空京

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建国の絆 最終回

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建国の絆 最終回
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ゴクモンファーム

 ゴクモンファームでもマフディー・アスガル・ハサーン(まふでぃー・あすがるはさーん)林田 樹(はやしだ・いつき)が中心となって避難の準備が進められていた。
 薔薇の学舎で講師を務めるマフディーのもとに、タシガンの上月 凛(こうづき・りん)から受け入れ準備や移動手段が整ったことの連絡を受けていたため、ツァンダ経由でそちらに向かうことになった。
 マフディーが心配した通り、鏖殺寺院を抜けた元兵士ともとから農場にいた住人達の間には、ピリピリとした空気が漂っていた。
 樹は、教導団の制服を脱いできたよかった、と内心で安堵する。
 この状態の中に教導団員の姿が混じるのは、非常にまずいだろう。
 マフディーは元兵士達のもとへ、馬良 季常(ばりょう・きじょう)はファームの住人達のもとへそれぞれ向かい、仲裁にたつことにした。
「俺達は裏切られたのか……? それとも、ここに来るようにあの方に言われた本当の理由は……」
「それはとんだ誤解だ」
 固まって不安げに話し合っている元兵士達の輪に、強い否定の言葉と共にマフディーが入ると、彼らはハッと顔を上げた。
 マフディーは戸惑いを浮かべる彼らを一度見渡し、繰り返す。
「誤解だ」
 けど、と言いつのろうとする元兵士を片手で制し、マフディーはその理由を話した。
「諸君らはシャンバラの大地と共に歩むことを決意したはずである。砕音氏も必ず呪いに打ち克つ。その時に無様な姿を見せるのかね?」
「呪い……?」
 元兵士達は砕音の豹変が呪いであるとは思っていないようだった。
 マフディーの指摘に少しずつ戸惑いが薄れていく。
「俺達は……ここで大地と共に生きていいんだな? この、ファームの人達と共に……」
「もちろんだ。心の拠り所にするものも過去の対立も全て乗り越えて助け合っていけると吾人は信じている」
 元兵士達は、ファームの住人達のほうへ視線を向けた。
 そちらも何とか気持ちを落ち着かせることができそうだった。
 彼らは、人々が殺されるのではないか、脅されて利用されるのではないかと疑っていたのだ。
 季常は彼らの猜疑心へ理解を示すように頷いてみせた。
 実際、そう思ってしまうのは何の不思議もないことだ。
 しかし、その暗い疑念に凝り固まってしまっては、何も始まらないのは確かなことで。
 いつ来るかわからないモンスターよりも、実はこちらのほうがやっかいな敵と言えよう。
 他人を許す、というのは言葉ほど簡単ではない。
「ですが、今まで元兵士の皆さんはあなた達と共に畑を耕してきました。彼らの手は、あなた達の手のように爪に土が入り、ひび割れ、硬くなっているのをご存知でしょう。もう一度、その手を信じてみませんか?」
 問われた彼らは自身の手を見つめた。
 その手を通し、今日までの短いが充実した日々を思い出す。
「おい、そろそろ行かないと……」
 あらかた避難の準備が整ったことを確認してきた樹が、出発を促しにやって来た。
 顔を上げたファームの住人達は、季常の言葉に小さく頷いた。
「まとまったようだな。では、行こう」
「その前に! そこの君達、少し手当てしておこうか」
 緒方 章(おがた・あきら)が樹を押し退けて数人の男達を手招きした。
 何故か彼らだけ顔にあざや手足に擦り傷などを作っている。
 いったい何だと彼らを見つめる樹に、章は苦笑気味に答えた。
「喧嘩だよ。あっちにもいたから」
 あっち、と章が目で示すのは元兵士達。
 樹やマフディーが到着する前に一悶着あったようだ。
「放っておいてばい菌が入ったら大変だからね。……最悪、切断か……」
 手当てを嫌がった男に声のトーンを落として言うと、彼はビクッとしておとなしくなった。
 ファームを出ると山葉涼司らしき人物が待っていた。護衛についてきてくれるらしい。
「行き先はどこや? タシガン? オッケー、俺がしっかり守っちゃる!」
 ついて来ぃや、と胸を叩く涼司……いや、日下部 社(くさかべ・やしろ)
 蒼空学園の制服とメガネで社は涼司になりきったつもりでいたが、言葉遣いで別人だとバレていたがマフディーも樹も何も言わなかった。
 ゴクモンファームの住人達にいたっては、涼司に会ったこともないので、社の「俺は山葉涼司っちゅうモンや」という自己紹介をそのまま受け止めている。
 そして、必ずここに戻ってくると誓って彼らは馴染んだ農場を後にした。
 しばらくは何もなかった。
 ファームの住人と元兵士の間に会話が戻ってきたこと以外は。
 が、異変は突然やって来た。
 肺を押し潰すような黒い風が吹き抜けたかと思うと、空から数体のモンスターが降ってきたのだ。
「来よったな」
 栄光の刀に手をかけ、モンスターを睨みつけた時。
 バイクのエンジン音が急接近してきた。
 敵か味方かわからずそちらにも気を向けた社のすぐ傍に、砂埃を立ててバイクは滑り込んできた。
 宇宙刑事のようなお面に赤いマフラーをなびかせた彼は──。
「パラミタ刑事シャンバラン! ヤマハ、加勢する!」
「おぅ、行くで!」
 パラミタ刑事シャンバランこと神代 正義(かみしろ・まさよし)は、社を山葉涼司と思い込んで呼びかけ、両刃の片手剣タイプの光条兵器を現すとバイクのエンジンを吹かせてモンスターに突っ込んでいった。
「俺達が食い止める! 先に行け!」
 流れてきたシャンバランの声にマフディーは謝意を示すと、速やかにこの場から離れることにした。
 元兵士の中には共に戦おうとする者もいたが、
「諸君らが守るべきはファームの仲間と苗の親株であろう」
 と、言い聞かせた。
 万が一に備え、樹はアーミーショットガンを意識しておいた。
 これ以上、自分が関わった人の死を見たくなかった。
 モンスターの足止めを引き受けたシャンバランとヤマハはうまく連携して、一体ずつ確実に倒していった。
 ヤマハが光学迷彩で姿を隠してモンスター達を斬り付けて惑わし、その隙をついてシャンバランが轟雷閃で急所を突いていく。
 空から攻撃してくる複数のモンスターが相手なら、まずはヤマハが雷術で羽を潰し、シャンバランがチェインスマイトでダメージを追加する。
 また、どちらかが傷を負った時は大神 愛(おおかみ・あい)がヒールをかけて癒した。
「はっ……そうです、これを!」
 恐ろしいモンスターと間近で戦う二人にもっと何かできないかと考えた愛は、パワーブレスを思い出した。
「ちーちゃんも、それで強くなれるかな!? それで、メガネかけたらやー兄とおそろい♪」
 花を散らしそうな笑顔でメガネを振り回す日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)
 自分のパートナーとヤマハが気がかりで、その存在がまったく目に入っていなかった愛は、ぽかんとして千尋を見つめていた。
 何でここにこの子が? 保護者、いやパートナーは?
 そんな疑問が浮かんだ愛だったが、すぐに答えは出た。
 ──山葉涼司は光学迷彩を使えないではないですか!
 愛はシャンバランへそれを言おうとして、やめた。
 変なことを言って集中力を切らせてはいけない。
 余談だが、この戦いで涼司の株は上がり、ついでに新たな特技を得たらしいとの噂が広まり、
「新しいパートナーが!?」
 とか何とか囁かれたとか。