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重層世界のフェアリーテイル

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第一世界・第6章「行動、第一世界調査団 〜村編〜」
 
 
「マスター、これで外周の地形データは入力完了致しました」
 村の入口、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が銃型HCのマッピングデータを確認しながら、パートナーの氷室 カイ(ひむろ・かい)へと伝えた。
 彼らは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の呼びかけに参加した調査団グループ、その中でも村の調査を担当するメンバーの一員だ。
「あぁ、後は村の中をマッピングして行くだけだな」
「他の皆様もそれぞれ調査を行っているはずです。ついでに状況を確認して回るというのはいかがでしょう?」
「そうだな。最後に紫月の所に行けば丁度良いか」
 二人が入口から村の方を見る。そこにはのどかな風景が広がっていた。人によっては中世ヨーロッパのようだと言い、また別の人はRPGのゲームのようだとも言う光景だ。
「他の世界は分からんが、ここはパラミタとそう違いは無いな」
「えぇ、我々にとっても違和感が少ないですからね」
「その違和感がどこに出て来るか……それがポイントだな」
「そうですね。では、参りましょうか」
 
 二人が最初に見つけたのはレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)トリィ・スタン(とりぃ・すたん)だった。トリィもカイ達がやって来るのに気付き、かつての同志に一礼する。
「これはベディヴィア卿。外の調査は完了したのですかな?」
「はい。今は村内部の地形データ収集と合わせて皆様の状況確認を行っております。トリスタン卿は今は何を?」
「皆が村人だけに聞き込みを行っては効率が悪いと思ったのでな。レギオンの力で草花からも情報を集めている所である」
 隣でしゃがみ込んでいるレギオンに視線を移す。彼は今、植物と心を通わせる事で最近の変化を調べている所だった。
「どうだ、レギオン? 何か実のある情報はあったか?」
「……あまり無い」
「ふむ、逆に言えば変化があるような大きな出来事も起きていないという事か」
「……ただ、一つ」
 レギオンがゆっくりと立ち上がり、村の外を指差す。
「何年か前から、獣の咆哮が時折聞こえるらしい……向こうの方から」
「向こうか、村の中ではなさそうであるな……む?」
 辺りを見回したトリィが物見台を発見した。素早く上まで登ってレギオンの指した方角を改めて見る。
「……なるほど、あれか。この世界の鍵になる場所かもしれんな……」
 トリィが見た物、それは霧が晴れた地点に存在する、神殿だった。
 
 
 カイ達が次に見つけたのは、葛葉 翔(くずのは・しょう)アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)だった。村人に何か聞いていたのか、アリアが丁寧にお辞儀をしている。
「やぁ、カイさん、ベディヴィアさん」
 こちらに気付いた翔が軽く手を挙げる。今現在の状況を伝えると、翔もこれまで聞いた事を教えてくれた。
「念の為外にいる人を中心に聞いて回ったんだけどさ、やっぱり村長に聞いたって人の言う通りここら一帯は王制らしい。ただ、この村は辺境に位置するからあまり権力者の影響は無いんだってさ」
「ここ以上に人がいる場所も聞いてみたんですけど、向こう側に見える山を越えて行く必要があるそうです。小型飛空艇を使ったとしても結構かかる場所ですね」
「辺境の地か……何故そんな場所に村が?」
 アリアの説明にカイが疑問を浮かべる。村を見た限り自活出来る環境は整っているようだが、それでももう少し交通の便が良くてもいいはずだ。
「それは分かりません。この村自体数百年どころでは無い歴史があるそうですから。ただ、村の識者の話ですと、神殿か聖域、あるいは『門』のいずれかに関係しているのではないかと言う事です」
「実際、あの辺に関する伝承は他の街には伝わってないみたいだからな。霧とやらが晴れて、そういった物が存在すると分かったから立てられた説ではあるらしいけど」
「そうか……ヴァルザードの話では、その神殿の方角から獣の咆哮が聞こえるそうだが」
「あぁ、こっちでもその話は聞いたよ。まるで何かに苦しむかのような声で、『大いなるもの』復活の前触れじゃないかなんて話す人もいたし」
「神殿ですか、もう少し情報を集める必要がありますね。マスター、他の方も当ってみましょう」
「分かった、ベディ。では二人共、またな」
「そっちもな。情報が纏まったら俺達にも教えてくれ」
 
 図書館を訪れたカイ達は、何冊かの本をテーブルに出して話し合っているガートルード・マックフィン(がーとるーど・まっくふぃん)達の所に向かった。
「二人共、お疲れ様。私達が調べた事、聞いてく?」
「あぁ、かいつまんで頼む。ベディ、記録は任せた」
「お任せ下さい、マスター」
「え〜っと、何から話せばいいかしらね……とりあえずは『大いなるもの』についてかしら」
 一冊の本を手に取り、カイ達へと見せるガートルード。そこには様々な記述と、神殿らしき絵が描いてあった。
「『大いなるもの』との戦いは数千年前。戦いで失くなったのか、それより前の事が書いてある本が一冊も無かったから戦いとなった原因そのものは不明よ。でも、こっちでも異郷の戦士が『大いなるもの』を倒して、賢者が封印をしたっていうのは変わらないみたいだけどね」
「賢者と言っても、記述があるのは『偉大なる賢者』についてだけだったんですけどね。他の賢者や『古の四賢者』という名前は出てきませんでした」
 モニカ セイクルム(もにか・せいくるむ)が補足しながら神殿を指差す。どうやらここが『偉大なる賢者』が封印を行った場所らしい。
「その神殿から最近獣の咆哮が聞こえ、『大いなるもの』の復活ではないかと言われているようだが」
「そう、良い意見ねカイくん。徹子くん、続きを」
「分かりました。他の方が村長さんから聞いた口伝には復活と再封印と思われる内容があったそうです。だからあたし達が次に目指すとするなら、その神殿か周辺の聖域が妥当ではないかと考えますね」
「聖域ですか……確か幻獣が生まれた場所だと伝えられているそうですね」
 記録を行っていたベディヴィアが確認を取り、徹子が頷く。今度はライカ・フィーニス(らいか・ふぃーにす)が説明を引き継いだ。
 ――バナナを食べながら。
「とりあえず、幻獣っていうのが霧が晴れる前には姿を見なかった、聖域で暮らしていた存在っていうのはもう確認済みだね? それが実際に見える所に出て来た訳だけど、最近はどんどん大平原の方にも来るようになったらしいよ」
 調査団が出会った幻獣達の事だろう。記録を取りながらそのまま続きを促す。
「で、実際に霧の向こうに行った人が遺した話と照らし合わせると、今大平原で見られる子達よりも大きな幻獣がいるんだって。しかも人の言葉が話せるんだって伝わってるよ」
 ライカが出してきた資料は他の本に比べ、随分とボロボロになっていた。その中の一ページには鳥型の幻獣が描かれている。一番近いのはワシだろうか。
「まぁこの絵だけじゃどれだけ大きいのか分からないけどねぇ」
 確かに対比する物が無い為、文に大きいと書かれていたという事しか判断材料は無い。そもそもこれが過去の物なら、今存在するのかすら分からないのだ。
「何か文字が書いてあるな……シク……ヌ……チカ……?」
 カイが幻獣の絵のそばに書いてある字を読む。既にかすれていて読みづらいが、間違ってはいないはずだ。
「そ、何でもこの本を書いた人は、霧を抜けた先の聖域でシクヌチカに逢って伝承を教えてもらったらしいよ」
「一応それ以降に聖域に辿り着いた人の記録でも、シクヌチカの名前は出て来るっす」
 ライカの隣にいる甲冑――もとい、エクリプス・オブ・シュバルツ(えくりぷす・おぶしゅばるつ)がテーブルの端に積んだ数冊の本を指差す。そしておもむろに隙間から鎧の中に手を突っ込むと、中からおいしいバナナを取り出した。良く冷えている。
「幻獣って名前もその鳥から聞いたみたいっすねぇ。あ、カイっちもバナナ食べます?」
「いや、遠慮しておこう」
「そうっすか。とりあえず俺達が調べたのはこんな所っすかねぇ。それにしても……」
「ん?」
「一度に四つの世界に繋がったって事は、『大いなるもの』はそれぞれバラバラに封じられてるんすかねぇ? もしそれが集まって復活したら、シャレにならないっすね〜」
 エクリプスが何気なく話した言葉に、カイは思わず考え込む。
(外の伝承がこの世界だけを指すとは考えづらい。なら確かにそれは……あるかもしれないな)
「あ、もしかしてバナナが欲しくなったっすか? まだまだ鎧の中に一杯冷えてるっすよ〜」
 ――台無しだ。
 
 図書館を後にし、一通り村の中を回ったカイ達は村長の家を訪れた。そこでは一室を間借りした芦原 郁乃(あはら・いくの)がどこからか持って来た花を前に絵を描いていた。
「あ、おかえり。地図は出来たの?」
「えぇ、私のHCに記録されております。そちらはいかがですか?」
「植物は結構集まって来たかな。はい、見せてあげる」
 手元にあった別のファイルをベディヴィアに渡す。そこには花だけでなく、特徴的な木や草も描かれていた。
「これは見事ですね。動物も描かれているのですか?」
「そっちはまだかな。幻獣を描きたかったら平原に行かないと駄目かも」
「そうですか。平原を調査している方々の情報が集まれば探しやすいかもしれませんね」
 郁乃達が話している所に、秋月 桃花(あきづき・とうか)プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が戻って来た。二人共元の世界ではあまり見ない物を手にしている。
「カイ様にベディヴィア様、お戻りになられていたのですね」
「見た所、外の調査は終わっているようですね。マスターには会われましたか?」
「いや、まだ芦原だけだ」
「そうですか。恐らく使わせて頂いている奥の部屋に引きこもっているのでしょう。引きずり出して来ますから少々お待ち下さい」
 カイに手元の荷物を預け、奥へと向かうプラチナム。少しして、本当に引きずられている唯斗がやって来た。
「よう、お疲れさん。首尾はどうだい?」
「地図のデータはベディが纏めてある。ついでに他で調査している奴らの集めた情報も聞いてきた」
「お、そいつは気が利くね。それじゃあ色々教えてもらおうか」
 
「――なるほどね。要は『大いなるもの』を封印した神殿に何か獣がいて、その周囲にある聖域に住んでいるはずの幻獣がどんどん平原の方に出てきてると」
 情報を整理した唯斗の言葉にカイが頷く。先ほどまで外に出ていた桃花がそれに付け加えた。
「桃花もそのお話は村の方から伺いました。最初は小さな幻獣だけが目撃されていたそうですが、徐々に大きい幻獣が増えて行っているそうです」
「このままだとどんどん膨れ上がるかもって事か……賢者の封印の話といい、神殿に条件が揃い過ぎてるな」
「シクヌチカだっけ? カイ、それの絵は無いの?」
「一応本を借りてきてある。劣化が激しいから別の紙に描き移して欲しいが……頼めるか、芦原?」
「うん、任せて。このお話が終わったら取り掛かるね」
「ところでマスター。平原を調査している組との連絡は取れたのですか?」
「いや、一応俺の連絡先は全員に教えておいたんだけどな……裕奈、宵一、優……誰とも繋がらない。っつーか電波が無いみたいだな……向こうも確認してみるか」
 おもむろに唯斗が立ち上がり、すぐそばの窓を開ける。そこには鍵屋 璃音(かぎや・あきと)忍冬 湖(すいかずら・うみ)がいた。二人の姿を見たベディヴィアが思わず唯斗に尋ねる。
「……何故農作業をされているのですか?」
「情報の対価として手伝いを申し出たんだとさ。他の場所でも手伝ってる奴はいるけどな。お〜い、お二人さん。ちょっといいかい?」
「ん? おう、今行く!」
 唯斗に呼ばれた二人が一旦手を止め、窓の所までやって来る。現在の状況を改めて聞いた璃音が連絡を約束していた一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)に電話をかけようとするが、やはりこちらも繋がる事は無かった。
「あ〜、駄目だな。こっちも情報共有は合流するまで無理そうだ」
「ちょっと予想外だったねぇ、これは。唯斗、すまないがあたし達にもデータをおくれ」
「ほいほい、んじゃHCを突き合わせて、と」
 璃音と湖のHCにもカイ達の集めたデータが蓄積される。それが終わると二人は畑仕事を続ける為、再び農具を手に取った。
「んじゃ、オレと姐さんは義理を果たして来るぜ」
「後はよろしく頼むよ……と、そうだった。唯斗、結局手記はどうするんだい?」
「ん、一応作る事にしたさ。せっかくの大がかりな冒険なんだからな」
「そうかい。それで、表題は?」
「今のところは仮だが……『重奏世界のフェアリーテイル』って考えてる」
「重奏、かい……四つの世界を音に見立てるとは、粋だねぇ」
「ありがとよ。ま、せっかくフェアリーテイル(おとぎ話)って名付けるんだ。ドロシーの言う通り、光をもたらして締めたい所だな」
「光か……ならでっけぇ花火を打ち上げてやらねぇとな」
 璃音が、唯斗が、そして湖が空を見上げる。そこには三人が目指す、雲一つ無い青空が広がっていた――