空京

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重層世界のフェアリーテイル

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第一世界・第5章「世界の法則」
 
 
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)の呼びかけによって集合した大平原の探索組は現時点で集まった情報を交換し、改めて各方面の調査へと分かれていた。
 その中の一人、佐倉 美那子(さくら・みなこ)は人数分けによって合流前とは違うグループに同行する事になった為、今はメンバーに挨拶をして回っている。
「こんにちはっ、篁 透矢(たかむら・とうや)君よね?」
「ん? あぁ、そうだよ。蒼空学園大学部の篁 透矢だ。今回はよろしくな」
「私は佐倉 美那子。美那子って呼んでね。イルミンから来たの♪」
「イルミンスールか。向こうにも知り合いがいるからもしかしたらこれからも会う機会があるかもしれないな。とりあえず、今日はお互い頑張ろう」
「うん、よろしくね!」
 握手を交わす美那子と透矢。そこに話を聞きつけたリア・レオニス(りあ・れおにす)が現れた。
「君が篁 透矢か。ティーから話は聞いてるよ。俺はリア・レオニス。薔薇の学舎に所属している」
「よろしく。薔薇か、冴弥と同じだな」
 馬から降りたリアと握手しながら透矢が冴弥 永夜(さえわたり・とおや)の方を見る。彼もまた透矢の友人だ。
「ん、そうだな。冴弥 永夜だ。よろしく頼む」
「あぁ、こちらこそ」
 今度は永夜とリアが握手を。どうやら一通り顔合わせは済んだらしく、火村 加夜(ひむら・かや)が他のメンバーを伴ってこちらへとやって来た。
「透矢さん、こちらは準備出来ましたよ」
「よし、それじゃあ調査を始めるとしようか。暴走した幻獣が出るって話もあるから、周囲に注意は払うようにしてくれ」
「僕は空から探してみますね。見つかったらすぐお知らせします」
「分かった。気を付けてな、ハイコド」
「FB起動……翔べ!」
 竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)がサーフボードに似た飛行器具『ファルコンボード』で空へと舞い上がる。少しして戻って来た彼の案内により、透矢達は幻獣の群れへと向かう事になった。
  
「も……モコモコですわ。これはわたげうさぎの里のリーダー(自称)として仲良くならないといけませんわ!」
 幻獣の姿を見て最初に歓喜したのは白銀 風花(しろがね・ふうか)だった。見つかったのは外見を見る限りウサギ型。最初の方で発見された同種の幻獣と比較すると毛が多く、わたげうさぎに近いのが特徴だ。
 その容姿からか、他の者も触りたそうな気配を見せている。美那子もその一人だ。
「ねぇねぇ透矢君、幻獣さんとお友達になりたいから、こうやってあげてもいい?」
 隣にいる吾妻 奈留(あづま・なる)と抱きしめあう。つまり、幻獣をぎゅっと抱きしめたいという事だろう。
「大丈夫……だけど、念の為警戒を解いてからの方がいいかな。いきなり飛びかかられる可能性もあるし」
「それなら任せて。私、仲良くなれるようにお菓子を持って来たの」
 奈留がドーナツを取り出す。ご丁寧にお茶入りの水筒も持参だ。同じ事を考えていたのは奈留だけではなく、ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)と永夜も持って来たお菓子を次々と取り出した。
「ボクも持って来たんだ〜。やっぱり仲良くなるならお菓子だよね〜」
「もうすぐハロウィンだから色々手元にあったんだ。これを使ってみるのもいいんじゃないかな」
 三人のお菓子を合わせると結構な量になった。アンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)がその中の一つをつまみ、幻獣が警戒しないぎりぎりの所まで近づいてからしゃがみ込む。
「実際に食べて見せないと何か分からないかもしれないからね。ほら、美味しい食べ物だぞ」
 半分に割ったクッキーの片方を自分で食べ、もう半分を幻獣の方に差し出す。それを見ていた群れの中の一匹がゆっくりと近付き、アンヴェリュグの手からクッキーを咥えていった。
「わぁ、ボクもやる〜! 加夜、透矢、早く早く〜」
「あ、ノア……ふふ、あの子ったらはしゃいじゃって」
「まぁせっかくの機会だからな。気持ちは分かるよ。美那子、もう大丈夫じゃないかな」
「うん! 行こう、奈留。もふもふ天国が私達を待ってるわ!」
「もふもふ……幸せ……」
「ハ、ハコ兄様。私も……」
「えぇ、楽しんでらっしゃい。僕も少し触らせてもらおうかな」
 ノア、美那子、奈留、風花、ハイコドと次々に幻獣と戯れだす。群れの外では、幸せそうな彼女達を収めるようにレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)がデジカメを構えていた。少年少女達を見送った透矢がそれに気付き、レムテネルの所へと向かう。
「写真かい?」
「えぇ。調査団の資料になりますし、それに……リアの役にも立つでしょうから」
「リアの?」
 隣にいるリアを見る。彼は幻獣達の方へ優しい視線を向けたまま、透矢へと答えた。
「俺がこの調査団に参加したのはさ、ある人の為なんだ。ここには来られないその人の為に、代わりに世界を見てこようってな」
「……そうか」
 彼の表情、そして口調から相手が大切な存在である事を知る。基本的に鈍感な透矢ではあるが、さすがにその位は察する事が出来た。
「ところで、透矢の方はどうしてこの調査団に参加する事にしたんだ?」
「俺か? 俺の方は色々だな。調査団が蒼空学園を中心に設立されたって事もあるし、家族の事もあるし。兄弟達が留守番してるから向こうの事は大丈夫だろうって思ったのもあるな」
「なるほど、色々か」
「あぁ、色々だ」
 透矢もリアのように視線を幻獣達に向ける。純粋に幻獣と戯れている者、それを優しく見守る者、ここにいる皆がそれぞれに動機や目的を持っているのだ。
 
 
 同様に大平原を動き回るのが目的の者達もいる。加岳里 志成(かがくり・しせい)は仲間と共に、透矢達からほんの少しだけ離れた場所を移動しながら調査していた。
「この辺りには狂暴化した幻獣はいなさそうですね。合流前の報告も一件だけでしたし、それが特別だったのでしょうか?」
「油断は禁物や。こういうのは物欲センサーと同じで気ぃ抜いた瞬間に出てきたりするからな」
「うむ、幻獣と呼ばれる存在じゃ。世界に異変があるとするなら、一番に影響が出てもおかしくないじゃろう」
「な、なるほど。そういう物なんですね」
 同行者の七枷 陣(ななかせ・じん)織田 信長(おだ・のぶなが)の言葉に頷く志成。冒険にしろ戦闘にしろ、既に豊富な経験を持っている二人に対し、まだ新米である志成は若干緊張気味だ。それに気づいた桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が肩に手を置いた。
「少し力が入り過ぎてるな。こういう調査に参加するのは初めてなんだっけ?」
「は、はい。そうです!」
「そっか。気負い過ぎる気持ちも分かるけど、ずっと気を張り続けてるといざという時に力が出せないよ。一人で見回ってるんじゃないからさ、気楽に行こう」
「そうですわ志成様。他の皆さんと協力して立ち向かえば、きっと調査も無事に終わりますわ。大丈夫ですわよ」
「忍さん、小夜……有り難うございます」
 先輩である忍とパートナーの左文字 小夜(さもんじ・さよ)の言葉でようやく志成の肩から力が抜ける。そこに透矢がやって来た。美那子達の調査――何人かは戯れているだけとも言えるが――が順調だったのでこちらの様子を見に来たのだ。
「皆、こっちの様子はどうだい?」
「透矢さん、お疲れ様です。こちらは今の所大きな動きはありませんね」
「そうか。向こうも順調に行ってるから、少ししたら合流するとしようか」
「はい。ところで、こっちで何か採取する必要は――」
「陣くーん! あっちに暴れてる幻獣がいるよー!」
 志成の言葉を遮るように一番前を歩いていたリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が叫んだ。彼女の所まで走ると、斜面の下の方にキツネ型の幻獣が何匹か暴れているのが見える。
「目が黒ぅなってるな。報告にあった瘴気って奴か」
「これは放ってはおけんな。確かめたい事もある、忍よ、参るぞ」
「あぁ、行くぞ信長!」
 ティー達と合流した時に交換した情報から、狂暴化した幻獣は気絶させるのが今のところ一番有効である事が分かっていた。その為先手を取って迅速に大人しくさせようと、幻獣の群れへと向かう。
「志成、君は行けるか?」
「大丈夫です、透矢さん。皆さんに比べたら私は弱いですけど、自分の身を護るくらいの事はしてみせます!」
「分かった。俺達がサポートするからやりたいようにやってくれ」
「はい!」
 
「さて、魔法の威力を試させてもらいますか。来たれ、光と雷の鳥よ!」
 陣がサンダーバードを召喚し、同時にファイアストームを放つ。幻獣と戦闘を行った者の報告の中に一貫して『魔法の効きが悪い』とあった為、それが本当かを確かめようとしていた。
 サンダーバードによる光と雷、そして炎が幻獣を襲う。それらは群れの中を駆け抜け、ちゃんと幻獣を痺れさせたりした。が、パラミタで使用した時と比較して明らかに見た目も小さく、効果も低い。
「なるほど、こりゃ割りに合わんな。近づいてぶん殴った方がいくらかマシか。何かそっちは逆に普段より効果が高いっちゅー報告もあるしな」
「ならばその複合ならどうなるか……どうじゃ!」
 今度は信長がレーザーナギナタを振るった。朱の飛沫と呼ばれる炎が同時に幻獣を襲うが、ナギナタを当てられて大きく吹き飛んだのに対し、炎はすぐに消えてしまう。
「手応えは想像以上じゃが、炎の効果は薄いか。どうやら本当に物理と魔法で優劣のついた世界のようじゃな」
「なら有効な手を使うまでだろうな。リーズ、透矢、志成、俺達でやろう!」
「まっかせて! 一気に突撃しちゃうよ!」
 忍を追い抜く形でリーズがバーストダッシュを使う。両手を水平に広げて『キーン』と言っている姿はまるで――
「ちょ、待てやリーズ! そいつはあかん! バードマウンテン的に!」
 後ろで陣が何か叫んでいるが止まらない。小型台風はそのまま群れの中心まで突っ込むと、一気に大剣を振り回した。
「……随分派手な戦い方だな。俺は普通にやらせてもらおうっと」
 同じ龍骨の剣を持つ忍は一匹一匹を的確に気絶させて行った。あくまで気絶させるのみ、出来る限り優しく。
「――よし、今だ志成!」
「はいっ!」
 隣では機動力に優れる透矢が追い込んだ幻獣を志成がツインスラッシュで昏倒させていた。ペースは当然忍より落ちるが、それでもメンバーの一員として十分な力になっている。
「さすがやな。あと少し、行けるか?」
「だ、大丈夫です、陣さん。最後まで、やってみせます」
「よっしゃ、なら最後は任せた!」
「頑張って下さいませ、志成様」
 陣と小夜の回復を受けて再び剣を握る志成。攻撃魔法同様回復も効果は通常より落ちているが、志成を癒すには十分だ。
「最後の一匹ですね……これ以上暴れずに、大人しくして下さい!」
 
 
「はい、もう大丈夫ですよ」
 加夜が幻獣の治療を終え、優しく微笑む。戦闘を終えて彼女達と合流した志成達はすぐに幻獣の治療へと当たっていた。
「それにしても……どうして暴れちゃうんでしょうね、この子達は」
「そこだな、問題は。村に行った皆が何か掴んでいればいいんだけど」
 加夜の周りには透矢と永夜、アンヴェリュグ、それからハイコドがいる。今は落ち着いた表情で眠っている幻獣を見ながら、一様に考え込んでいた。
「今のところ俺達が知っている情報で脅威に繋がりそうなのは『大いなるもの』くらいか……アンヴェル、どう思う?」
「難しいね。幻獣が『大いなるもの』の手先なら最初にあった男性が注意を促しても良いはずだし。いや……そもそもこの世界の人間は『大いなるもの』の事を知っているのか、それ自体が問題か」
「ドロシーさんから聞いた伝承はあくまで向こうの世界での話ですからね。封印、それが解けかけている事。それはこの世界の人にとってどんな意味を持つんでしょう……」
 皆が悩む中、加夜が幻獣を寝かせて立ち上がる。彼女は幻獣の存在を知った当初、幻獣とは村か『大いなるもの』の封印を護っているのでは、と考えていた。だがそれにしてはこの狂暴化はおかしく、かつ無秩序だ。
「もし幻獣の集まる場所があるのなら……そこに手がかりがあるんでしょうか」
 大平原を眺めながらつぶやく加夜。傾斜がある為に見えてはいないが、彼女が向いた方向は、図らずもその存在を示唆した聖域の方角だった――