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重層世界のフェアリーテイル

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第一世界・第4章「行動、第一世界調査団 〜幻獣編〜」
 
 
「いたわ、現地の動物! あれも幻獣って奴かしら」
 大平原のある地点を調査していた葛葉 明(くずのは・めい)は、思わず大きくしてしまった声に口を押さえながら仲間を呼んだ。
 彼女達は紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の呼びかけに集まった調査団メンバーのうち、大平原の調査を担当している者達だ。最初に出会った男から軽く話を聞いた事で、今は幻獣の調査を軸にこの付近を探し回っている。
 明を始めとして、このメンバーには動物が好きな者が多く集まっている。セルマ・アリス(せるま・ありす)近衛 右近(このえ・うこん)ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)などはその代表格だ。
「本当だ、こっちに来てくれるかな」
「どうやろ、今ん所は大人しくしとるようやけど。触ってもええんかなぁ……触るで? 触ってまうで?」
「あぁ……何て可愛らしい。どうにか刺激を与えないようにして、近寄れないでしょうか」
 四人が目を輝かせながらゆっくりと近付いたり、手を差し出したりして幻獣と触れ合おうとする。熊がそのまま30cmほどまで小さくなったような幻獣はどうやら好奇心旺盛な性質らしく、群れの中から一匹、また一匹と明達へと寄って行った。
「か、可愛い……調査団に参加して良かった……」
「ほんまや、もふもふしてて気持ちえぇなぁ。大きさといい、まるでぬいぐるみや」
 今度は表情を綻ばせながら幻獣を撫でまわす明と右近。セルマは抱きかかえた幻獣をパートナーのミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)へと見せに行っている。
「ほら見てよミリィ、可愛いと思わない? 風も気持ちいいし、ほんと良い所だよね」
「景色も良いし、確かにね。でもルーマ、可愛い物探しはいいけど危ない事はしないでね? その子が大人しいって決まった訳じゃないんだから」
「ミリィは心配症だなぁ。ちゃんと生態調査が目的だって分かってるから大丈夫だよ」
 再び動物好きの輪に戻って行くセルマ。ミリィはそれを大人しく見送っていたが、周囲にいた者は彼女から炎が見えたと後に語っている。
「…………ワタシの方が可愛いもん」
 ――ちなみに、ミリイは外見がのゆる族だ。
 
「♪〜」
 同じく幻獣と戯れている者の中、月音 詩歌(つきね・しいか)は群れの中心で優しい歌を歌いながら座っていた。そんな詩歌と幻獣達を遠巻きに見ながら、セリティア クリューネル(せりてぃあ・くりゅーねる)ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)、そして十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が主目的である生態調査を行っていた。
「ふむ、随分と大人しくしておる。熊のような外見をしておるが獰猛さは感じられんな」
「ああしているとビーストマスターみたいに見えますねぇ。でも他の方の報告ですと幻獣を別世界に連れて行く事は出来ないそうなのが残念ですけど」
「制約と干渉があるという仮説か。こうして見ている限り普通の動物とあまり違いは感じられないんだけどな。まぁ召喚契約とか無しで軽々しく世界の壁を越える事は出来ないという意味では幻獣という名に相応しいとも言えるけど」
「その辺は要調査じゃのぅ。この中で一番生物学に詳しいのは宵一、おぬしじゃ。期待しておるぞ」
「一朝一夕で結果が出るものでも無いんだが……まぁやってみますかな」
 
 詩歌の歌が丁度終わったタイミングで、神崎 零(かんざき・れい)神崎 優(かんざき・ゆう)が群れの中へとやって来た。二人は幻獣を間違えて蹴飛ばさないように気を付けながらゆっくりと腰を下ろす。
「お疲れ様。良い歌だったわよ」
「あ、どうもありがとう〜。二人も戯れ組?」
「その呼び方はともかく、幻獣と触れ合えたらと思って来たのは確かね」
 零がすぐそばにいる幻獣の頭を撫でる。その姿を眺めていた詩歌は優が一匹をじっと見つめているのに気が付いた。
「優ちゃん、どうかしたの?」
「ん? あぁ、いや……幻獣って話だから、人の言葉を話すのかなって思ってただけだよ」
「そういえばそんな幻獣を見たって報告があったって話は聞かないね。話せる子はいないのかな?」
「どうだろう。まだ調査は始まったばかりだからね。とりあえず今はこうしてるだけで十分って事にしておこうかな」
 零と同じように優も幻獣を触りだす。本当はこの辺りで起きた異変などが聞けたらと思っている事も事実だが、その辺は別の場所を調査しているメンバーに任せる事にした。
 神崎二人に続き、今度は的場 凪(まとば・なぎ)レーティア・オブリビア(れーてぃあ・おぶりびあ)がこちらに来た。
「俺達も邪魔していいか? せっかくだからのんびりしたいんだ」
「いらっしゃい〜、戯れ組二名追加だね」
「戯れ……? まぁ幻獣とまったり戯れたいと思って来たから間違ってないな」
「そうね、戯れて交流する。ふふ……愉しみね」
 『(調教的な意味で)』と後に続きそうなレーティアの笑みに凪がため息をつき、他の三人が汗を垂らした。心なしか幻獣達も彼女から距離を置いている気がする。
「あらあら、皆奥ゆかしいのね」
「いや絶対違うから……悪いな、こいつはいつもこんな感じなんだ」
 幸い自分の周りからは逃げなかった為、幻獣を落ち着かせるようになだめながら謝る凪。
「まぁ安心してくれ。さすがにこいつらを食べようとまではしないからさ」 
 
「う〜、幻獣美味しそうです……」
 その頃、プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)は物騒な事をつぶやきながら群れを眺めていた。彼女は大食漢なので現地の動物を食べる事を楽しみにしていたのだが、『動物達を刺激する事は避けるように』というメンバー内のお達しの為に自制を促されていた。
「代わりにこれで腹を満たすといい。ほら」
 プリムローズの方を見ようともせず、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がしゃがみこんだまま足下の草を手渡した。一応これでも薬、あるいは毒に利用出来るかという調査を兼ねているので、受け取ったプリムローズは律儀に草を食べて行く。
「味気ないです……お肉が食べたいです〜」
「調査が終わったら考えてやる。それまでは大人しく毒見役になるのだな」
「約束ですよ、大ちゃん?」
 毒見という所にはツッコミもせず、次の草を食べて行くプリムローズ。幸い彼女の肉体は毒に耐性を持っているので、ちょっとやそっとの物では危険になる事は無かった。
 
 同様に幻獣より地面に興味を持っているのは貴音・ベアトリーチェ(たかね・べあとりーちぇ)だ。彼女は草の代わりに土を少しずつ採取し、袋の中に入れて密封するという作業を続けている。
「貴音、薬学に関係しているならまだしも、土質の調査は門外漢なのではないか?」
 その作業を隣で見続けていた天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)がようやくといった段階で質問をした。貴音本人は勿論、ヒロユキも地質学の詳しい知識を持ち合わせている訳では無い。
「大丈夫ですわ。これだけ人数が揃っているんですもの、地質学に詳しい方はいらっしゃるはず。その方に調査をお願いすれば分かる事があるかもしれませんわ」
 実際この場にいるメンバーの中で考えても、アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)などが地質学に対する知識を持っている。協力という調査団最大の利点を活かそうというのが貴音の考えだった。
「ふむ、なら構わないがな」
 採取作業自体は貴音自身がやる為に特に出番の無いヒロユキが隣で作業をしている大佐達を見る。
 
「あ、痺れてきた。大ちゃん、何か手が痺れてきたよ!」
「この草は麻痺の効果がある……と。よし、では次はこれだ」
 
「……それの毒見はやらんぞ、俺は」
「食べさせませんわ」
 
 
 八王子 裕奈(はちおうじ・ゆうな)バル・ボ・ルダラ(ばるぼ・るだら)は万が一を想定して、調査団の外縁を見回っていた。
「パラミタの巨獣みたいに規格外の幻獣がいるかな〜って思ったけど、そうでも無いわねぇ。存在しないのか、この辺りにはいないだけなのか、どっちなのかしら?」
「どうでしょうな。それよりも我はそれ以外の存在が気になりますが」
「それ以外? どんな?」
「確か、花妖精の多くはティル・ナ・ノーグから闇商人によって連れ去られたというのが定説なのでしょう?」
「でもそれって、本当のティル・ナ・ノーグの事じゃないかしら。ここは今までゲートが封印されてたんだし、さすがに闇商人達もいないと思うわよ」
「む……そう言われればそうですな」
「とりあえず大型の幻獣もいないし、皆と一緒にあの熊っぽい幻獣の調査をやりま――」
 踵を返そうとしたその時、ペガサスで上空から見て回っていたティー・ティー(てぃー・てぃー)が慌てて降下しているのが見えた。裕奈達の位置からでは良く聞こえないが、何かを皆に知らせて回っているのが分かる。
「何かあったのかしら、急いで戻りましょ」
 
「皆さん、サイみたいな動物がこちらに接近中です! 様子が変です、気を付けて下さい!」
 ティーの声に皆が警戒態勢を取る。襲来する方向に一番近い源 鉄心(みなもと・てっしん)がその姿を認め、召喚師の知識を活かして相手の状況を探った
「あれは幻獣だね。見た限りでは敵意を感じるけど、俺達は別にこの幻獣達をどうかしようと思った訳でも無いから彼らの自衛とも違う気がする。それに、あの目……」
 他の者達も幻獣の目へと視線をやる。良くある狂暴化のように血走ったりはしていないが、その代わり――
「な、何でしょう、あれ……目が黒く……」
「煙? いや、そんなもんじゃ無い。もっとドス黒い……瘴気、か?」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)酒杜 陽一(さかもり・よういち)のつぶやきが表す通り、幻獣は目から黒い瘴気をたなびかせながら疾走していた。その異様さに皆の緊張感も増して行く。
「皆様、下がって下さい」
「ちょ〜っとシャレにならないねぇ、これ」
 ニース・ミョルニル(にーす・みょるにる)とミリィが素早く皆の前へと出て空に向けて威嚇射撃を行う。だが、幻獣達が怯んだ様子は無く、一目散にこちらへと接近して来た。
「……退きはしませんか。仕方ありません、実力行使での制止に移ります」
「やるしかないね。皆、そっちの熊の子達を逃がして!」
「よっしゃ、任せとき! アレク、俺らで抱えるだけ抱えて逃げるで!」
「ボク達はそっちに回った方が良さそうだねぇ。出来るだけ戦闘はしたくないし……」
 右近とアレクサンドル・トルストイ(あれくさんどる・とるすとい)が手近な熊の幻獣を抱えて横へと駆け出す。他の幻獣達も二人の後に続き、急いでサイ型幻獣の進路から離脱を始めた。
「朱里、安全な所にいてくれ。僕は前に出る」
「分かったわ。気を付けてね、アイン」
 後ろに乗せている蓮見 朱里(はすみ・しゅり)に手綱を任せ、馬から飛び降りるアイン。聖騎士である彼は皆を護る為、盾を手に最前線へと躍り出た。
「幻獣よ、何が君に瘴気を宿らせているのかは分からないが……僕の護るべき者達に手出しはさせない!」
 先頭の幻獣と盾を構えたアインが激しく激突する。さすがに勢いを殺し切れずにアイン自身の身体が後方へと軽く弾き飛ばされるが、代わりに幻獣も勢い余って転倒し、鉄心とフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)の前に滑り込んだ。
「よし、清浄化を試してみよう。君も手伝ってくれ」
「心得た。効果があると良いのだがな」
 二人がすぐさま幻獣へと取り付き、清浄化を試みた。だが、瞳に宿った瘴気はわずかに薄まった程度で完全には消滅しない。
「……有効な手とはいかんか。仕方あるまい、陽一、貴様の手で他の幻獣を抑えてみせよ。気絶さえてしまえば一時的にせよ、暴れる事は無くなるであろう」
「それしか無いか。分かった、出来るだけ引き受けるから漏れた奴は他で何とかしてくれ」
 残りの幻獣を止める為、陽一が走り出した。出来るだけ傷つけずに止められるよう、敢えて武器を捨てて素手で挑む。
「ラヴェイジャーを名乗る以上、素手で弱いなんて言ってられないよ――な!」
 幻獣の横を通り過ぎざま、体勢を崩すように押し飛ばす。そのまま群れを抜けるまで同様の攻撃を繰り返し、気絶という形で無力化を行った。
 当然ながら全ての幻獣を一人で相手するのは無理なので打ち漏らしが生じるが、それらにはアインの防御と、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)の武術を応用した足払いが待ち受けていた。
(行かせない。結和を護るのは……僕、なんだから)
 ちらりとパートナーに視線を向け、起き上がろうとした幻獣に則天去私を叩きこむエメリヤン。彼の横を走り抜けた宵一が最後の一匹に疾風突きを喰らわせ、ようやく全てを沈黙させる事が出来た。
「さすがに無傷で抑えるのは難しかったか……ヨルディア、この幻獣を治療してやってくれ」
「はい、お任せ下さい」
 後方に控えていた治療班が倒れている幻獣達へと向かい、治療を行い始めた。
「ごめんね、痛くして。今治してあげるわ」
「大丈夫。大丈夫ですよ? 私はあなたを治療したいのです」
 朱里と結和が優しく歌を歌い、幻獣の緊張を解きながら治療を行う。榊 朝斗(さかき・あさと)とルシェンも相手を刺激しないように細心の注意を払いながら残りの幻獣達の間を駆け巡った。
「ふぅ……これでとりあえずは大丈夫かな? 後は目を覚ました時に暴れないかが心配だけど」
「そうですね。原因が分かれば良いのですけど……念の為、他の場所で調査を行っている皆さんにもこの事を知らせておいた方が良いかもしれませんね」
「うん。アインさんのHCと情報を統合してから透矢さんに連絡をしてみるよ」
 今は別の場所で調査を行っている篁 透矢(たかむら・とうや)に状況を知らせる為、朝斗はアインと情報を統合した後で連絡を取ろうと試みた。だが――
「……あれ? 繋がらない。どうしたんだろう?」
「僕も今、村にいるはずの唯斗に連絡を取ってみたんだが駄目だったよ」
 二人がHCを接続した携帯の画面に見入る。そこには相手が出られない状況だった訳では無く、通信その物が出来ていないという表示があった。
 朝斗とアインの間ではデータリンクが行えたので、HC自体は正常だ。つまり、この世界には携帯の基地局やそれに類する物は無いという事だろう。
「ティーさん、悪いんだけど透矢さん達のグループを探して、こっちに来るようにお願いしてくれないかな? この近くにいるはずだから」
「分かりました。レガートさん、お願いしますね」
 朝斗に応え、ペガサスで飛翔するティー。大空を舞う彼女を見送りながら、朝斗は一つの大きな問題にぶつかった事を実感していた。
「狂暴化……それとも、暴走、か……この幻獣だけだったら良いんだけど……そうも行かないよね」