を調査する組と別れる前にこの世界の男から聞いた幻獣という存在に興味を持ち、奈津に幻獣との接触を提案した張本人だ。
「……幻獣って名前だから頭が良いのかもとか、仲良くなれば話が聞けるかもって言ったのは確かに僕だけど……いきなりそれは無いんじゃないかなぁ!?」
「あ、あはは……ご、豪快な方ですね」
 萌黄の隣では一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)が苦笑を浮かべている。パートナーの歳三が輪廻達と自然の調査を行っている間に幻獣調査組の記録担当として回っていた総司は、この状況をどう記録したものかと軽く迷ってしまう所だった。
「一応あの方が幻獣を捕まえている状態なのは確かですし、今のうちに会話が可能か試してみるのはいかがでしょうか?」
 もう一人、クリスティーナ・バートン(くりすてぃーな・ばーとん)が萌黄と総司に提案し、奈津の方へと向かう。三人は幻獣と聞き、対話を行える種族もいるのではないかと予想しているのだった。
「お、どうしたんだ萌黄? 一緒にモフりに来たのか?」
「違うよ……とりあえず、そのまま押さえててね、なっちゃん」
 一旦奈津を大人しくさせ、幻獣に呼びかけてみる三人。だが、こちらの言っている事を理解している風ではあるものの、幻獣の方が人の言葉などを話してくれる事は無かった。
「残念ですけど、しゃべってくれる気配は無さそうですね」
「そうですね……会話が可能なら何か有用な情報が得られると思ったのですけど。仕方ありません、私は一度和馬にも相談して来ます」
「僕も身内に相談して来ますね。何か手が見つかったらまた試してみましょう。ねぇ、歳兄ぃ――」
 総司とクリスティーナがそれぞれパートナーの所に向かう。解放された幻獣は、再び奈津とのじゃれ合いに巻き込まれるのだった。
 
 騒がしい出会いとは別に、怪しい出会いを演出する者達もいた。
「ふふふ……大丈夫、怖くないですよ〜♪ だから、こっちおいで〜♪」
「姫星、それで安心しろってのはどう考えても無理があるだろ……」
 幻獣へとゆっくり近づく次百 姫星(つぐもも・きらら)鬼道 真姫(きどう・まき)が呆れる。何故なら今の姫星は大鎌を構えながら笑顔でにじり寄っているのだ。普通なら逃げる、間違い無く。
 もっとも、別方向には斉藤 和馬(さいとう・かずま)戒 緋布斗(かい・ひふと)がいる為に幻獣が逃げる事は不可能な訳だが。
「今まで見た限りだと、幻獣は割と人間に対して友好的ではあるな……この状態では分からないけど」
「そうですね、調査がし易いという点では助かります……この状態では分かりませんけど」
 幸い二人の懸念は杞憂に終わり、姫星が幻獣を捕まえる事に成功した。楓達が触れていたのと同種の、ウサギ型の幻獣だ。
「か……可愛いです! これは是非お持ち帰りしなければ! 和馬さん、緋布斗さん、ご協力ありがとうございます!」
「調査な以上、幻獣がいたっていう証拠は集めておかないといけないだろうしね。途中で暴れなければいいんだけど、それは要らない心配かな」
「あの、姫星さん。僕も後で触らせてもらえないでしょうか?」
 お持ち帰りしようとゲートの方へ足を向ける姫星。するとどこからともなく、多くの幻獣が現れた。馬に似た、いかにも機動力のありそうな幻獣だ。
「わぁ、また新しい幻獣が来ましたよ。今度はどんな子なんでしょうねぇ」
 緋布斗が無警戒に新しい幻獣の方へ向かおうとする。そこにこちらの様子に気が付いた唯識がやって来た。
「緋布斗、これは一体どうしたんですか?」
「あ、唯識。見て下さい、幻獣が一杯ですよ、凄いでしょう?」
「えぇ、確かに凄いですね……あまり友好的ではなさそうですが」
「へ?」
 唯識が感じ取った通り、明らかな敵意を持って駆け出す幻獣達。その標的は――姫星だ。
「え、ちょ、な、何ですか!?」
 さながら暴れ馬の群れか猛牛の大群か。大がかりな突撃に慌てて姫星が逃げ出す。騒ぎを聞きつけ、周囲の者達が一斉に集まって来た。
「これは不味いな……止めるぞ、月夜」
「うん。シロも援護を」
「お任せ下され月夜殿。刀真殿だけに負担はかけさせぬでござるよ」
 樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)大神 白矢(おおかみ・びゃくや)の三人が一気に飛び出す。月夜が幻獣の進路に何発か撃ち込む事で足を緩めさせ、その隙に刀真が姫星との間に飛び込んだ。
「出来ればお前達からは色々聞きたかったんだがな……話せないなら仕方ない。気絶させるだけに留めるけど、痛いのは勘弁してくれよ」
 幻獣の突撃をギリギリでかわし、横っ腹に大剣の面をぶつける形で攻撃を行う。するとその一撃は予想よりも大きく幻獣を弾き飛ばし、横にいるもう一頭を巻き込んだ。
「何だ? 予想よりも軽い……いや、それよりは手応えがあり過ぎた感じだった」
 若干の困惑を見せながらも続く幻獣達を抑えにかかる刀真。彼の援護の為に白狼姿の白矢が、そして真姫が左右を固めた。
「数が多いでござるが、やるしかないでござるな」
「あたしは強い奴と戦えればそれでいいさ。行くよ!」
 鬼神力を使用した真姫の爆炎波アッパーが目の前の幻獣を捉えた。刀真のようなスマートな戦い方では無いが、その分荒々しい気迫が伝わってくる。
「どうも炎のノリが悪いね。でもその代わり、キレは良い。やってやろうじゃないのさ!」
「拙者は援護に回った方が良さそうでござるな。お二人が戦い易いよう、かき回すでござる」
 白矢が幻獣の列を乱し、そこを刀真と真姫が突く。そうして間を抜かせないように戦い続けていると、次第に別方向からも幻獣達が集まって来るのが見えた。
(瑞羽……!)
 彼らが戦っている中、戦いが得意で無い者達を護る形で後ろに控えていたヌァザ アガートラム(ぬぁざ・あがーとらむ)神那儀 瑞羽(かんなぎ・みずは)へと視線を送った。
 アガートラムは瑞羽の用心棒として同行しているが、彼女の意向で戦闘行為は極力避け、まずは瑞羽の平和的な解決手段を優先するとの約束があった。その為何度かアイコンタクトを送っているのだが、その度にまだ抑えるようにとの答えが返って来ていた。
 その瑞羽本人は別方向から迫り来る幻獣へと視線を送り、相手の意図を理解しようと頭を巡らせている。
(向こうから来ている幻獣達も、よく見ると秩序だった動きをしていますわね。ただ暴れている訳では無く、何か目的がありそうな……)
「瑞羽、これ以上は危険だ! あの少女はおろか、貴公まで巻き込まれてしまうぞ!」
(あの女の子? ――まさか!)
 瑞羽にまで危害が及びそうになった時は彼女の意向を無視してでも戦おうと覚悟していたアガートラムが槍を構える。それと同時に、瑞羽はアガートラムの言葉で幻獣達の目的に気が付いた。
「そこのあなた! 今抱えている幻獣を放して差し上げて!」
「え、わ、私ですか!? えっと――そ、それ!」
 呼びかけられた姫星が慌てて抱きかかえたウサギ型の幻獣を下ろすと、解放された幻獣は軽快に平原の向こうへと去って行った。それと同時に馬型の幻獣達も突撃を止め、徐々に引き返して行く。
「どうやらわたくしの考えた事が当たっていたようですわね。大丈夫でしたか?」
「は、はい。どうして急にあの子達が来なくなったんでしょう……?」
 瑞羽の差し出した手を取りながら身体を起こす姫星。一連の騒動をつぶさに観察していた輪廻がその疑問に答えた。
「幻獣全体の自衛行動なのだろうな」
「自衛?」
「そうだ。あの馬型の幻獣達が現れたのがウサギ型の幻獣を連れ帰ろうとしたのと同じタイミングだった。つまり、彼らは異世界――我々の世界に干渉するには何らかの制約があると思われる。こうして俺達の方から出向く分には問題は無いようだがな」
「じゃああの子を連れて帰る事は無理なんですね……残念です」
 当てが外れて肩を落とす姫星。一方で輪廻と瑞羽は刀真の援護を終えて戻って来た月夜を交えて幻獣達の行動について予測を立てていた。
「幻獣の行動、かぁ。『おとぎばなし』に出て来た『大いなるもの』が関係してるのかな? 幻獣はその配下で、『大いなるもの』と同じように人の心から生まれたとか」
「案外封印をしたという四賢者に関係があるのかもしれんぞ。何しろ、賢者が人間とは限らないのだからな」
「その辺りも調査が必要ですわね。村に向かった方々が何か掴んでいると良いのですけど」