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リアクション
阻まれナイト
ラクシュミらが乗る機動要塞が戦う地点から少しばかり離れた地点。
ある意味ではここが最前線とも言えるかもしれない。
そこでは空中はもちろん、地上においてもインテグラルナイトとの戦いは激しさを増していた。
戦場のはずれにおいて、破損した味方イコン機の修理と整備を行う長谷川 真琴(はせがわ・まこと)とクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)の2人は早速すでに目を回すほどの忙しさに追われていた。
「まあ、あたいだって学習するさ、こうなる事は予想してた……してたけど、ねえ」
手を休める暇もない。クリスチーナは移動整備車両キャバリエから換えの装甲パーツを引っ張り出しながらに叫んだ。
「数が足りな過ぎんのよ!! もっと用意できたでしょう! てゆーかしときなさいよ!!」
嘆いているのは味方機の少なさだ。第二世代機までのイコンの通常武装ではナイトの外装を破ることは難しい。だからこそ数的有利な状況を作った上で手数をかけて戦わなければならないのだが、明らかに、数が、足りていない。
「それから! 戦場に出るなら出るでそれなりの装備をして来いってのよ! ナイトやビショップが相手だってのは分かってた事じゃない!!」
決して破損した事を攻めているわけでも破損するなと言っているわけではない。勇猛果敢に挑む姿はむしろ彼女の好むところだが、ただ準備だけはしっかりしておけと言いたいわけなのだが―――
「なんか……耳が痛いわね」
「あぁ……そうだな」
意図せぬ所で仁科 姫月(にしな・ひめき)と成田 樹彦(なりた・たつひこ)がダメージを受けていた。2人もまた愛機の調整のために一時戦列を離れていた。
「だが俺たちは武装の選択を誤ったわけではない」
「そ、そうだよね。機動性を重視して、急いでフィーニクスを新調したんだもんね」
「慣れない分、調整が不十分になった事もまた事実だがな」
「なんでそういうこと言うかなあ!!」
痴話喧嘩をしている最中もフィーニクスの調整は行われている。整備と調製を行っているのは天御柱学院の長谷川 真琴(はせがわ・まこと)だ。
彼女はパートナーであるクリスチーナの非礼を詫びて、
「ごめんなさい、本人に悪気はないの。ただちょっといつもより気分が良いみたいで」
「あ、そうなんだ」
気分がよいと口が悪くなるのか。まぁ確かに彼女の顔は生き生きと実に楽しそうな顔をしている。根っからの職人タイプなのだろう。
「調製はお任せ下さい。期待の第三世代機ですからね、装甲面も駆動面も完璧に仕上げてみせます」
哀しき戦いに終止符を打って下さい。そう加えて言った真琴の言葉が2人にこれまでの戦いを思い起こさせた。
「そういえばパラミタに来て早4ヶ月か。今まで色々な事があったよね」
「あぁ。「まだ」というべきか「もう」と言うべきか」
「兄貴と再会して、契約して、パラミタに来て、冒険して、恋人になって。そして今度はイコンに乗って世界の命運を決めるかもしれない戦いに行こうとしている。ふふ、今時、漫画でもないわよ、こんなベタな展開」
「かもしれないな。だが、ここからだ。姫月、俺はお前と一緒に過ごしていきたい。だから、必ず生き残るぞ」
「もちろん。死ぬときは一緒よ」
「お、おぅ。縁起でもないこと言うなよ」
調製が終わるのを待ちながら、じゃれながら、2人が戦いへの意気込みを高め合っている最中にも戦場ではナイトと味方機は衝突を繰り返している。戦場の最前線で戦っているのはフランチェスカ・ラグーザ(ふらんちぇすか・らぐーざ)とカタリナ・アレクサンドリア(かたりな・あれくさんどりあ)のゾフィエルだ。
「そろそろ良いかしら、フラン」
「えぇ、行きましょう、カタリナ姉様!」
機動性は確かに増しているが、その動きにももう慣れた。やはり前回実際にナイトと戦っているのは大きいようで、2人とも既に天駆けるナイトの動きを確かにその目で捉えていた。
同種であれ別個体である以上、同じ方法が有効であるはず。今回もまずは『二式』と『アダマントの剣』のコンボで動きを封じる。
ナイトの巨斧とはまともには打ち合わず、距離を詰めた所で『二式』の冷気を腕部へとぶつける。
氷結を砕くまでの刹那の隙。そこに全てをかける。ゾフィエルの『覚醒』から必殺の剣技『ファイナルイコンソード』を放つまで、そしてナイトの左腕部が切って落とされたのもまた一瞬の出来事だった。
「やはり。イケますわね」
「えぇ、まずは一体、―――!!!」
ナイトの首をはねるようとした時だった。別のナイトが体を投げ出して割り入ってきた。
この光景に、
「おいおい、やっぱ連携とるんじゃねえか」
新機アルタグンを駆る猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が冷や汗混じりに言―――いや、
「ま、そんくらいじゃなきゃ折角のお披露目会が盛り上がらないかなあ」
弱気に聞こえたのは言葉だけ。口調も声の張りもやる気満々、目はギラついていた。
「前回みたいな醜態はさらさねえよ。オマエラ全部撃墜してやるぜっ!!」
弾けるように飛び出した。まず狙うのは『コロージョン・グレネード』の黒い粘液で視界を奪うこと。そうして至近距離で『エアブラスター』をお見舞いする。成功の鍵を握るのは勇平……ではなく実はパートナーであるセイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)にある。
「右、振り下ろしてきます」
『ブレス・ノウ』を駆使した攻撃予測。そもそもが巨体故にナイトの攻撃は読みやすいのだが、それでも至近距離まで入り込むとなると、より高い精度の攻撃予測が必要となるのだが―――
アルタグンへの搭乗は初めてだというのに「すごく体に馴染む」と言っていた通り、彼女は見事にモニターやセンサーの類を使い、それを成していた。
「左後方から別個体接近中。僅かで構いません、進路を右に、膨らませて下さい」
「了解っ!!」
間合いに飛び込んだアルタグンの『エアブラスター』が直撃、ナイトの顔面を抉り潰したとき、戦場の端では―――
「道を開けろぉお!!」
ミハイル・プロッキオ(みはいる・ぷろっきお)のパールヴァティーが1体のナイトに『大形ビームキヤノン』を放っていた。
「てめぇらと遊んでる暇はない。退け」
キャノンはナイトの装甲を陥没させたが、範囲は狭い。防御型イコンではやはりどうにもエネルギーの出力量が物足りない。
「くっ……埒が明かねぇ。ミーネ、ドゥルガーにするぞ」
「それは構いませんが」
索敵を担当するミーネ・シリア(みーね・しりあ)が手を止めずに応えた。
「しかしまだ敵の姿を捉えては―――いえ、待って下さい」
レーダーがそれを捉えた。ナイト数体が集まる先にインテグラル・ビショップが居る。
「ほぉ、そんな奥に隠れてたとはな」
ミハイルも肉眼でその姿を捉えることができた。1体だけだが確かにビショップがそこにいる。
「決まりだ、行くぞ!」
パールヴァティーをドゥルガーへと変形、防御型から攻撃的なモードへ。
案の定、ナイトたちがすぐに襲いきたが、
「今度は加減も容赦しない!」
格闘型の本領発揮。ミーネの見極めを元に、巨斧の軌道を読んでは、その腹に『ダイアモンドクラッシュ』を打ちつけて武器破壊を狙っていった。
斧を砕かれれば、それ以上追ってくる気も失せるだろう?
ミハイルらがナイトの群れを突破しようと動いたとき、機動要塞土佐内でも同じ意見が上がっていた。ナイトの数を減らす事も重要だが、本作戦の肝はビショップを倒すことにある。その姿を捉えた以上、一刻も早くに向かうべきだろう。
「イコンデッキ、イコンデッキ」
艦内通信。湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の声に天城 千歳(あまぎ・ちとせ)が「はい」と応えた。
「本艦はこれより進撃を試みる。そちらの状況はどうだ?」
「順調ですよ。手負いのイコンたちが次々と舞い戻って来てますわ」
「それは……どうだろうか」
「ですが問題はありません。仕分けの達人、龍一(大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち))さんが尽力されてますから。整備と補修は滞りなく行われているはずです」
損傷具合を5段階で判断して仕分けるといった方法は前回の戦いの時にも機能していた。損傷の少ない機体から優先して補給と補修を行い、迅速に再出撃が行えるよう処置してゆく。そうした判断を龍一が、そして帰還したパイロットのケアを千歳が行っている。
「了解した。引き続き頼む」
ナイトの軍群を突破するべく、いよいよ土佐が動くようだ。