空京

校長室

戦乱の絆 第3回

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戦乱の絆 第3回
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5.宮殿内・玉座の間2

 玉座からやや離れた位置では、3方向に割れて代王とアイリスの仲間達が対峙していた。
 とはいえ、アイリス側はアイリスを補佐するのが目的である。そのため、牽制や流れ弾が主な対象ではあったが……。
 
「理子様ぁー!」
「理子代王とアイシャ様をお守りするのだ――っ!」
 だって日本人だし――その言葉は呑み込んで、【西シャンバラ・ロイヤルガード】前原 拓海(まえばら・たくみ)は周囲を警戒していた。
「拓海様ぁ〜、セレスティアーナ様は?」
 フィオナ・ストークス(ふぃおな・すとーくす)が横合いから口を挟む。
「五条に任せた! 連絡は取るよう伝えてある。問題ないだろう。
 俺達は、まず御二方をお守りするのだ!!」
「そうですね! けれど、その前に……」
 パワーブレスとヒールで拓海の戦闘支援と回復を行う。
「表情を強張らせてはダメですよ〜。リラックス、リラックス☆」
 そして総てが終わった後での「遊園地行き」を提案するため、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)の姿を捜しに行くのであった。
「まあいい、俺は1人でも盾となるのだ!
 この身を張って!!」
 そうして彼は最後まで両名の盾となり、警護役を果たすこととなる。

 高根沢 理子(たかねざわ・りこ)を守ったのは拓海ばかりではない。
「私も【西シャンバラ・ロイヤルガード】の一員。
 警護のお勤めを果たすですよぉ!」
 【理子’sラフネックス】の伽羅は【殺気看破】をフル活用し、不審者に対して備えるも、殺気は辺りに充満している。
「低速でマル対に巧妙に近づく者どもを、マークするですぅ!」
「ブロウガンでスナイプ狙いすれば、十分であろう!」
 伽羅に進言したのは、皇甫 嵩(こうほ・すう)
 彼も【殺気看破】の使用については諦めたらしい。
 【庇護者】を使い、栄光の刀を携え、近づく者どもを刀の錆にすべく理子の脇を固めていた。
「これで、理子様の安全は確保されたも同然!
 さ、この中で。代王たるもの泰然としているものにございまする」
 
 だが、その安全は理子が望むものではなかったらしい。
「リコ! ネフェルティティを助けに行こうよ!」
「美羽……あんたって人は……!!」
 理子は嬉しそうに、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の手を取った。
「そうだよ!
 ジークリンデだって、それを望んでいるはずだよね?」
 そうした次第で、伽羅達は急きょ攻勢に転じた理子の脇を固めることとなった。
「大丈夫、僕も手伝うからさ!」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、スウェーで敵の攻撃を避けながら、バーストダッシュで敵中に飛び込んだ。
 そのまま2本の忘却の槍で、【乱撃ソニックブレード】!
 だが、その攻撃は【空中戦闘】で飛んできたアイリスの剣技の前に霧散する。
「僕の仲間達を傷つけることは許さないね!」
「アイリス!」
「そして、ネフェルティティも渡さない。
 例え美羽、セレンの親友の君だとしても。
 諦めることだよ」
 アイリスは真摯に告げると、仲間を抱きかかえ、風の速さで元の位置に戻った。
 
「今のを見た?」
 秋月 葵(あきづき・あおい)は冷や汗を流す。
 彼女は【東シャンバラ・ロイヤルガード】としてセレスティアーナの護衛についていた。
「相手に対して、無理に攻勢に出ない方がいいね。
 アイリスちゃんから何をされるか分からないし……」
「ええ、こちらには、セレスティアーナ様が……」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は背後を見る。
 五条 武(ごじょう・たける)に付き添われたセレスティアーナは、比較的安全地帯の所為か、のんびりと周囲を見回している。
「戴冠式か、楽しそうだからな」
 それだけの理由でついてきたのだ。無理もない。
 【ディテクトエビル】や【殺気看破】は使えない。
 万一のために使ったスキルだが、戦場では数多くの者達が害意や殺気を剥き出しにしている。
 【ヒプノシス】の構えだけは見せたまま。
「誰も傷つけたくはないし……。
 良く注意をするしかないのかな?」
「そのようだ」
 相槌を打ったのは、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)
 セレスティアーナを守るためだけに駆け付けた彼は、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)を前衛に、今は流れ弾の処理に苦慮している。
 サンダーブラストとブリザードを繰り出し、氷と雷のカーテンを生み出し、これ以上敵を近づけさせないようにするのが精一杯である。
 かく言う彼も、【その身を蝕む妄執】で同士討ちをしかけた所、アイリスの妨害に阻まれた一人であった。
 実のところ、アイリス個人を狙う要員達は数多く居たのだが、そこは「七龍騎士」。
 結局足止めにすらならなかったようだ。
 イーオンは一度だけ振り向いた。
 武に守られたセレスティアーナの姿。
 アルゲオが渡したお菓子を手に、不思議そうにイーオンを眺めている。
「セレス、キミはわずかも案ずることはない。
 全てがうまくいく」
 セレスティアーナに告げると、アイリスを睨む。
 
 だが、警護対象の要人が、アイリスの「攻撃対象」そのものになりかねない者もいる。
 
「アイシャを殺されては、ひとたまりもねぇからな!!」
 アイシャの護衛達――【西シャンバラ・ロイヤルガード】ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)夜薙 綾香(やなぎ・あやか)アンリ・マユ(あんり・まゆ)騎沙良 詩穂(きさら・しほ)清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)は東側の総ての者達に対して、警戒し続けなければならなかった。
「アイリスの仲間を攻撃しなければいい、って!
 それだけでアイシャの場合はすまされねぇだろうからな!!」
 なにせ、シャンバラの次期「国家神」は彼女なのだ!
 この調子では、一気に王手を指されないとも限らない。
 
「私が【神の目】で炙り出そう」
 綾香から強烈な光が放たれた。
 アイシャの周囲に隠れた敵はいない。
「となると、アイリスの仲間達は本当に数少ないようだ」
「けれど近づき過ぎる者共には、警戒も必要ですわね?」
 アンリはくすくすと笑いながら【狂血の黒影爪】を使った。
「では、私は影から影に渡り、彼等の錯乱を狙いますわね?
 その間に、綾香は【炎の聖霊】や【ブリザード】の用意でも」
「不用意に近づけば、蹴散らす! アイリスであろうと。
 アイシャの選択を支えること――それが、私の使命だからな」
 綾香はアイシャを庇いつつ、迎撃の姿勢をとる。
 氷の嵐と炎で、東側の要員達は近づけない。
 
「だが、何も手を打たねぇってのもよ」
 ラルクは「安全面」から疑問を促す。
「そうだな、相手はやる気満々だぜぃ、こりゃ」
『闘神の書』は頭を掻き掻き。
「ネフェルティティが無事に戴冠式を終わらせるまで、持ちこたえられるかどうか……」
「だが相手は同じシャンバラの学生だぜ!
 出来る限り戦いたくはねぇんだが……」
 しびれ粉を取り出す。
「これで大人しくなってくれたら、儲けものだろう?」
 そっとアイリスの援護をするカトリーン達に近づく。
 フルーレでチェインスマイトの雨……の前に、『闘神の書』は【抜刀術】で斬りつけようとして、やはりアイリスに阻まれた。
「やあ、おイタは行けないよ?」
 龍顎咬。龍に変化した頭部が、ラルク達に次々と咬み付く。
「くそっ!
 先手は効かねえぜぇ」
「やはり定位置で、アイシャを守るしかねぇのか?」

「危ない!」
 その声は騎沙良 詩穂(きさら・しほ)……ではなく、鎧から発せられた。
 魔鎧の清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)
 今は詩穂の身に装備されている。
「【先の先】、それに、それとそれと……ええーと、【神速】!」
 詩穂はアイシャの体を、素早い行動で守った。
 つまり流れ弾から、身を呈して救ったのだ。
「詩穂っ!?」
「大丈夫か? 詩穂!」
 アイシャと鎧が詩穂を気遣う。
 だが詩穂はわき腹を押さえて。
「だ、大丈夫……約束したでしょ、何があっても離さないって☆」
 無理して笑う。
「給仕の家系よ……。
 命を懸けて、従者になるから……て……」
 
「待って、詩穂!」
 アイシャは集中し始める。
「『国家神』の力を使うわ! すぐに脱出して、野戦病院に……」
「アイシャさん!」
 呼び止めたのは、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)
「クレア様とわたくしとの約束をお忘れでしょうか?」
「そ、それは……」
 アイシャは唇をかむ。
「玉座の間」へ突入する直前、アイシャは【西シャンバラ・ロイヤルガード】クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)とハンスから、くれぐれも「国家神の力」を対アイリス以外に使用しないで欲しいと約束させられていたのだった。
「アイリスさん相手に、2度同じ手は通用しません。
 力を見せて失敗されては、元も子の無いのですよ?」
「で、でも、ハンス!
 それでは、詩穂が……っ!!」
 
「倒れてる場合か!? 詩穂!」
 気丈な声は鎧から発せられた。
「友の為に、皆の願いを護る為に!
 立てい! 鉄壁の如く。命ある限り!!」
「うん、分かっているよ、青白磁」
「おい、大丈夫か?」
 程なくして、騒ぎを聞きつけたらしい、拓海が声をかける。
 その傍に、理子の姿。
 詩穂は肩口からかけていたローブを、震える手で理子に差し出した。
「理子様、戴冠式でお願いがあります。
 正装よりも、皆様の想いの詰まったローブをアイシャさんに着せたいのです……。
 詩穂の、最期のお願い……聞き届けて下さいますでしょうか?」
「……て、やだ!
 全然怪我なんかしてないじゃないの!!」
 え? と詩穂は脇腹をみる。
 鈍い感触はあるものの、血は流れてない。
 腰の鎧部に命中して、回避できたようだ。
 とたん、青白磁の苦しそうな声が聞こえてくる。
「な、何? 当たったのはわしか?
 詩穂……終わったら、きちんと修理するのじゃぞ?」
「詩穂、良かった。
 たとえ『国家神』になれたとしても……そのために、大切な人達を失ってしまったら。
 私は……っ!!」
「……大丈夫☆
 詩穂が死ぬわけ無いじゃない?」
 あっはっは〜と笑う。
 けれどその表情は、すぐに泣き笑いの形に変わってしまった。
 
 彼女はもうすぐ遠い存在となる。
 けれど2人の友情が変わることはないだろう。
 きっと、この先もずっと、永遠に――。

 ネフェルティティを巡る攻防は続く。
 玉座前では、アイリスが勇者達の気迫に押されて、次第に怯み始めていた。