空京

校長室

建国の絆 最終回

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建国の絆 最終回
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ドージェを巡る攻防

 闇龍のうねりが、触れる崖の表面を抉って行く。
 強烈な風と闇の霧が留まること無く吹き荒び、ドージェ・カイラスの咆哮を歪ませながら外へと発散していた。
 その闇の暴風の中に、ドージェが居る。
 己を削り飛ばしながら、闇龍の核を抑え込んでいる。
 それは、鬼崎 朔(きざき・さく)にとって、最大の好機であり、最大の危機でもあった。
「……ドージェが、私以外のものによって死ぬ?」
 朔は闇龍にいどむ崖の上で呟いて、力無く笑った。馬鹿げている。とても。
 聴こえているのは、けたたましい突風の中にあるドージェの咆哮。
「そんなこと許せるはずがありません。どうせ死ぬなら――私の手で!!」
 強く噛み合わせた歯を軋ませ、朔は闇龍へと歩を進めた。本来なら、隠形の術やブラックコートなどで気配を消して近づきたいところだったが、闇龍の放つ風に対応するのに手一杯でそれは叶わなかった。いずれにせよ、核を抑えているドージェに気配を悟られることは無いとは思うが。
「朔ッチ……」
 ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)が後に続く。
 彼女は、この復讐が「偽りの復讐」であると知っていた。だが、それでも、彼女は朔を守るために付いて来ていた。それが自身の使命であるかのように。
 と――彼女たちの行く手を遮るようにサンダーブラストが走った。
「――ッ!?」
 朔が振り返ると、そこには魔法を放った格好のアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)と、グレートソードを抜き放ちながら迫るケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)の姿があった。
「邪魔するなッ!!」
 朔は栄光の刀でそれを受け、流しながらケーニッヒに憎悪の目を向ける。その視線を真っ直ぐに捉えたケーニッヒが、
「ドージェは我らが守る!! それが、キマクやパラ実に対する――精一杯の贖罪だ!」
「朔ッチを命をかけて守るのがボクの贖罪だから!」
 カリンのイーグルフェイクがケーニッヒの横腹を薙ごうとし、
「させんッッ!!」
 アンゲロのドラゴンアーツがカリンを撃つ。その隙にケーニッヒの剣が朔を斬り裂くも、そこにあったのは裂けたブラックコートだけだった。――空蝉の術。と、ケーニッヒが察したらしい時には、朔のイーグルフェイクが彼の肩を裂いていた。

 ◇

 今回ばかりは、いくら無敵と名高いドージェも危ないだろう、とジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は踏んでいた。この機にドージェを屠ろうとする者がいるかもしれない。そして、ドージェが居なくなればパラ実は、間違い無く各勢力から餌食にされる。
 彼もゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)も基本的には悪人だが、ことドージェに関しては尊敬するものを感じていた。ドージェを守ろうと考えた末に出した結論は、ドージェの身が危なくなった時に自身が影武者としてドージェの身代わりになる、というものだった。
 3mの巨漢に加えて、この悪人面だ。コスプレすればどうにかなるだろう――と、闇龍へと向かった彼らの前で繰り広げられていたのは、朔らとケーニッヒたちの攻防だった。
 朔の方は「ドージェを殺すのは私だ!」などと物騒なことを叫んでいる。ならば、どちらに加勢するべきかは明白で、
「ゲシュタール、準備運動みたいなもんだ。援護しろ」
「この準備運動だけで終われれば良いがな」
 地を蹴ったジャジラッドを追って駆けながらゲシュタールが魔術を組みあげていく。
 ジャジラッドはバトルアックスを構え、ドージェに似た咆哮を上げながら、朔たちの方へと切り込んでいった。

 ケーニッヒから距離を取るように後方へ跳んでいた朔の視界の端で、ジャジラッドの接近に気づいたカリンが彼の前に立ちはだかる。が、彼女はゲシュタールとアンゲロの魔法に同時撃ちされる形で吹っ飛んだ。ゲシュタールのバトルアックスが朔の腹を裂き、身を翻した彼女をケーニッヒの突き出した切っ先が狙う。それを寸で爪の甲で受け止める。が、朔は受け留めた衝撃によって押し出される格好で、崖の外へと放り出されてしまっていた。
 そして、自ら身を投げて朔の手を取ったカリンと共に、彼女はドージェの咆哮が混じる風の中へと消えていった。