空京

校長室

建国の絆第2部 第3回/全4回

リアクション公開中!

建国の絆第2部 第3回/全4回
建国の絆第2部 第3回/全4回 建国の絆第2部 第3回/全4回

リアクション



アトラスの傷跡

「だからね、リコ……」
「えー? なーにー?」
 ザリザリザリ……と不快な音が、電話の通話にまじる。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)高根沢理子(たかねざわ・りこ)と携帯電話で話していた。
 今、美羽がいるのはアトラスの傷跡だ。携帯電話網はまだまだ整備されておらず、どうにか電波が届く場所を探して、かけていた。
「どこまで聞こえてるー?」
「先生が私を助ける為に、鏖殺寺院を騙してまで、ジークリンデとの契約を解除したところまでー」
 相手に伝えようと不自然に大きな声になっているので、おたがいに語尾が延びて、変な会話になっている。
「あのね、理子とジークリンデの契約は、そのうち元に戻るかもしれないよ!」
「なになにー? 何が戻るの?」
「け・い・や・く!」
「解除した理由は聞いたってばー」
「そうじゃなくってー。うう〜、もう。電波悪いなー。
 できれば理子にも、ジークリンデと砕音先生を手伝ってほしいのに!」
「安心して! ジークリンデなら、これから助けに行くわー!」
「ああっ、今のは聞こえたんだ?! よく聞いて! ジークリンデとのっ」
 ぷつん。つーつーつーつーつーつー。
「あああああ」
 電波が途絶えてしまった携帯に、美羽はツインテールを揺らしまくって、じれる。
 背後で溶岩が固まった石に腰かけていた砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がその様子に苦笑する。
「大変そうだな……」
「また電波が良さそうな時にかけてみよう?」
 コハクと美羽は、砕音が王都を探すのを手伝って共にあるのだ。
 見渡すと、荒涼とした火山地帯に、場所に似合わぬ未来的な建物がいくつか建っているのが見える。旧王都の建物だ。
「ここのどこかに女王が没した、旧シャンバラ王宮があるはずだ」
「そこに神子が集まって儀式するんですね」
 コハクの確認に、砕音はうなずく。コハクは神子を見出す者として、女王復活の儀式場を探そうとしていた。
 砕音はそこまで来るのに乗っていた自走式の車椅子から降り、地面に腰を下ろしている。大地に手をあて、集中して次元の狭間にあるという王宮を探す。
 美羽とコハクはその周囲に石をつみあげ、砕音の姿を隠そうとする。彼も教導団のドラゴンキラー作戦の対象者だ。
 他にも砕音の協力者が、周囲を見回ったりと警戒に余念が無い。
 集中していた砕音が、急につぶやいた。
「え……なんだ、これは……うッ?!」
 地面に崩れた砕音に、二人が跳び寄る。
「先生、大丈夫?!」
「呪い、ですか?」
 砕音は頭を振るいながら、身を起こした。
「……平気だ。やっぱり出歩くのは無理があったな。ただ……何か妙な感じが……」
 緊張するコハクを見て、砕音は困ったように笑った。
「いや……そんな警戒するような悪いものとも言えない……ただ、とにかく巨大な……闇龍よりデカい何かが居る気配を感じたんだ。あれは……」
 砕音がふと周囲の光景の一点を見る。アトラスの傷跡の山頂だ。
「アトラスって、パラミタ大陸を支えている巨人っていう伝説の?」
 なんとなく美羽が口にする。砕音は首をひねりながら、拳で地面をこづく。
「まさか、とも言えないな。
 ……もしかしたら闇龍が暴れる事で、浮遊大陸パラミタの力が逆に増してきているのかもしれない。病気になったら抵抗力が増した、ってところかな」
 コハクたちは眼下に広がる大荒野と火山を見回した。
 この広いシャンバラで、何かが確かに変わりつつある。
「僕にだって……できることが、きっとあるよね」
 コハクのつぶやきに美羽が笑いかける。
「うん! あるよ! 絶対にね」