校長室
【ろくりんピック】最終競技!
リアクション公開中!
■パラミタ内海の海賊 ――何が最高の宝かって、そりゃあ、おまえ、同じ海賊と奪い合って勝ち取る物ほど”イイ”物はねぇよ―― と、のたまった海賊はトルトゥーガの酒場で惜しみない賞賛を浴び、その翌日には真っ裸で井戸に沈んでいたという。 それはともかくとして。 空京スタジアムでは次の競技の準備が進められていた。 ◇ 「パラミタ内海の海賊……」 巨大な帆船の船尾側では、東シャンバラチームの面々がスタートの合図を待って各々の準備を進めており……{SFL0017089#アン・ボー}は、ぐっと握り締めた拳を高く掲げていた。 腹の底から溢れ出しそうな感情に押されて、口元がどうしようもなく笑む。 「なんて良い響きなんだい! カリブの海賊だったこのあたしに相応しい舞台じゃないか!」 天高く突き上げていた拳をほどきながら、彼女はそれを払うようにそばで準備を進めているパートナーの方へと視線と手元を向けた。 「これは勝つしかないよッ、優子――……って、何してるんだい?」 アンが、はて? と軽く眉を寄せた先では、八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)は、ろくりんピック公式タオルに何かを包んでいた。 「ン」 優子が顔を上げ、そのタオルで包んだ何かをアンへと投げ渡す。 「これは?」 アンは、受け取った『それ』を手元で遊ばせがら問いを重ねた。 「宝ってのは、簡単に手に入らないから宝なんだよ」 そう言って小首を傾げてみせた優子は、悪戯気な笑みを浮かべていた。 ■ 実況席―― 「まもなく『パラミタ内海の海賊』が開始されます。実況は、わたくしルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)がお送りします」 「解説のセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)だ」 「解説のような人のクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)です。よろしくどーぞ」 「解説のような人の補足役のルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)です。宜しくお願いします」 と四人がそれぞれのマイクに言ったところで、 「……『ような』というのも引っかかりますけど、解説の補足?」 何か違和感を覚えたルナティエールが、端っこに控えていたルルーゼの方を怪訝に見やる。 ルルーゼが静かにうなずき、 「我がパートナーはテキトーな発言が多いですから」 「よく分かってらっしゃる」 ははは、とクドの眠たそうな顔が笑う。 「……とりあえず、セディ。ルールの簡単なおさらいをお願いします」 「――ルールは至極簡単だ。西シャンバラチームは帆船の船首側から、東シャンバラチームは船尾側からそれぞれ船に乗り込み、メインマストの頂上にある宝箱を奪い合う。宝箱を一番最初に手に入れた選手のチームの勝利だ」 「ちなみに、この帆船には三本のマストがあって、船首側から順にフォアマスト、メインマスト、ジガーマストと言います」 ルルーゼが言って、セディが続ける。 「選手たちにはマスケット銃が支給されている。使える弾は四種類。石化弾、睡眠弾、麻痺弾、通常弾だな。通常弾を頭部か胸部へヒットさせたり、石化させることで相手の選手を退場させることが出来る。――そして、スキルの使用は自由だが、空を飛ぶスキルだけは禁止されている……まあ、こんなところであろうか」 「というところで、丁度、時間のようですね」 ルルーゼが置いて、ルナティエールが高らかに宣言する。 「お待たせ致しました。パラミタ内海の海賊――スタートです!」 ■ 大砲による空砲の音が響き渡り、それが開始の合図だった。 同時に、選手たちが控えていた台と甲板との間に足場が渡され、ドゥッと沸き起こった観客の声援の中、両チームの選手たちは速やかに甲板や船内へと展開していく。 そんな中―― 東チームの立川 ミケ(たちかわ・みけ)は、あっさりと空を飛んでいた。 「あ。あー、こらっ!」 パートナーの不正に気づいた立川 るる(たちかわ・るる)が、慌ててミケの尻尾を掴もうとするも、くるりと空中に身を返したミケの尻尾は彼女の手元をすり抜けた。 「もー、ミケ! お空を飛ぶのは反則だよ!」 「なななななーなななな、なななーななーなな?」 基本、「なー」としか鳴けないミケは、『あたしは小さいから、飛んだっていいでしょ?』と主張。 「もー、よく分かんないけど、わがまま言わないの!」 主張届かずに、ちょっと落胆。でも、くじけずにミケはひゅるりらと空を舞って、更に上空を目指そうとした。 「言うこと聞かないなら、実力行使だからね!」 るるのそんな声が聞こえたような気がして――バフンッと銃声。ミケの身体の横を弾丸が掠めて、どっかに飛んでいく。 何か銃声が近くに聞こえたような気がする。 「……なー?」 おそるおそる振り向いたミケの視線の先には、レビテーションで浮きながら銃をこちらに構えた るるの姿があった。 「なーななな」 説得力ないし、といった何かとても冷静な雰囲気の鳴き声。 『……って、いきなり反則者出てるしよ、二人も。どうなってんだ東は』 ぽろっと、ルナティエールの猫かぶり口調ではない剥がれる。 『しかし、何やら二人で撃ち合ってますね。喧嘩?』 ルルーゼが言って、セディが冷静に続ける。 『まあ、どちらにせよ二名ともこう堂々とルールを破ったとなれば、失格は免れないだろう。――すでに強制退場用のスタッフが向かっている』 『うわぁ、ごつい人たちばっかだこと。で、立川ミケ選手と立川るる選手、スタッフ相手にそれぞれ猛然と抗議している模様。お兄さんなら可愛いから許しちゃうなぁ』 クドがのんびりとこぼし、ルルーゼの訴えかけるような咳払いが聞こえる。 ◇ るるとミケの抗議は続いていた。 「えー違うよ、これは飛行じゃないもん。浮遊だもん。ミケは間違いなく失格だけど」 「ななななー」 一人だけ逃れようなんてずるい、的な意味の鳴き声を上げながらミケが、るるの方に発砲する。 「やーん、ミケはもう失格でしょー!?」 「ななー!」 るるからの反撃を逃れながら、ミケはシガーマストの頂上近くまで飛んだ。 そして、シガーマストの先端に隠れようとしたミケの足は、何か別の物を踏んだ。宝箱だった。 メインマストの頂上に置かれているはずの宝箱が、なぜかジガーマストの頂上、ミケの足元にあった。 「なー……?」 くりん、と小首を傾げて暫し逡巡する。 マストの根元の方では、るるが連行されていっているようだった。 ともあれ、この宝箱だ。在るはずの無いものが在るのは、すこぶる怪しい。 が―― 「ななな」 まあいっか、と彼女は語尾に星マークを飛ばす勢いのテヘ顔をしながら宝箱をシパーンっと開いた。 開かれた宝箱の中から、ぬっと手が出て、レーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)が姿を現す。 「こんにちわ、ミミックです」 言って、ぺこりと頭を下げてからインフィニティーは手に持っていたマスケット銃でミケを撃った。 好奇心、猫を殺す――そんな言葉が石化していくミケの脳裏を巡っていた。 「ななーーん!」 いやーん、といった趣きの断末魔が空に響く。 『何か出てきましたけど』 『出てきたねぇ』 『というより、何ですか。今のは。何故、ジガーマストにも宝箱があって、宝箱の中から少女が』 ルナティエールが軽くこめかみを抑えながら言った言葉に、クドがフッと小さく息を漏らし、 『空から然り、箱から然り……突然、思ってもみないところから少女が現れるってのはロマンだよなぁ。あんたもそう思わない?』 『思わん』 バッサリと切り捨てて、セディが続ける。 『資料によれば、あれは中立の罠だ。西や東に関係無く、宝箱を開けた者に問答無用に石化弾を撃ち込むパラミタ妖怪・THE箱入り娘〜がっかりさせてごめんなさい、だってミミックなんだもの〜……おい、この資料書いたのはどいつだ? 二、三、抗議したい事がある』 『……っと、西側のフォアマストの頂上にも乗ってるけど、あれも同じ奴かねぇ?』 『そのようですね』 ルルーゼが資料を確認しながら言う。 ふむ、とクドが何か考え深げに眠たそうな目を細めてから、ぽつっと。 『アレ、試合終了まで開けられないって可能性もあるんじゃないかねぇ?』 『……でしょうね』 夏の青空にあるのは燦々と輝く太陽。 その光は船上の全ての物にまんべんなく降り注いでいた。 ルナティエールが、こほん、と咳払いする。 『……箱の中の人の生命維持に一抹の不安は残るものの、とりあえず、実況を続けたいと思います』